第45話 再戦の約束
特進に上がってから、少し風向きが変わった。
深層を攻略し、竜を二匹も進化させた。
その噂は、いつのまにか学園中に広まっていた。
……あの、E組のハズレが。って。
同じE組だったタケやノノも、驚いていた。
教官の榊先生だけは、静かに頷いてくれた。
「順調だな」と。……あの人には、俺のやってることがわかるんだ。
父さんの、元同期。
"ハズレを育てて活かす"という父さんの道を、知る人だ。
その榊先生が認めてくれる。それが、地味に嬉しい。
でも、俺は浮かれていなかった。
目標は、まだずっと先にある。
――鷹宮を、超えること。
しかも、覚醒に頼らず。俺たちだけの力で。
だから今日も、六匹と訓練場にいた。
メイの蔦の使い方。ナギとの連携。ソラの機動。
一つずつ、噛み合わせを確かめる。
……派手じゃない。でも、この地道が、俺たちの強さだ。
その訓練場の入り口に。
ふいに、あいつが立っていた。
鷹宮シュウ。
二年首席。あの日、俺の軍団を瞬殺した男だ。
……そして、タマの覚醒を間近で見た、数少ない一人。
六匹が、いっせいに身構えた。
あの日の相手だと、覚えているんだ。
特にソラは、羽をぴんと張って、鷹宮を睨んでいる。
……落ち着け、ソラ。今日は、そういうんじゃない。
「……天野」
鷹宮の声は、静かだった。
でも、その目の奥には、あの日の"畏れ"がまだ残っている気がした。
「噂は聞いてる。ずいぶん、竜を育てたそうだな」
「ああ」
「なら、聞くが」
鷹宮が、一歩踏み出した。
「またあの"化け物の力"に頼るのか。あの、首輪の子の」
……ああ。こいつは、それを気にしていたのか。
あの日、"誰も勝てない"と怯えて退いた。
だから、確かめに来たんだ。俺がまた、あれに頼るのかどうかを。
「頼らない」
俺は、はっきり言った。
「タマのあの力には、頼らない。……あれは、封じたままだ」
封じると決めたんだ。あの日、境目の縁で。
タマを犠牲にする力になんて、頼らない。
あいつは、俺の相棒だ。武器じゃない。
……勝つなら、俺が育てた力で勝つ。
それが、タマへのけじめでもある。
鷹宮の眉が、動いた。
「なら、どうやって僕に勝つ気だ。あの力なしで、お前は僕に、手も足も出なかった」
「知ってる。……だから、育てた」
俺は、隣のソラを見た。
あの日から、CをBへ。……大空を翔ける、雷の飛竜に。
「見せてやるよ。俺たちが、どこまで来たか」
鷹宮が、ふっと口の端を上げた。
挑発と、受け取ったらしい。
「いいだろう。……少しだけ、相手をしてやる」
シルバーホークが、舞い降りる。
銀の翼。……相変わらず、輪郭がぶれるほどの速さだ。
でも。
今のソラなら。
「ソラ! ――雷光の翼!」
ピィイィッ!
ソラが、雷をまとって加速する。
その速度は――あの日とは、まるで違った。
あの日は、指示すら間に合わなかった。
ソラの飛行が、止まって見えるほどの差だった。
でも今は、違う。
雷をまとったソラが、銀の残像に食らいついていく。
銀の鷹が、旋回する。ソラが、食らいつく。
高いところで、二つの影が交差した。
バチッ、とソラの雷が、シルバーホークの羽先を掠めた。
……掠めた。
あの、触れることすらできなかったS級の速さに。
……ソラの一撃が、届いた。
まだ、掠めただけだ。本命には、遠い。
でも、あの日"届かない"と思い知らされた速さに。
俺たちは、確かに手を伸ばせている。
シルバーホークが、体勢を立て直す。
今度は、本気の速さだ。……ソラが弾き飛ばされて、地面に降りた。
まだ格上。まだ、届かない。
でも、あの日みたいな一方的な絶望は、もうなかった。
鷹宮の顔から、余裕が消えた。
「……へえ」
シルバーホークを下げて、鷹宮が俺を見た。
さっきまでの侮りは、もうなかった。
「あの日、僕はお前を、"コネのハズレ"だと思ってた」
鷹宮が、静かに言う。
「特別推薦。理事長のお気に入り。……実力もないくせに、上に置かれた。そう決めつけてた」
こいつは、コネも推薦も使わなかった。
実力だけで、この学園の頂点まで這い上がった男だ。
……だから、楽して上に来たように見える俺が、許せなかったんだ。
鷹宮の強さは、才能じゃない。
誰よりも努力して、誰よりも竜と向き合ってきた。
……だからこそ、"努力の外側"にあるタマの覚醒を、いちばん恐れた。
自分が積み上げてきたものが、あの力の前では無意味に見えたから。
「でも、今のお前の竜は。……本物だ」
鷹宮は、認めた。
あの才能の化け物が。俺の"積み上げ"を。
「一匹の弱点を、みんなで補う。……そういう戦い方か」
鷹宮が、ぽつりと言った。
「僕には、ない発想だ。……一匹の相棒に、すべてを賭けてきたからな」
「なあ、鷹宮」
俺は、聞いてみた。
「あの日、お前は"誰も勝てない"と言った。……タマの、あの力に」
「……ああ」
「怖いか。あの力が」
鷹宮は少し黙って、それから正直に言った。
「怖いさ。あんなものが、あっていいのかと思う。……才能も努力も、ぜんぶ意味がなくなる」
その声は、強がりじゃなかった。……本気で、恐れているんだ。
……そうか。
だからこそ、こいつは。俺が"それに頼らない"と言ったことに、意味を見出したのかもしれない。
「あの化け物の力じゃなく。自分の手で、ここまで来たのか」
「ああ。……まだ、途中だけどな」
鷹宮が、背を向けた。
そして、肩越しに言った。
「なら、決着は。お前が"本当に"僕へ届く日に、つけよう」
……再戦の、約束。
「次は、覚醒なんてなしだ。お前の育てた軍団と、僕のシルバーホークで。……正真正銘の勝負をしよう」
「望むところだ」
初めてだった。鷹宮が、俺を"対等"に見たのは。
コネのハズレでも、化け物の主でもなく。……一人のテイマーとして。
鷹宮を超える。でも、それはゴールじゃない。
その先に、円城寺がいる。境目がある。……向こう側へ渡った、父さんがいる。
鷹宮は、その最初の関門だ。
ここを覚醒なしで越えられなきゃ、その先へは進めない。
鷹宮が、去っていく。
その背中は、あの日の"壁"のままだ。
……でも、もう、越えられない壁だとは思わなかった。
初めて会ったとき、あの背中は、雲の上みたいに遠かった。
今は、その輪郭が、はっきり見える。……手が届く距離に。
あと少し。あと少しで、届く。
この六匹と、積み上げれば。
鷹宮を超えた、その先に。
円城寺の待つ場所がある。境目がある。……父さんが、いる。
一歩ずつ、だ。
「みんな。……もっと強くなろう。あいつに、勝つために」
六匹が、いっせいに鳴いた。
その声が、訓練場に、頼もしく響いた。
六匹の、でこぼこな軍団。
でも、これが俺の、いちばんの自慢だ。
……待ってろよ、鷹宮。次は、本気でいく。
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【あとがき】
第四十五話、読んでくれてありがとうございます。
育成の日々が続いたので、今回は物語を少し前に進めました。強くなったソウマの前に、あの鷹宮が再来。タマの覚醒を間近で見た彼は、「また"化け物の力"に頼るのか」と確かめに来ます。
ソウマの答えは「頼らない」。そして、進化したソラの雷光の翼が、あの日は触れることすらできなかったS級の速さを、ついに掠めました。まだ届かない。でも、確かに近づいている。その一合が、鷹宮に"積み上げ"を認めさせ、正真正銘の再戦の約束につながります。
鷹宮を超えた先に、円城寺、境目、そして父さん。次の大きな山場に向けて、物語が動き出しました。
よかったら感想で、鷹宮戦でどんな連携が見たいか、教えてください。




