↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『ハズレ竜タマは、軍団を産む。』  作者: tatsuya akaike


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
77/79

第77話 決戦・二 還す

「キュルッ!」


 扉の向こうから届いた声ははっきりしていた。

 遠くない。すぐ背中にいるみたいな声だ。

 止まっていた光の糸がぴんと張る。


「タマ……!」


 ◇


 現世。学園最上の境目。

 タマは縦穴の縁で、四本の足をふんばっていた。

 首輪がぎちぎちと軋む。

 灰色の体の奥で、何かが外へ出たがっている。


「タマ、無理をするな!」


 じいちゃんの声が震える。

 タマは振り向かない。

 右の前足をそっと首輪にそえた。

 あの日、自分でこらえると決めたときと同じ仕草。


 外さない。

 こらえたまま、ありったけを扉へ流しこむ。

 それがタマの選んだやり方だ。


「支えるぞ!」


 鷹宮がタマの横腹に肩を入れた。

 シルバーホークが翼を広げ、吹き上げる風を受け止める。

 霧島レイは反対側に回った。

 アクアドラゴンの水の膜が熱を帯びたタマの体を冷やしていく。


「円城寺さん、榊先生も!」


 二人が駆け寄る。

 円城寺はタマの首に手を添えた。

 榊先生は太い腕で尾を抱えこむ。

 じいちゃんは正面から、タマの顔を両手で包んだ。


 そして、もう一人。


「……がんばれ、タマ」


 ひなただった。

 小さな手がタマの背中に置かれる。

 震えている。

 でも離さない。


「お兄ちゃんが向こうで待ってるんでしょ。だったら、がんばれ」


 首輪がひときわ大きく鳴った。

 それでも外れない。

 光だけが縦穴の底へ、まっすぐ落ちていった。


 ◇


 向こう側。

 背中の扉から、太い光が流れこんでくる。

 弱りかけていた糸がみるみる太くなった。


 俺は視る。


  ――共鳴率 91% → 94%――


「来てる……! タマが送ってくれてる!」


 だが、始まりの星も黙っていない。

 黒い腕が何十本もうねりながら襲ってくる。


「ゴロ! ドーム!」


「グモォォン!!」


 ズゥン、と岩の天蓋がせり上がる。

 黒い腕が叩きつける。

 ひび。

 崩落。

 すぐに建て直す。

 背の尖塔が欠けては生え、また欠けた。

 それでもゴロは、一歩も退かない。


「ナギ、ゴロに慈雨!」


「コポポ……!」


 やさしい雨が割れた岩肌をなでていく。

 傷がふさがる。

 ゴロがもう一度、胸を張った。


「メイ、茨の檻! 腕をまとめて縛れ!」


「ふよぉっ!」


 棘の蔦が地面から噴き上がる。

 黒い腕を三本、四本と絡め取り、ぎちりと締め上げた。

 メイの足が震えている。

 人見知りのちびが世界を書き換える腕を押さえこんでいるのだ。


  ――共鳴率 94% → 97%――


「ソラ、ヒノ! 雷紅蓮! 核まで道を開けろ!」


「ピィイィッ!」


「キュキュアッ!」


 ソラが雷をまとう。

 その翼に、ヒノの紅蓮が乗った。

 雷の速さで、炎が走る。


 ――ヂヂィッ、ゴオオッ!!


 黒い体に、一直線の穴が穿たれた。

 その奥に、赤黒い光。

 核だ。

 悲しみの、いちばん底。


「ルゥゥ……!」


 ツキが最後の光を振りしぼる。

 その光が扉から来たタマの光と重なった。

 五匹の胸の欠片がいっせいに灯る。


  ――共鳴率 100%――


 音が消えた。

 タマの光。ツキの光。五つの欠片。

 七つの光がひとつの白になる。


「今だ、ソウマ!」


 父さんの声に背を押されて、俺は走った。

 雷紅蓮が開けた道をまっすぐに。


 核の前で止まる。

 熱くない。

 凍えるほど寂しい光だった。


 視えている一行をもう一度読む。


  相棒:なし(喪失)


 俺は手を伸ばした。


「あんたの相棒は、もういない」


 核がびくりと震える。


「でも、あんたは独りじゃない。あんたの嘆きから生まれた竜たちが、世界中で誰かの相棒になってる」


 指先が核に触れた。


「俺のタマも、その一匹だ」


 手のひらに伝わる、ざらりとした感触。

 タマの頭をなでるときと、同じ手触りだった。


 ◇


 現世。

 縦穴の縁で、タマが小さく鳴いた。


「キュー」


 甘えるときの声だ。

 ひなたが目を丸くする。


「今の……お兄ちゃんに甘えたの?」


 ◇


 始まりの星の動きが止まった。


 黒い腕が一本ずつ垂れていく。

 体の表面から、黒がはがれ落ちる。

 ぱらり。

 ぱらり、ぱらり。

 その下から現れたのは灰色の鱗。

 タマと同じ色。ツキと同じ色だ。


 まん丸の目が俺を見下ろす。

 黒い涙はもう流れていなかった。


 『……ソウカ』


 頭の中に声が響く。

 ざらついた声じゃない。

 ひどく疲れた、年寄りの声。


 『……ヒトリデハ、ナカッタノカ』


 巨大な竜がゆっくりとまぶたを閉じる。

 首を地面に横たえ、長い息を吐いた。

 百五十年ぶりに、やっと眠れる。

 そんな顔だった。


「倒さずに、還したのか」


 父さんが呆然とつぶやく。


「僕が五年、押さえることしかできなかったものを」


 ツキが「ルゥ」と短く鳴いた。

 よくやった、と言うみたいに。


 光の糸の向こうに、あいつのステータスが浮かぶ。


  タマ

  レベル48 → 50

  スキル:???(閉じたまま)

  首輪:あり


 首輪はつけたまま。

 力に呑まれず、こらえて届けた分の成長だ。

 お前、やっぱりすごいよ。


「よし。帰ろう、みんな」


 ヒノが「キュア」と跳ねる。

 メイがほっとして、その場にへたりこんだ。


 その足元で。

 ぴし、と音がした。


 黒い硝子の地面に、ひびが走る。

 一本。三本。十本。

 遠くの地平線が音もなく崩れはじめた。


「まずい」


 父さんの顔から、血の気が引く。


「あれが眠ったから、ここを支えるものがなくなったんだ。向こう側そのものが、閉じる」


 振り返る。

 扉の光ははるか遠く。

 針の先ほどの、小さな点だった。



───────


【あとがき】


 第七十七話、読んでくれてありがとうございます。


 タマは首輪を外しませんでした。こらえたまま、ありったけを届ける。第七十話で自分で選んだ強さを、今度はソウマのために使った回です。現世で支えてくれたみんなの手も、書いていて胸が熱くなりました。


 そして始まりの星。倒すのではなく、還す。ソウマが最後に届けたのは技ではなく「独りじゃない」という言葉でした。百五十年ぶりの眠りが、穏やかなものであってほしいと思います。


 でも、ほっとしたのも束の間。支えを失った向こう側が、崩れはじめます。扉は遠い。ツキも父も、もう限界に近い。


 次回、崩れる世界からの脱出です。全員で帰れるのか、見届けてください。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。