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『ハズレ竜タマは、軍団を産む。』  作者: akaike


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7/20

第7話 二匹の連携と、見知らぬ少女

 ヒノが生まれて、三日が経った。


 その間、俺は家の庭で、ヒノの基礎を鍛えた。

 じいちゃんの指導つきだ。走り方、火の吐き方、力の加減。ヒノは覚えが早くて、なにより、やる気の塊だった。


「キュキュッ!」

「よし、いいぞ。次は、もうちょっと遠くを狙え」


 ボッ、と、ヒノが口から火を吐く。

 最初は足元を焦がすだけだった炎が、今は、五メートル先の的に届くようになっていた。


 タマは、その様子を、縁側から眺めている。

 我が子の成長を見守る親、みたいな顔で。……まあ、実際そうなんだけど。


「タマも、体は戻ったか?」

「キュルッ」


 元気な返事。

 産卵のあと、タマのHPは、12まで減っていた。

 普通の戦いでHPが減るぶんには、一晩寝れば元に戻る。でも、産卵で減ったぶんは、別だ。命を削ってる、ってことなんだろう。三日かけて、ようやく満タンに戻った。


 ……無理は、させらんないな。

 でも、その三日で、タマもしっかり休めた。今は、絶好調だ。


 よし。

 二匹、揃って動ける。

 なら――次の段階だ。


「明日、三ツ岩窟に潜る。ヒノの、初めての実戦だ」


 ヒノが、わっと跳ねた。

 タマは、やれやれ、って感じで、ゆっくり立ち上がる。


 二匹のドラゴンを連れて、ダンジョンに潜る。

 ……ちょっと前まで、ハズレ一匹で笑われてた俺が、な。


 悪くない。悪くない気分だ。


 翌日。

 三ツ岩窟の、入り口付近。


 いつもの、青く光る通路を進む。

 タマは俺の肩、ヒノは足元を、ちょこちょこ走っている。初めてのダンジョンに、目をきらきらさせて。


「ヒノ。はしゃぐのはいいけど、俺の指示は聞けよ。実戦は、遊びじゃないからな」

「キュッ」


 返事はいい。聞いてるかは、分かんないけど。


 しばらく歩くと、最初の敵が出た。

 いつものファイアリザードだ。炎を背に灯した、トカゲ。


「ヒノ……は、やめとくか」


 俺は、ヒノを手で制した。


 こいつは、炎属性。そして、ヒノも、炎。

 炎に炎をぶつけても、効きが悪い。同じ属性同士は、相性が最悪なんだ。これは、前世のゲームでも、現実でも、変わらない理屈だろう。


「タマ、頼む。これは、お前の獲物だ」

「キュルッ」


 タマが、肩から飛び降りる。

 タンッ、と地を蹴って、一瞬で消える。ドガッ、と体当たり。あっという間に、ファイアリザードを片づけた。


「ヒノ、見たか。お前の炎は、炎のやつには効きにくい。相手によって、お前が出るか、タマが出るか、変わる。それを、覚えとけ」


「キュ……」


 ヒノは、ちょっと不満そうだった。

 自分も戦いたかったんだろう。でも、これも大事なことだ。


「焦るな。お前の出番は、ちゃんと来る」


 そして、しばらく進んだ、そのとき。


 ガサッ、と、岩陰から、別のモンスターが現れた。


 今度は、ファイアリザードじゃない。

 ぶよぶよした、大きな芋虫みたいなモンスター。体長は、俺の腕くらい。湿った体を、もぞもぞとくねらせている。


 ステータスを見る。


  ケイブワーム

  レベル4

  属性:虫


「……虫型。来た、ヒノ。今度は、お前の出番だ」


 虫に、炎は、よく効く。燃えやすいからな。

 ヒノの炎が、活きる相手だ。


「ヒノ。遠くから、炎をぶつけろ。近づくな。お前は、距離を取って戦う魔法型だ」


「キュ……ッ!」


 ヒノが、ぐっと、息を吸い込んだ。

 胸のあたりが、ぼうっと、赤く光る。


 ケイブワームが、こっちに気づいた。

 ぬめる体を、ずるずると引きずって、にじり寄ってくる。動きは、遅い。


 まだだ。ひきつけろ。


 ケイブワームが、距離を詰める。三メートル。二メートル。


 今だ。


「撃て、ヒノ!」


 ゴオッ!!


 ヒノの口から、炎が噴き出した。

 まっすぐ、ケイブワームに直撃する。


 ギャアッ、と悲鳴。

 虫のケイブワームには、炎がよく刺さる。一発で、体が、ジュウッと音を立てて焼け焦げる。


 でも――まだ、倒れない。さすがに、一発じゃ仕留めきれない。


 ケイブワームが、怒って、ぬめる体を、こっちに飛びかからせてきた。

 ヒノは、まだ次の炎を、ためてる。間に合わない。


 まずい――


 と、思った、次の瞬間。


 タンッ。


 俺の肩から、影が消えた。

 タマだ。


 ドガッ!!


 タマの体当たりが、ケイブワームの横っ腹に突き刺さる。

 ぶよぶよの体が、勢いよく弾き飛ばされて、岩壁にぶつかった。ベチャッ、と鈍い音。


 助けた。タマが、ヒノの前に、割って入った。


「ナイスだ、タマ! ヒノ、今だ! もう一発!」


 ヒノは、もう、ためを終えていた。

 タマが作った、この一瞬の隙。


「キュアアアッ!」


 ゴオオッ!!


 二発目の炎が、よろけたケイブワームを、真正面から飲み込んだ。


 ケイブワームは、ひときわ大きく鳴いて――光の粒になって、消えた。


 ……やった。

 倒した。ヒノの、初めての獲物だ。


 そして、何より。


 今の、見たか。

 タマが、ヒノをかばって、隙を作った。ヒノが、そこに炎を叩き込んだ。


 息が、合ってた。

 二匹が、ちゃんと、連携した。


 素早いタマが前に出て敵を止めて、ヒノが後ろから炎で仕留める。

 物理と魔法。前と、後ろ。


 ……いいぞ。これは、いい。


 頭の中で、前世のゲームの感覚が、ちょっとだけ蘇る。

 役割を分けて、組み合わせる。あの、編成の楽しさ。

 まだ二匹。でも、一匹のときには、できなかったことだ。


「お前ら……いいコンビじゃないか」


 二匹が、得意げに、俺の足元に戻ってきた。

 タマも、ヒノも、ちょっと胸を張ってる。似た者親子だな、ほんと。


 その日は、何匹か狩った。

 属性を見て、タマとヒノを使い分ける。相性のいい相手にヒノ、悪い相手にタマ。

 その采配が、面白いように、ハマっていった。


 夕方。

 そろそろ帰るか、と、出口に向かって歩いていた、そのとき。


「――ねえ、君」


 通路の後ろから、声がした。


 振り返ると、そこに、女の子が立っていた。

 歳は、俺と同じくらい。背筋がぴんと伸びて、身なりもいい。きれいな顔立ちなのに、その目だけが、氷みたいに冷たかった。

 その肩には、見たこともない、青い鱗のドラゴンが乗っていた。鱗の一枚一枚が、水面みたいに、ゆらゆら光ってる。


 ステータスを、ちらっと見る。


  アクアドラゴン

  資質ランク A

  レベル23


 ……ランクA。しかも、レベル23。

 うちのタマが5で、ヒノが生まれたばっかりだってのに、桁が違う。

 こいつ、相当、ちゃんとしたテイマーだ。ただ者じゃない。


「さっきの、見てたわ」


 少女は、まっすぐ俺を見て、言った。

 値踏みするような、視線。


「あなた、二匹のドラゴンを、同時に動かして、連携させてた」


 どきっとした。


「ドラゴンを何匹も持ってる人なら、いくらでもいる。お金さえあれば、卵は買えるもの。でも――それは、ただ"持ってる"だけ」


 少女は、すっと目を細める。


「戦いの場で、二匹を同時に操って、連携させる。あんなの、できるのは、よっぽど腕のいい上級テイマーだけよ。普通は、一匹を動かすので精一杯。複数なんて、指示がごちゃごちゃになって、まともに戦わせられない」


 ……そうなのか。

 俺にとっては、当たり前だったんだけどな。前世のゲームじゃ、何十体も同時に動かしてたし。


 でも、この世界の"普通"は、違うらしい。

 一匹を操るのが基本。二匹を連携させるだけで、もう、上級者の領域。


「なのに、あなたみたいな子供が、平然とやってる。しかも、あの灰色の小さいの……あれ、見たことない種類ね」


 少女の目が、タマに向く。

 俺は、とっさに、タマを手で隠すようにした。


 タマの能力――卵を産むことや、レベル上限なしのことは、まだ、絶対に、誰にも知られたくない。


「あなた、何者?」


 ……まいったな。

 目立たないように、こっそり育ててたつもりだったのに。


 でも、この子の目は、ただの好奇心じゃ、なかった。

 もっと、何か。確かめるような。見透かそうとするみたいな。


「……ただの、ブリーダーの息子だよ」


 俺は、なるべく平静を装って、そう答えた。


 少女は、しばらく俺を見て――それから、ふっと、笑った。

 馬鹿にしたものでも、優しいものでもない。何かを、面白がってるような笑みだった。


「まあ、いいわ。名乗らないなら、それでも」


 そして、くるりと背を向ける。


「でも、覚えておいて。あなたみたいに、妙な腕を持った子は、すぐに、嫌でも目立つことになる。――この国の、ドラゴンの世界は、そんなに甘くないから」


 その言葉を残して、少女は、青いドラゴンとともに、ダンジョンの奥へと消えていった。


 ……なんだ、あいつ。


 でも、ひとつだけ、はっきりした。

 俺とタマのことは、もう、完全な秘密じゃ、いられないかもしれない。


 世界が、少しずつ、こっちに気づき始めてる。


 その夜。

 俺は、布団の中で、あの少女の言葉を、思い出していた。


 ――この国の、ドラゴンの世界は、そんなに甘くない。


 タマが、俺の枕元で、丸くなる。

 ヒノは、その隣で、もう寝息を立てていた。


 守らなきゃな。こいつらも。家族も。


 まだ見ぬ"甘くない世界"に向けて。

 俺は、静かに、覚悟を決め始めていた。



───────


【あとがき】


 第七話、読んでくれてありがとうございます!


 ヒノの初実戦!

 タマがかばって、隙を作って、ヒノが炎で仕留める。

 二匹の息がぴったり合った瞬間は、書いてて楽しかったです。


 やんちゃなヒノと、それを見守るタマ。

 この凸凹コンビ、これからもっと活躍します。


 そして、現れた謎の少女と、ランクAのドラゴン。

 彼女は、敵? 味方? ……それは、これから。



 ▼次回予告

 少女の言葉どおり、ソウマたちに、大きな転機が。

 平穏だった日々が、動き出す――!



 「続きが気になる」と思ってもらえたら、

 ★評価・ブックマークで応援してもらえると、すごく励みになります!


 次回、物語が大きく動きます。お楽しみに!


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