第5話 はじめての、家族
次の日。
俺とタマは、また三ツ岩窟に潜った。
目的は、ひとつ。
タマを、レベル5にする。産卵を、解禁する。
ファイアリザードを狩り、虫型を狩り。
タマの一撃離脱は、昨日よりキレが増していた。タンッ、と地を蹴って、ドガッと当てて、すっと引く。もう、危なげない。
そして、何匹目かを倒したとき。
タマの体が、いつもより強く、光った。
【タマ】 レベル 4 → 5
「……来た」
俺は、ごくり、と唾を飲んだ。
レベル5。産卵、解禁レベル。
念じて、ステータスを開く。
さっきまで「レベル5で解禁」とグレーになってた【産卵】の文字が――
はっきりと、白く、光っていた。
スキル:産卵 【使用可能】
「……使える。使えるぞ、タマ!」
「キュ?」
タマは、よく分かってない顔で、首をかしげた。
こいつ、自分がとんでもない力を持ってること、まだ自覚してないんだよな。
「やってみよう。産卵、発動だ」
俺は、しゃがんで、タマと目を合わせた。
どうやって発動させるんだろう。念じればいいのか? 命令すればいいのか?
迷ってると――タマのほうが、先に動いた。
タマが、ちょこんとお座りして、目を閉じる。
体が、ぽうっと、淡い光に包まれた。
そして。
ぽとん、と。
タマのお腹の下に、小さな卵が、ひとつ転がり出た。
「……マジか」
ほんとに、産んだ。
手のひらに乗るサイズの、ちっちゃな卵。
でも、よく見ると――その殻は、ほんのり、赤い。
まるで、内側に火を抱いてるみたいに。
俺は、はっとした。
すぐ、卵のステータスを覗く。
卵(孵化前)
予測種族:ファイアリザード系
資質ランク D
「……ファイアリザード」
ここで、何匹も狩った、あのモンスター。
その卵が、生まれた。
頭の中で、点と点が、繋がっていく。
そうか。タマが産む卵は――何でもいいわけじゃない。
タマが、どこで、何と戦ったか。何を経験したか。
それによって、生まれる卵が、変わるんだ。
炎の中で戦えば、炎の卵。
古い遺跡に潜れば、古い種の卵。
……これ、とんでもないぞ。
行く場所、戦う相手を選べば――欲しいドラゴンを、狙って産ませられる。
前世のゲームでいう、厳選ってやつだ。それを、現実で、無限に。
ぞくっとした。これは、ヤバい。ヤバすぎる。
でも――と、そこで気づく。
タマの様子が、おかしい。
「キュ……」
さっきまで元気だったタマが、ぺたん、と地面に伏せていた。
肩で、息をしてる。
あわてて、ステータスを見る。
【タマ】 レベル5
HP 40 → 12
「……HP、減ってる!?」
戦ってもいないのに。
産卵で、HPがごっそり持っていかれてた。四十あったのが、十二まで。
なるほど。
卵を産むのは、タダじゃない。タマの体力を、削るんだ。
……そうだよな。そんな都合よく、無限に産めるわけがない。
一匹産むだけで、これだけ消耗する。だったら、軍団を作るのは、簡単じゃない。一匹一匹が、タマの命を削って生まれてくる。
しかも、だ。
ステータスの【産卵】の文字が、また、グレーに戻っていた。
スキル:産卵 【次に産めるまで:数日】
「……一回産んだら、しばらく産めないのか」
なるほどな。連発はできない。
体力だけの問題じゃない。タマの体が、次の命を宿す準備をするのに、時間がいる。
……そりゃそうだ。命を生むって、そういうことだよな。
ゲームの厳選みたいに、ぽんぽん産ませて当たりを引く、なんて甘い話じゃない。
一個一個が、本番だ。
「無理させたな、タマ。今日は、もう休め」
俺は、ぐったりしたタマを、そっと抱き上げた。
ちっちゃい体が、いつもより熱い。がんばったんだな、こいつ。
「キュ……」
タマは、弱々しく鳴いて、俺の腕の中で、目を閉じた。
俺は、もう片方の手で、生まれたばかりの赤い卵を、大事に包んだ。
タマが、命を削って産んだ、一個目。
ぜったいに、無駄にはしない。
家に帰ると、じいちゃんが、目を丸くした。
「ソウマ。その卵は……どうした」
「タマが、産んだ」
「……産んだ?」
じいちゃんは、しばらく、固まっていた。
それから、ゆっくりと、その赤い卵に手を伸ばす。
節くれだった指が、そっと殻に触れた瞬間――
じいちゃんの目の色が、変わった。
「……生きとる。ちゃんと、命が宿っとる」
その声は、少し、震えていた。
「ソウマ。お前のドラゴンは……卵を、産むのか」
「ああ。レベルが上がれば、また産める。ただ、一回産むと体力をごっそり持っていかれて、しばらくは産めないみたいだけど」
「……そうか」
じいちゃんは、卵を見つめたまま、ぽつりと言った。
「ブリーダーってのはな。本来、卵を育てて、新しい命を世に出す仕事だ。だが、今のうちには、その"卵"がなかった。だから、店も畳むしかなかった」
じいちゃんが、顔を上げる。
その目は――潤んでいた。
「お前のドラゴンは。うちに、もう一度、命を連れてきてくれた」
俺は、何も言えなかった。
ただ、腕の中のタマを、ぎゅっと抱きしめた。
お前、すごいやつだな。
ハズレなんて、誰が言った。
お前は――この家に、もう一度、希望を産んでくれたんだ。
その夜。
俺は、赤い卵を、布団の横に置いて寝た。
タマは、その卵にぴったりくっついて、まるで温めるみたいに、丸くなってる。
明日には、孵るだろうか。
タマの、初めての子。俺たちの、二匹目。
軍団の、ほんとうの第一歩が、ここから始まる。
ふすま一枚向こうで、ひなたの部屋の灯りは、まだ点いていた。
……あいつには、まだ言ってない。
タマが、卵を産んだことも。この家が、変わり始めてることも。
でも、いつか。
この赤い卵が孵って、その次が生まれて、もっともっと増えて。
空を埋めるくらいの軍団になったとき。
あいつは、どんな顔をするかな。
ちょっとだけ、楽しみだった。
───────
【あとがき】
第五話、読んでくれてありがとうございます!
ついに、産卵解禁! タマの初めての卵。
しかも、戦った相手の卵が生まれる――
"経験で生まれる卵が変わる"。これが、ソウマの軍団が世界で唯一になる理由です。
でも、産卵はタダじゃない。タマのHPをごっそり削ります。
一匹一匹が、タマの命がけ。だからこそ、重い。
▼次回予告
いよいよ、赤い卵が孵化!
タマの"子"は、どんなドラゴン?
二匹目の仲間が、ついに登場します!
「続きが気になる」と思ってもらえたら、
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次回、軍団に新メンバー加入です。お楽しみに!




