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「へぇ」
僕は、動揺を隠しきれないでいたが、彼の話にとりあえずの相槌を打った。
「びっくりしたよ。気が付いたらこんな場所にいるんだから」
コンビニのトイレから異世界に行けるなどと考える人間はいないだろう。いや、トイレから行こうという発想がナンセンスだ。まだ、机の引き出しとか押入れとかの方が現実的である。
「君は、ここの世界の人たち?」
「そうだ」
「え」
いきなり、ティムが喋ったもんだから彼は驚いた。ティムは、霧の中にいたから彼には見えていない。
「何かしゃべってるの?」
彼は、僕の顔を見る。僕は、目配せをしてティムのいる位置を教えた。彼は、僕の目配せの位置を見てしゃがんだ。すると、霧の下から黒い猫がチャーミングな瞳を二つ付けて座っていた。
「うわっ」
彼は、驚きのあまり尻餅をついた。
「ねこが喋ってる!?」
「何か、問題でもあるか」
問題はありまくりであるが、ここはそういう世界だ。郷に入ったら郷に従え。世の中の理である。
「問題はないけど、少しだけ驚いたよ。さっきの気色悪いのよりもね。猫が喋るとは」
彼は、頭を掻きながら言った。もはや、この世界では何が起こっても良いんだろうという心構えができたようだった。
「君たちの名前はなんて言うの?」
「僕は、カク。この猫は、ティムって言うんだ」
「ふーん。あ、俺は……タイチとでも呼んでくれ」
「タイチ」
「ああ」
彼は、僕の肩を叩いた。彼なりの挨拶なのだろう。僕は、快くその挨拶を受け取った。
倉庫の方に戻ろうとした時、またしても数体の緑の物体が現れた。もはや、名前も定まらないくらいの頻度で現れ始めた。
彼は、また手にパスケース持ち、反対の腕についているブレスレットにかざした。
その姿は、十字を描いている。なんだか、神々しい気がした。
「やらないといけないことはたくさんあったんだけどな……。でも、しょうがない。このパスケースを拾った時からこうなることが運命だったんだろう。だったら、しばらくはこの姿で、目の前の敵を倒してやろうじゃないか。この世界に来た意味を俺は知りたい。そのあと戻ったら、浪人生のやりなおしだ」
彼は、腰についている武器を変形させ、斧のような形にした。そして、斧をぶんぶん振り回して相手に向かって投げた。斧は、綺麗な放物線を描いて、敵の頭に向かって垂直に刺さった。その刺さった斧を抜き、隣にいた敵に向かって水平に振り抜いた。敵の首は吹っ飛び、彼は緑色の液体が体にかかった。しかし、彼は動揺などしない。僕なら、動揺はしまくりである。
彼は、ブレスレットをこすり変身を解いた。変身とともに、体にかかった液体は消えていった。なるほど、それならば同様などする必要はない。うらやましい限りである。
「大丈夫だった?」
僕らの安全を気にしてくれている。僕らは安全であるが、さすがにあの数であるならば僕でも倒せた。少しだけ悔しさが残る。ぽっと出の輩に、抜かれる僕の姿は中々滑稽であった。
「大丈夫だよ」
「なら、よかった」
僕は、彼にユキのことや今の現状のことを伝えた。すると、彼は行く当てもなかったようで、一緒についてきてくれることになった。こうして旅の仲間が増えたのだった。
「あら。どちら様?」
僕らは、仮の住処になっていた倉庫に戻ってきた。ユキは、タイチを見て驚いていた。僕が傷だらけの姿で戻って来るならば想像できたようだが、まさか人を連れてくるとは思わなかったらしい。
「タイチです。よろしく」
彼は、ユキに握手をもとめ、彼女はそれに応じた。
「ユキです。よろしくね」
僕は、ユキに事情を話した。その話を聞いたユキは「心強い!」と一言だけ言った。彼女としては心強い戦力なのだろう。彼女がほっとした姿を見て僕もほっとした。
「それで。これからどうするんだ」
タイチは、僕らに今後の旅の行く末を聞いた。
「うーん。そうだな。煙のポイントまであと少しだとは思うんだけど……」
「カクがこないだ会った人の話も気になるけどね」
僕が、ティムとユキと離れていた間に会い助けた人物の話か。彼はそもそも無事、仲間の元に帰れたのだろうか?あのあといっぱい敵が現れたし。悲鳴は聞こえなかったが……
「彼の行っていた町に向かおう。多分、煙のポイントのすぐ近くだったはずだ」
「ちょっとだけ、寄り道をしますかね」
僕は、ティムの言うことに賛成した。確かに、近くだったような気がした。
「じゃあ、俺はそれに従うまでだ」
タイチは腕を組んで言った。
こうして、僕らの旅は次の段階へと入った。新しい仲間のタイチとともに。しかし、この青年。不思議な感じがするのはきっと僕の勘違いなんだろうと思う。いや、勘違いであってほしいものだ。




