第60話 星のかけら
星の欠片:あり。
何度まばたきしても、その一行は消えなかった。
ヒノにも、ソラにも、メイにも。
三匹そろって、同じ文字が浮かんでいる。
「父さん。これ、見たことあるか」
ステータスの文字を、指で地面に書いてみせた。
父さんは首を横に振る。
「いや。僕にはそもそも、竜のステータスは見えない」
そうだった。
この目は、俺だけのものだ。
なら、考えるのも俺の仕事だ。
焚き火の前にあぐらをかいて、頭の中を整理する。
星。
世界を書き換える力。
この世界には、タマとツキの二匹しかいないはずのもの。
それが、なぜこの三匹に。
ヒノを見る。
ヒノは赤い卵から生まれた。
その卵を産んだのは、タマだ。
ソラもメイも。
ここにいないゴロとナギも。
全員、タマが産んだ卵から生まれている。
「……そういうことか」
声がこぼれた。
「タマの卵は、直前に戦った相手で中身が変わる。俺はそれを利用して、狙った属性を引いてきた」
「厳選、というやつか。じいさんから聞いたことがある」
「ああ。でも卵そのものは、いつもタマの体から出てくる。タマの力を削って、ひとつの命にしてるんだ」
だから産卵のあと、タマはいつもぐったりしていた。
体力が三割まで落ちて、何日も起き上がれなかった。
あれは、ただの疲れじゃなかったんだ。
「タマは産むたびに、自分の星の力を少しずつ分けてた。子どもたちの中に」
思い返せば、心当たりはいくつもある。
ソラの卵だけ、青白く脈打っていた。
生まれたばかりのメイがじっとタマの首輪を見つめていた。
メイの最初の蔦は、生後三日とは思えないほど強かった。
全部、つながる。
「こいつらは、タマの子だ。だから全員の中に、タマの星のかけらが入ってる」
父さんの手から、枯れ枝がぽとりと落ちた。
「……一匹の星では、足りなかった」
かすれた声だった。
「僕はツキ一匹に、全部を背負わせた。お前は違う。星を六つに分けて、育てていたのか」
「分けたのは、タマだよ。俺は育てただけだ」
「それが、いちばん難しいんだ」
父さんの隣で、ツキがゆっくり首をもたげた。
三匹をじっと見つめる。
まるで、遠い親戚の子に会ったみたいな目で。
ツキが低く、長く鳴いた。
ルゥゥ……。
ヒノが照れたように尻尾を振る。
メイはソラの陰にさっと隠れた。
人見知りは、進化しても相変わらずだ。
「なあ、父さん。星の力なら、あいつの書き換えに抗えるんだよな」
「ああ。同じ力だからな」
「だったら、欠片を束ねればいい」
父さんが顔を上げた。
「タマ本人を呼ばなくても、欠片を重ねれば星の力に近づく。核をこじ開けられるかもしれない」
「理屈はわかる。だが、どうやって束ねる」
「わからない。だから、試す」
俺は三匹を呼んだ。
ヒノとソラとメイを、焚き火の前に並べる。
「三匹とも、鼻先を寄せてくれ。いつもの連携と同じだ。互いの息を感じろ」
キュ。ピィ。ふよ。
三つの鼻先がそっと触れあう。
最初は何も起きなかった。
ヒノがそわそわ動き、ソラがつつき返す。
いつものじゃれあいだ。
「ヒノ、落ち着け。ソラも。メイの息に合わせるんだ」
メイがいちばん静かだ。
そのゆったりした呼吸に、二匹の息がだんだん揃っていく。
ふっ、と。
三匹の胸の奥が、淡く光った。
赤。青白。若葉色。
三つの小さな灯りが互いに引きよせられて重なる。
俺はすぐにそれを視た。
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星の欠片 共鳴率 4%
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たった四パーセント。
それでも、光は確かに一つになりかけていた。
そのとき、結界の外の闇が、びくりと震えた。
地平のずっと向こうで、黒い影が身をよじる。
まるで、刺されたみたいに。
「効いてる。あいつ、嫌がってる」
「……信じられん」
父さんが立ち上がりかけて、よろめいた。
「五年間、あれがあんな反応をしたのは初めてだ」
光がふっと消える。
三匹がそろってへたりこんだ。
ソラの羽がしおれ、ヒノが大きなあくびをする。
「四パーセントで、この疲れか」
三匹ぶんの欠片は、あまりにも小さい。
核をこじ開けるには、足りない。
ゴロとナギが要る。
それでも届くかどうか、わからない。
でも、道は見えた。
タマを呼ばずに勝つ道が。
俺は三匹の頭を、順番に撫でていった。
メイの頭の花が、ぽんと開く。
「よくやった。今のは、お前たちにしかできない」
そう言って顔を上げたとき。
結界の外で、何かが動いた。
闇の地面が、ぼこりと泡立つ。
一つ、二つ、十。
泡の中から、黒いものが這い出してくる。
四つ足の、目のない顔。
父さんの顔から、血の気が引いた。
「……あれは、知らない」
書き換えの力が形を持ちはじめていた。
本体が自分の手下を作りだしたんだ。
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【あとがき】
第六十話、読んでくれてありがとうございます。
「星の欠片」の正体は、タマが産んだ子どもたちの中に分け与えられた、星の力のかけらでした。産卵のたびにぐったりしていたタマ。青白く脈打っていたソラの卵。首輪を見つめていたメイ。ずっと置いてきた小さな違和感が、ここで一本につながります。
一匹に全部を背負わせた父と、六つに分けて育ててきたソウマ。その違いが、タマを呼ばずに戦う道を開きかけています。まだ共鳴率は四パーセント。でも、ゼロじゃない。
ここで六十話の節目です。
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次回、結界を囲む黒い群れとの防衛戦です。




