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『ハズレ竜タマは、軍団を産む。』  作者: tatsuya akaike


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第41話 紅蓮の吐息

 ヒノは、上限のLv35で、頭打ちになっていた。

 これ以上は、もうレベルじゃ伸びない。

 だから――進化だ。

 ソラに続いて、二匹目。

 覚醒じゃない。育成で、次の段階へ連れて行く。


 目指すは、火口の層。

 嵐の層より、さらに深い炎とマグマの最下層だ。


 じいちゃんが、言っていた。

 「あそこは、嵐の層より、ずっと危険だ」と。

 ……でも、行くしかない。ヒノの炎の素材は、あそこにしかない。


 降りていくほど、空気が、熱くなる。

 やがて足元に、赤いマグマの川が流れ始めた。

 ……ここが、火口の層。

 見渡すかぎり、赤い岩と煮えたぎるマグマ。

 嵐の層とは、危険の種類が違う。


 じり、と、肌が焼ける。

 でも、ヒノだけは、平気な顔だ。

 むしろ、生き生きと、火の粉を散らしている。

 ……そうか。ここは、こいつの力の源みたいな場所なんだな。

 でも、油断はできない。

 ここの魔物は、炎をまとった格上ばかりだ。

 ヒノの得意分野が、そのまま通じる相手じゃない。


 最下層の、いちばん奥。

 マグマだまりの中から、それは、起き上がった。


  マグマ・ドラゴン

  属性:炎

  レベル55


 溶けた岩を、鎧のようにまとった、巨大な竜。

 体の割れ目から、ぐつぐつとマグマが覗いている。

 ……でかい。そして、熱い。

 地面のマグマが、そいつの動きに合わせて波打つ。

 近づくだけで、肺が焼けそうだ。


 レベル55。今のうちの、誰よりも上だ。

 しかも――炎属性。

 ヒノの炎は、こいつには、通りにくい。

 自分の得意分野で、真っ向勝負しても、勝てない相手だ。


 でも、それなら。

 やることは、いつもと、同じだ。


「ヒノ! 正面から炎で撃ち合うな! ……こいつは、みんなで崩す!」


 キュア! と、ヒノが、頷く。


 マグマ・ドラゴンが、燃える岩を次々と撃ち出してくる。


「ゴロ! 壁だ!」


 グモォォン!


 グランド・ウォールが、燃える岩を受け止める。

 だが、次々と飛んでくる火の岩に、壁がじりじり削られていく。

 長くはもたない。……急ぐぞ。

 その隙に、俺は指示を飛ばした。


「ナギ! あいつの体を、冷やせ!」


 コポポ!


 ナギが、ありったけの水をマグマ・ドラゴンに浴びせた。


 じゅううううっ……!


 白い蒸気が、噴き上がる。

 浴びた場所の溶けた鎧が。……じわじわと冷えて、固まっていく。


 ……そうだ。こいつの鎧は、溶けた岩。

 水で冷やせば、ただの硬い殻になる。


「もう一回だ、ナギ! 一点に集中して冷やせ!」


 ナギの水が、胸元の一点に、集まる。

 そこだけ真っ黒に固まって――ぴき、とひびが入った。


 鎧の、割れ目。

 その奥に、ぐつぐつと燃える核が覗いている。


 ――そこだ。


「ソラ! タマ! こじ開けろ!」


 ソラの雷が、ひびを、抉る。

 タマが、体当たりで固まった鎧を砕く。

 むき出しになった、燃える核。

 鎧が割れて、ぐらりと体勢を崩すマグマ・ドラゴン。

 こいつが無防備になるのは、一瞬だけだ。


「今だ、ヒノ! お前の、いちばん熱いやつを――ぶち込め!」


 キュキュアアッ!!


 ヒノが、大きく、息を吸い込む。

 そして、その核めがけて――極限まで高めた炎を撃ち込んだ。


 ゴオオオォッ!!


 狭い割れ目から注ぎ込まれた炎が、核の内側で暴れ回る。

 炎に強いはずの、マグマ・ドラゴンが。

 自分のいちばん柔らかい場所を、内側から焼かれて――。


 ずうん、と。

 巨体が、崩れ落ちた。

 光の粒になって、消えていく。


 全員、汗だくで肩で息をしている。

 炎の格上を、炎のヒノで落とした。

 ……まともにやったら、勝てなかった。工夫の、勝ちだ。


 ……勝った。

 炎の主を。炎の、ヒノで。

 真っ向からじゃない。……みんなで崩して開けた道に、ヒノの一撃を通した。


 あとに、ころん、と。

 赤く、燃えるように光る石が、残った。


  炎の竜玉


 炎の、進化素材。

 これで、上限も素材も、そろった。


 俺は、その石をヒノにかざした。


「ヒノ。……よく、我慢したな。真っ向勝負を、こらえて。みんなに、合わせてくれた。……お前の番だ。行くぞ」


 炎の竜玉が、まばゆく光って、ヒノを包む。


 キュ……キュアアア……!


 ヒノの体が、ひとまわり、大きくなる。

 小さかった手足が、逞しく。

 背に、炎の意匠みたいな鋭い突起がせり上がる。

 まとう炎が、赤から深い紅(くれない)へと色を変えていく。


 光が、収まる。

 そこにいたのは、もう、やんちゃな火トカゲじゃない。

 精悍な紅の炎竜だった。

 全身から、陽炎みたいな熱が立ちのぼっている。

 でかくなった。逞しくなった。

 ……でも、こっちを見る目は、いつものヒノのままだ。


  ヒノ

  資質ランク C(D→C 進化)

  レベル上限:50

  新技【紅蓮の吐息】


 ランクが、DからCへ。

 上限も、35から、50に。

 そして――新しい技。


 ヒノが天を仰いで、細く長く息を吐いた。

 その一筋の炎が、岩壁をあっさりと貫いて溶かした。

 ……【紅蓮の吐息】。

 極限まで絞った、超高温の、一点集中ブレス。

 さっき鎧の核を焼き抜いた、あの一撃。……それがこいつの、新たな必殺技になった。

 炎に強い相手でも、この一点集中なら、鎧ごと溶かして貫ける。

 ……ヒノの火力が、化けた。

 これで、鷹宮戦の駒が、また一枚そろった。


 「かっこいいぞ、ヒノ。……お前も、次の段階に届いたな」


 キュア! と、ヒノが得意げに火の粉を散らす。

 でも、その顔はどこか誇らしげで。……ちょっとだけ、大人びて見えた。


 拾ったときは、手のひらに乗る赤い卵だった。

 それが今は、岩壁を溶かす紅蓮の竜だ。

 ……よく、ここまで育ってくれたな。


 ソラが、進化した先輩ヅラで、ヒノの隣に並ぶ。

 ゴロもナギも、嬉しそうに鳴いた。

 タマは、いつもの目で、紅くなったヒノを見上げていた。


 これで進化は、ソラに続いて二匹目。

 覚醒に頼らず。一匹ずつ。……着実に、軍団は、強くなってる。


 火口の層を、出て。帰り道。

 ふと、途中の分かれ道の片方から。……ひんやりした湿った空気が流れてきた。

 奥のほうが、うっすら、緑がかっている。

 ……こんな深いところに、植物?


 じいちゃんの声を、思い出す。

 深層には、まだ俺の知らない層がいくつもある、と。


 ……気になるな。

 でも、今日はヒノの進化で、じゅうぶんだ。

 あの緑の層は――また、今度だ。

 ……父さんも、この道を通ったんだろうか。

 一匹ずつ育てて、少しずつ、深くへ。

 その先に父さんが待っているなら、俺は何度でも、深いところへ潜る。


 その奥の、暗がりで。

 ……また、あの境目と同じ模様が、ちらりと見えた気がした。

 どこまで行っても。あの謎は、俺たちの道の、先にいる。


 でも、俺は、止まらない。

 紅蓮に燃えるヒノを見上げて、俺は次の一歩を思った。

 次は――あの、緑の層だ。

 進化したヒノの力を、あそこで試してやる。

 待ってろよ、ヒノ。……次は、お前が主役の狩りだ。



───────


【あとがき】


 第四十一話、読んでくれてありがとうございます。


 ヒノが、ついにD→Cへ進化しました。新技は【紅蓮の吐息】。極限まで絞った超高温の一点集中ブレスです。


 今回の相手は、炎のマグマ・ドラゴン。炎のヒノにとっては、いちばん相性の悪い"炎どうし"の格上でした。だからこそ、真っ向勝負はしない。ナギの水で溶けた鎧を冷やし固め、ひびを入れて核を露出させ、そこにヒノの一撃を通す――工夫と連携で、開けた道に、主役の一撃を届ける。覚醒に頼らない「別の道」を、いちばん体現した戦い方にしたつもりです。


 進化してもヒノは、まだ"見上げるほど"ではありません。段階を踏んで、大きくなっていきます。


 そして帰り道、深層の奥に、緑の気配。……次に潜る場所の、布石です。

 よかったら感想で、そこにどんな竜がいそうか、想像を教えてください。


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