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『ハズレ竜タマは、軍団を産む。』  作者: akaike


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9/20

第9話 エリートたちの中で

 招待状が届いてから、試験の日までは、一週間あった。


 その一週間、俺は、できる限り、タマとヒノを鍛えた。

 三ツ岩窟に毎日潜って、属性を見ながら、二匹を使い分けて、ひたすら狩った。


 おかげで、タマは、レベル7まで上がった。

 ヒノも、ぐんぐん育って、レベル5。炎の威力も、最初の頃とは比べものにならない。


 でも――正直、足りない。

 相手は、全国から集まる、エリートたちだ。生まれつき、いい卵を持ったやつら。

 タマのレベル7なんて、向こうからしたら、鼻で笑うレベルだろう。


 それでも。

 数字で負けてるのは、最初から分かってる。

 俺の勝負は、そこじゃない。


「行くぞ、タマ、ヒノ。……殴り込みだ」


「キュルッ」

「キュキュッ!」


 二匹の、元気な返事を背に。

 俺は、家を出た。


 蒼空ドラゴン学園は、街から電車で一時間、小高い丘の上にあった。


 でかい。

 とにかく、でかかった。

 白い石造りの校舎が、空に向かってそびえ立ち、その周りには、ドラゴンが飛ぶための、広い訓練場が、いくつも広がっている。


 空には、何頭ものドラゴンが、悠々と舞っていた。

 どれも、立派だ。デカくて、強そうで――うちのタマとは、比べるのも申し訳ないくらい。


 ここが、この国の、ドラゴンテイマーの頂点。

 将来、国を背負って戦うようなエリートが、ここから巣立っていく。

 ……そういう場所に、俺は、来たのか。


 ごくり、と、唾を飲んだ。

 正直、足が、すくみそうだった。

 でも、肩のタマが、頬に、ぐいっと体を押しつけてくる。まるで、「びびってんじゃねえよ」とでも言うみたいに。


 ……ああ。そうだな。悪い。


 門の前には、受験生たちが、続々と集まっていた。

 俺は、その中に、混じる。


 ……うわ。

 明らかに、場違いだった。


 みんな、いい服を着て、自信に満ちた顔をしてる。

 連れてるドラゴンも、どれも立派で、つやつやで、いかにも"血統書付き"って感じだ。


 その中で、俺は。

 くたびれた服に、肩には灰色のちびドラゴン。足元には、赤い子トカゲ。


「……おい、見ろよ、あいつ」

「なんだ、あのショボいドラゴン。トカゲ二匹連れて、何しに来たんだ?」

「あんなのが受験? この学園、誰でも受けられるようになったのか?」


 くすくす、と、笑い声。

 ……はいはい。どうも。慣れてますよ、その反応は。


 第一印象、最低ランク。

 でも――いいんだ。それで。


 育成ゲーの鉄則。

 序盤で侮られるやつほど、終盤で化ける。


 タマが、俺の肩で、不機嫌そうに「グルルゥ」と鳴いた。

 お前も、バカにされて、ムカついてるのか。


「気にすんな、タマ。笑ってるやつらに、あとで全部、見せつけてやればいい」


「キュルッ」


 そのときだった。


「あら。あなた、来たのね」


 聞き覚えのある声に、振り返る。

 そこに、いた。

 あの、ダンジョンで会った、少女だ。


 青い鱗のアクアドラゴンを連れた、氷みたいな目の――あいつ。


「お前……!」

「ふふ。やっぱり、招待されてたんだ」


 少女は、薄く笑った。

 まるで、俺が来ることを、最初から知ってたみたいに。


「まさか、お前が、この招待状に関係してるのか?」

「さあ、どうかしら」


 少女は、はぐらかすように、肩をすくめた。


「でも、これだけは言える。あなたを"面白い"と思った人が、いたってこと。……それが、誰かは、まだ秘密だけど」


 ……なんだ、それ。

 ますます、わけが分からない。


「私は、霧島レイ。一応、今年の受験生の中じゃ、トップって言われてる」


 レイ、と名乗った少女は、つん、と顎を上げた。


 ステータスを、見る。

 アクアドラゴン、レベル23。

 ……うちのタマが7、ヒノが5。それと比べて、この数字だ。格が、違いすぎる。

 間違いない。こいつ、本物のエリートだ。


「忠告しておくわ。この試験、甘くない。あなたみたいな"規格外"でも――いえ、規格外だからこそ、潰しにかかる人がいる」


 レイの目が、すっと、細くなる。


「気をつけることね。じゃ」


 そう言って、レイは、人混みの中へ、消えていった。


 ……潰しにかかる人、ねえ。

 穏やかじゃないな。


 でも、まあ、いい。

 誰が来ようと、やることは、変わらない。


 ゴーン、と、鐘が鳴った。

 校舎の上から、拡声された声が、響く。


『これより、蒼空ドラゴン学園、入学試験を開始する。受験生は、第一訓練場に集合せよ』


 うわ、と、受験生たちが、ざわめきながら、移動を始める。

 俺も、タマとヒノを連れて、その流れに乗った。


 第一訓練場は、だだっ広い、円形の闘技場みたいな場所だった。

 その中央に、一人の男が、立っている。


 黒いコートを着た、鋭い目つきの、教官らしき男。

 その足元には、見るからに強そうな、巨大なドラゴンが、伏せていた。


『私は、試験官のクロガネ。これから、君たちの"実力"を、見極めさせてもらう』


 クロガネ、と名乗った男の声は、低く、よく通った。


『試験は、単純だ。これから、君たちには、二人一組で、模擬戦をしてもらう。自分のドラゴンを操り、相手のドラゴンを、戦闘不能にすれば、勝ち』


 模擬戦。

 受験生同士の、ドラゴンバトルか。


『勝ち負けだけでは、評価しない。ドラゴンとの連携、判断力、戦い方――そのすべてを、見る。たとえ負けても、光るものがあれば、評価する。逆に、勝っても、中身がなければ、落とす』


 なるほど。ただ勝てばいい、ってわけじゃないのか。

 ……面白い。それなら、やりようがある。


 頭の中で、ゲーマーの脳みそが、回り始める。

 純粋なドラゴンの強さで殴り合うなら、俺に勝ち目はない。向こうは、生まれつきの才能の塊だ。

 でも、「連携」「判断力」「戦い方」も見るっていうなら――そこは、頭の使いどころだ。

 数字じゃなく、知恵で勝つ。それなら、俺の土俵だ。


『では、最初の組を、発表する』


 クロガネが、手元の名簿に、目を落とす。

 俺は、ごくり、と唾を飲んだ。


 頼む。いきなり、化け物みたいなやつは、勘弁してくれよ。


『天野ソウマ』


 ……げ。

 いきなり、俺かよ。


『対するは――霧島レイ』


 は?


 俺は、思わず、声が出そうになった。


 霧島レイ。

 さっきの、氷みたいな目の、トップ受験生。

 ランクAの、アクアドラゴンを連れた、本物のエリート。


 よりによって、一回戦から、こいつかよ。


 レイが、人混みの中から、すっと前に出てくる。

 そして、俺を見て、にやりと、笑った。


「奇遇ね、天野くん。……手加減は、しないわよ」


 その肩で、アクアドラゴンが、ぐるると、低く唸る。

 青い鱗が、闘技場の光を受けて、ぞっとするほど、きれいに光っていた。


 ……マジかよ。

 いきなり、ラスボス級じゃないか。


 でも――俺は、肩のタマと、足元のヒノを見た。

 二匹とも、逃げる気配なんて、まったくない。

 むしろ、やる気だ。タマなんか、「早くやろうぜ」って顔で、俺を見上げてる。


 ……ははっ。

 そうだな。お前らがいるなら、怖くない。


 俺は、闘技場の中央へ、足を踏み出した。


「いいぜ。やってやる」


 ハズレと笑われた俺の、初めての本気の戦いが。

 今、始まろうとしていた。



───────


【あとがき】


 第九話、読んでくれてありがとうございます!


 ついに、蒼空ドラゴン学園へ!

 エリートだらけの中、場違いなソウマ。でも、こういう状況こそ、燃えますよね。


 そして、再会した少女――霧島レイ。

 彼女、今年のトップ受験生でした。しかも、いきなり一回戦の相手に!


 ハズレ少年 VS エリート。

 数字では、勝ち目なし。でも、ソウマの戦い方は……?



 ▼次回予告

 ソウマ VS レイ、模擬戦開始!

 ランクAのアクアドラゴンに、タマとヒノで挑む!

 ソウマの"攻略"が、エリートに通用するのか――?



 「続きが気になる」と思ってもらえたら、

 ★評価・ブックマークで応援してもらえると、すごく励みになります!


 次回、初の本格バトルです。お楽しみに!


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