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ユキは、山道の途中で立ち止まった。そして、立ち止まって僕の方を見た。
「君は、それを逃げたと思ってるの?逃げた自分を恥ずかしいと思っているのかもしれない」
僕は、自宅から電車で5駅の高校に通っていた。でも、通学時間と丁度通勤時間がぶつかってしまい、毎日毎日が苦しかった。
「君の世界では逃げることは肯定されなかったの?全て努力でなんとか回避しろとかって言われる世界なの?」
ある日、僕は電車の中で、息が苦しくなって、すぐに電車を降りた。肩で息をしている自分が電車のホームに立っていた。僕は、その日から高校に通えなくなり、しばらくして地元の高校に転校した。
「世の中、努力でなんでも解決できるなんて幻想だよ。努力でなんでも解決できるならみんな進んで努力しているよ」
地元の高校は、あまり頭の良い学校ではなかった。電車で5駅の隣町の高校は進学校だったから余計に感じた。周りの同級生との温度差がさらに僕を苦しめた。
「ねぇ!しっかりして!」
ユキは、僕の肩を持って激しく揺らした。どこかに行きそうになった心が僕の体に戻ってきた。
「大丈夫?」
彼女は、僕を真剣な表情で見つめている。僕はあまりにも、真剣に見つめるユキに少し照れた。
「え、っともう……大丈夫です」
僕は、ユキが掴んでいる手を、肩から下ろした。
「ごめん、なんか私きっと悪いこと言ったよね」
「いや、僕もちょっとつい……」
僕のせいで雰囲気が悪くなってしまったと思った。僕のいけないところである。人は僕の話を延々と聞いてくれる生き物だと思っている。でも、それは実際は違う。人は元来話すことが好きな生き物であり、人の話を聞くのは意外と苦痛なものである。まして、愚痴や辛い過去の話なんて本当に辛いはずである。こんな話ばかりをして、僕は人を知らず知らずのうちに傷つけてしまっていたのだろう。
「何をしているんだ。もう、図書館区域に着くぞ」
ティムは、僕らの方を見て言った。僕はハッとして彼の方を見た。
「君の世界は、しばらく帰らないんだからとりあえず忘れて置いたほうが良い。この世界にはこの世界のルールがある。君の世界のルールなんて、ここでは無意味だ。物語のセリフにも使えないレベルだ。」
そう言い放って、ティムは山道を進んでいった。ティムの言っていることは正しい。僕の愚痴など、この世界では無意味すぎる。
「本当に、ありがとうございます。でも、ちょっとスッキリしました」
僕は、彼女に謝った。
「気にすることはないわ。こういう時に謝らないで、感謝の言葉を述べるのは良いことだよ。偉い偉い」
ユキは、僕の背中をぽんっと叩いて、ティムの後を追って走って行った。僕は、走っていく彼女に置いてかれるのよう、その後ろを追いかけた。しかし、そんな青春染みたシーンは一瞬にして終わってしまった。
「きゃあああああ」
突然、ユキの悲鳴が山道の先で聞こえていた。
僕は、慌てて悲鳴がしたほうへと走った。
ユキの先には、見慣れない人物たち2名立っていた。右手にはナイフを持っており、左手には黒猫を持っている。黒猫は首から大量の血を流していた。
「ティムが……、ティムが……」
ユキは、ショックでその場で座り込んで泣いてしまっている。僕は、改めて見慣れない人物たちの方を見た。右手にはナイフ、左手には黒猫の死骸を持っている。ただ、少し距離が遠くて黒猫がティムであるかどうか判別がつかなかった。
「金をよこせ」
チンピラ数名は、お金を僕らに要求している。つまり、山賊ということか。
「その前に、その黒猫を離せ」
僕は震える膝を騙しつつ、山賊に立ち向かった。
「ほぉ。威勢が良いねぇ、兄ちゃん」
「こんな若い奴もいるのか。初めて見たなぁ」
もう一人の山賊が言った。
僕は、背中からかけておいたジャンボエッジ(多分、そんな名前で良いような気がした)を下ろして、右手に持った。
「おい、なんか持ってるぜぇ。不思議な形をした武器だねぇ」
「あれは、きっとオモチャだぜぇ。きゃははは。クリスマスプレゼントでももらったのかい」
男たちは、大いに笑い、僕を挑発していた。しかし、そんな挑発に乗るような男ではない。(正確に言えば、余裕がなかった)
僕は、カッターの刃を回して押し出す部分と柄の部分を持った。なんだか、この武器は重いんだか軽いんだかよくわからないと思えた。本当にこんなもので敵が倒せるのだろうか。ええい、迷っている場合ではない。
その時だった。泣いていたはずのユキが急に立ち上がった。
「ああ!そうだ!忘れてた!」
ユキは、目を真っ赤にして泣いていたが、涙を拭いて僕の方へと歩み寄ってきた。
「君のその武器。実は何カ所か仕掛けをしたのよ。言い忘れてたわ。その……そうそう。君が持っている丸い部分をくるくると回してごらんなさい。そうすると刃の部分がだんだんオレンジ色になってきたでしょ?完全にオレンジになったら、準備は万端。ジャンボエッジを左側に水平に持って、柄の部分を右手で勢いよく押してみて」
ユキは僕にひっつきながら手取り足とり教えてくれた。時折あたる体の膨らみが僕は少し気になった。何が当たっていたのだろうか。
僕は、言われるがままに、丸い部分を時計回りに回した。そして、左側に水平に立てた。
「あいつら、何やってんだよ。ははは」




