第46話 岩の要塞
第46話 岩の、要塞
ゴロが、上限のLv50に届いた。
ゴロ Lv50
資質Cの、天井だ。
……次は、ゴロの進化。
俺には、進化させたい明確な理由があった。
あの鷹宮戦。
シルバーホークは、ゴロのグランド・ウォールをあっさり飛び越えて、上から蹴り抜いた。
……壁は、正面には強い。でも、上を取られると脆い。
その弱点を埋めなきゃ、鷹宮には勝てない。
ゴロは、うちの三匹目。
いつも、いちばん前でみんなの盾になってきた。
派手さは、ない。でも、こいつがいたから俺たちは生き延びてこられた。
……そろそろ、こいつにもご褒美をやりたい。
じいちゃんに聞くと、少し考えて言った。
「岩の進化素材か。……岩盤の層だな。だが、そこの主は厄介だぞ」
「厄介、か」
「ああ。……だが、今のお前たちなら、いける。行ってこい」
じいちゃんは、少しだけ笑った。
……信じて、送り出してくれているんだ。
その期待に、ちゃんと応えたい。
岩盤の層は、ダンジョンの岩だらけの最下層だった。
見渡すかぎり、剥き出しの巨大な岩盤。
その中央に、そいつは鎮座していた。
岩窟の王
属性:岩
レベル55
山のように巨大な、岩の巨人。
ゴロと同じ岩属性。……でも、比べものにならない大きさだ。
一歩動くたびに、岩盤が地鳴りを上げる。
振り上げた腕は、うちのゴロの丸ごと三倍はある。
……こいつが、岩盤の層の主か。
……格上だ。しかも同属性で、相性の有利もない。
でも、それはいつものこと。
六匹で、崩す。
岩窟の王が、巨大な腕を振り上げた。
その手には、家みたいな岩の塊。
……それを、こっちへ放り投げてくる。
「ゴロ! グランド・ウォール!」
グモォォン!
岩の壁が、せり上がる。
だが――岩の塊は、壁を大きく飛び越えた。
そして、真上から降ってくる。
……また、これだ。
鷹宮のときと、同じ。上を取られる。
「ソラ! 落とせ!」
ピィイィッ!
ソラが、宙で岩の塊を雷で撃ち砕く。
……間に合った。でも、ずっとは防げない。
岩窟の王が、次々と岩を投げてくる。
ゴロは、正面を守るだけで精一杯。
上からの攻撃には、手が回らない。
一つ、また一つ。岩の塊が、頭上から降ってくる。
ソラが、必死に撃ち落とす。
でも、数が多すぎる。
……このままじゃ、いつか一つが抜けてくる。
鷹宮のときと、同じだ。"上"を塞ぐ手が要る。
でも、今の俺たちには、あの日はいなかった仲間がいる。
……メイ。お前の出番だ。
「メイ! あいつの腕を止めろ!」
「ふよぉぉ!」
メイの蔦が伸びて、岩窟の王の腕に絡みつく。
投擲の動きが、鈍る。
……その隙だ。
「ナギ、ヒノ、タマ! 一気にいくぞ!」
ナギが、足元を濡らして体勢を崩す。
ヒノの紅蓮が、関節を焼く。
タマが、隙間に飛び込んで急所を抜く。
六匹が、それぞれの役目で王に食らいついていく。
誰か一匹じゃ、絶対に届かない相手だ。
でも、六匹なら。……穴を、埋め合える。
そして、ゴロが。
……前に、出た。
仲間が攻める、その間。
ゴロは、みんなの盾になっていた。
降り注ぐ岩を、その巨体で受け止めて。
傷だらけになりながら、一歩も引かない。
……グモォ……ォ。
低い唸り。
それは、悲鳴じゃなかった。
"まだ守れる"という、意地の声だった。
……ゴロ。お前は、いつもそうだ。
いちばん地味で、いちばん痛い役目を。文句も言わず、引き受ける。
拾ったときは、まん丸で、ころころ転がるだけだった。
でも、こいつはいつからか決めたんだ。
"自分が、みんなを守る"と。
……俺は、そのゴロの背中に、何度救われたか。
「もう少しだ、ゴロ! みんなを、守り抜け!」
グモォォォン!!
ゴロの咆哮。
その鉄壁の粘りが……岩窟の王の猛攻を、支え切った。
一つも、通さなかった。
仲間の誰にも、あの岩を届かせなかった。
……全部、ゴロが受け止めたんだ。
その巨体は、もう、ぼろぼろだった。
でも、その目は、まだまっすぐだった。
軍団の総攻撃。
巨人の体に、無数のひびが走って――。
ずうん、と。
岩窟の王が、崩れ落ちた。
あとに残ったのは。
どっしりと重い、灰色に光る石。
巌の竜玉
「ゴロ。……よく守り抜いた。次は、お前がもっと強くなる番だ」
巌の竜玉が光って、ゴロを包む。
グモォ……グモォォ……!
ゴロの巨体が、さらにひとまわり大きくなる。
岩の鎧が、より分厚く。より堅牢に。
背に、いくつもの岩の尖塔みたいな突起が、せり上がった。
傷だらけだった体が、真新しい岩肌で覆い直されていく。
……まるで、動く砦だ。
のっそりした顔つきは、変わらない。でも、纏う存在感が桁違いだ。
ゴロ
資質ランク B(C→B 進化)
レベル上限:70
新技【グランド・ドーム】
ランクが、CからBへ。
これで、ゴロも"打ち止め"の最高ランクだ。
……D生まれから、ここまで。よく来たな。
誰も、期待しなかった。岩の、鈍いハズレ竜。
その烙印を、こいつは努力でひっくり返した。
……ソラやヒノと、同じ。俺の自慢の相棒だ。
そして、新しい技。
「ゴロ! 試しに、一発。……グランド・ドーム!」
グモォォン!
ゴロが、地面を踏みしめる。
すると――地面から岩の壁が、俺たちをぐるりと囲んで。
そのまま、上へ上へと伸びて。……頭上で、ドーム状に閉じた。
完全な、岩の要塞。
正面も、側面も、そして――上も。ぜんぶ塞がっている。
……これだ。
これなら、シルバーホークがどんなに速く上を取っても。
……この中には、手が出せない。
ゴロの中に、六匹、全員が収まる。
この要塞の中でなら、俺たちはじっくり反撃の手を練れる。
守りながら、攻める。……軍団の戦い方が、また一段深くなった。
鷹宮の"制空"への、答え。
ゴロが、それを手に入れた。
ドームを解いて、ゴロがこっちを見る。
その目は、いつものんびりした、ゴロのままだ。
でも、その巨体は。……もう、ただの壁じゃない。
軍団をまるごと守り切る、"要塞"だ。
「ありがとうな、ゴロ。……お前がいれば、上を取られてもこわくない」
ゴロが、照れくさそうに地面を掘り返す。
その仕草は、昔と変わらない。
でかくなっても、こいつはこいつだ。
グモォ、と、ゴロが嬉しそうに鳴いた。
これで、進化は三匹目。
ソラの速さ。ヒノの火力。そして、ゴロの守り。
……鷹宮に挑む駒が、また一つ揃った。
残るは、ナギの進化と、メイの育成。
それが済めば……いよいよ、あの男に、もう一度。
考えるだけで、胸が熱くなる。
あの日の絶望を……今度は、覆してみせる。
「みんな、帰ろう。……次の特訓の、準備だ」
六匹が、頼もしく鳴いた。
その先に鷹宮がいて。そのまた先に、円城寺と、境目と、父さんがいる。
遠い。……でも、一歩ずつ、確かに近づいている。
この六匹となら、どこまでも行ける。
俺は、まだ見ぬ高みへ、また一歩踏み出した。
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【あとがき】
第四十六話、読んでくれてありがとうございます。
ゴロが、ついにC→Bへ。D生まれのゴロにとっては、これが最後の進化=最高ランクです。新技は【グランド・ドーム】。上空まで覆う、岩の要塞ドームです。
鷹宮戦でゴロは、壁を飛び越えられて沈みました。今回の岩窟の王も、壁を越えて上から岩を降らせてくる相手。その"上を取られる弱点"を、みんなで補いながら乗り越え、進化でしっかり克服する――という流れにしました。ゴロの、いちばん地味で痛い"盾"の役目に、報いたい回でもありました。
これで進化は三匹目。速さ・火力・守り。鷹宮に挑む駒が、着実に揃ってきました。
よかったら感想で、次に進化させたいのはナギか、それともメイか、教えてください。




