第72話 虚ろの門番
ドォンッ!
門番が着地した。
黒い大地が割れ、衝撃が足元から突き上げてくる。
でかい。
翼を広げれば、門の幅より広い。
目のない顔。
黒い鱗の翼は、端がぼろぼろに崩れている。
書換獣の、飛ぶための形だ。
ばさり。
門番が羽ばたいた。
一瞬で頭上へ消える。
「上だ! ゴロ、グランド・ドーム!」
グモォォォン!
岩の天井が俺たちを覆った、その直後。
ガアァンッ!
上から叩きつけられた一撃に、ドーム全体が震える。
天井に、ひびが走った。
重い。
そして速い。
この感じは知っている。
鷹宮のシルバーホークだ。
上を取られ、壁を越えられ、何もできずに沈んだ日。
あの日の悔しさが、ゴロに今のドームをくれた。
「父さん、ツキを奥へ!」
「わかった!」
ドームの中にツキを寝かせる。
ナギがそのそばに寄りそい、コポ、と小さく鳴いた。
――境界:安定度 9%――
時間がない。
「ソラ、食らいつけ! 雷光の翼!」
ピィイィッ!
ドームの隙間から、ソラが飛び出す。
雷をまとい、一気に上空へ。
門番の横腹へ突っこむ。
バヂイィッ!
斬った。
黒い鱗が裂け、欠片が散る。
でも浅い。
門番が身をよじる。
巨大な翼が振られた。
ソラが風圧で押し戻される。
俺は門番を視た。
核はどこだ。
胸じゃない。頭でもない。
赤黒い脈を追う。翼の付け根から背中へ。
その奥の、奥。
――核:背の奥(正面から到達不可)――
「背中の奥だ……」
正面からじゃ届かない。
背に回るには、あの翼をくぐるしかない。
「ヒノ、紅蓮の吐息! 背中を狙え!」
キュアアアッ!
紅い線がドームの隙間から走る。
門番はひらりと翼をかたむけた。
炎が宙を切る。
遠すぎる。
ヒノの炎は一点を貫く。
でも地上から撃てば、届く前にかわされる。
ソラなら届く。でも雷だけじゃ浅い。
ヒノなら貫ける。でも届かない。
なら。
「……ヒノの炎を、ソラに乗せる」
父さんが振り向いた。
「雷光の翼に、紅蓮の吐息をまとわせる。雷の速さで、炎を核まで運ぶんだ」
「そんな技、聞いたことがない」
「ない。だから、今作る」
ソラとヒノの欠片が、同じ光り方をしているのが視えた。
どっちもタマが産んだ子だ。
混ざらないはずがない。
「ソラ、戻れ! ヒノ、ソラの背に乗れ!」
ソラがドームへ滑りこむ。
ヒノがその背によじ登った。
キュキュ。
ピィ。
二匹がにらみ合う。
ふだんから、からかい合ってばかりの二匹だ。
ソラはヒノの尻尾の火で羽を焦がされたと怒る。
ヒノはソラの放電で毛が逆立つと拗ねる。
「いいか。ヒノは吐息を細く、長く。ソラはそれを翼で受けろ」
ヒノがソラの首をぺしりと叩いた。
ソラが、ピィッ、と抗議する。
それから二匹とも、ぴたりと黙った。
ヒノが小さく息を吸う。
ソラが翼を広げる。
息が、そろった。
ヒノの紅蓮が、ソラの翼に流れこむ。
青白い雷と紅い炎が、羽の上で絡み合った。
バチバチと火花が散り、翼が紅と白に燃え上がる。
「――行け! 雷紅蓮!」
ピィイイイィッ!
キュアアアアッ!
ソラが飛んだ。
速い。
今まででいちばん速い。
紅い稲妻が、ドームの隙間から一直線に駆け上がる。
門番が翼を振る。
ソラが潜る。
もう片方の翼。
ソラがひねって、かわす。
門番の爪。
ヒノが炎を吐いて、弾いた。
「メイ! 翼の付け根を縛れ!」
ふよぉっ!
メイの蔦が地上から伸びる。
翼の付け根に巻きつき、一瞬だけ動きを止めた。
「今だ!」
ソラが門番の背へ回りこむ。
翼の内側。
ほんの一瞬だけ、背中がひらいた。
紅い稲妻が、落ちる。
ズンッ――。
背中を貫いた。
鱗を裂き、肉を焼き、奥へ。
さらに奥へ。
核に、届いた。
門番の動きが止まった。
翼がゆっくりとかたむく。
目のない顔が、上を向く。
背中から、紅い光が噴き上がった。
ザアァ――。
門番の体が、黒い砂になって崩れていく。
ソラが地面すれすれを旋回し、俺の前に降りた。
ヒノがその背から転げ落ちる。
二匹とも、羽も尻尾もぼろぼろだ。
キュア。
ピィ。
また、にらみ合う。
そして同時に、そっぽを向いた。
でも尻尾の先は、くっついたままだ。
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ソラ Lv69 → 70(上限)
ゴロ Lv62 → 63
ナギ Lv46 → 47
メイ Lv46 → 47
新技【雷紅蓮】(ソラ×ヒノ)
――――――――
ソラ、上限到達。
C生まれで、進化を一度越えた雷竜。
ここまで来た。
「今の技……」
父さんがつぶやく。
「一匹ではたどり着けない技だ。二匹が互いを信じなければ、炎は翼で散る」
父さんは、崩れていく門番の残骸を見上げた。
「僕とツキには、作れなかった」
俺は答えなかった。
答える前に、門がきしみながら開きはじめたからだ。
そのときだった。
崩れかけた門番の翼が、最後にびくりと動いた。
砂になりかけた爪が、一本だけ振り下ろされる。
狙いは、蔦をたぐり寄せていたメイ。
「メイ!」
間に合わない。
ゴロは遠い。ソラは地面だ。
紅い影が、メイの前に飛びこんだ。
ヒノだった。
ドガッ。
黒い爪が、ヒノの体をまともに打つ。
ヒノは声も上げずに吹き飛び、地面を転がった。
動かない。
「ヒノ――!」
メイの悲鳴のような声が、門の前に響いた。
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【あとがき】
第七十二話、読んでくれてありがとうございます。
ソラとヒノの合体技、雷紅蓮。からかい合ってばかりの二匹に、息を合わせてほしかった回です。ソラも上限の70に届きました。
上から来る速い相手は、鷹宮戦からずっとこの軍団の課題でした。ゴロのドームで受けて、雷と炎で上を取り返す。ここまでの積み上げがなければ、勝てない相手だったと思います。
そして最後に、ヒノがメイをかばいました。
メイがいつもちょっかいを出していた相手です。次回、門の前の夜。




