第23話 進化への、一歩
E組の合同練習から、数日。
俺は、家の庭で、四匹のステータスを眺めながら、唸っていた。
タマ Lv19(上限なし)
ヒノ Lv15(上限35)
ゴロ Lv12(上限35)
ソラ Lv4(上限50)
……問題は、これだ。
タマは、上限がない。どこまでも伸びる。
でも、ヒノもゴロも、資質はD。上限は、Lv35で止まる。
その先の、A組。特進。そして、鷹宮の、S級Lv58。
……このままだと、こいつらは、いつか天井にぶつかる。生まれつきの、才能の壁に。
軍団で数を並べても、一匹一匹が頭打ちじゃ、いつか限界が来る。
どうする。どうすれば、こいつらを、天井の、その先へ――。
「ソウマ」
縁側から、じいちゃんの声がした。
「さっきから、辛気くさい顔して。……何を悩んでる」
「……ドラゴンの、天井のこと。資質ランクの上限。あれ、どうやっても、破れないのかなって」
じいちゃんは、ふっと笑った。
それから、湯呑みを置いて、こう言った。
「破れるさ。――"進化"って、やつでな」
……進化?
「昔ながらの、育て屋の知恵だ。今どきの、札束テイマーは、忘れちまったがな」
じいちゃんが、ゆっくりと、語りだす。
「ドラゴンってのはな。ある条件を満たすと、"進化"する。姿が変わって、格が、一つ上がるんだ。……そう。資質ランクが、DならCに。生まれつきの天井が、丸ごと、引き上がる」
……マジか。
資質ランクが、上がる。上限が、上がる。
それは――生まれつきの才能を、後から、塗り替えるってことだ。
俺の中で、ゲーマーの血が、沸き立った。
それだよ。それこそ、俺が探してた、答えだ。
「条件は、二つ。ひとつ、その竜が、今のランクの上限まで、育ってること。ふたつ――その竜に合った、"進化素材"が、揃ってること」
「進化素材……」
「ダンジョンの奥で採れる、特別な代物だ。竜の属性ごとに、必要なものが違う。……なに、お前なら、集められるさ」
「ただし――覚えとけ。進化は、上に行くほど、きつくなる。ランクが上がるごとに、要る素材は、どんどん増えるんだ。数も、質もな。……最初の一段は、まだ、優しいほうさ」
……なるほど。
上のランクの進化ほど、難業になる、ってわけか。
でも――それは、望むところだ。コツコツ積み上げるのは、俺の、いちばん得意なやつだからな。
じいちゃんの目が、ふと、遠くを見た。
「……お前の父さんも、そうやって、相棒を進化させたよ。何度も、な」
父さんも。
……また、父さんだ。胸の奥が、ちくりとする。
でも、今は。目の前の、こいつらのことだ。
俺は、足元の四匹を、見回した。
そして――のっそり、あくびをしてるゴロで、目を、止めた。
「ゴロ。……お前から、いくか」
うちの、動かない壁。
いつも、みんなを守って、耐えて。地味だけど、いちばん頼りになる、こいつを。
もっと頑丈な――本物の、要塞に、してやりたい。
「じいちゃん。ゴロは、岩属性だ。進化には、何が、いる?」
「岩の竜なら……"大地の竜玉"だな。ダンジョンの、ずっと深く。"岩窟の主"って、でかいのが守ってる、貴重な代物だ」
大地の竜玉。岩窟の主。
……なるほど。行き先は、分かった。
でも――俺は、ゴロのステータスを見て、逸る気持ちを、抑えた。
ゴロ Lv12(上限35)
……そうだ。順番を、間違えちゃいけない。
ゴロは、まだLv12。進化に必要な、上限のLv35には、ほど遠い。
今、慌てて、素材だけ取ってきたって。ゴロが、上限に届いてなきゃ、進化はできない。宝の持ち腐れだ。
先に、やるべきことは、ひとつ。
ゴロを、育てることだ。Lv35まで。とことん。
素材を取りに行くのは――ゴロが、進化の一歩手前まで、来てから。それで、いい。
「ゴロ。……長い道のりに、なるぞ。付き合って、くれるか」
「グモッ」
ゴロが、めずらしく、力強く、鳴いた。
……そうか。お前も、その気か。
タマも、ヒノも、ソラも、ゴロの周りに、集まってきた。
まるで、「次は、ゴロの番だな」って、応援してるみたいに。
……そうだ。軍団ってのは、こういうもんだ。誰かの番のときは、みんなで、支える。
次の日から、俺は、軍団まるごとの、レベル上げに、本腰を入れた。
進化を狙うゴロ、だけじゃない。タマも、ヒノも、ソラも、まとめて、強くする。
……そうだ。一匹だけ突出したって、軍団は、強くならない。全員で、底上げする。それが、俺の戦い方だ。
訓練ダンジョンの、深い層。
四匹で、格上の魔物を、来る日も来る日も、狩り込んでいった。
タマは、より速く、鋭く。ヒノの炎は、より太く。ソラの飛び方も、日ごとに、様になっていく。
そして、ゴロ。
じいちゃんの教えは、こうだった。
「壁の竜はな。殴られて、耐えて、また立つ。その繰り返しでしか、本物の硬さは、身につかん」
ゴロは、前線で、格上の一撃を、ひたすら受け続けた。
ある日は、俺が「もう下がっていいぞ」と言っても、動かなかった。
まだ、やれる。まだ、耐えられる。……そう言ってるみたいに、踏ん張り続ける。
のんびり屋のこいつに、こんな負けん気が、あったなんてな。
そうして、日が経つごとに。
四匹は、みるみる、育っていった。
タマ Lv19 → 21
ヒノ Lv15 → 18
ゴロ Lv12 → 20
ソラ Lv 4 → 8
軍団全体が、一段、底上げされた。
その中で、ゴロも――着実に、進化の天井、Lv35へと、近づいていく。
……とはいえ。
ゴロは、まだLv20。上限の35までは、まだ、道半ばだ。
進化は、その、ずっと先。
でも――確実に、近づいてる。この、一段ずつの積み重ねの、先に。
その夜。庭で、ゴロが、ぐっすり眠っていた。
でかい、いびきをかいて。
……こいつが、いつか進化して。本物の要塞に、なる。
その日を想像するだけで、なんだか、わくわくした。
地味な壁のゴロが、いつか、みんなを守る、鉄壁の要塞に。……それを、この手で、育て上げるんだ。
……なあ、父さん。
あんたも、こうやって、相棒を、少しずつ育てて、進化させたのか。
その道の先に、何があったのかは――いつか、必ず、確かめる。
でも、今は。
目の前の、こいつらを、まっすぐ育てる。それだけだ。
……上等だ。
ゴロの進化まで、あと、Lv15。
ハズレ軍団の、次の一歩は――地道な、育成の、その先にある。
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【あとがき】
第二十三話、読んでくれてありがとうございます!
今回から、新システム「進化」が動き出します。
資質ランクは、生まれつきの天井。でも、上限まで育てて、進化素材を集めれば――ランクごと引き上げて、その天井を破れる。「ハズレでも、育てれば最強に届く」を、システムでも裏づける第二の成長軸です。じいちゃん(育成の職人)の出番でした。しかも、上のランクほど必要な素材は増える――進化は、上に行くほど難業です。
最初の進化対象は、うちの壁・ゴロ。岩竜の進化には〈上限Lv35到達+大地の竜玉〉が必要。……ですが、ゴロはまだLv12。焦って素材から取りに行っても、上限に届いていなければ進化できません。
だから今回は、順番を守って、まず"軍団まるごと"のレベル上げに専念。一匹だけ突出させるんじゃなく、全員で底上げ――タマ21・ヒノ18・ゴロ20・ソラ8まで成長しました。その流れの中で、ゴロも進化の天井Lv35へ着実に前進。進化の本番は、その先です。
そして、さらりと出た「父さんも相棒を進化させた」というじいちゃんの言葉。父の謎も、静かに転がり続けます。
▼次回予告
進化という目標に向けて、育成の日々が続く。
その先に、大地の竜玉――そして、上位クラスの壁が待つ。
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次回も、お楽しみに!




