第6話 二匹目は、暴れん坊
朝、目が覚めて、いちばんに思った。
卵は、どうなった?
がばっと起き上がって、布団の横を見る。
赤い卵は――昨日のまま、そこにあった。
でも、なんか、違う。
昨日より、殻が、熱を持ってる気がする。表面に、うっすら、光の筋が走ってた。
タマは、まだ卵にくっついて寝ている。
俺が起きた気配で、片目だけ、薄く開けた。
「キュ……」
おはよう、みたいな鳴き声。
……お前、ほんと、朝に弱いよな。
ステータスを、覗いてみる。
卵(孵化間近)
予測種族:ファイアリザード系
資質ランク D
「孵化、間近……!」
その瞬間だった。
ピシッ。
卵に、ヒビが入った。
「来た!」
俺は、思わず、卵に顔を近づけた。
タマも、むくっと起きて、卵をのぞきこむ。
ピシ、ピシッ、ピシピシッ。
ヒビが、どんどん広がって――
パカッ!
殻が、勢いよく弾けた。
中から、ぴょこんと飛び出してきたのは――
小さな、赤いトカゲみたいなドラゴン。
ファイアリザードに、似てる。でも、ちょっと違う。背中の炎が、タマの子だからか、なんだか温かそうな、優しい色をしてた。
「キュキュッ!」
生まれたばかりのそいつは、いきなり、元気よく鳴いた。
そして――タマを見るなり、ぴょん、と飛びついた。
「キュアアッ!」
ぐりぐり、と、タマに頭をこすりつける。
甘えてる。完全に、親だと思ってる。
「キュ……」
タマは、ちょっと迷惑そうだった。
でも、振り払いはしない。されるがままに、頭をこすりつけられてる。
……なんだ、こいつら。かわいいな。
ステータスを、確認する。
【名前なし】 資質ランク D
レベル1
HP 22 / MP 18
筋力11 敏捷9 精神13 体力10 運8
スキル:火炎の吐息
「お……スキル、持ちか」
生まれたてで、もうスキルがある。
【火炎の吐息】。たぶん、炎のブレスだ。
タマが体当たり特化の物理型だったのに対して、こいつは――魔法型、ってとこか。
MP18は、レベル1にしちゃ高い。精神も13ある。
なるほど。タマとは、タイプが違う。
いいぞ。役割が分かれてると、戦術の幅が出る。
生まれたばかりのドラゴンは、俺の足元を、ちょこちょこ走り回っていた。
とにかく、元気。じっとしてない。
そして、ふと、足を止めると――
ボッ。
いきなり、口から小さな火を吐いた。
「うおっ!?」
あぶな。畳が、焦げるとこだった。
「キュキュッ♪」
本人は、楽しそう。自分の力が、嬉しくてしょうがないって感じだ。
……こいつ、やんちゃだな。
タマがぐうたらマイペースなら、こっちは、暴れん坊だ。
「名前、つけてやらないとな」
赤くて、火を吐いて、元気いっぱい。
タマのときは「卵を産むからタマ」って安直につけたけど、今回は……。
「赤いから……アカ、は安直すぎるか」
「キュ?」
そいつが、首をかしげて、俺を見上げる。
その瞳が、ちろちろ燃える火みたいに、きらきらしてた。
「……火、か。よし。お前は、『ヒノ』だ」
「キュアッ!」
ヒノ、と呼ぶと、そいつは嬉しそうに跳ねた。
気に入ったらしい。タマと違って、素直なやつだ。
「タマ、ヒノ。これで、二匹。……いや」
俺は、二匹を見て、にやりと笑った。
「これで、軍団の、はじまりだ」
その光景を、いつのまにか、じいちゃんが入り口から見ていた。
「……賑やかになったな、この家も」
じいちゃんの声は、どこか、嬉しそうだった。
長いこと、客もドラゴンもいなかったこの家に、今、二匹のドラゴンがいる。
「じいちゃん。ヒノの育て方、また教えてくれよ。こいつ、タマと違って魔法型っぽいんだ」
「ああ。任せとけ」
じいちゃんが、久しぶりに、はりきった顔をした。
その顔を見れただけでも、なんか、よかったなって思う。
ただ――そのとき。
廊下の角に、ひなたが立っていた。
いつから、見てたんだろう。
ヒノが火を吐いたのも、俺が名前をつけたのも、ぜんぶ。
ひなたは、二匹のドラゴンを、じっと見ていた。
その表情は、いつもの冷たいものとは、ちょっと違った。
驚き? それとも――
でも、俺と目が合った瞬間、ひなたは、ぷいっと顔をそむけた。
「……朝ごはん、できてるから」
それだけ言って、さっと行ってしまった。
いつもの、冷たい態度。
でも、ほんの一瞬。
ヒノを見るその目に、何か、ゆれたものがあった気がした。
……気のせい、かもな。
でも、俺は、ちょっとだけ、嬉しかった。
待ってろ、ひなた。
この賑やかさが、いつか、お前の心も溶かすから。
タマとヒノを連れて、俺は、台所へ向かった。
あったかい、朝の匂いがした。
───────
【あとがき】
第六話、読んでくれてありがとうございます!
ついに二匹目、ヒノが誕生!
ぐうたらマイペースのタマと、やんちゃ暴れん坊のヒノ。
タイプが正反対の二匹、これから賑やかになります。
そして、ヒノを見たひなたの、ほんの一瞬の表情。
彼女の心も、少しずつ……。
▼次回予告
二匹になった軍団。
いよいよ、ヒノの初めての実戦……の前に。
ソウマたちに、ある転機が訪れます。
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次回も、賑やかにお届けします!




