第38話 はじめの一歩
円城寺のところから帰ってきた、次の日。
俺は庭に、五匹を集めた。
タマ、ヒノ、ゴロ、ソラ、ナギ。
傷はもう、癒えている。
……あの日、鷹宮に手も足も出なかった。
覚醒したタマの力がなきゃ、俺たちは負けていた。
でも俺は、決めたんだ。あの力には、頼らない。
じゃあ、どうするか。
答えは、シンプルだ。
――もっと強くなる。自分たちの力で。
「なあ、みんな。……もう一回、鷹宮に挑みたい。今度は、俺たちだけの力で」
五匹が、俺を見る。
ヒノが「任せろ」って感じで胸を張った。
ゴロがどっしり頷く。ナギが「こぷ」と鳴く。
ソラは、わかってるのか、いないのか。俺の頭の上で、きょとんとしている。
タマは、いつものまんまるの目で、俺をじっと見上げていた。
……頼もしいな。
円城寺の言葉が、頭に残っている。
――両方を取ろうとする者ほど、大きなものを失う。
……上等だ。なら、その"常識"ごと覆してやる。
タマも、父さんも、仲間も。ぜんぶ抱えて、てっぺんまで行く。
それが、俺の"別の道"だ。
鷹宮の、シルバーホーク。
あいつの強さは、"速さ"と"制空権"だ。
地上戦じゃ、どうしても後手に回る。……上を取られるからだ。
なら、こっちも。上を取れる駒が要る。
地上には、ゴロの壁がある。ヒノの火力も、ナギの支えもある。
足りないのは、"高いところ"だけだ。
あの銀の鷹に、真っ向から挑める、一匹の翼。
俺は、一匹を見た。
ソラ。雷の、飛行竜。
……こいつがもっと上に行けば、あの銀の鷹と渡り合えるかもしれない。
じいちゃんに相談した。
「ソラを進化させたい。鷹宮の高みに、届くくらいに」
じいちゃんは少し考えて、頷いた。
「ソラは資質C。……まだ二回、進化できる。上限まで育てて素材を揃えりゃ、Bへ。いずれAまで届く器だ」
Aランク。
……あの鷹宮の相棒と、同じ格。
「素材は、雷属性の"雷の竜玉"だな。だが、こいつは厄介だぞ」
「厄介?」
「訓練ダンジョンの、もっと奥。年中、雷が鳴りやまない"嵐の層"にしかない。……並のテイマーは、近づくことすらできん場所だ」
「だが、ソラなら」
じいちゃんは、庭のソラを目を細めて見た。
「あいつは、雷の申し子だ。あの層の雷は、ソラにとっちゃ毒どころか、ごちそうさ。……お前の育て方次第で、化けるぞ」
化ける。
……ソラが。あの、小さかった四匹目が。
思えば、遠くまで来た。
E組でハズレばかり引いて、笑われていた俺が。
今は"特進"で、竜を進化させようとしている。
……ぜんぶ、こいつらと積み上げてきたものだ。
嵐の層。
……上等だ。行ってやる。
まずは、レベル上げから。
ソラを、上限のLv50まで育て上げる。
その日から、俺たちは深層に潜り続けた。
ソラは、飛ぶのがどんどんうまくなった。
急降下のサンダー・ダイブも、鋭さを増していく。
ナギは支援の腕を上げ、ゴロは壁としてさらに硬くなった。
狩っては潜り、潜っては狩る。
地道な繰り返しの日々。
でも、その一日一日が、確かに俺たちを押し上げていく。
ソラが、格上の魔物を雷の一撃で抜くようになった。
……あの頃は、まっすぐ飛ぶのも下手だったのに。
今は、稲妻みたいに鋭く駆ける。
育つって、すごいな。何度見ても、そう思う。
夜は庭に帰って、五匹で団子になって眠る。
傷を、ナギの水でいたわり合って。
……こういう時間が、いちばん好きだ。
強くなるのは、勝つためだけじゃない。
こいつらと、もっと長く一緒にいるためだ。
ある夜、ヒノが熱を出した。
無茶な特訓のしすぎだ。
ナギがつきっきりで、冷たい水の膜に包んでやっていた。
……こいつら、ほんとに仲がいい。
軍団っていうより、もう、家族だ。
……五匹で一つの生き物みたいに、俺たちは強くなっていった。
ソラ Lv31 → 42
(タマ34/ヒノ32/ゴロ41/ナギ20)
ソラ Lv42/上限50。
あと少し。
あと少しで、ソラは天井に届く。
そこまで行けば――いよいよ、進化だ。
ソラの進化した姿を、早く見てみたい。
……きっと、すごいのが待ってるはずだ。
そして、ある日。
いくつもの層を越えて、越えて。
訓練ダンジョンの、いちばん深いところ。
俺たちはついに、"嵐の層"の入り口に立った。
ごう、と風が吹き荒れる。
頭上の分厚い雲から、絶え間なく稲妻が落ちてくる。
……ここが、嵐の層。
見上げれば、渦を巻く雲。
その裂け目から、次々と稲妻が地面を打つ。
立っているだけで、心臓にびりびり響く。
……こんな場所が、ダンジョンの奥にあったのか。
空気が、ぴりぴりと痺れている。
ソラだけは、その雷を浴びて、むしろ嬉しそうに翼を広げた。
……こいつの故郷みたいな場所なのかもな。
落ちてくる稲妻を、ソラがひらり、ひらりと避けていく。
いや、避けてるんじゃない。……浴びて、力に変えているんだ。
その体が、いつもより一回り明るく輝いて見えた。
……ここは、こいつを一段上へ連れて行く場所だ。そう、確信した。
そのときだった。
稲妻の中から、"何か"が現れた。
サンダー・イーグル
属性:雷
レベル45
巨大な、雷をまとった鷲の魔物。
鋭い眼光が、こちらを射抜く。
……こいつが、雷の竜玉の守り手か。
ソラが、俺の肩の上で、低く身構えた。
いつものんきなソラが、だ。
……こいつは格が違うと、肌で感じ取っているんだ。
サンダー・イーグルの雷が、ばちばちと空気を焼く。
レベル45。今のソラより、まだ上。……生半可じゃ、勝てない相手だ。
だが、焦りはない。
今のソラでも、まだ届かない。だからこそ、育てるんだ。
こいつを雷の申し子として完成させてから、改めて挑む。
でも、今日は下見だ。
ソラが上限に届いてから、正面から獲りに来る。
「……待ってろよ。次は、お前を倒して、ソラを進化させる」
嵐の層の、いちばん奥。
稲妻に照らされて、何かがきらりと光った気がした。
……雷の竜玉。あれが、ソラを次の段階へ連れて行く。
でも。
その、さらに奥に。
……なぜか、あの"境目"で見た模様が、壁にうっすらと彫られている気がした。
……気のせいか。
いや。この学園の"深いところ"は、どこもあの謎に繋がっているのかもしれない。
父さんも、こんなふうに強くなろうとして、少しずつあの謎に近づいていったんだろうか。
……だとしても。
俺は、あの人みたいに独りで抱え込んだりは、しない。
ぞくり、とした。
でも、俺は前を向いた。
――一歩ずつ、だ。
覚醒に頼らず。この五匹と。
あの大空の、てっぺんまで。
まずは、ソラ。
お前を、大空の王にしてやる。
……見てろよ、鷹宮。
いつか必ず、あの高みで。もう一度、決着をつける。
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【あとがき】
第三十八話、読んでくれてありがとうございます。
ここから、新しい章です。
ソウマが選んだ「覚醒に頼らない、別の道」。その第一歩は、ソラの進化でした。鷹宮の"制空権"に対抗するには、こちらにも大空の王者が要る――というわけです。
目指すは、雷の進化素材「雷の竜玉」。ただし、それがあるのは、雷の鳴りやまない"嵐の層"。守り手のサンダー・イーグルも待っています。まずはソラを上限まで育てて、正面から獲りに行く。育成でこつこつ強くなる、この作品の原点みたいな戦いです。
そしてラスト、その最奥に、あの"境目"と同じ模様が。強くなる道の先にも、やっぱり、あの謎は待っているみたいです。
よかったら感想で、ソラの進化後の姿、どんなふうになると思うか教えてください。
次回、ソラ、上限へ。そして雷の竜玉をめぐる戦いが始まります。




