28
「あいつって、あの世界の神様か」
「世界の王だ」
ヴィクターは、思い出したらしい。あの地下での会話で忘れ去っていた部分を。そして、僕の出した答えをしれっと直した。
「【君の相棒は、タイムトリッパーのために取っておく。残念だが、君はいらない】と僕は言われ、意識を失ったんだ」
僕とユキとティムは、ヴィクターの話を聞いて見つめあった。
どういうことだろう。なぜ、この王様と赤いピエロは同じ話をしているのだ。
「簡単なことだ」
ティムはいった。
「赤いピエロが、世界の王か。あるいは、その手先か。いずれにしても奴は関係があると言ってもいい」
ティムの出した答えが今の所いちばんしっくりきた答えだった。僕は、辺りを見回した。ショッピングモールは荒れ果てていたが、本当にここに世界の王がいた建物があったのだろうかと考えた。ヴィクターいわく、建物の大きさが明らかに違うと言っていた。
僕は、コンビニのトイレでウンコをしていたら気づいたら、この世界にトリップしていた。もしや、僕のことだろうか。タイムトリッパーとは……
僕は、ティムの方を見た。ティムは、ユキの方を見ていた。僕は、誰かに話したい気持ちをぐっとこらえて喉の奥底に飲み込んだ。
「お。ようやくお目覚めのようだよぉ」
そういってヴィクターは僕らの後ろに歩いていった。
さきほどまで、目を疑うようなゾンビ姿となっていた町の人々だ。彼らが、人間の姿となってこの世界に戻ってきた。
「なんだか、ずっと良い気持ちで寝ていた気分だ。夢でも見ていたみたいだ」
僕の想像とは裏腹に彼らは幸せな気分で生きていたようだ。
「近未来な世界を見たわ。自動で走る箱に座ったり。なんかおしゃれなお洋服を着たり。美味しいデザートもたくさん食べた気がする。いい夢だったなぁ」
フリフリのスカートを履いた女性は言った。なんだか、僕の知っている世界にでも言っていたような発言だった。僕は、近づこうにも近づけない。
「どうしたの、カク?」
ユキが、僕の背中をさわりながら言った。
「だ、大丈夫だよ。なんでもない」
ユキの手をそっとおろして、僕は彼らの元に向かった。
みんな、元気そうにしていた。僕は、元気であることに「よかった」と素直に思えた。でも、「実は、ゾンビだったんですよ」とは言えない。僕は口が裂けても言えなかった。
意を決して僕は、一人の女性に話をかけた。あのフリフリのスカートを履いた女性である。ティムにもユキにもヴィクターにも聞こえないように小さい声で。
「自動で走る箱。もしかして、自動車とかタクシーとかっていう名前じゃなかったですか」
女性は、驚いた表情を浮かべた。
「な、なんでわかるんですか」
僕は、笑顔で答えた。
「僕も、あなたと同じ症状に陥ったことがあるので」
笑顔満点で大きな嘘をついた。
「そうなんですか。あれは、この世界には絶対にないようなものでした。なんだったんでしょうね」
女性は、興味深々だったが、僕は「さぁ、よくわからないです」と冷たい返事をした。
彼らはどこに行っていたのだ。
夢の世界か……
こちらの世界が夢の世界ではないのか?
僕のいた世界が夢の世界だったのか?
「ほ、本当に、大丈夫?カク?」
ユキが僕の方に寄ってきた。
「だ、大丈夫だよ」
強がりを一つ僕は言った。しかし、全然大丈夫ではなかった。僕は、そのまま床に倒れた。
僕は、目を覚ました。
灰色の天井にオレンジががった照明がついている。間接照明というやつか。
体を起こして、辺りを見回した。
黒革の高級そうなソファーの一角に僕は毛布をかけられて寝ている。
あたりには、ワイングラスやお酒の瓶がいたるところに飾られている。バーカウンターに背の高い丸椅子、難しそうな表紙の本。なんだかどっかのバーに来たような気分だった。もちろん、未成年だから行ったことはない。映画とかドラマで見ただけである。
僕は、ソファーから起き上がって辺りを歩いた。こんな場所、本当に初めてだった。これがおしゃれというやつか。
「目が覚めたんだねぇ」
ヴィクターがグラスを持って現れた。
「お水でも飲むかい」
もう片方の手に、水の入った大きな瓶を持っていた。(俗にいうピッチャーである)
「うん」
僕は、うなづきながら返事をした。ヴィクタはー僕に、グラスを渡して、そのままグラスに水を注いだ。注ぎ終えた水を僕は飲み干した。そして、やっぱりそのまま寝ていたソファーに座ることにした。
「ここは、どこ?」
僕は、ヴィクターに聞いた。
「ん?僕の家だよ。言ったじゃないか。ショッピングモールに住んでるって」
「ゾンビと一緒に暮らしてたの?」
「彼らは、活動的になるのは夜。昼はほとんど寝ていたよ」
ヴィクターは、手に持っていた大きな瓶を僕の座って居るソファーの前の机に置いた。




