第30話 運が、いい
A組の深層。
五匹で、潜っていた。
軍団の連携は、絶好調だった。
ゴロが壁になり、ナギが足場を濡らし、ヒノが炎を吹き、ソラが上空を取る。
そして、がら空きになった急所へ、タマが跳ぶ。
タンッ。
一撃。……終わり。
次も。
次も。
いつも、最後の一撃は、タマの番に回ってくる。
強いな、ほんと。
思わず、笑っちまう。
――でも。
三十匹目を超えたあたりで、気づいた。
さっきの魔物。
ヒノの炎を避けた先が、なぜかタマの牙の前だった。
その前は。
ソラの雷から逃げた先が、たまたまタマの正面だった。
その前は。
ゴロが弾いた敵が、ちょうどタマの一撃の高さに浮いた。
全部、"タマが仕留める形"に、盤面が勝手に整っていく。
連携が、噛み合ってる?
……いや。噛み合いすぎなんだ。
まるで、この階層のぜんぶが。
最初から、タマに勝たせるために、作られてたみたいに。
通路の奥から、今日いちばんの格上が来た。
タマめがけて、突進する。
まずい――と思った瞬間。
そいつの足元の地面が、ずぼっ、と抜けた。
俺は、ナギを見た。水は、出していない。
モグは、いない。掘ったやつなんて、どこにもいない。
なのに、そこに、落とし穴があった。
格上が、体勢を崩す。
その首が、がら空きになる。
タマが跳んだ。
ドガッ。
勝った。危なげなんて、一つもなく。
――気持ち悪い。
俺は、タマのステータスを開いた。
運 30
知ってる。異常な数字だ。
いつもの、確認。
……はずだった。
その「30」の下に。
いつもなら、何もない、空欄に。
運 30
( )が見ています
……は?
まばたきを、した。
運 30
……消えた。
今の、なんだ。何が、見てるって――誰が。
指先が、冷たい。
心臓が、うるさい。
そのときだった。
ヒノが、はしゃぐのをやめた。
ソラが、上空でぴたりと静止した。
ナギの水が、ぷるんと震えて、止まった。
ゴロが、誰も命じてないのに、グランド・ウォールをせり上げた。
四匹、全員。
同じ一点を――何もない壁を、見て、固まっている。
「……お前ら?」
誰も、答えない。
ただ、ヒノの喉から、聞いたこともない低い音が漏れた。
そして、タマだけが。
いつものまんまるの目で、きょとんと、俺を見上げていた。
……こいつだけ。何も、感じてない。
いや。違う。
――慣れてるんだ。
ダンジョンの温度が、すっと下がった。
あれだけ湧いていた魔物の気配が、一匹残らず、消えた。
逃げた?
獲物のはずの、俺たちから?
四匹が見つめる壁に、俺は、手を伸ばした。
指先が触れた岩に、模様があった。
古い、掘り込み。
タマの首の、"父さんの首輪"と、同じ模様だ。
どく、と。
腕の中で、タマの心臓が、跳ねた。
そして――スキル欄。
スキル:???
その「???」が、一瞬。
俺にだけ読める四文字に、変わった。
スキル:たすけて
消えた。
……え。
タマが、俺を見上げる。
いつもの、あの目で。
尻尾を振って、甘えるみたいに、頬をすり寄せてくる。
あったかい。
いつもの、タマだ。
なのに。
その体は、さっきから、ずっと。
小刻みに、震えている。
――強いから、じゃない。
こいつは、ずっと。
何かから、俺を、守ってるんじゃないか。
それとも。
俺が、守られてる側だと、思い込まされて――
背筋を、冷たいものが、駆け上がった。
この子は。
俺の、相棒は。
いったい、いつから、"運がいい"んだ?
───────
【あとがき】
……最後、タマのスキルが一瞬だけ「たすけて」に見えた人。
それ、気のせいじゃないです。
ここで、正直に選んでほしい。
① タマは、ただ強いだけ
② タマは、何かに"守られている"
③ そもそも、あれは"運"じゃない
①を選ぶ人は、たぶん、まだ大丈夫。
②を選ぶ人は、勘がいい。
……③を選んだ人は――もう、気づいてしまった側です。
あなたは、①②③、どれ?
そして――タマの震えは、"守ってる"から? それとも"怯えてる"から?
コメント、ひとつだけ残していってください。
選ばないまま次を読むと、たぶん、もっと気持ち悪くなるので。




