第9話 エリートたちの中で
招待状が届いてから、試験の日までは、一週間あった。
その一週間、俺は、できる限り、タマとヒノを鍛えた。
三ツ岩窟に毎日潜って、属性を見ながら、二匹を使い分けて、ひたすら狩った。
おかげで、タマは、レベル7まで上がった。
ヒノも、ぐんぐん育って、レベル5。炎の威力も、最初の頃とは比べものにならない。
でも――正直、足りない。
相手は、全国から集まる、エリートたちだ。生まれつき、いい卵を持ったやつら。
タマのレベル7なんて、向こうからしたら、鼻で笑うレベルだろう。
それでも。
数字で負けてるのは、最初から分かってる。
俺の勝負は、そこじゃない。
「行くぞ、タマ、ヒノ。……殴り込みだ」
「キュルッ」
「キュキュッ!」
二匹の、元気な返事を背に。
俺は、家を出た。
蒼空ドラゴン学園は、街から電車で一時間、小高い丘の上にあった。
でかい。
とにかく、でかかった。
白い石造りの校舎が、空に向かってそびえ立ち、その周りには、ドラゴンが飛ぶための、広い訓練場が、いくつも広がっている。
空には、何頭ものドラゴンが、悠々と舞っていた。
どれも、立派だ。デカくて、強そうで――うちのタマとは、比べるのも申し訳ないくらい。
ここが、この国の、ドラゴンテイマーの頂点。
将来、国を背負って戦うようなエリートが、ここから巣立っていく。
……そういう場所に、俺は、来たのか。
ごくり、と、唾を飲んだ。
正直、足が、すくみそうだった。
でも、肩のタマが、頬に、ぐいっと体を押しつけてくる。まるで、「びびってんじゃねえよ」とでも言うみたいに。
……ああ。そうだな。悪い。
門の前には、受験生たちが、続々と集まっていた。
俺は、その中に、混じる。
……うわ。
明らかに、場違いだった。
みんな、いい服を着て、自信に満ちた顔をしてる。
連れてるドラゴンも、どれも立派で、つやつやで、いかにも"血統書付き"って感じだ。
その中で、俺は。
くたびれた服に、肩には灰色のちびドラゴン。足元には、赤い子トカゲ。
「……おい、見ろよ、あいつ」
「なんだ、あのショボいドラゴン。トカゲ二匹連れて、何しに来たんだ?」
「あんなのが受験? この学園、誰でも受けられるようになったのか?」
くすくす、と、笑い声。
……はいはい。どうも。慣れてますよ、その反応は。
第一印象、最低ランク。
でも――いいんだ。それで。
育成ゲーの鉄則。
序盤で侮られるやつほど、終盤で化ける。
タマが、俺の肩で、不機嫌そうに「グルルゥ」と鳴いた。
お前も、バカにされて、ムカついてるのか。
「気にすんな、タマ。笑ってるやつらに、あとで全部、見せつけてやればいい」
「キュルッ」
そのときだった。
「あら。あなた、来たのね」
聞き覚えのある声に、振り返る。
そこに、いた。
あの、ダンジョンで会った、少女だ。
青い鱗のアクアドラゴンを連れた、氷みたいな目の――あいつ。
「お前……!」
「ふふ。やっぱり、招待されてたんだ」
少女は、薄く笑った。
まるで、俺が来ることを、最初から知ってたみたいに。
「まさか、お前が、この招待状に関係してるのか?」
「さあ、どうかしら」
少女は、はぐらかすように、肩をすくめた。
「でも、これだけは言える。あなたを"面白い"と思った人が、いたってこと。……それが、誰かは、まだ秘密だけど」
……なんだ、それ。
ますます、わけが分からない。
「私は、霧島レイ。一応、今年の受験生の中じゃ、トップって言われてる」
レイ、と名乗った少女は、つん、と顎を上げた。
ステータスを、見る。
アクアドラゴン、レベル23。
……うちのタマが7、ヒノが5。それと比べて、この数字だ。格が、違いすぎる。
間違いない。こいつ、本物のエリートだ。
「忠告しておくわ。この試験、甘くない。あなたみたいな"規格外"でも――いえ、規格外だからこそ、潰しにかかる人がいる」
レイの目が、すっと、細くなる。
「気をつけることね。じゃ」
そう言って、レイは、人混みの中へ、消えていった。
……潰しにかかる人、ねえ。
穏やかじゃないな。
でも、まあ、いい。
誰が来ようと、やることは、変わらない。
ゴーン、と、鐘が鳴った。
校舎の上から、拡声された声が、響く。
『これより、蒼空ドラゴン学園、入学試験を開始する。受験生は、第一訓練場に集合せよ』
うわ、と、受験生たちが、ざわめきながら、移動を始める。
俺も、タマとヒノを連れて、その流れに乗った。
第一訓練場は、だだっ広い、円形の闘技場みたいな場所だった。
その中央に、一人の男が、立っている。
黒いコートを着た、鋭い目つきの、教官らしき男。
その足元には、見るからに強そうな、巨大なドラゴンが、伏せていた。
『私は、試験官のクロガネ。これから、君たちの"実力"を、見極めさせてもらう』
クロガネ、と名乗った男の声は、低く、よく通った。
『試験は、単純だ。これから、君たちには、二人一組で、模擬戦をしてもらう。自分のドラゴンを操り、相手のドラゴンを、戦闘不能にすれば、勝ち』
模擬戦。
受験生同士の、ドラゴンバトルか。
『勝ち負けだけでは、評価しない。ドラゴンとの連携、判断力、戦い方――そのすべてを、見る。たとえ負けても、光るものがあれば、評価する。逆に、勝っても、中身がなければ、落とす』
なるほど。ただ勝てばいい、ってわけじゃないのか。
……面白い。それなら、やりようがある。
頭の中で、ゲーマーの脳みそが、回り始める。
純粋なドラゴンの強さで殴り合うなら、俺に勝ち目はない。向こうは、生まれつきの才能の塊だ。
でも、「連携」「判断力」「戦い方」も見るっていうなら――そこは、頭の使いどころだ。
数字じゃなく、知恵で勝つ。それなら、俺の土俵だ。
『では、最初の組を、発表する』
クロガネが、手元の名簿に、目を落とす。
俺は、ごくり、と唾を飲んだ。
頼む。いきなり、化け物みたいなやつは、勘弁してくれよ。
『天野ソウマ』
……げ。
いきなり、俺かよ。
『対するは――霧島レイ』
は?
俺は、思わず、声が出そうになった。
霧島レイ。
さっきの、氷みたいな目の、トップ受験生。
ランクAの、アクアドラゴンを連れた、本物のエリート。
よりによって、一回戦から、こいつかよ。
レイが、人混みの中から、すっと前に出てくる。
そして、俺を見て、にやりと、笑った。
「奇遇ね、天野くん。……手加減は、しないわよ」
その肩で、アクアドラゴンが、ぐるると、低く唸る。
青い鱗が、闘技場の光を受けて、ぞっとするほど、きれいに光っていた。
……マジかよ。
いきなり、ラスボス級じゃないか。
でも――俺は、肩のタマと、足元のヒノを見た。
二匹とも、逃げる気配なんて、まったくない。
むしろ、やる気だ。タマなんか、「早くやろうぜ」って顔で、俺を見上げてる。
……ははっ。
そうだな。お前らがいるなら、怖くない。
俺は、闘技場の中央へ、足を踏み出した。
「いいぜ。やってやる」
ハズレと笑われた俺の、初めての本気の戦いが。
今、始まろうとしていた。
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【あとがき】
第九話、読んでくれてありがとうございます!
ついに、蒼空ドラゴン学園へ!
エリートだらけの中、場違いなソウマ。でも、こういう状況こそ、燃えますよね。
そして、再会した少女――霧島レイ。
彼女、今年のトップ受験生でした。しかも、いきなり一回戦の相手に!
ハズレ少年 VS エリート。
数字では、勝ち目なし。でも、ソウマの戦い方は……?
▼次回予告
ソウマ VS レイ、模擬戦開始!
ランクAのアクアドラゴンに、タマとヒノで挑む!
ソウマの"攻略"が、エリートに通用するのか――?
「続きが気になる」と思ってもらえたら、
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次回、初の本格バトルです。お楽しみに!




