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『ハズレ竜タマは、軍団を産む。』  作者: tatsuya akaike


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第76話 決戦

 黒い涙が闇の底に落ちた。


 ――ドオォォン!!


 足元の闇が波みたいにうねる。

 始まりの星が吠えた。

 声じゃない。

 悲しみそのものが形になって押し寄せてくる。


「来るぞ!」


 闇の中に、景色が次々と生まれては崩れていく。

 燃える村。

 草原。

 倒れた青年。

 百五十年分の記憶が世界をでたらめに書き換えていく。


 その中から、黒い腕が何十本も伸びてきた。


「ゴロ! グランド・ドーム!」


「グモォォン!」


 ゴゴゴゴッ――!

 岩の要塞が俺たちの頭上まで一気にせり上がる。

 黒い腕がドームに叩きつけられた。


 ガンッ!

 ガンッ!

 ガガガンッ!


 重い。

 一発ごとに、岩の壁にひびが走る。


「グモッ……!」


 ドームが砕けた。

 ゴロはすぐに次の岩を積み上げる。

 砕かれる。

 建て直す。

 また砕かれる。

 それでも、ゴロは一歩も退かない。


「ナギ、慈雨! 止めるな!」


「コポポ……!」


 やさしい雨が絶えず降りそそぐ。

 ゴロのひびがふさがる。

 弾き飛ばされたソラの翼がまた動き出す。

 この雨が止んだら、全員が崩れる。

 ナギはそれをわかっていて、一滴も休まない。


「狙いは倒すことじゃない」


 俺はみんなに叫んだ。


「核だ! あいつの悲しみの真ん中に、俺たちの声を届ける!」


 視る力で、灰色の巨体を視る。

 文字化けの嵐の奥。

 胸のあたりに、ぽつりと赤黒い一点。

 ここへ来た日に撃った、あの核だ。

 でも今はそれが泣いているように見えた。


「メイ! 腕を止めろ! 茨の檻!」


「ふよぉぉっ!」


 メイが地面に蔦を叩きこむ。

 ズガガガッ――!

 棘の蔦がドームの外で次々とせり上がった。

 黒い腕を、三本、四本とまとめて締め上げる。

 書き換えられる前に、次の蔦。

 ちぎれても、また次。

 人見知りで、いちばん小さかったメイが、今は腕の林を一匹で押さえこんでいる。


「道が開いた! ソラ、ヒノ!」


「ピィイィッ!」


「キュアアッ!」


 ソラが雷をまとい、ヒノがその背に飛び乗る。

 門番を落とした、あの合体技だ。


「雷紅蓮!」


 バヂヂヂッ――ゴオオオッ!!


 雷の速さで、紅蓮の炎が闇を裂く。

 黒い霧がまっすぐに割れた。

 核への一本道が一瞬だけ見える。


 でも、届かない。

 核の手前で、黒が何重にも閉じていく。

 霧の壁が厚すぎる。


「ソウマ」


 父さんがツキの首に手を置いた。


「ツキが言っている。自分がこじ開ける、と」


「待って、父さん。ツキはもう……」


「わかっている」


 父さんの声は静かだった。


「わかっていて、この子は行くと言っているんだ」


 ツキが俺を見た。

 タマと同じ、まん丸の目だった。


 ツキがゆっくりと歩き出す。

 ふらつく足。

 かすれた息。

 それでも、その背中はまっすぐだった。


「ルゥゥ……!」


 ツキの体がまばゆく光る。

 同じ星の光。

 灰色の光が黒い霧に突き刺さった。


 ――ギィィィィッ!


 霧がゆっくりと左右に押し開かれていく。

 その奥で、核が脈打っていた。


「今だ! みんなの欠片を重ねろ!」


 五匹がいっせいに光った。

 炎の赤。

 岩の茶。

 雷の青白。

 水の青。

 草の緑。

 五つの光が俺のまわりで渦を巻く。


 そして、胸の奥がふいに熱くなった。

 遠い、遠い扉の向こうから。

 タマの力が細い糸になって流れこんでくる。


  共鳴率 60%


「まだだ!」


 メイの蔦が最後の腕を縛り上げる。

 ゴロが砕けたドームを積み直す。

 ナギの雨がみんなの背中を押す。


  共鳴率 78%


 五つの光が一つに近づいていく。

 ばらばらだった欠片が同じ鼓動を打ちはじめる。


  共鳴率 91%


 視界の端で、三匹のステータスがはね上がった。


  ゴロ レベル63→64

  ナギ レベル47→48

  メイ レベル47→48

  星の欠片:共鳴中


 この戦いの中で、三匹はまだ伸びている。

 壁を建て直し続けたゴロ。

 雨を止めなかったナギ。

 腕を縛り続けたメイ。

 支える側の三匹がいちばん育っていた。


「あと少し……!」


 核まで、あと少し。

 光の糸が核へ向かって伸びていく。

 指先が届きかける。


 そのとき。

 ツキの光がふっと揺らいだ。


「ツキ!」


 父さんが叫ぶ。

 灰色の巨体ががくりと膝をつく。

 押し開いていた霧がじわじわと閉じはじめた。


  共鳴率 91%


 数字が止まった。

 上がらない。

 どれだけ欠片を重ねても、あと一歩が埋まらない。


「足りない……」


 声が震える。


「あと少しなのに……!」


 五匹の光がちらつきはじめた。

 核が闇の奥へ沈んでいく。

 始まりの星の目から、また黒い涙がこぼれる。


 届かないのか。

 ここまで来て。

 みんなで、ここまで来たのに。


 そのとき。

 胸の奥の、細い糸がぴんと張った。


 扉の向こうから。

 はっきりとあいつの声が届いた。


「キュルッ!」



───────


【あとがき】


 第七十六話、読んでくれてありがとうございます。


 いよいよ最終決戦の前半です。倒すためではなく、声を届けるための戦い。ゴロは砕かれても建て直し、ナギは一滴も休まず、メイは腕の林を一匹で押さえこむ。ソラとヒノの雷紅蓮が道を開き、ツキが最後の力で核をこじ開けました。


 今回、レベルが上がったのはゴロとナギとメイ。前に出る子ではなく、支え続けた三匹です。共鳴率は91%。あと一歩が、どうしても届かない。


 そこへ届いた、扉の向こうからのタマの声。次回、タマが自分の力で応えます。


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