第29話 五匹の、軍団
軍団が、五匹に、なった。
遊撃のタマ。火力のヒノ。壁のゴロ。飛行のソラ。そして、支えのナギ。
攻めも、守りも、支えも――揃った。
……なら、次の一手は、決まってる。
俺は、B組の、その上へ。A組への、昇格戦に、名乗りを上げた。
A組。特進の、すぐ下。
この学園で、指折りの、エリートたちが、集まるクラスだ。
正直、ちょっと前の俺なら、無謀だった。
でも――ゴロが進化して、ナギが加わって。軍団の"形"が、完成した。
一匹の強さじゃ、まだ届かないかもしれない。
でも、五匹で噛み合えば。……格上だって、喰える。
「本気かよ、天野……」
タケが、心配そうに、言う。
でも、俺は、頷いた。
地力は、つけた。仲間も、揃った。
……今なら、届く。
昇格戦、当日。
闘技場の向こうから、A組の代表が、歩いてくる。
火村、と名乗った。
自信に、満ちた、鋭い目。……いかにも、エリート、って感じだ。
その隣に、のっそりと、一匹の竜が、続く。
赤黒い、鱗。全身から、ゆらゆらと、陽炎が立ちのぼり、口の端から、火の粉が、こぼれている。
……大きい。うちのヒノとは、比べ物にならない、堂々とした、成竜だ。
俺は、ステータスを見た。
ブレイズ・ドラゴン
属性:炎
資質ランク A レベル30
……ランクA、レベル30。炎属性。
レベルの数字だけなら、ゴロ(Lv37)も、タマ(Lv32)も、上だ。
でも、油断はしない。
資質ランクってのは、レベル上限だけじゃなく、"一発の重さ"そのものを、決める。
A級のLv30は、うちみたいな低ランクの同じレベルとは、比べ物にならない。……一匹の地力は、桁違いなんだ。
それでも俺が、こいつらを、Lv30も超えて育ててきたのは――その"才能の差"を、育成で、埋めるためだ。
「B組ふぜいが、A組に挑戦とはね」
火村が、鼻で笑う。
「うちのブレイズは、炎を極めた、正真正銘のエリートだ。……お前の、寄せ集めの軍団なんて、まとめて、灰にしてやるよ」
……炎を、極めた、か。
でも、俺は、笑ってた。
なぜなら――こっちには、その炎の、"答え"が、揃ってるからだ。
炎に強い、岩の壁――ゴロ。
炎の天敵の、水――ナギ。
こいつの炎は、うちの軍団にとっちゃ、いちばん、御しやすい相手だ。
……さあ。見せてやる。ハズレの、五匹の、本気を。
『――両者、はじめ!』
合図と同時に、ブレイズが、大きく息を吸い込んだ。
ゴオオオォッ!!
巨大な、火柱が、俺たちめがけて、吹き荒れる。
……すさまじい、火力だ。まともに食らえば、一瞬で、丸焦げだ。
でも。
「ゴロ! グランド・ウォールだ!」
「グモォォン!!」
進化したゴロが、地面を踏みしめる。
その足元から、ずずん、と、岩の防壁が、ぐるりと、せり上がった。
……味方全体を、囲う壁。
炎の奔流が、その岩壁に、ぶつかって――止まる。
しかも、だ。
ゴロは、岩属性。炎は、岩には、通りにくい。
うちの壁は、炎の前でこそ、いちばん、頼りになる。
ブレイズが、なおも、炎を吐き続ける。
ゴオオォッ、ゴオオォッ、と。
闘技場が、真っ赤に染まる。それでも、ゴロの岩壁は、びくともしない。
観客席が、どよめいた。……あのブレイズの猛攻を、完全に受け止めてる、と。
「なにっ……!? 俺の炎を、防いだだと!」
火村の余裕が、初めて崩れた。
でも、防ぐだけじゃ、勝てない。
ここからだ。……ナギ。お前の、初陣だ。
「ナギ! 出番だぞ! あの炎を、消してやれ!」
「コポポ!」
ゴロの壁の陰から、ちいさなナギが、ぷるん、と身を乗り出す。
そして――ぷしゅうう、と、大量の水を、噴き出した。
じゅうううっ……!
ブレイズの、燃え盛る炎が。
ナギの水を浴びて、みるみる、勢いを、失っていく。
「な……その、ちびドラゴンが……!?」
そう。水は、炎の、天敵だ。
どんなに、炎を極めた竜だって。頭から、水を、かけられちゃ、たまらない。
火村は、きっと、思ってる。
攻撃も、できない、あんな支援の竜、ハズレだ、って。
……でも。攻撃が、すべてじゃない。
炎を消す、その一手が。今、この戦いを、ひっくり返した。
「今だ! ヒノ、タマ、ソラ! 一気に、畳みかけろ!」
水を浴びて、勢いの落ちた、ブレイズへ。
ヒノの炎が、追い打ちをかける。
そして、ソラが、上空から、雷を落とした。
……水に濡れたブレイズに。雷は、いつもの何倍も、深く突き刺さる。
ナギの水は、火を消すだけじゃない。雷の通り道にも、なったんだ。
痺れて、動きの止まった、その巨体へ――タマが、横合いから、渾身の一撃を、叩き込む。
タンッ、ドガアッ!!
Lv31まで育った、タマの体当たり。
水で、火勢を削がれ、雷で、痺れた、ブレイズの巨体が――大きく、傾いだ。
どうっ、と。
成竜のブレイズが、崩れ落ちる。
『――勝負あり! 勝者、天野ソウマ!』
……勝った。
A組の、エリートを。炎を極めた、成竜を。
火村が、呆然と、膝をつく。
「馬鹿な……。一匹一匹は、格下のはずだ。それが、どうして……」
「一匹じゃ、勝てなかった」
俺は、静かに言った。
「壁が、炎を止めて。水が、火を消して。そこに、火力と、雷と、刃が、乗る。……五匹、全員で、一つの生き物みたいに、戦う。それが、軍団だ」
攻めのタマ、ヒノ、ソラ。守りのゴロ。そして――支えの、ナギ。
欠けたら、勝てなかった。全員で、掴んだ、勝ちだ。
火村は、しばらく、言葉を失っていた。
それから、崩れ落ちた自分のブレイズを、そっと抱きしめて。
「……悪かったな、ブレイズ。お前が弱いんじゃない。俺が、"軍団"ってやつを、甘く見てた」
……お。こいつも、根は、悪いやつじゃ、ないらしい。
その瞬間、頭に、いつもの感覚が走る。
タマ Lv31 → 32
ヒノ Lv25 → 27
ゴロ Lv35 → 37
ソラ Lv24 → 26
ナギ Lv1 → 8
特に、ナギ。初陣で、大手柄。ぐっと、伸びた。
「コポ!」
ナギが、俺の足元で、うれしそうに、ぷるん、と揺れた。
……よくやった、ナギ。お前は、もう、立派な、軍団の一員だ。
ヒノが、「兄ちゃんの、次に、活躍したな!」って、はしゃいで、ナギにじゃれつく。ナギは、うれしそうに、また、ぷるんと揺れた。
そして、これで。
俺は、ついに――A組へ。
ハズレ組から、E、D、C、B、そして、A。……あと、一つ。
その上には、特進。霧島レイたちの、いる場所。
さらに、その先に――鷹宮。
闘技場の高い窓に、また、円城寺の影が、あった気がした。
……上に行くほど、父さんの、あの日に、近づく。
榊先生の、言葉も、よぎる。目立つほど、危ない、と。
……それでも、止まらない。
これは、父さんが、証明しようとした、道だ。
ハズレでも、育てれば、最強に届く。
俺と、この五匹で――てっぺんまで、走りきる。
……上等だ。
ハズレ軍団、A組へ。
残る壁は、あと、わずかだ。
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【あとがき】
第二十九話、読んでくれてありがとうございます!
五匹そろった軍団で、いよいよA組への昇格戦。相手は、炎を極めたエリート・火村と、成竜のブレイズ・ドラゴン(ランクA)。一匹一匹の格では、ソウマの軍団は格下です。
でも、今回の主役は――新入りのナギ。「攻撃が弱い支援タイプ=ハズレ」と侮られたナギの"水"が、炎の天敵として炸裂しました。ゴロのグランド・ウォールで敵の炎を止め(岩は炎に強い!)、その陰からナギが水で火を消す。守りと支えがあってこそ、タマ・ヒノ・ソラの攻めが通る。「一匹の弱点は、みんなで補える」「攻撃だけが強さじゃない」――五匹が一つの生き物のように戦う、軍団の完成形を見せたかった回です。
ソウマはついにA組へ。残るは特進、そして鷹宮。頂は、もう目前です。
一方で、円城寺の影と、榊先生の警告。上に行くほど、父の"あの日"に近づいていきます。
▼次回予告
ついにA組。頂点の特進、そしてS級の鷹宮が、視界に入る。
深まる父の謎――物語は、いよいよ核心へ。
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次回も、お楽しみに!




