第33話 自分の、力で
円城寺と話した、あの日から。
一つの言葉が、ずっと、頭にこびりついて離れなかった。
――あなたが積み上げてきたものは、本物?
タマの、"運"。世界を書き換える力。
……もし。俺の勝ちが、ぜんぶ、こいつの力の上に乗っかってただけなら。
俺が、育ててきたと信じてた、この日々は。……なんだったんだ。
夜。庭で、五匹がじゃれ合っている。
ヒノがゴロの背中で昼寝して、ソラがそれをつついて、ナギが水をかける。
タマは、その真ん中で。まんまるの目で、俺を見ていた。
……なあ、タマ。
俺は、お前に。ずっと、勝たせてもらってた、だけなのか?
……いや。考えたって、答えは出ない。
だったら――試すしか、ない。
タマの力が届かない場所で、俺だけの力が、どこまで通用するのか。
それを知らなきゃ。俺はこれから先、胸を張って、こいつの隣に立てない。
――確かめる。
方法は、一つしかない。
俺は、次の昇格戦に、名乗りを上げた。
相手は――特進。この学園の、頂点クラス。
そして、俺は、自分に、一つ条件を課した。
「この試合。タマは、出さない」
じいちゃんが、目を丸くした。
仲間たちも。……タマも。きょとん、としてる。
悪いな、タマ。
でも、これは。俺が、俺自身に証明しなきゃ、ならないことなんだ。
お前の"運"じゃなく。俺がこの手で育てた、四匹で。
特進に、勝てるかどうか。
昇格戦、当日。
特進の代表として現れたのは――霧島レイ、だった。
入学してすぐ。俺が、いちばん最初に"格の違い"を見せつけられた、相手。
あのときは、手も足も、出なかった。
その隣に、悠然と佇む、一匹。
深い青の鱗。流れるような、長い体。
動くたび、まとった水が、宝石みたいにきらめく。
アクア・ドラゴン
属性:水
資質ランク A レベル40
……ランクA、レベル40。
あのときより、ずっと強くなってる。特進の名は、伊達じゃない。
レイが、俺を見て、少しだけ目を見張った。
「……天野くん。ずいぶん、上がってきたね。あのE組の子が、まさか、ここまで」
「ああ。……あんたに、追いつくために、な」
「でも」
レイの目が、俺の後ろの四匹を見て。……"いつもの一匹"が、いないことに気づいた。
「一匹、足りないよ? あなたの、いちばんの切り札が」
「今日は、いらない」
俺は、言った。
「こいつら四匹で。あんたに、勝つ」
『――両者、はじめ!』
アクア・ドラゴンが、身をくねらせ――無数の水の槍を、放った。
シュバババッ!!
速い。そして、鋭い。
まともに受ければ、串刺しだ。
さすが、A級のLv40。一発の重さが、うちの誰とも、桁が違う。
……でも、臆するな。地力で劣るのは、いつものことだ。
それを連携でひっくり返してきたんだろ、俺たちは。
「ゴロ! グランド・ウォールだ!」
「グモォォン!!」
岩の防壁がせり上がり、水の槍を受け止める。
……でも、水は、岩の天敵。壁が、じわじわ削られていく。
「ナギ! ゴロを支えろ!」
「コポポ!」
ナギの水が、ゴロの壁に膜を張る。水を、水でいなす。
削れが、止まった。……ナギ。お前がいてくれて、よかった。
でも、防いでるだけじゃ、勝てない。
水属性の、天敵。……それは。
「ソラ!」
「ピィッ!」
ソラが、宙へ舞い上がる。
雷は、水によく通る。この相手に、いちばん刺さる一手だ。
「レイ! あんたの水は、知ってる! ……水は、雷に弱いんだ!」
「――させない!」
レイのアクアが、水のヴェールをまとって、身を隠す。
ソラの狙いを、逸らす気だ。
……なるほど。さすが特進。ただ撃たせちゃ、くれない。
でも、こっちも。ソラを当てる工夫は、してきた。
「ヒノ! いつもの、あれだ!」
「キュキュッ!」
ヒノが、炎をアクアの足元に叩き込む。
じゅうう――ボワッ!!
水と炎がぶつかって、白い蒸気が噴き上がる。
……効かない炎を、蒸気の煙幕に変えて、視界を奪う。
神崎戦、汐見戦。……もう何度も、こいつらと磨いてきた、連携だ。
「今だ、ソラ! ――サンダー・ダイブ!」
「ピィイィッ!!」
蒸気を突き破って。ソラが、真っ逆さまに急降下。
水のヴェールをまとった、アクアへ。
バチイィィッ!!
水は、雷をよく通す。
自分の水が、仇になる。
「きゃっ……! アクア!」
しびれて、動きを止めた、アクア。
その隙に、ゴロが突進。ヒノが追い打ち。ナギが足場を崩す。
四匹が、一斉に、畳みかける。
どうっ、と。
特進の、アクア・ドラゴンが。……崩れ落ちた。
『――勝負あり! 勝者、天野ソウマ!』
……勝った。
特進に。あの、レイに。
タマの"運"、なしで。俺が育てた、四匹で。
膝から、力が抜けた。
……本物だ。
俺が積み上げてきたものは。……ぜんぶ、本物だったんだ。
E組の、ハズレだった俺が。
ハズレの卵から始めて、一匹ずつ育てて、連携を磨いて。
……特進に、届いた。タマの"運"じゃなく、この四匹と。
目の奥が、熱くなった。
情けない。でも、止まらなかった。
ヒノも、ゴロも、ソラも、ナギも。
俺のところに駆け寄ってきて。……嬉しそうに、鳴いた。
ああ。お前らと掴んだ、勝ちだ。誰の力でもない。俺たちの、力だ。
レイが、倒れたアクアに駆け寄って。それから、俺を見た。
「……完敗だよ。あの日のあなたと、同じ人とは、思えない」
その顔は。悔しさより、どこか、清々しさが、あった。
「その"四匹"だけで、ここまで……。ねえ、天野くん。あなた、いったい、どこまで行くの?」
「……てっぺんまで、だよ」
俺は、答えた。
「特進も、その上も。ぜんぶ抜けて。……取り戻したいものが、あるんだ」
父さん。タマの正体。円城寺の待つ、あの場所。
レイは、少しだけ笑って。
「そう。……じゃあ次は、私も"特進の本気"で相手をする。待ってるよ」
……ああ。次は、負けない。
特進。
……ついに、ここまで来た。
あとは、円城寺の待つ、学園のいちばん高い場所。
そして――鷹宮。
その夜。
俺は、庭で、タマを抱き上げた。
「悪かったな。今日は、留守番させて」
タマは、怒ってる様子も、なかった。
ただ、いつもの目で俺を見て。
……ゆっくりと、頬を、すり寄せてきた。
……なあ、タマ。
俺、今日。お前なしで、勝ったよ。
嬉しいんだ。ちゃんと、俺の力で、勝てて。
でも。
こいつのあたたかい体を抱きながら、俺は、ふと、思ってしまった。
――今日、タマの"運"が働かなかったのは。
俺が"出さなかった"から?
それとも……タマが、"そうさせてくれた"から?
こいつは。俺が独りで立てるように。
わざと、身を引いたんじゃ、ないか。
まるで――いつか来る、"そのとき"の、ために。
……考えすぎ、だよな。
そう思おうとして、俺は、タマの目を、もう一度だけ覗き込んだ。
その目の奥は。
やっぱり、少しだけ。……俺の知らない色を、していた。
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【あとがき】
第三十三話、読んでくれてありがとうございます。
円城寺に「あなたの積み上げは本物?」と揺さぶられたソウマが、その答えを、自分の力で確かめる回でした。タマの"運"に頼らず、自分の手で育てた四匹だけで、特進のレイに挑む――。
水のレイには、雷のソラ。ずっと前から積み上げてきた相性と連携で、勝ち取った一勝です。ソウマにとっては、「本物だった」と胸を張れる、大事な勝利になりました。
……ただ、最後のタマの様子だけ、少し引っかかりませんでしたか。
"出さなかった"のか、"出させてもらえなかった"のか。今回はあえて、答えを書いていません。
よかったら感想で、あなたの受け取り方を教えてください。
次回、ソウマはいよいよ最上へ。残る壁は――鷹宮、そして円城寺。
お楽しみに!




