第27話 父を知る、教官話
B組に上がって、初めての、実技の授業。
担当の教官は、榊先生――だった。
白髪まじりの、いかつい中年の男。
現役時代は、名の知れたフィールドテイマーだったらしい。厳しいことで、有名だ。
その日の授業は、対人形式の、模擬戦だった。
榊先生が、腕を組んで、生徒の戦いを、じっと見ている。ひとつのごまかしも、見逃さない目だ。
俺の相手は、B組の、そこそこ強いやつ。一体の、鍛え上げた竜を、使ってくる。
……堂々とした、良い竜だ。一体を極める、"正統派"。
でも、俺は――四匹だ。
「ゴロ、壁! ヒノ、後ろから! ソラ、上を取れ! タマ、隙を突け!」
ゴロが前で受け、ヒノが焼き、ソラが上から揺さぶり、タマが横から抜く。
一体で、四方向を守れるわけが、ない。
じわじわと追い詰めて――やがて、完全に、抑え込んだ。
……勝った。
でも――周りの反応は、微妙だった。
「なんだよ、あれ。竜を、四匹も。……一体を極めるのが、テイマーだろ」
「数で、押してるだけじゃないか」
……はいはい。上のクラスは、みんな、そう言う。
一体の強い竜を、極める。それが、"正しい"テイマー。
軍団なんて、邪道だ、ってな。
……でも、俺は。気にしない。
邪道でも、なんでも。勝てればいい。守れれば、いい。
この四匹が、いてくれれば――それで、じゅうぶんなんだ。
でも。
教官の、榊先生だけは。
じっと、俺の四匹を、見つめて、動かなかった。
その目が――なぜか、少し、揺れているように、見えた。
「……天野ソウマ」
授業のあと。榊先生に、呼び止められた。
「お前の、その戦い方。……誰かに、習ったのか」
「いえ。……独学、っす。弱い竜でも、育てて、みんなで補い合えば、強くなれる。……そう、思ってるだけで」
榊先生は、しばらく黙って。
それから、ふっと、遠い目をした。
「……そっくりだな。あいつに」
「あいつ?」
「天野。……お前の、父親だよ」
……!
父さんを。この人も、知ってるのか。
「俺は、お前の父さんと、同期でな。若い頃、この学園で、一緒に、竜を育ててた」
榊先生の声が、少し、やわらかくなる。
「あいつは……変わったやつだった。誰もが、才能のある竜を欲しがる中で。あいつだけは、"ハズレ"を拾ってきちゃ、育ててた。"どんな竜にも、活かし方がある"――が、口癖でな」
榊先生が、ふっと、笑った。懐かしむみたいに。
「一度、こんなことが、あってな。誰も見向きもしない、病気がちの、ちびドラゴンがいた。育たない、って、みんなが匙を投げた。……でも、あいつは、諦めなかった。何日も、寝ずに、そいつに付きっきりで、な」
「……それで、どうなったんすか」
「立派な相棒に、なったよ。あいつの、一生の。……お前の、その灰色のと。ちょっと、似てるかもな」
俺は、思わず、肩のタマを、見た。
……父さんも。誰かに笑われた竜と。こうやって、始めたのか。
……それは。
まるで、俺が、いつも言ってることと。同じだ。
「あいつは、本気で信じてた。生まれつきの才能で、竜を切り捨てる。そんな学園を――変えたい、ってな。ハズレでも、育てれば最強に届く。それを、証明しようとしてた」
胸が、熱くなった。
……父さん。あんたも。俺と、同じ道を、歩いてたのか。
会ったことも、ほとんど、ないのに。……血、なのかな。
「先生。……父さんは。どんな、人でしたか」
ずっと、聞きたかった。写真でしか、知らない。父さんのこと。
榊先生は、少し、考えて。
「……まっすぐな、馬鹿だったよ。損得なんて、考えない。弱いやつを、放っておけない。……敵も、多かった。けど、慕うやつは、もっと、多かった」
……そっか。
なんだか、その"馬鹿"が。少しだけ、誇らしかった。
でも――榊先生の顔が、ふっと、曇った。
「……だが、それが、気に入らない連中も、いた」
声を、落とす。
「才能で竜を選び、値をつけ、序列をつける。……この学園の"上"は、その仕組みで、成り立ってる。あいつの考えは――その根っこを、揺るがすものだった」
……。
「あいつは、目立ちすぎた。強くなりすぎて、影響力を持ちすぎた。そして――ある日、"事故"で、いなくなった。……都合よく、な」
榊先生の、こぶしが、握られる。
……その"事故"を。この人も、信じちゃいない。じいちゃんと、同じだ。
……才能で、序列をつける、学園の"上"。
その仕組みを、揺るがしたから。父さんは、消された。
もし、それが、本当なら。
俺が今、やってることは――父さんが、やろうとして、潰されたこと、そのものだ。
背筋が、ひやりとした。
……でも。それでも。
やめる気は、なかった。むしろ――やってやる、って気持ちのほうが、ずっと強かった。
「すまん。……昔話だ。忘れてくれ」
でも、俺は。忘れられ、なかった。
榊先生は、去り際に、俺の肩に、手を置いた。
「天野。……お前のその軍団は、大したもんだ。あいつの、夢の、続きだよ」
そして――低い声で、付け加えた。
「だが、気をつけろ。上に行くほど……お前は、目立つ。父親と、同じように、な。……"上"の連中に、目をつけられる前に。本物の力を、つけておけ」
そして――少しだけ、声を、やわらげた。
「困ったことが、あったら……いつでも、来い。あいつの、息子なら。俺は、味方だ」
ぶっきらぼうだけど。その言葉が、じんわり、あたたかかった。
……この学園にも。ちゃんと、味方が、いる。
……上に行くほど、目立つ。
円城寺も、同じことを、言っていた。上に行くほど、父さんの、あの日に近づく、と。
……繋がってる。ぜんぶ、どこかで。
でも――だからって、止まる気は、ない。
父さんが、証明しようとして、できなかったこと。
ハズレでも、育てれば、最強に届く。
それを――俺が、この軍団で、てっぺんまで行って、証明してやる。
それがきっと。会えなかった、父さんへの。いちばんの、答えだ。
顔も、声も、ほとんど覚えてない。
でも――その"夢"だけは。確かに、俺が、受け継いでる。
俺の肩で、タマが、父さんの首輪を、揺らして、「キュルッ」と鳴いた。
まるで、「そうだ」って、言うみたいに。
……上等だ。
父さんの、夢の続きを。俺が、走りきってやる。
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【あとがき】
第二十七話、読んでくれてありがとうございます!
今回は、学内の実技授業から。担当教官の榊先生は、実は――ソウマの父の、若い頃の同期でした。
語られたのは、父の"人となり"。誰もが才能ある竜を欲しがる中で、父だけは「ハズレ」を拾って育て、「どんな竜にも活かし方がある」「ハズレでも育てれば最強に届く」と信じ、才能主義の学園そのものを変えようとしていた――。それは、ソウマが独学でたどり着いた考えと、まったく同じ。会ったこともない父と、同じ道を歩いていた、という繋がりです。
そして、父が"消えた"理由の輪郭も。才能で竜を序列づける学園の"上"にとって、父の思想は都合が悪かった。目立ちすぎた父は、「事故」で消えた――榊先生も、じいちゃんも、それを信じていません。円城寺の警告とも、静かに繋がります。
ソウマの快進撃は、父の夢の続き。テーマの根っこが、物語の核心に触れた回でした。
▼次回予告
父の理想を継ぐと知ったソウマ。その歩みは、いよいよ上位へ。
A組、特進――そして、"上"に潜む真実へ。
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次回も、お楽しみに!




