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「あたし、お風呂入ってくる」

 そう言い残し、ユキは立ち上がってお風呂場に歩いていった。そして、入る瞬間に僕にこう言い残す。

「覗くんじゃないよ」

 僕には、前科があった。いや、あれは単なる偶然というかなんというか。決して、僕の本意でおこなったことではない。そして、勢いよくお風呂場のドアは閉められた。

 蛇口をひねりシャワーが出る音が部屋の中に響く中、僕はベランダにいるティムの方に行った。

「おはよう」

 僕は、ティムに挨拶をした。ティムは、一瞬だけ僕の方を見て、そしてまた元の視点に戻った。

「平和だな」

 僕はティムに言った。僕はこの世界での生活になれつつあり、自然と口から出た言葉であった。

「そうだな」

 最近のティムはあまり元気がない。もともと無口ではあったが、最近は一層それに拍車がかかった気がする。声が聞こえないのではなく、声を発しなくなっていった。

 ティムは、ベランダの手すりの上に登り器用に歩いた。今にも落ちそうだから僕は注意をしたが、彼はそれを無視した。そして、彼は隣の部屋に侵入してどこかに行ってしまった(となりは空き家である)。

「やれやれ」

 僕は、ユキの部屋でひとりぼっちになってしまった。

 僕は特になにもすることがなくなったので、筋トレをすることにした。僕は元の世界にいた時のことを思い出した。今、僕は何かの物語の主人公であり、何かの使命を持っているキャラクターだとして、僕は日本のアニメのキャラクターに例えるとしたらどんな感じなのだろか。僕は、特殊能力の超能力も持っていない。ユキが巨大化した武器はあるが、異なる世界にいるとはいえ、僕の身体は前と変わらない。

 アメリカの漫画のキャラクターに近いんだろう。アメコミヒーローの主人公は僕は好きだった。日本の主人公は結局、生まれ持った才能と、特殊能力でなんとなく敵を倒していってしまう。しかし、アメコミのヒーローは、それはありえない。どこにでも居そうな青年が、何かのきっかけで敵と戦うことになってしまう。そして、彼らはそこで敗北を知るのである。敗北後に彼らは自分の非力さをしり、どん底に落ちる。しかし、彼らはそこから這い上がる。血の滲むようなトレーニングをして、ふたたび立ち上がるのである。「ヒーローといえど人であり、努力をしている」という、ファンタジーであったとしても、どこかリアルを求めるアメリカ人の考え方は、面白い。

 今の僕は、どちらかといえば後者だ。アメコミヒーローに近い。

 あの後、僕は欠かさずランニングや筋トレをしている。いつあのピエロやエディみたいな敵が現れるかもわからない。ティムの言葉数がすくなってきたのも、実は敵がくることを察知しているからなのかもしれない。



 僕は、お昼ご飯を食べている。

 ユキの部屋には新しくテーブルと椅子が家具として置かれた。このテーブルと椅子が置かれる前は床に座ってご飯を食べていた。「カクのためじゃないよ。最近、床に座ってごはんを食べるのが辛くて。腰が痛いの」と言い訳をユキはしていた。

「カク、しょうゆ取って」

 ユキは、目玉焼きにしょうゆをかけた。

「ユキ、ソース取って」

 僕は、目玉焼きにソースをかけた。

 ティムは、猫の缶詰を器に空けてもらい、一心不乱に喰らっている。僕は、味噌汁を少し口に含み、ごはんを口に運んだ。味噌汁の塩分を感じつつ、米粒のやわらかな食感を僕は楽しんだ。

 こんな平和な会話をしながら、昼食を食べていると、少しだけ地面が揺れた。地震である。そして、次の瞬間、けたたましい音がなり、外が暗くなり、強い光を放った。

「な、何!?」

 ユキは、勢いよく立ち上がりベランダに走った。僕も、目玉焼きの付け合わせのベーコンを口に含んで慌てて立ち上がった。



 ベランダに出て、外を見回した。

「あれよ!」

 ユキは、山を越えた先から煙が出ている方向を指差した。あの方角だとこの山の中の地域ではなく、山の外の地域だろうと僕は思った。

「この区域じゃないし、この山の中なら安全なんじゃない?」

 僕は、食べかけのポテトサラダが食べたくて仕方なかった。

「カク、あそこに行こう!」

 ユキは、なんだか楽しそうである。

「あそこって……山の外でしょ?外には出れないんじゃなかったっけ」

 僕は、山の外から来ている。しかし、ユキは山の外に出れる手段は知らないはずである。

「ユキ、外に出てみるか」

 ティムは、ユキに向かっていった。

「え、出れるの!?」

「出れる。俺は、出口を知っている」

 あの場所は、入口なんか出口なのか具体的な名称は僕にはわからない。

「荷物をまとめなさい!早く行くわよカク!」

 ユキは、赤いメガネをクイッとさせて部屋に戻っていった。こうなったユキは止められないだろう。僕も自分の家に戻ることにした。

「準備できたら、私の家の下に集合ね。おやつはしっかり持ってきなさい!」

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