↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『ハズレ竜タマは、軍団を産む。』  作者: tatsuya akaike


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
54/79

第54話 門を、ひらく者

 断片を退けた、その夜。

 俺たちは、じいちゃんの店に、集まっていた。


 円城寺。榊先生。じいちゃん。

 そして、六匹の、竜たち。


「一つ、はっきりしたことがある」


 俺は、みんなを見回して、言った。


「守ってるだけじゃ、いつか、押し切られる。……こっちから、向こう側へ渡って、源を断つ。父さんを、迎えに行く」


「でも」


 円城寺が、静かに、口をはさんだ。


「境目を開けるには、タマの力が要る。……そのタマを連れて渡れば、あなたは、別のものに、鍵を届けてしまう。堂々巡りよ」


 そう。それが、この作戦の、いちばんの壁だった。

 タマがいないと、扉は開かない。

 でも、タマを連れて行けば、敵の思うつぼ。


 ……ずっと、考えていた。

 この、二つを、両立させる方法を。


 そして今日、断片と戦って、わかった。


「タマを、連れて行かなきゃ、いい」


「……え?」


 全員の視線が、俺に集まる。


「タマは、扉を“開ける”。でも、渡らない。……この世界に、残るんだ」


 俺は、境目の“ステータス”を思い出しながら、続けた。


「あの日、タマの力を小分けにして、扉を押し開けた。あれを、もっと長く、続ければいい。タマは、こっち側で、扉を開けたまま、保つ。……その間に、俺たちだけが、向こうへ渡る」


 円城寺の目が、見開かれた。


「星を、渡さずに……鍵だけ、こちらに置いていく」

 円城寺が、かすかに、微笑んだ。

 でも、その目の奥には、まだ言っていないことがある気がした。


「そうだ。あいつが欲しがってるタマは、ずっと、この世界にいる。あいつの手が、届かないところにな」


 じいちゃんが、低く唸った。


「……理屈は、通る。だが、ソウマ。それは、軍団を、二つに、割るってことだぞ」


 その一言に、俺は口をつぐんだ。

 ……そうなんだ。


 扉を開けて、保ち続ける。そのうえ、狙われるタマを守り抜く。

 それには、こっち側にも、竜の力が要る。

 でも、向こう側で父さんのもとまで戦い抜くにも、竜が要る。


 六匹、全員は、連れて行けない。

 誰かを、残さなきゃ、ならない。


「決めた」


 俺は、竜たちを一匹ずつ見た。


「こっちに残るのは……ゴロと、ナギ」


 ゴロが、ぐるり、と俺を見る。


「ゴロのドームなら、開いた扉を、いちばん安定して保てる。ナギは、タマの力を、宥められる。……この二匹なら、タマを、絶対に守り抜ける」


 グモォ、とゴロが静かに頷いた。

 ナギも、こぷ、と覚悟のこもった声で鳴く。


「向こうへ行くのは、ソラ、ヒノ、そして……メイ」


 メイが、びくっと、身を震わせた。


「向こうは、何が出るか、わからない。上空も、地上も、搦め手も、ぜんぶ要る。……メイ、お前の蔦は、絶対に役に立つ」


「ふ、ふよ……」


 メイは、不安そうだった。

 無理もない。いちばん新しくて、いちばん小さい。

 ……でも。


「だから、その前に、お前を、もっと強くする。渡る前に――メイ、お前を、進化させる」


 メイの頭の花が、ぴくっと揺れた。


「え……ふよ?」


「お前は、もう、上限のレベルまで、育ってる。あとは、進化の素材だけだ。それを、獲りに行く。……お前を、置いていったりは、しない。連れて行くために、強くするんだ」


 メイのつぶらな目が、うるっと潤む。

 それから、小さく、でもはっきりと頷いた。


「ふよっ!」


 ……よし。いい返事だ。


 最後に、俺はタマを抱き上げた。

 いちばん、大事な話が、残っていた。


「タマ。……お前は、こっちに、残るんだ」


「キュ?」


 タマが、きょとんと首をかしげる。


「俺は、向こうへ行く。……お前を、連れて行けない。お前がいちばん、狙われてるからだ」


 タマのまん丸の目が、ゆっくりと俺を見上げた。

 ずっと、生まれたときから、一緒だった。

 初めての、離れ離れだ。


「キュゥ……」


 タマが、俺の指をちいさな前足で、きゅっと握った。

 行かないで、と言うみたいに。

 ……それとも、置いていかないで、と言うみたいに。


 俺は、その頭にそっと、おでこを寄せた。


「必ず、帰ってくる。父さんも、連れて。……だから、ここで、扉を開けて、待っててくれ。お前にしか、できないことだ」


 タマは、しばらくじっと俺を見て。

 それから、覚悟を決めたみたいに、鳴いた。


「……キュルッ!」


 いい声だった。

 こいつは、わかってる。自分の役目を。


「よし。……作戦は、決まった」


 俺は、みんなを、見回した。

 残る者と、渡る者。

 六匹と、俺と、じいちゃんたち。その覚悟が、ここに集まっていた。


「まずは、メイの進化だ。緑の層へ、向かう。……そのあと、俺たちは、向こう側へ渡る」


 その夜、境目の壁の模様は、いつもより速く脈打っていた。

 まるで、急げ、と急かすみたいに。


 残る者が、鍵を守り、扉を保つ。

 渡る者が、その扉をくぐって、源を断つ。

 どっちが欠けても、成り立たない。……これも、軍団の戦いだ。


 ――待ってろ、父さん。

 もうすぐ、俺たちが、そっちへ行く。



───────


【あとがき】


 第五十四話、読んでくれてありがとうございます。


 「タマを連れて渡れば敵に鍵を渡す。でも渡さないと扉が開かない」――この二律背反を、ソウマは“タマは開けて残る/軍団だけが渡る”という工夫で解きました。星を敵の手の届かないこちらに置いたまま、鍵だけを使う。育成と連携の主人公らしい答えです。


 その代償は、軍団を二つに割ること。そして、生まれたときからずっと一緒だったタマを、初めて置いていくこと。ソウマの覚悟が問われる回でした。


 次回、渡る前の最後の準備――メイの進化です。そして、いよいよ向こう側へ。

 続きが気になったら、★とブックマークで応援してもらえると嬉しいです。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。