第28話 五匹目は、水の子
ゴロの進化から、しばらく。
俺は、軍団の"穴"について、考えていた。
タマ(無)、ヒノ(炎)、ゴロ(岩)、ソラ(雷)。
四匹、いい編成だ。……でも、弱点もある。
水属性の敵。あの、汐見のタイダル。岩窟の主みたいな、硬い岩。
……そういう相手に、こっちから強く出られる手が、少ない。
水は、炎にも、岩にも、強い。
……水の仲間が、一匹、欲しいな。
しかも――五匹目だ。
ハズレ卵ひとつから始まった軍団が、とうとう、片手に乗らなくなる。
……父さんが夢見た、"軍団"に。少しずつ、近づいてる気がした。
じいちゃんに、相談すると。
「なら、タマに産んでもらえばいい。……ただし、"厳選"だ」
「厳選?」
「産まれる卵の種はな。直前に、どんな相手と、どんな場所で戦ったかで、変わる。……水の子が欲しけりゃ、水の魔物と、水辺でやり合ってから、産ませるんだ」
……なるほど。狙って、属性を、引く。
これも、育成の腕、ってわけだ。
訓練ダンジョンの、地下水脈。
じめじめした、水の流れる層だ。
今日は、狙いが、二つある。
ひとつは、水属性の魔物と、たっぷり戦って、タマに"水の記憶"を刻むこと。
もうひとつは――ソラと、タマの、レベル上げだ。
この二匹、まだまだ、伸びしろがある。ここらで、ぐっと、底上げしておきたい。
そして、水辺の魔物は。面白いくらい、ソラと、相性がよかった。
ウォーター・サーペント
属性:水
レベル20
青黒い、大蛇みたいな、水の魔物。
体が半分、透きとおった水でできていて、ぬめり、と、水面を滑ってくる。
「ソラ! 雷を、落とせ!」
「ピィッ!」
ソラの雷が、水の大蛇に、突き刺さる。
水は、雷を、よく通す。……一撃だ。
水属性の敵に、ソラの雷は、無敵だった。
次から次へと現れる水の魔物を、ソラが、面白いように、狩っていく。
その合間を、タマが、鋭く突く。
……二匹とも、みるみる、レベルを、上げていった。
タマ Lv28 → 31
ソラ Lv19 → 24
うん。いい狩りだった。
ソラの雷は、ますます鋭く。タマの一撃も、重くなった。
そして――タマの中には、"水と戦った"経験が、たっぷり、刻まれたはずだ。
俺たちは、いったん、ダンジョンを出た。
……産卵は、こういう大事なことは。ちゃんと、外に出て、落ち着いた場所で、やる。
狩りの興奮が冷めた、その日の夕方。家の庭で、俺は、タマに頼んだ。
「タマ。……頼めるか。水の子を」
「キュルッ」
タマが、ふん、と胸を張る。まかせろ、って顔だ。
Lv31まで育ったタマの産卵は、もう、ずいぶん軽い。段階解放だ。
ぼう、と光って――ことり、と、卵が転がった。
今度の殻は……澄んだ、水色。中で、たぷたぷ、と、水の揺れる音がする。
……狙いどおり。水の、卵だ。
その卵は、わりと、すぐに孵った。
殻を割って、出てきたのは――
まんまるで、半透明の、水色の、小さな竜。
ぷるぷる、と、まるで水の塊みたいな体。つぶらな瞳で、きょとん、と、俺を見上げている。
資質ランク D
属性:水
タイプ:支援・制御
「コポ?」
……支援・制御?
攻撃タイプじゃ、ないのか。
試しに、戦わせてみると。
……うん。正直、攻撃は、弱い。
レイのアクアみたいに、水の槍を撃つ、なんて芸当は、できない。
その辺の魔物にすら、押されそうだ。
「……なんだ。ハズレ、か?」
って、思いかけて。
……いや。待て。俺は、そういう考え方を、いちばん嫌ってたはずだ。
よく、見てみる。
この子は――水を、"操る"のが、うまい。
ためしに、ヒノに火を吹かせてみると。
この子が、ぷしゅう、と、水の膜を張って――炎を、まるごと消してしまった。
地面に水を撒けば、足場が、ぬかるむ。敵の動きを、鈍らせる。
傷ついたゴロに、水をかけてやると……なんだか、少し、元気になった気がする。
……これだ。
こいつは、"戦う"んじゃない。"支える"んだ。
炎を消し、足場を操り、みんなを、いたわる。
攻撃だけが、強さじゃない。……こういう子が一匹いると、軍団は、ぐっと、しぶとくなる。
思い出すのは、汐見の、あの水戦。岩窟の主との、削り合い。
……もし、あのとき、ナギがいたら。
敵の水を、いなし。傷ついたゴロを、いたわり。ヒノの炎を、蒸気に変えるのだって、もっと楽になる。
攻撃力は、数字に出る。でも、"支える力"は、数字には出ない。
……そういう強さも、あるんだ。
どんな竜にも、活かし方がある。
……父さんの、口癖が。すとん、と、腑に落ちた。
「お前は……ナギ、だ」
凪いだ水面みたいに、穏やかな、この子。だから、ナギ。
「コポポ!」
ナギが、嬉しそうに、ぷるん、と揺れた。
ほかの四匹も、わらわらと、寄ってきた。
ヒノが、「弟か!? 妹か!?」って、はしゃいで、匂いを嗅ぐ。
ソラが、ナギの上を、ぱたぱた、飛び回る。
ひとまわり大きいゴロは、のっそり見下ろして――「グモ」と、優しく鳴いた。
そして、タマ。
産みの親のタマが、ナギを、ぺろっと、舐めた。……なんだか、いつもより、母親みたいな顔だ。
ナギは、みんなに囲まれて、うれしそうに、「コポ」と、小さな水しぶきを上げた。
じいちゃんが、ナギを見て、言った。
「そいつは、資質D。……順当に育てて、進化させりゃ、Bあたりまでは行けるだろう。ごく普通の、いい子だ」
……普通の、いい子。
そうか。ナギは、D生まれ。進化は、二回まで。D→C→Bで、打ち止め。それが、この子の天井だ。
ふと、俺は、肩のタマを見た。
……タマは、資質E。本当なら、ナギより低い。天井も、もっと低いはずだ。
なのに――タマだけは、レベルの上限が、ない。どこまでも、伸びていく。
じいちゃんも、円城寺も、口をそろえる。タマは、"規格外"だ、と。
……お前は、いったい、どこまで行くんだ。タマ。
ナギみたいな、"普通"の物差しじゃ、測れない、何かを。お前は、抱えてる。
でも――今は、それでいい。
規格外のタマも。普通の、いい子のナギも。
どっちも、俺の、大事な軍団の、仲間だ。
五匹に、なった。
タマ、ヒノ、ゴロ、ソラ、そして――ナギ。
攻めの手も、守りの手も、支える手も、揃ってきた。
遊撃のタマ。火力のヒノ。壁のゴロ。飛行のソラ。そして、支えのナギ。
役割が、また一つ増えて――軍団の"形"が、また一段、しっかりしてきた。
一匹じゃ、届かない。でも、五匹なら。届かないものなんて、もう、ない気がした。
……上等だ。
これで、水の敵にも、硬い岩にも、もう、後れは取らない。
次は、いよいよ――A組。その上の、特進。そして、鷹宮。
ひとまわり大きくなった、ゴロの背中で。
生まれたてのナギが、ちょこん、と乗っかって、「コポ」と鳴いた。
……にぎやかに、なったなあ。
ハズレ卵から、始まった、この軍団は。
まだまだ、大きくなる。父さんの、夢の続きへ。
───────
【あとがき】
第二十八話、読んでくれてありがとうございます!
五匹目の仲間――水属性の「ナギ」が、軍団に加わりました!
狙ったのは水属性。軍団は、水や硬い岩の相手に弱かったので、その穴を埋める一手です。産卵は「直前に戦った相手・場所で種が変わる」ので、地下水脈で水の魔物を狩って"水の記憶"を刻み、ダンジョンを出て落ち着いてから産ませる"厳選"です。狙いどおり水の子が生まれ、ついでにこの狩りでソラ(Lv24)とタマ(Lv31)も、ぐっとレベルアップしました。
でもナギは、攻撃が弱い"支援・制御"タイプ。一瞬「ハズレ?」とよぎる――けれど、炎を消し、足場を操り、仲間をいたわる。攻撃だけが強さじゃない。「どんな竜にも活かし方がある」という父の口癖が、すとんと腑に落ちる回でした。
そして、進化の器の話も。ナギはD生まれ=進化は二回、D→C→Bが天井の"普通のいい子"。……それと比べて、資質は最低のはずなのに上限のないタマの"規格外"さが、より際立ちます。タマは、いったいどこまで――?
攻め・守り・支えが揃い、軍団は五匹に。いよいよ、上位クラスへ。
▼次回予告
五匹に増えた、ハズレ軍団。いよいよA組への挑戦か――。
そして、深まるタマの謎と、父の影。
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次回も、お楽しみに!




