第39話 雷光の翼
嵐の層に通い続けて、ついにその日が来た。
ソラ Lv50
資質ランクCの、上限。
ソラが天井に届いた。
この日のために、何度もこの層に通った。
落雷を浴びて、格上を狩って。ソラは見違えるほど強くなった。
もう、あの頃のヒョロヒョロの飛竜じゃない。
あとは雷の竜玉。
あれを獲れば、ソラは次の段階へ行ける。
嵐の層の、いちばん奥。
稲妻の中で、そいつは待っていた。
サンダー・イーグル
属性:雷
レベル45
巨大な、雷の鷲。
翼を広げるだけで、空気がばちばちと弾ける。
……でかい。ソラの、三倍はある。
嵐の主、って感じだ。
……並のテイマーが近づけないわけだ。
でも、俺たちは、ちゃんとここまで来た。
こいつは雷属性。
ソラの雷は通りにくい。……相性の有利は、ない。
しかも速い。飛ぶ。
……まるで、鷹宮の小型版だ。
なら、これは。
あの銀の鷹に挑むための、いい予行演習になる。
速い相手を、どう落とすか。
覚醒に頼れないなら、頭を使うしかない。
……こういうのは得意だ。ずっと、そうやって勝ってきた。
ハズレを育てて、格上を頭で獲る。それが俺のやり方だ。
「ソラ! 真っ向から追うな! 高さで張り合うな!」
サンダー・イーグルが急降下してくる。速い。
でも、俺たちは地上を支配できる。
「ゴロ! 岩の柱を立てろ! こいつの飛ぶ場所を、削れ!」
グモォォン!
ゴロが地面から、岩の柱を何本もせり上げた。
嵐の層の空間が狭くなる。
イーグルの自由な飛行が、封じられていく。
だが、相手も格上だ。
柱の隙間を鋭く抜けて、ヒノに体当たりを叩き込む。
キュア!
ヒノが吹き飛ばされる。
……速い。まともに追ったら、勝てない。
なら、追わない。……足を、止めさせる。
「ナギ! 霧だ!」
コポポ!
ナギの水が細かい霧になって、あたりを包む。
イーグルの鋭い眼が、獲物を見失う。
柱に囲まれ、霧に巻かれ。
あの誇り高い鷲が、初めて戸惑っている。
――そうだ。速さは、行き先が見えてこそ。
見えなければ、ただの的だ。
だが、イーグルも必死だ。
やみくもに雷をまき散らす。
その一発が、ゴロの柱を砕いた。
……長引けば、こっちが削られる。
決めるなら、今しかない。
……そうだ。
速さも、目も、視界も。ぜんぶ、こっちの土俵に引きずり込む。
「今だ、ソラ! 狭い場所でなら――お前のほうが、速い!」
ピィイィッ!
ソラが、岩の柱の間を縫うように駆ける。
広い場所なら、イーグルのほうが速い。
でも、この狭さなら。小回りの利くソラのほうが上だ。
柱を掠め、稲妻を潜り、視界を奪われたイーグルの死角へ回り込む。
バチイィッ!
ソラの雷が、イーグルの翼の付け根を撃った。
雷は通りにくくても、この距離の一撃なら効く。
イーグルが体勢を崩して、落ちてくる。
その落下点には――
「タマ! ヒノ!」
タマが跳び、ヒノが炎を重ねる。
ゴロが体当たりし、ナギが足場を崩す。
地に落ちたイーグルへ、五匹が一斉に畳みかけた。
ずうん、と。
サンダー・イーグルが崩れ落ちる。
光の粒になって、消えていく。
全員、肩で息をしている。
格上だった。まともにやったら、危なかった。
でも――届いた。俺たちの工夫が。
ソラもボロボロだ。でも、その目はまだギラついている。
……こいつも、わかってるんだ。ここからが本番だって。
……勝った。
覚醒なんて、なしで。工夫と連携で、格上を獲った。
あとに、ころん、と。
黄金色に光る石が残った。
雷の竜玉
俺はその石を、ソラにかざした。
「ソラ。……上限も素材も、そろった。行くぞ。次のお前へ」
雷の竜玉がまばゆく光って、ソラを包む。
ピィ……ピィイィ……!
ソラの体が、ひとまわり大きくなる。
細かった翼が、鋭く、逞しく。
まとう雷が、青白く、濃くなっていく。
背が伸び、爪が鋭くなる。
小さかった体が、精悍な輪郭へと変わっていく。
光が収まる。
そこにいたのは、もう、あの小さなソラじゃなかった。
精悍な、雷の飛竜だ。
背に走る雷の紋が、脈打つように光っている。
……きれいだ。そして、頼もしい。
E組で拾った、四匹目の卵。
あの小さかったソラが、ここまで来たんだ。
胸の奥が、じん、と熱くなってきた。
ソラ
資質ランク B(C→B 進化)
レベル上限:70
新技【雷光の翼】
ランクがCからBへ。
上限も50から70に。
そして――新しい技。
ソラがひと鳴きして、宙へ舞い上がる。
その体が雷をまとって、ふっと消えた。
次の瞬間には、闘技場の反対側にいた。
……速い。さっきまでとは、比べ物にならない。
【雷光の翼】。
雷をまとって、飛行速度が跳ね上がる技だ。
しかも、ただ速いだけじゃない。
まとった雷が、そのまま刃になる。
すれ違いざまに、敵を斬り裂く。……高速の、一撃離脱だ。
ソラ自身も、自分の変化に驚いているみたいだった。
何度も宙を旋回して、確かめている。
……嬉しそうだ。翼が、軽いんだろうな。
その姿は、もう立派な、大空の主だった。
……これなら。
あの鷹宮の速さにも、少しは食らいついていける。
ソラが、俺の肩に戻ってくる。
得意げに、ピィ、と鳴いた。
……よくやった、ソラ。かっこよくなったな。
ゴロが、地鳴りみたいに嬉しそうに吼えた。
ナギが、お祝いみたいに水をふわりと撒く。
タマだけは、いつもの目で、進化したソラをじっと見ていた。
……その目が少しだけ眩しそうに見えたのは、気のせいだろうか。
ヒノたちが、羨ましそうにソラを見上げている。
「大丈夫。次は、お前らの番だ。……みんな、もっと強くする」
その夜。雷の竜玉の話をすると、じいちゃんは静かに笑った。
「……よくぞ、あの層で獲ってきた。並のテイマーには、無理な芸当だ」
そして、ぽつりと付け加えた。
「お前の父さんも、そうやって、一匹ずつ、進化させていったよ。……お前は、あいつに、よく似てる」
……そうか。
俺は、ちゃんとあの人の道を歩けてるのかな。
覚醒に頼らない、別の道。
その一歩を、確かに踏み出せた気がした。
一匹ずつ、育てて、進化させて。
覚醒みたいな"特別な力"じゃない。
地道に積み上げた、これが俺たちの強さだ。
……父さんもきっと、こうやって軍団を育てたんだろうな。
ふと、嵐の層の最奥を見る。
あの境目と同じ模様が、壁でうっすら光った気がした。
……この道の先に何が待つのかは、まだわからない。
でも、俺は行く。この五匹と。
円城寺の言う"唯一の道"じゃない。
俺の"別の道"で、あの高みまでたどり着く。
次は、ヒノか。ゴロか。
一匹ずつ、みんなを進化させていく。
そうして軍団まるごと、鷹宮に届くところまで。
まだ遠い。でも、確実に近づいてる。
一歩ずつ。俺と、五匹で。
待ってろよ、鷹宮。
次は――俺たちの力だけで、お前の高みを越えてやる。
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【あとがき】
第三十九話、読んでくれてありがとうございます。
ソラが、ついにC→Bへ進化しました。新技は【雷光の翼】。雷をまとって飛行速度が跳ね上がる、鷹宮の"速さ"に対抗するための一手です。
今回のサンダー・イーグル戦は、あえて相性の有利がない相手(雷どうし)にしました。覚醒の力ではなく、ゴロの岩柱で飛ぶ場所を削り、ナギの霧で目を奪い、狭い空間でソラの小回りを活かす――工夫と連携で、速い格上を落とす。鷹宮戦の予行演習であり、「別の道」の手応えを描きたかった回です。
進化してもソラは、まだ"見上げるほど"の巨体ではありません。段階を踏んで、少しずつ大きく強くなっていきます。
よかったら感想で、次に進化させるなら誰がいいか、教えてください。
次回も、別の道を一歩ずつ。




