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『ハズレ竜タマは、軍団を産む。』  作者: akaike


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5/20

第5話 はじめての、家族

 次の日。

 俺とタマは、また三ツ岩窟に潜った。


 目的は、ひとつ。

 タマを、レベル5にする。産卵を、解禁する。


 ファイアリザードを狩り、虫型を狩り。

 タマの一撃離脱は、昨日よりキレが増していた。タンッ、と地を蹴って、ドガッと当てて、すっと引く。もう、危なげない。


 そして、何匹目かを倒したとき。


 タマの体が、いつもより強く、光った。


  【タマ】 レベル 4 → 5


「……来た」


 俺は、ごくり、と唾を飲んだ。

 レベル5。産卵、解禁レベル。


 念じて、ステータスを開く。

 さっきまで「レベル5で解禁」とグレーになってた【産卵】の文字が――


 はっきりと、白く、光っていた。


  スキル:産卵 【使用可能】


「……使える。使えるぞ、タマ!」


「キュ?」


 タマは、よく分かってない顔で、首をかしげた。

 こいつ、自分がとんでもない力を持ってること、まだ自覚してないんだよな。


「やってみよう。産卵、発動だ」


 俺は、しゃがんで、タマと目を合わせた。

 どうやって発動させるんだろう。念じればいいのか? 命令すればいいのか?


 迷ってると――タマのほうが、先に動いた。


 タマが、ちょこんとお座りして、目を閉じる。

 体が、ぽうっと、淡い光に包まれた。


 そして。


 ぽとん、と。


 タマのお腹の下に、小さな卵が、ひとつ転がり出た。


「……マジか」


 ほんとに、産んだ。

 手のひらに乗るサイズの、ちっちゃな卵。

 でも、よく見ると――その殻は、ほんのり、赤い。

 まるで、内側に火を抱いてるみたいに。


 俺は、はっとした。

 すぐ、卵のステータスを覗く。


  卵(孵化前)

  予測種族:ファイアリザード系

  資質ランク D


「……ファイアリザード」


 ここで、何匹も狩った、あのモンスター。

 その卵が、生まれた。


 頭の中で、点と点が、繋がっていく。


 そうか。タマが産む卵は――何でもいいわけじゃない。

 タマが、どこで、何と戦ったか。何を経験したか。

 それによって、生まれる卵が、変わるんだ。


 炎の中で戦えば、炎の卵。

 古い遺跡に潜れば、古い種の卵。


 ……これ、とんでもないぞ。

 行く場所、戦う相手を選べば――欲しいドラゴンを、狙って産ませられる。

 前世のゲームでいう、厳選ってやつだ。それを、現実で、無限に。


 ぞくっとした。これは、ヤバい。ヤバすぎる。


 でも――と、そこで気づく。

 タマの様子が、おかしい。


「キュ……」


 さっきまで元気だったタマが、ぺたん、と地面に伏せていた。

 肩で、息をしてる。


 あわてて、ステータスを見る。


  【タマ】 レベル5

  HP 40 → 12


「……HP、減ってる!?」


 戦ってもいないのに。

 産卵で、HPがごっそり持っていかれてた。四十あったのが、十二まで。


 なるほど。

 卵を産むのは、タダじゃない。タマの体力を、削るんだ。


 ……そうだよな。そんな都合よく、無限に産めるわけがない。

 一匹産むだけで、これだけ消耗する。だったら、軍団を作るのは、簡単じゃない。一匹一匹が、タマの命を削って生まれてくる。


 しかも、だ。

 ステータスの【産卵】の文字が、また、グレーに戻っていた。


  スキル:産卵 【次に産めるまで:数日】


「……一回産んだら、しばらく産めないのか」


 なるほどな。連発はできない。

 体力だけの問題じゃない。タマの体が、次の命を宿す準備をするのに、時間がいる。

 ……そりゃそうだ。命を生むって、そういうことだよな。


 ゲームの厳選みたいに、ぽんぽん産ませて当たりを引く、なんて甘い話じゃない。

 一個一個が、本番だ。


「無理させたな、タマ。今日は、もう休め」


 俺は、ぐったりしたタマを、そっと抱き上げた。

 ちっちゃい体が、いつもより熱い。がんばったんだな、こいつ。


「キュ……」


 タマは、弱々しく鳴いて、俺の腕の中で、目を閉じた。


 俺は、もう片方の手で、生まれたばかりの赤い卵を、大事に包んだ。


 タマが、命を削って産んだ、一個目。

 ぜったいに、無駄にはしない。


 家に帰ると、じいちゃんが、目を丸くした。


「ソウマ。その卵は……どうした」

「タマが、産んだ」

「……産んだ?」


 じいちゃんは、しばらく、固まっていた。

 それから、ゆっくりと、その赤い卵に手を伸ばす。


 節くれだった指が、そっと殻に触れた瞬間――


 じいちゃんの目の色が、変わった。


「……生きとる。ちゃんと、命が宿っとる」


 その声は、少し、震えていた。


「ソウマ。お前のドラゴンは……卵を、産むのか」

「ああ。レベルが上がれば、また産める。ただ、一回産むと体力をごっそり持っていかれて、しばらくは産めないみたいだけど」

「……そうか」


 じいちゃんは、卵を見つめたまま、ぽつりと言った。


「ブリーダーってのはな。本来、卵を育てて、新しい命を世に出す仕事だ。だが、今のうちには、その"卵"がなかった。だから、店も畳むしかなかった」


 じいちゃんが、顔を上げる。

 その目は――潤んでいた。


「お前のドラゴンは。うちに、もう一度、命を連れてきてくれた」


 俺は、何も言えなかった。

 ただ、腕の中のタマを、ぎゅっと抱きしめた。


 お前、すごいやつだな。

 ハズレなんて、誰が言った。

 お前は――この家に、もう一度、希望を産んでくれたんだ。


 その夜。

 俺は、赤い卵を、布団の横に置いて寝た。

 タマは、その卵にぴったりくっついて、まるで温めるみたいに、丸くなってる。


 明日には、孵るだろうか。

 タマの、初めての子。俺たちの、二匹目。


 軍団の、ほんとうの第一歩が、ここから始まる。


 ふすま一枚向こうで、ひなたの部屋の灯りは、まだ点いていた。

 ……あいつには、まだ言ってない。

 タマが、卵を産んだことも。この家が、変わり始めてることも。


 でも、いつか。

 この赤い卵が孵って、その次が生まれて、もっともっと増えて。

 空を埋めるくらいの軍団になったとき。


 あいつは、どんな顔をするかな。


 ちょっとだけ、楽しみだった。



───────


【あとがき】


 第五話、読んでくれてありがとうございます!


 ついに、産卵解禁! タマの初めての卵。

 しかも、戦った相手ファイアリザードの卵が生まれる――

 "経験で生まれる卵が変わる"。これが、ソウマの軍団が世界で唯一になる理由です。


 でも、産卵はタダじゃない。タマのHPをごっそり削ります。

 一匹一匹が、タマの命がけ。だからこそ、重い。



 ▼次回予告

 いよいよ、赤い卵が孵化!

 タマの"子"は、どんなドラゴン?

 二匹目の仲間が、ついに登場します!



 「続きが気になる」と思ってもらえたら、

 ★評価・ブックマークで応援してもらえると、すごく励みになります!


 次回、軍団に新メンバー加入です。お楽しみに!


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