第25話 ハズレ組、深層へ
B組に上がって、しばらく。
放課後の廊下で、俺は、呼び止められた。
「あ、あの……天野、くん」
振り返ると、そこに、いたのは。
……ノノだった。合同練習で会った、E組の、あの気弱な子。
足元には、相棒のモグが、もそもそ、している。
「久しぶりだな、ノノ。……どうした?」
ノノは、もじもじ、しながら。
それでも、ぎゅっと、こぶしを握って――顔を、上げた。
「私たち……E組で、もっと強くなりたくて。深い層で、レベル上げを、しようって、話になったの。……でも」
でも、と、ノノは続ける。
「私たちだけじゃ、深い層は、危なくて。……上級生にも、笑われて。"ハズレ組が、深層? 身の程知らずだ"って」
……なるほど。
むかっと、来た。上のやつらは、すぐ、それだ。
「それで……その、あつかましい、お願いなんだけど」
ノノが、真っ赤な顔で、言った。
「ソウマくんに……一緒に、来てほしくて。……ダメ、かな」
……。
俺は、ちょっと、驚いた。
あの、いつも小さくなってたノノが。自分から、俺を、誘いに来た。
……前を向いたんだな。ちゃんと。
断る理由なんて、あるわけがない。
「いいぜ。……つーか、光栄だよ。俺を、頼ってくれて」
ノノの顔が、ぱあっと、明るくなった。
その足元で、モグも、「モゴッ」と、嬉しそうに鳴いた。
次の休みの日。
訓練ダンジョンの入り口に集まったのは――にぎやかな面子だった。
タケと、相棒のドガ。
リクと、硬い樹皮のバリ。
ノノと、モグ。
そして、俺と、タマ、ヒノ、ゴロ、ソラ。
「うおー! B組のエースが味方だと、心強えなあ!」
タケが、げらげら笑う。
「へへ、おれのバリだって、成長したんだぜ! ……たぶん!」
リクが、胸を張る。足元のバリは、あいかわらず、のっそりしてるけど。
……こいつら、ほんと、雰囲気が明るくなった。初めて会ったときの、E組とは、大違いだ。
「エースじゃねえよ。……ただ、一緒に潜るだけだ」
でも――今日の主役は、俺じゃない。
こいつら、ハズレ組が、自分の力で、深層に挑む。俺は、その手伝いだ。
深い層に、下りていく。
E組の連中だけじゃ、とても来られなかった、深さ。
案の定、出てくる魔物は、格上ばかりだ。
でも、俺は、みんなに、こう言った。
「いいか。一匹の弱点は、みんなで補える。……それは、竜だけの話じゃない。俺たちテイマー同士も、同じだ」
バリの硬い樹皮で、前を受け止める。
その陰から、ヒノが火を吹く。ドガが、体当たり。
モグが、地面に潜って、敵の足元を崩す。
タマや、ソラが、隙を突く。
……ばらばらだった、ハズレ組が。
少しずつ、一つのパーティに、なっていく。
E組の連中の竜たちも――生き生きと、動きはじめた。
途中、ごつい岩の魔物が、道をふさいだ。
前なら、E組だけじゃ、引き返すしかなかった相手だ。
でも――今は、違う。
「リク、バリで前を! ノノ、モグで足元を掘って崩せ! タケ、ドガで押し込め!」
俺が指示を出すと、みんなの竜が、ばらばらだった動きを、ぴたりと合わせた。
バリが受け、モグが足場を崩し、ドガが体当たり。
……倒せた。E組の、みんなの力で。
「す、すげえ! おれたちで、倒せたぞ!」
リクが、飛び上がって喜ぶ。
その顔は、もう、"ハズレ"の顔じゃ、なかった。
順調に潜っていた、そのときだった。
ズズ……ズズズ……!
足元から、いやな震動。
次の瞬間――岩壁を突き破って、そいつが、現れた。
ケイブ・センチピード
属性:虫
レベル22
巨大な、百足みたいな魔物。
いくつもの脚を、ざわざわと蠢かせて。硬い甲殻に、覆われている。
しかも――そいつが暴れた拍子に。
天井の岩が、ごっそり、崩れた。
ガラガラガラッ!!
「きゃっ……!」
落石が、ノノとモグを――他のみんなから、分断した。
瓦礫の向こう側に、閉じ込められる。
「ノノ!」
まずい。こっちには、ケイブ・センチピード。
向こうには、ノノとモグが、孤立してる。
……くそっ。俺が、そっちに行ければ。
でも、瓦礫は、分厚い。タマの体当たりでも、崩すのに、時間がかかる。
その間に、あの百足が、向こうまで、回り込んだら――。
でも――そのとき。
瓦礫の向こうから、ノノの声が、聞こえた。
「だ、大丈夫! モグが、いるから!」
……そうだ。
モグは、土属性。地面を、掘る。
瓦礫なんて、モグにとっちゃ――ただの、通り道だ。
「モグ! お願い、掘って! みんなのところまで!」
「モゴォッ!」
モグが、ずぼっ、と地面に潜った。
瓦礫の下をくぐって――こっち側に、ひょこっと、顔を出す。
その掘った穴が――分断された俺たちを、つなぐ道に、なった。
……やるじゃないか、モグ。
"穴を掘るだけ"のハズレが。今、みんなの、命綱だ。
そして、ケイブ・センチピード。
虫には――炎が、よく効く。
「ヒノ! 焼き払え!」
「キュアアッ!」
ヒノの炎が、百足の甲殻を包む。
虫の魔物は、ひとたまりも、なかった。
じたばた暴れて――やがて、光の粒になって、消えた。
モグの掘った道から、ノノとモグが、戻ってくる。
ノノの顔は、瓦礫の埃で真っ黒で。でも――笑っていた。
「モグが……モグが、みんなを、助けたの!」
……ああ。
こいつは、もう、立派な戦力だ。ハズレなんかじゃ、ない。
その日、ハズレ組は。
自分たちだけじゃ、絶対に届かなかった深さまで、潜って。
全員、ぐっと、レベルを上げた。
タマ Lv22 → 24
ヒノ Lv19 → 21
ゴロ Lv21 → 24
ソラ Lv12 → 15
うちの四匹も。
特に、ゴロは、もうLv24。……進化の天井、Lv35が、少しずつ、見えてきた。
そして、E組の連中も。
自分の竜の、意外な強さを知って。前より、ずっと、いい顔をしてる。
帰り道。ノノが、ぽつり、と言った。
「……ソウマくんが、あのとき、モグを"すごい"って言ってくれたから。私、諦めずに、済んだの」
ノノは、モグを、そっと抱きしめて。
「だから……いつか、ソウマくんに、恩返しがしたくて。今日、その、ちょっとでも……近づけてたら、いいな」
……ばか。
恩返しなんて、いらないよ。
お前が、前を向いてくれた。それだけで、俺は――じゅうぶん、嬉しいんだ。
「恩返しなんて、気にすんな。……それより、今日のモグ。むちゃくちゃ、かっこよかったぞ。お前の相棒、本物だ」
その言葉に。
ノノは、ぱあっと、笑った。モグも、得意げに、「モゴ」と鳴く。
……上のクラスは、才能で、切り捨てる。
でも、ハズレ組は、こうやって、支え合って、伸びていく。
一人が、みんなを。みんなが、一人を。
……それが、俺の、いちばん好きな、強さの形だ。
……上等だ。
ハズレ組の快進撃も。俺の軍団と一緒に――まだまだ、続く。
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【あとがき】
第二十五話、読んでくれてありがとうございます!
今回は、B組に上がったソウマが、E組のノノに"誘われて"の、合同レベル上げ回。第22話で前を向いたノノが、今度は勇気を出して、自分からソウマを頼りに来る――関係が、ひっくり返りました。助けられた側が、助けを求められる側に。ソウマが、E組にとって特別な存在になった証です。
深層では、落盤のピンチ。そこで輝いたのが、モグの"穴を掘るだけ"の力。瓦礫を掘り抜いて、分断された仲間をつなぐ命綱に。かつて「ハズレ」と言われた竜が、みんなを救う――最高の見せ場でした。虫の魔物には炎がよく効く、という相性で、ヒノの出番も。
軍団も、E組も、まとめてレベルアップ。ゴロもLv24まで来て、進化の天井Lv35が見えてきました。
「一人がみんなを、みんなが一人を」。ソウマの好きな、強さの形が詰まった回です。
▼次回予告
着々と力を蓄える、ハズレ軍団。
ゴロの進化、そして上位クラスの強豪――物語は、次の大きな一歩へ。
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次回も、お楽しみに!




