第44話 はじめての、蔦
メイが、うちに来て、三日。
そろそろ、外の世界に慣れさせたい。
この三日、メイは家の庭から、ほとんど出なかった。
ナギのそばで日向ぼっこ。ヒノにつつかれて、逃げ回る。
……のんびりした、いい子だ。
でも、軍団の一員になるなら、外の世界も少しずつ知らないとな。
といっても、いきなり深層は危ない。
まだLv1の、生まれたてだ。
……今日は浅い層で、軽く経験を積ませよう。
軍団を、連れて、浅層へ降りる。
メイは、俺の頭の上でずっと震えていた。
ヒノもソラも、メイを気づかって、いつもよりそばを飛ぶ。
ゴロは、でんと構えて後ろを守る。
……頼れる先輩たちだ。
「ふよ……」
……こわいよな。わかる。
俺だって、初めてダンジョンに入ったときは、足がすくんだ。
でも、大丈夫。
お前の周りには、頼れる先輩が、五匹もいる。
「無理は、しなくていい。まずは、見てるだけでも、いいからな」
ふよ、とメイが小さく頷いた。
その、ちいさな頷きが、なんだかいじらしい。
……大丈夫。ゆっくり慣れていこうな。
しばらく歩くと、通路の奥から、地響きがした。
のっそりと、現れたのは――
ロック・ゴーレム
属性:岩
レベル35
岩を、みっしり固めた、人型の魔物。
全身が、分厚い岩の鎧に、覆われている。
……見るからに、硬そうだ。
のっそりと、しかし確実にこちらへ近づいてくる。
地面が、一歩ごとに揺れる。
メイが、俺の足元でぴゃっと身を伏せた。
「ヒノ、まずは、様子見だ。一発、頼む」
キュア! と、ヒノが、炎を吹きつける。
ゴオオッ、と炎がゴーレムを包む。
……でも。
岩の体は、赤くなるだけで、びくともしない。
タマが、体当たり。ソラが、雷。
……硬い。どれも、表面で、弾かれる。
物理も、炎も、雷も。あの分厚い岩を抜けない。
「ゴロ! 押し合いだ!」
グモォォン!
ゴロが、正面から、組み合う。
でも――こっちも、岩。相手も、岩。
同じ属性どうし、有利も不利もない。がっぷり四つで、動かない。
このままじゃ、埒が明かない。
時間をかければ、削れるかもしれない。
でも、それはスマートじゃない。……もっといい手が、あるはずだ。
ゴーレムが、腕を振り上げる。
その一撃を、ゴロが壁で受け止めた。
どぉん、と重い音。ゴロの足が、ずずっと後ろへ滑る。
……力比べでも、こいつは相当だ。
力でだめなら、頭を使う。
硬い相手には、硬さを超える一手を。……いつもの、俺のやり方だ。
……手詰まり、か?
いや。待て。
岩に強いやつが……うちに、一匹いる。
俺は、頭の上のメイを見た。
「メイ。……お前の出番だ」
「ふ、ふよ!?」
メイが、びっくりして、身を縮める。
……そうだよな。いきなり、こんなでかいのは怖い。
でも。
草は、岩に、強い。
こいつを崩せるのは、今この場で、お前だけなんだ。
昔の俺と、同じだ。
ハズレだと笑われて、何もできないと決めつけられて。
でも、そんなことはない。
誰にだって、その子にしかできないことが、ある。
……メイ。お前の力は本物だ。俺が保証する。
「大丈夫だ、メイ。俺が、そばにいる。みんなも、いる」
俺は、メイをそっと地面に降ろした。
「お前の、蔦を。あいつに、巻きつけてみろ。……できるか?」
メイが、俺を、見上げる。
それからゴーレムを見て。……ぎゅっと目をつぶって。
「……ふよぉぉ!」
メイの、背中の双葉から。
しゅる、しゅると、緑の蔦が伸びた。
初めてにしては――ずいぶん太くて、力強い蔦だ。
やっぱり、こいつもただ者じゃない。
タマの産んだ子だ。……当たり前か。
蔦が、ゴーレムの腕や脚や胴に、ぐるぐると巻きついていく。
そして――ぎりぎりと、締め上げた。
でも、ゴーレムも抵抗する。
腕を振り回して、蔦を引きちぎろうとする。
メイが、歯を食いしばって耐える。
「ふよ……っ、ふよぉ!」
もっと太く。もっと強く。……蔦が、ゴーレムを締め上げていく。
みし、みし、と岩が軋む。
……すごい。草の蔦は、硬い岩でも締めて砕く。
ゴーレムの体に、ぴき、とひびが走った。
「今だ! みんな、そのひびを、狙え!」
ヒノの炎が、そのひびに流れ込む。
タマが、ひびを、蹴り抜く。
ソラの雷が、内側で弾ける。
さっきまで、あんなに硬かった鎧が。
ひびから、内側から、崩されていく。
ずしん、と。
ロック・ゴーレムが、崩れ落ちた。
……メイが開けた突破口から、みんなで崩した。
「やった! ……やったな、メイ!」
メイが、自分の蔦と倒れたゴーレムを、交互に見て。
それから、ぱあっと、顔を輝かせた。
「ふよ! ふよぉ!」
嬉しそうに、飛び跳ねて。……俺の胸に、飛び込んでくる。
俺は、その若葉色の体を、しっかり受け止めた。
……よくやった。ほんとに、よくやった、メイ。
お前がいなきゃ、あいつは崩せなかった。
力任せでも、火力でもない。
適材適所。……これも、育成の醍醐味だ。
強さは、一つじゃない。
……メイが、それを教えてくれた。
六匹目にして、また一つ、俺は育て方を学んだ気がした。
頭の中に、いつもの感覚が、走る。
メイ Lv1 → 9
初陣で、大手柄。ぐんと伸びた。
資質はD。派手な火力は、ない。
でも、こいつには、こいつにしかできない役割がある。
……それで、じゅうぶんだ。むしろ、頼もしい。
先輩たちも、集まってくる。
ヒノが「やるじゃん」って感じで、火の粉を散らす。
ナギが、労うみたいにメイに水をかける。
ゴロも、ソラも、タマも。
……みんな、新入りの初陣を喜んでいた。
メイが、恥ずかしそうに、でも誇らしそうに俺を見上げる。
その頭で、花のつぼみがぽん、と一輪咲いた。
……嬉しいときに、咲くのかもな。かわいいやつだ。
この子が笑ってくれるなら、どんな深いところへだって連れて行ってやる。
メイは、もう、震えていなかった。
六匹の真ん中で。……ちゃんと、自分の居場所を、見つけた顔をしていた。
草は、水や岩に強い。
これまでゴロやタマが手を焼いてきた"硬い相手"を、これからはメイが崩せる。
……軍団の穴が、また一つ、埋まった。
「一匹の弱点は、みんなで補える」
じいちゃんが、いつか、言ってた言葉。
六匹になった今、それを、いっそう強く感じる。
強い一匹を作るんじゃない。
でこぼこな六匹で、互いの穴を埋め合う。
……それが、俺の軍団の強さだ。
メイの育成は、まだ、始まったばかり。
でも、こいつはきっと伸びる。
……いい搦め手に、育ってくれよ、メイ。
さあ。
次は、どこを、目指そうか。
ゴロの二回目の進化も、ナギの進化も。……やることは、山ほどある。
メイを育てて、ゴロとナギを進化させて。
軍団まるごと、もっと上へ。
その先で――鷹宮に、もう一度。そして、父さんに。
道のりは、長い。
でも、六匹いれば、こわくない。
……なあ、みんな。これからも、よろしくな。
六匹の軍団で。
俺は、まだ見ぬ高みへ、一歩ずつ進んでいく。
───────
【あとがき】
第四十四話、読んでくれてありがとうございます。
生まれたてのメイ、初陣の回でした。相手は、硬すぎて炎も雷も物理も弾く、岩のロック・ゴーレム。ゴロ(岩)でも押し合いにしかならない相手を崩せたのは、草=岩に強いメイの蔦でした。「新入りが、軍団の穴を埋める」――ナギのときと同じ、この作品らしい勝ち方です。
人見知りのメイが、勇気を出して蔦を伸ばし、自分の居場所を見つける。強い一撃より、そういう一歩を書きたい回でした。
よかったら感想で、メイの必殺技のアイデアや、次に進化してほしい子を教えてください。
六匹の軍団で、物語はまだまだ続きます。




