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『ハズレ竜タマは、軍団を産む。』  作者: tatsuya akaike


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第49話 越えるその日

 三日後。

 昇格戦の、闘技場。


 観客席は、ぎっしり埋まっていた。

 二年首席の鷹宮に、特進のハズレが挑む。

 ……そんな噂が、学園中に広まっていた。


 E組のタケとノノが、いちばん前で、手を振っている。

 榊先生も、腕を組んで、静かに見守っていた。

 そして――理事長席に、円城寺の姿が、あった。


 ……見ててくれ、みんな。

 俺たちが、どこまで来たか。


 フィールドの、向こう側。

 鷹宮が、シルバーホークを従えて、立っていた。


「来たか、天野」


「ああ。……約束、果たしに来た」


「言っておくが」


 鷹宮の声は、静かだった。


「僕は、手加減しない。……お前が、あの化け物の力に頼らないなら、なおさらだ」


「望むところだ」


 俺は、六匹を、前に出した。

 タマ。ヒノ。ゴロ。ソラ。ナギ。そして、メイ。

 ……行くぞ、みんな。俺たちの"かたち"を、見せてやろう。


 合図の、笛が鳴った。


 その、瞬間。

 シルバーホークが、消えた。


 ……速い。

 あの日と、同じだ。輪郭がぶれるほどの、S級の速さ。

 銀の影が、頭上を取って、真上から突っ込んでくる。


 でも――今日の俺たちは、違う。


「ゴロ! グランド・ドーム!」


 グモォォン!!


 ゴロが、地面を踏みしめる。

 岩の壁が、俺たちをぐるりと囲んで。……頭上で、ドーム状に閉じた。


 ガアンッ!


 シルバーホークの一撃が、ドームの天井に弾かれた。

 ……防いだ。

 あの日、俺たちを崩した、"上からの一撃"を。


「……へえ」


 鷹宮の眉が、動いた。

 制空を、封じられて。……初めて、想定が狂った顔だ。


「上が、無理なら。地上で、勝負してもらう」


 俺は、ドームを、開いた。

 シルバーホークが、地を這うように、突っ込んでくる。

 速い。でも、真上からじゃなきゃ対処のしようはある。


「メイ! ナギ! 罠を張れ!」


「ふよぉぉ!」

 コポポ!


 メイの蔦が、地面を這って、罠になる。

 ナギの水が、足場を、濡らして滑らせる。

 さらに、ナギの霧があたりの視界を奪っていく。


 ……速さは、行き先が見えなきゃ、ただの的だ。


 シルバーホークの足が、濡れた地面で、滑る。

 蔦に、行く手を、阻まれる。

 霧の中で、一瞬、動きが止まった。


「ソラ! 今だ!」


 ピィイィッ!


 ソラの、雷光の翼。

 雷をまとったソラが、止まったシルバーホークに、食らいつく。

 バチッ、と雷が、銀の翼を掠めた。


 ……届いた。

 あの日、手も足も出なかった相手に。……俺たちの攻撃が、届いている。


 でも。

 鷹宮は、まだ、笑っていた。


「いい作戦だ。……でも、これで、どうする?」


 シルバーホークが、羽ばたいた。

 濡れた足場ごと、霧ごと、蔦ごと。……力任せに吹き飛ばす。

 S級の、地力。

 その桁違いの一撃が、俺たちの罠をまとめて砕いた。


「メイ!」


 弾き飛ばされた、メイが、地面を転がる。

 ナギの霧も、散らされた。

 ……くそ。やっぱり、地力が、違う。

 小細工だけじゃ、押し切られる。


 シルバーホークが、再び、加速する。

 その速さが、崩れた陣形の隙を突いてくる。


 ――ここで、諦めるのか?


 いや。

 ……違う。俺たちは、独りずつなら、弱い。

 でも、六匹揃えば……穴は、埋められる。


「ゴロ! メイを、庇え! ナギ! 慈雨だ!」


 グモォォン!


 ゴロが、その巨体で、倒れたメイの前に立ちはだかる。

 シルバーホークの一撃を、要塞の背中で、受け止めた。


 そして、ナギが、宙を仰ぐ。


 コポポ!


 やさしい雨が、フィールドに、降り注ぐ。

 【慈雨】。

 メイの傷が、ソラの疲れが。……すう、と癒えていく。

 散らされた霧のかわりに。……今度は、恵みの雨が視界を覆った。


 ……立て直した。

 一匹が崩れても、別の一匹が、支える。

 それが、俺たちの、軍団だ。


 メイが、雨の中で、むくりと起き上がる。

 その目は、もう、怯えていなかった。


「ふよ……ふよぉ!」


 もう一度。

 メイの蔦が、さっきより太く地を這った。


「タマ!」


 俺は、最後の一匹に、呼びかけた。

 覚醒は、使わない。

 いつもの身軽な遊撃で、いい。


 タマが、雨の中を低く駆けた。

 鷹宮の、意識の、外から。

 シルバーホークの足元に滑り込んで――その脚に、体当たりを叩き込む。


 わずかに、体勢が、崩れる。

 その、一瞬に。

 メイの蔦が、脚に、絡んだ。

 ナギの雨で、足場が、滑る。

 ソラが、上空から覆いかぶさって、逃げ場を塞ぐ。


 ……止まった。

 あのS級の速さが。……完全に、止まった。


 この、一瞬のために。

 俺たちは、ぜんぶを、積み上げてきた。


「――ヒノ!!」


 キュキュアアッ!!


 ヒノが、大きく、息を吸い込む。

 紅蓮の炎が、極限まで、絞られて。

 止まったシルバーホークの、一点へ――撃ち込まれた。


 ゴオオオォッ!!


 超高温の、一点集中ブレスが。

 銀の翼を、撃ち抜いた。


 ……鷹宮の、シルバーホークが。

 ゆっくりと、地面に、崩れ落ちた。


 しん、と。

 闘技場が、静まりかえった。


 ……勝った。

 覚醒なんて、なしで。

 六匹、全員の力で。……あの壁を、越えたんだ。


 次の瞬間。

 観客席が、爆発したみたいに、沸いた。


 鷹宮が、膝をついたシルバーホークの隣で。

 しばらく、動かなかった。

 それから、ゆっくりと立ち上がって。……俺のほうを見た。


「……参った」


 その声は、悔しさより、どこか晴れやかだった。


「覚醒なんて、なしで。……お前は、本当に、僕を超えた」


「あんたが、強かったからだ」


 俺は、正直に、言った。


「あんたに、勝つために。俺たちは、ここまで、強くなれた。……ありがとう、鷹宮」


 鷹宮は、少し、目を見開いて。

 それから、ふっと、笑った。


「……礼を言われるとはな。変なやつだ、お前は」


 六匹が、俺の周りに、駆け寄ってくる。

 ヒノも、ソラも、ゴロも、ナギも、メイも。そして、タマも。

 ……よくやった。ほんとに、よくやったな、みんな。


 じいちゃんが、客席で、涙を拭っていた。

 榊先生が、静かに拍手を送ってくれている。

 タケとノノは、飛び跳ねて、叫んでいた。


 ……父さん。

 俺は、あんたの道を、覚醒に頼らずここまで来たよ。

 ハズレの卵、六つで。……学園の頂点を越えたんだ。


 そのとき。

 拍手の中を、ひとり、こちらへ歩いてくる人影があった。


 円城寺だった。


 その顔には、いつもの読めない微笑は、なかった。

 かわりに、あったのは。……どこか泣きそうな、まなざし。


「……とうとう、超えたのね」


 円城寺の声は、静かに、震えていた。


「あなたは、あの人が、届かなかった場所へ。……自分の足で、たどり着いた」


 あの人。……父さん。


「約束、覚えてる? "あの人を超える日"が来たら、全部、話すって」


 円城寺が、俺の目を、まっすぐ見た。


「話しましょう。……あなたの父さんのこと。境目の、向こうのこと。ぜんぶ」


 俺の、鼓動が、速くなる。

 ……ついに。

 父さんへ、繋がる、道が。開こうとしている。


 ……ああ。

 聞かせてくれ、円城寺。

 俺は、もう、逃げない。

 この、六匹と一緒に。……その先へ、進む。



───────


【あとがき】


 第四十九話、読んでくれてありがとうございます。


 ついに、鷹宮戦。そして、勝利です。

 鷹宮はS級=地力では、今でも格上。だから勝てたのは、"生の力"でも、覚醒でもありません。ゴロのドームで制空を封じ、メイの蔦とナギの霧・足場で速さを止め、崩されても慈雨で立て直し、タマの遊撃で作った"静止の一瞬"に、ヒノの紅蓮を通す。第四十八話で組み上げた「六匹のかたち」を、覚醒に頼らず完遂した一戦でした。


 一匹の弱点は、みんなで補える。育てれば、ハズレでも、頂点に届く。この物語のテーマを、いちばん見せたかった回です。


 そして、円城寺が動きます。"あの人を超える日"の約束。次回から、父と境目をめぐる、新しい章が始まります。

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