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『ハズレ竜タマは、軍団を産む。』  作者: tatsuya akaike


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第68話 写しの軍団

 六つの影が、焚き火の灯りの前に並んだ。


 背に岩の尖塔をのせた竜。

 羽先に火花を散らす雷の竜。

 しなやかな水の竜。

 頭に花を咲かせた草の竜。

 陽炎をまとう紅い竜。


 どれも、俺の五匹と同じ姿をしていた。

 ただ、全身が墨で塗ったように黒い。

 目のあるはずの場所だけが、赤く光っている。


 灰色の六つ目は、ずっと後ろに下がったまま動かない。

 じっと、こちらを見ているだけだ。


 俺は前の五つを視た。


  ――――――――

  写しのヒノ Lv48

  属性:炎

  技:紅蓮の吐息

  ――――――――


 数字が、同じだ。

 レベルも技も、隣でうなる本物のヒノと一つも違わない。

 ほかの四つも、全部そうだった。


 『オマエノ、カタチ。……モラッタ』


「ソウマ、あれは」


 父さんが立ち上がろうとして、黒い腕を押さえた。

 ツキは灯りを保つので精一杯だ。

 戦えるのは、俺と五匹だけ。


「全員、構えろ!」


 写しのゴロが、地面を踏んだ。


 ゴゴゴゴッ!


 岩のドームがせり上がる。

 同時に、本物のゴロもドームを張った。

 二つの岩の要塞が、灯りの前で向かいあう。


「ソラ! 上から回りこめ!」


 ピィイィッ!


 雷光の翼が走る。

 その正面に、黒い雷光の翼が飛びこんできた。


 バヂヂヂッ!


 刃と刃がぶつかり、火花が夜を裂く。

 どちらも弾かれて、宙で体勢を崩した。

 速さも重さも、まったく互角だ。


「ヒノ、紅蓮!」


 キュキュアアッ!


 ゴオオッ!

 紅い線が、写しのドームへ突き刺さる。

 でも岩は溶けない。

 炎は、土岩に通りにくい。

 わかっていたことだ。本物のゴロを相手にしているのと同じなんだから。


 黒い茨が、地を這ってきた。

 写しのメイだ。

 狙いはナギ。草は水に強い。


「ナギ、下がれ!」


 コポッ!


 遅い。茨がナギの尾に巻きついた。

 さらに写しのナギが、黒い水をヒノに浴びせる。

 ジュウッ。

 ヒノの炎が一気にしぼんだ。


 相性の悪い相手を、正確に選んでくる。

 俺が一番よく知っている、俺の軍団の弱点を。


 押される。

 ドームの外側が削られ、灯りの輪が一歩ぶん縮んだ。


 同じ強さの相手に、同じ技。

 どこで差をつければいい。


 考えろ。視ろ。


 本物のヒノが黒い水に打たれて膝をつく。

 すぐにナギが、茨を振りほどきながら慈雨を降らせた。

 ヒノの炎が戻る。


 その向こう。

 写しのヒノも、本物のソラの雷を浴びてよろけていた。


 写しのナギは、動かない。

 隣の仲間が倒れかけているのに、目もくれない。

 ただ、自分の前の本物のヒノだけを狙い続けている。


 写しのヒノが、ようやく炎を吐いた。

 その炎が、写しのメイの茨をまとめて焼いた。

 写しのメイは、自分の茨が燃えても気にしない。

 燃え残りで、また本物のナギを狙う。


 俺はもう一度、写しを視た。

 今度は、数字の一番下まで。


  ――――――――

  写しのヒノ Lv48

  星の欠片:なし

  絆:なし

  ――――――――


 絆の欄に、何も書かれていない。


 本物の五匹なら、ここには何かがある。

 数字にはならない何かで、ちゃんと埋まっている。

 あいつらは、形と数字だけを写した。

 隣の仲間を見る目までは、写せなかった。


 一匹ずつは、強い。

 でも、補い合わない。


 そして、もう一つ見えた。

 本物の欠片があるのと同じ、胸の奥。

 写しはそこに、赤黒い核を抱えている。


「わかった。あいつらは、ひとりぼっちの五匹だ」


 五匹の耳が、いっせいにこっちを向いた。


「こっちは五匹で一つだ。いつもどおりにやる」


 グモッ。ピィ。コポ。ふよ。キュア。


「ナギ! 写しのヒノの炎を消せ!」


 コポポッ!


 ナギの水の膜が、写しのヒノを頭から包んだ。

 黒い炎が、湯気になって消える。

 水は炎に強い。相性が、今度はこっちの味方だ。


「メイ! 写しのゴロを縛れ! 茨の檻だ!」


 ふよぉぉっ!


 棘の蔦が写しのドームに巻きつく。

 草は岩に強い。

 ドームにひびが走り、写しのゴロの胸がむき出しになった。


「ソラ! ヒノ! 胸の核だけを撃て!」


 ピィイィッ!

 キュキュアアッ!


 バヂィッ!

 ゴオッ!


 雷が写しのゴロの核を抜く。

 炎が写しのヒノの核を焼く。

 二つの黒い体が、砂になって崩れた。


 残る写しは三つ。

 写しのソラが、ヒノの背中へ急降下してくる。


「ゴロ!」


 グモォォン!


 本物のゴロが、ヒノの上に岩の屋根を張った。

 黒い雷が屋根に落ちる。

 バチッ。

 雷は岩を伝い、地面へ抜けていった。

 岩は雷を逃がす。何も効かない。


 動きの止まった写しのソラへ。


「ヒノ!」


 ゴオオッ!


 黒い翼が燃え落ちる。


 写しのメイが、まだナギに茨を伸ばしていた。

 仲間が消えたことに気づいてもいない。


 ヒノが割りこむ。

 炎は草に強い。

 ひと吹きで茨ごと、黒い花の竜が燃えた。


 最後に残った写しのナギへ、ソラが真上から落ちる。


「サンダー・ダイブ!」


 ピィイィイィッ!


 バチイィィッ!


 雷は水に強い。

 黒い水の竜が、ゆっくりと形を崩していく。

 首から。

 背びれから。

 尾の先まで。


 静かになった。


 五匹が、息を荒くしたまま顔を見合わせる。

 ヒノがナギに鼻をこすりつけ、メイがゴロの背によじのぼった。

 ソラは得意げに一回転してから、ヒノの頭をぺしっとはたいた。


  ――――――――

  ヒノ Lv48 → 49

  ゴロ Lv58 → 60

  ソラ Lv66 → 67

  ナギ Lv42 → 44

  メイ Lv42 → 44

  ――――――――


「同じ強さの相手に、あの崩し方か」


 父さんがつぶやいた。


「一匹ずつ比べれば、互角だった。なのにお前の五匹は、互いの弱いところを別の一匹で埋めている」


「それしか、やり方を知らないんだ」


「それができる者が、どれだけ少ないと思っている」


 父さんが、かすかに笑った。


 その笑みが、途中で止まった。


 焚き火の灯りの向こう。

 ずっと動かなかった最後の影が、灯りの縁まで進んでいた。


 灰色だった。

 ほかの写しと違って、黒くない。

 まん丸の目。見慣れた丸い体。

 ただ、タマよりずっと大きい。


 でも、その首には何もない。

 あるはずの、あの古い首輪が。


 写しのタマが、ゆっくりと目を開ける。

 その目が、血の色に光っていた。



───────


【あとがき】


 第六十八話、読んでくれてありがとうございます。


 写しの軍団は、数字も技も本物と同じでした。ただ一つ写せなかったのが、隣の仲間を見る目です。ナギが消し、メイが縛り、ソラとヒノが撃つ。ゴロが雷を受け、ヒノが茨を焼き、ソラが水を裂く。相性で押された戦いを、相性で押し返す回にしたかったんです。


 そして最後に残った、首輪のない灰色の竜。


 次回、あの赤い目の竜と向き合います。



================



第69話 首輪のない竜


 灰色の竜が一歩、前へ出た。

 それだけで黒い大地が波打つ。


 首輪がない。

 タマの首にいつもある、あの古い首輪が。

 代わりに首の付け根で、赤黒い光が脈打っている。


 体はタマよりふた回り大きい。

 背中には星のような光の粒。

 そして目。

 まん丸のはずの目が、血の色に光っていた。


「……タマ?」


 口が勝手に動いた。

 わかっている。あれは写しだ。

 さっき倒した写しの軍団と同じ、“別のもの”の偽物。

 なのに胸の奥がざわつく。


 俺は視た。


  ――――――――

  写しのタマ

  属性:無

  資質:計測不能

  運:∞

  首輪:なし

  ――――――――


 運、無限。

 見せつけたいのはこれか。

 首輪を外し、こらえるのをやめたタマ。

 “別のもの”が本物にさせたい姿だ。


「来るぞ! ゴロ、前へ!」


 グモォォン!


 ゴロが地を踏む。岩の壁がせり上がる。

 写しのタマは、ちらりと目を向けただけ。


 壁が砂になった。


 崩れたんじゃない。

 最初から砂だったみたいに、さらさらと流れ落ちていく。


「書き換え……!」


 灰色の尾が振られる。

 ドゴォッ!

 ゴロの巨体が宙を舞い、背中から地面をえぐった。

 起き上がれない。


「ソラ、雷光の翼!」


 ピィイィッ!


 雷をまとったソラが突っこむ。

 バヂイィッ!

 当たった、はずだった。

 刃の先で、写しの体が半歩ずれている。

 いや、ずれたのは世界の方だ。


 ヒノの炎が逸れる。

 ナギの水が湯気になって消える。

 メイの蔦は触れる前に灰色の糸になり、ぷつりと切れた。


 一匹、また一匹。

 五匹が弾き飛ばされていく。


「ソウマ、下がれ……!」


 父さんが叫ぶ。

 でも立てない。黒く揺らぐ腕を押さえ、膝をついたままだ。

 ツキも低く唸るだけ。

 結界を保つので精一杯なんだ。


 写しのタマが、俺を見た。

 赤い目。

 足が動かない。息が浅くなる。


 ――これが、タマの本当の力なのか。

 首輪を外せば、あいつはこうなるのか。

 俺が守ってきたのは、こんな化け物の眠りだったのか。


 膝が折れかけた。

 そのとき背中に、柔らかいものが触れる。


 メイだった。

 蔦を焼かれ、泥だらけで。

 それでも頭で俺の背中を押している。


 ふよぉ。


 立って。

 そう言われた気がした。


 メイは生まれた日、タマの首輪をじっと見ていた。

 こいつらは知っている。

 自分たちを産んだ竜が、どんな顔をしているか。


 俺はもう一度、写しの目を見た。


 違う。


 タマはこんな目をしない。

 まん丸で、ぐうたらで、腹が減るとすぐ拗ねる目。

 それでも危ないときほど、じっとこらえる目だ。


 鷹宮と戦ったあの日。

 首輪が軋み、世界が歪んで。

 それでもあいつは戻ってきた。

 自分でこらえて、俺のところへ。


 首輪は父さんとの約束だ。

 でもそれだけじゃない。

 タマが自分で選んで、こらえてきた証なんだ。


「お前はタマじゃない」


 声が出た。震えは止まっていた。


「タマは、こらえる竜だ。お前には、それがない」


 赤い目が、わずかに細くなる。


 落ち着け。視ろ。

 写しの軍団と同じだ。どんなに強くても、ひとりきり。

 なら穴はある。


 書き換えの直前、必ず赤い目がそちらを向く。

 壁も、ソラも、炎も。

 あいつは視たものしか書き換えていない。


 そして首の付け根。

 首輪があるはずの場所で、赤黒い点が脈打っている。


  ――核:首の付け根――


「全員聞け! 目を潰して、首を縛って、そこを撃つ!」


 グモッ。コポ。ピィッ。キュア。ふよ。

 五つの声が返ってくる。


「ナギ、慈雨! そのまま霧!」


 コポポ……!


 やさしい雨が降る。

 五匹の傷が洗われていく。

 続けてナギが白い霧を吐いた。

 濃い霧が写しの顔を包み、赤い目がぐるりと泳ぐ。


「ゴロ、グランド・ドーム! あいつを閉じこめろ!」


 グモォォォン!


 岩の天井がせり上がる。

 今日は仲間を守るためじゃない。

 写しを囲う、岩の檻だ。

 天辺に一つだけ、穴を残して。


「メイ、茨の檻! 首だけでいい!」


 ふよぉっ!


 穴から棘の蔦がなだれ込む。

 巻きつく。締まる。

 写しが暴れ、ドームが軋む。

 ゴロが歯を食いしばり、内側から押し返してくる力に耐えた。


「ソラ、道を開けろ!」


 ピィイィッ!


 ソラが急降下する。

 雷の刃が穴の縁を削り、大きく広げる。

 霧が割れた。

 蔦の隙間から、首の付け根がのぞく。


「ヒノ」


 ヒノが俺を見る。

 二匹目。いちばん長い付き合いの、やんちゃな炎竜。


「――紅蓮の吐息」


 キュアアアッ!


 細く、細く絞った炎。

 一本の紅い線。


 霧を貫く。

 蔦の隙間を抜ける。

 首の付け根の、赤黒い一点へ。


 ジュッ――。


 小さな音だった。


 写しのタマが動きを止める。

 赤い目から、光が抜けていく。

 灰色の体がひび割れ、黒い砂になって崩れ落ちた。


 静寂。


 ヒノが振り返り、キュキュと得意げに鼻を鳴らす。


  ――――――――

  ヒノ Lv49 → 50(上限)

  ゴロ Lv60 → 61

  ソラ Lv67 → 68

  ナギ Lv44 → 45

  メイ Lv44 → 45

  ――――――――


 ヒノ、上限到達。

 D生まれの炎竜が、ここまで来た。

 もうレベルは伸びない。

 それでもこいつは、今日いちばんの仕事をした。


「偽物とはいえ、星を相手に一匹も欠けずに……」


 父さんが、かすれた声でつぶやく。


「見事だ、ソウマ」


 俺は首を振った。

 見抜けたのは、タマの顔を知っていたからだ。

 六匹で過ごした毎日が、偽物を偽物だと教えてくれた。


 そのとき。

 頭の奥に、扉の向こうが映った。

 共鳴だ。タマとつながる糸が、景色を運んでくる。


 現世。境目の縁。

 扉を保ち続ける、小さな灰色の背中。

 その首で、首輪が大きく軋んだ。


 ぎしり。


  ――――――――

  タマ Lv46

  スキル:産卵/???

  ――――――――


 閉じたままの「???」が、うっすらと光りはじめていた。



───────


【あとがき】


 第六十九話、読んでくれてありがとうございます。


 首輪のない、赤い目のタマ。“別のもの”が本物にさせたい姿です。書いていて、いちばん見たくないタマでした。


 それでもソウマは折れませんでした。タマはこらえる竜だと、誰よりも知っているからです。そしてヒノが、ついに上限の50へ。いちばん長い付き合いの一匹に、決めの一撃を任せたかった回です。


 偽物を倒した反動が、現世のタマに届きます。次回は全編、現世側。タマ自身の話です。


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