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話は、しばし現代に戻る……
「痛っ」
俺の頭の上に何かが落ちてきた。これはなんだろうか。
俺は、自分の横に落ちている物体を手に取った。顔の前まで持ってきてじっくりと観察した。
形は、パスケースのように見えるが、実際の所カードが入るような感じもない。ただのパスケースのような形をした「容れ物」だった。
「むぅ。よくわからん………」
俺は、持っているのも煩わしかったので街頭の茂みにぽいっと投げすてた。
俺は、高校を卒業したが大学には行ってない。
ことごとくすべての大学に落ちた。どこにも引っかからなかったのである。いまの社会は、少子高齢化社会なのだから、ひとつくらい引っかかっても良いものだが、どこも俺の入学を認めようとはしなかった。
大学にすべて落ちてから半年以上が過ぎようとしていた。俺は、アルバイトをしながら浪人生活をしている。年を越せばまた大学受験シーズンになる。今年こそは合格して、大学に入学してやると意気込んでいた。
俺は、最後の追い込みをかけるため、駅の近くの予備校に足を運んでいた。自習室のいつもどおりの場所に座り、重たいデイバックを机の上に置いた。
カバンを開け、筆記用具とテキストを机の上に広げた。音楽プレイヤーを耳に入れて、再生ボタンを押せば俺の勉強時間はスタートだ!
茂みの中で何かが動いている。
パスケースのような容れ物が、小刻みに震えている。時折、電気のようなものを発しながら。
そして、パスケースは空高く舞い上がり、どこかへと消えていった。持ち主の戻るかのように……
しばらく、集中して勉強をしたせいか、いつの間にか時計の針は12時を指していた。今日はいつもよりも集中できていたようだ。
「腹減った」
俺は、お昼をコンビニに買いに行こうと思った。
俺には受験仲間と呼べる奴はいない。俺は自ら作ろうとはしなかった。作ってしまったら、きっと勉強そっちのけで彼らと喋ってしまい、頭に残るのは楽しい話ばかりになってしまうと思ったからだ。
孤独は寂しいけれど、孤独は人を強くする。孤独の時間はある程度は必要なのだ。
今の所、18年間で初めての経験である。幼稚園に入り、小学校に入り。中学、高校と、常に周りに多くの人間がいた。その全ての人と仲が良かったわけではないのだけれど、周りに似たような人間がいる環境があるというのは、不思議と居心地はよかった。
でも、今は周りに誰もいない。義務教育という名の定期券を持って通い続けた18年間が僕には懐かしく思える。【人と同じように】育てるこの国の義務教育が今となっては恋しいのかもしれないと時々思う時もあった。
俺は、絶対に大学に合格しよう。そして、先に大学に行き、俺を散々哀れな目で見てきた連中を見返してやるのだ。
コンビニに行こうと、予備校を出た。冬らしい冷たい風が、俺の顔に当たった。
「寒ッ。早く買いに行こう」
ポケットに手を突っ込んで予備校から数歩のところで、一瞬俺は立ち止まった。予備校のまたしても俺の前に何かが落ちていたのだ。
俺は、ゆっくりと近づいていき、その物体の前で立ち止まった。
「これは、さっきの……」
俺は、手でそれをまた拾った。一度は捨てたものだが、目の前にそれが現れたということは何か意味があるのかもしれないと思った。
とりあえず、お尻のポケットにそれを突っ込んで、コンビニを目指し再び歩き始めた。
大抵予備校の近くにはコンビニがあるものだが、このコンビニは近くにはなかった。そのせいなのか、少しだけ授業料が他の予備校と比べて安かった。お金のない浪人生としてはありがたい話である。
公園を突っ切って歩いていると、ふらふらと男が歩いている。なんだか、ゾンビみたいな歩き方だったから、近寄らないようにしようと思った(もちろん、ゾンビなんてこの世界にはいないだろうが)。
その男を横切った瞬間だった。
「オマエ……持チ主ダナ
男は、俺の耳元で怪しげな声で呟いた。俺は、驚いて地面に倒れこんだ。そして、男は倒れている俺を見下ろしながら言った。
「返セ。アレハ、向コウノ物ダ」
男は、そういうと来ていた作業着のようなものを脱ぎ捨て上半身裸となった。
鍛え上げられた腹筋に少しだけ目がいったが、男の目が真っ赤になり先ほどまでの雰囲気とは一変した。
俺は、慌てて立ち上がり、コンビニのある方向へと走った。浪人生活の長い俺の貧弱な体は一瞬にして悲鳴をあげた。高校の頃の体育の授業が、いかに全身を使っていたのかよくわかった。健康というのは継続が重要である。
俺は、コンビニの建物の前にある駐車場で、膝に手をつきながら肩で息をして呼吸を整えた。
公園の方向を見たが、男の姿はなかった。周りにいる一般人の人は、いつも通りの生活をして無表情で歩いている。
もう一度、公園の方向を見ようとした瞬間だった。
「コッチダ」
男は、俺の後ろにいた。
さすがに、上半身裸の男が真冬のコンビニの前に現れたのだから、当たりがざわつき始めた。
俺は一旦、公園の方に逃げることにした。
公園の中は幸い、複雑に入り組んでいた。
俺は、右往左往をしてなるべく見つからないように心がけて前に進んだ。
少しだけ開けた場所に出ると、老人がベンチに腰掛けていた。
ベージュのコート羽織って黒いつばの長い帽子を目深にかぶり、杖を立てて座っている。
またしても俺はその老人を横切ろうとした瞬間に話しかけられた。今日の俺は、横切るたびに声をかけられるようだ。
「待ちなさい」
俺は、仕方なく立ち止まる。さすがにこの老人が急変するはずだない。見るからに年老いた男だ。
「アレを持っているな」
アレとは、もしかしてさっき拾った容れ物のことか。
「君は、特異な人間ではない。しかし、それを持っているということは、特異でない君でも行く資格があるということだ」
「ちょ、ちょっと待て。何を言っているのかよくわからないんだけど」
俺は、勝手にしゃべりつづける老人の話を遮った。
「いいから、黙って聞きなさい。 しかし、それだけを持っていても効果がない。この腕輪を持っていきなさい」
そういうと、老人はコートの中から、銀色のブレスレットを取り出し、俺に差し出した。ちょうどつけたの中心に緑色の石がくるようなデザインだった。
「困った時は、そのブレスレットをつけて、君の持っているパスをかざすと良い。きっと助けになれるはずだ」
助け?
はて、助けとはなんだ。大学にでも合格させてくれるというのか。
「さぁ、行きなさい。すぐに後ろから奴がやってくるぞ」
そうである。俺は、不審者に追われていた。その事実を思い出し、公園の奥へと走った。一度、ベンチの見える位置から振り返ったが、そこにはもう老人の姿はなかった。




