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しばらくの間、美味しいおにぎりの味を楽しんだ。
そして僕らは、昼食を食べ終えてから身仕度をし、旅の出発の準備をした。
「忘れ物はない?」
ユキは辺りを見回し、確認した。
「ないよ」
僕は、返事をする。
「ないな」
ティムも、返事をする。
「よし、それではしゅっぱーつ!」
ユキは、元気な声で旅の再会を合図した。
といいつつも、あの細い階段はすぐそこである。僕の記憶が確かならば、もうすぐそこに入り口が見えてくる。
いや。
見えてくるはずだった……
「ないな」
さっきとははうってかわり、ティムの声に冷静さが感じられなかった。
「どういうことだ。確かに階段がここにあったはずだ」
僕らはあの階段の場所に着いた。
しかし、ティムはあたりを見回りながら動くが、やはりそこに階段はなかった。階段が何かに隠されているというよりも『初めから階段自体がそこになかった』といった雰囲気である。
僕らが、立ち尽くしているとなにやら後ろの方から聞き慣れぬ鳴き声が聞こえてきた。猫や犬の類ではない。虎や熊といった動物でもないだろう。きぃきぃと聞き慣れぬ声を発し続けている。
その鳴き声に気づいた僕は後ろを振り返った。しかし、そこには何もいなかった。
「ティム、この先はどうするの?ここの他に道はないの?」
ユキは、ティムの目線にしゃがんで聞いた。
「ここ以外か……思いつかないんだ」
僕は、やはり鳴き声が気になった。今は聞こえなくなっているが、やはり何かがいるということだろう。僕は、彼らとは少し距離をとり後ろの方へ戻った。
「カク、どこへ行く」
「ちょ、ちょっと後ろのほう見てくる。道があるかもしれない」
僕は、そういって走って向かった。
僕は前と比べて体力が格段に向上していた。元の世界とちがって、漫画やゲームは無く、毎日することがなかったのが要因だと思うが、僕は体を鍛え続けた。その結果、基礎体力が向上し、前よりも長い距離が走れるようになり、俊敏性も上がった。走りながら、少しだけ体を鍛えておいてよかったなと思った。
僕は、しばらくもと来た道を戻っていたが、途中で左右に分かれていることに気がついた。
来るときは全然気がつかなかった事柄である。うまい具合に木の枝が邪魔をしており、反対側の道から通った時にはまず間違いなく道があるとは気づかないような感じになっていた。
僕は、分岐点の真ん中で腕を組んで立ち尽くしていた……。
「ティム、カク遅いね」
ユキとティムは、しばらくの間、階段があったであろう場所で、カクを待っていた。
カクが道を探してくると行ってから、30分くらい既に経っていた。
「何かあったのかしら」
ユキは、とても心配していた。ティムは、ずっと遠くの方を耳を立てながら見ている。
「ねぇ、ちょっとカクを探しにいきましょうよ。どうせ、ここにいても仕方ないでしょう?」
ユキはティムの方を見た。ティムは、立ち上がり尻尾を立てて歩き始めた。
「その通りだな。さすがに時間が経ちすぎている。探しに行こう」
「うん」
ユキは、荷物を持って立ち上がり、ティムのあとを歩き始めた。
ユキとティムもしばらく歩いているうちに、カクが見つけた分岐点にたどり着いた。
「あれぇ、こんな道あったっけ」
ユキは、あたまを抱える。
「これは、来た時には隣に道があるようには見えないような木の生え方をしている。たぶん、反対側から来た時には道があるようには見えないようになっていたんだろう」
ユキは、手をポンっと叩いて「なるほどッ」と声を出した。
「で、どっち行くの」
ティムの方をつぶらな瞳で見つめた。
道に迷った時の定石は、来た道を戻ることにある。しかし、道に迷っているのだから来た道をストレートに戻れれば苦労などしない。戻れないから迷っているのである。
では、今はどうだろう。俺らは、迷ってなどいない。迷子になったかもしれないカクを探しに、来た道を戻っているだけである。
「ユキ、こっちだ」
ティムは、草で隠れていた道の方へとスタスタと歩き始めた。その後ろユキはついていった。
しばらく歩くと意外なものが道についていた。
ユキは、しゃがんで指ですくって確認した。
「これは、血だよ!」
ティムに報告すると、ティムは前を向いた。
「カクが危ない……かもしれないな」
「かもしれないってどういうことよ」
ユキは、ツッコミを入れる。
「以前のあいつならばってことだ。今のあいつは、簡単にやられはしない。昔のあいつとは違う」
「ティム、なんかしたの?改造とか?カクってロボットだったのね」
「冗談を言っている場合か。少し走るぞ」
そういって、ティムは跳ねるように走り始めた。
「ちょ、ちょっと待ってよ。わたしは、前と全然変わらないんだから!」
ユキは、手を横に振って必死にティムから離れないように走り始めた。




