第21話 頭上からの、一撃
昇格戦、当日。
第三訓練場の闘技場に、俺は四匹を連れて立った。
タマ、ヒノ、ゴロ。そして――頭の上で、そわそわしている、ソラ。
ソラは、今日が、初めての実戦だ。
「ピィ……ピィッ」
落ち着け、って言っても、聞きゃしない。
まあ、その元気は、頼もしいけどな。
観客席から、タケの声が、飛んできた。
「ソウマー! そのチビ助の初陣、見せてやれー!」
……チビ助、って。まあ、間違っちゃ、いないか。
俺は、頭の上のソラを、指で、つついた。
「ソラ。緊張してるか? ……大丈夫だ。お前の"上空"は、俺たちにない武器だ。信じてる」
「ピィ」
ソラが、ちょっとだけ、羽を、ぱちっと光らせた。返事の、つもりらしい。
向こう側から、C組の代表――神崎ミオが、歩いてくる。
落ち着いた、涼しげな目。その両脇に、二匹のドラゴンが寄り添っていた。
一匹は、細身で、灰色がかった竜。全身にうっすら風をまとい、地面すれすれを、残像を残すみたいに走る。……見るからに、速そうだ。
もう一匹は、土色の、ごつい装甲をまとった重量級。太い四肢が、一歩ごとに、地面をずしんと鳴らす。
俺は、二匹のステータスを、見た。
ゲイルドラゴン 資質ランク B 属性:風 レベル17
アースドラゴン 資質ランク B 属性:土 レベル17
……どっちも、B。しかも、Lv17。
地力を上げてきた、今の俺の三匹より、まだ格上だ。
風の"ゲイル"が、速さでかき回す、囮。
土の"アース"が、正面から押しつぶす、力自慢。
速い囮と、重い本命。……なるほど、これが、神崎の連携ってわけだ。
しかも、土のアースには、ヒノの炎が、通りにくい。
真っ向から燃やして倒す、って手は、使えない。……厄介な、組み合わせだ。
「……あなたが、噂のハズレ組ね」
神崎が、俺の四匹を、ちらっと見て、目を細めた。
「一匹、増えたの? ……でも、数を並べただけで、連携できてなきゃ意味がない。私は二匹で、あなたの"寄せ集め"を、崩してみせる」
……ほう。
連携で、崩す、ね。
……奇遇だな。それ、こっちの得意分野でも、あるんだよ。
『――両者、はじめ!』
合図と同時に、神崎の素早いほうが、走り出した。
俺の陣形の横を、すり抜けて――挑発するように、ゴロの前をかすめる。
「ゴロ、追え!」……と、言いたくなる。けど。
誘いだ。ゴロを、壁の位置から、引っ張り出す気だ。
「ゴロ、動くな! 壁になってろ!」
「グモッ」
ゴロが、どっしり、根を張る。誘いには、乗らない。
……そう。うちの壁は、そう簡単には、動かない。
「へえ。……やるじゃない。でも、次は?」
神崎の指示で、二匹が、同時に動いた。
力自慢が、正面から、ゴロに組みつく。
その隙に、素早いほうが、ぐるっと回り込んで――後ろのヒノへ。
本物の、二方向連携。
壁は、一方向しか向けない。このままじゃ、ヒノが食われる――
でも。
今の俺には、もう一つ、"手"がある。
「ソラ! 上空から、あいつを止めろ!」
「ピィッ!!」
ソラが、ぱっと、宙に舞い上がった。
地上の誰も追いつけない、高さから。
ヒノに飛びかかる、素早いドラゴンの――その、真上へ。
そして、ソラの体が、青白く光った。
「いけ! ――サンダー・ダイブ!」
ソラが、翼をたたんで、真っ逆さまに、急降下。
全身に、雷をまとったまま。
バチイィッ!!
落雷みたいな一撃が、素早いドラゴンの背中に、突き刺さる。
しびれて、動きが、止まった。ヒノへの突進が、ぴたりと、止まる。
……よし。まだLv1だ。倒すには、遠い。
でも、"止める"だけなら、十分だ。
「なっ……! 上から!?」
神崎の、余裕の顔が、初めて崩れた。
……そうだ。あんたの連携は、地面の上だけ。
上空、っていう"三つ目の方向"は――計算に、入ってなかっただろ?
「……なるほど。上空、ね。厄介な子」
でも、神崎は、さすが名手だった。動揺は、一瞬。すぐに、指示を切り替える。
「あの飛んでるやつ、叩き落としてやる! ――そっちを狙いなさい!」
力自慢のドラゴンが、ゴロをぐいっと振り払って、今度は、上のソラへ跳びかかった。
でかい図体が、宙で、ソラに掴みかかる。
……まずい。ソラは、まだLv1。あんなのに捕まったら、一発で落とされる。
「ソラ、逃げろ! もっと高く!」
「ピィッ!」
ソラが、ひらりと舞い上がって、その手をかわす。
でも――力自慢は、ソラに気を取られて、地上をがら空きにした。
ゴロから、離れて。無防備な背中を、さらして。
……神崎。あんた、上空に気を取られて、いちばん大事な足元を、忘れたな。
ここからは、こっちのターンだ。
「タマ! 止まったやつを、仕留めろ!」
タンッ、ドガッ!!
しびれて動けない素早いドラゴンの横腹へ、タマの全力の体当たり。
ぐらり、と、崩れ落ちる。
連携ってのは、二匹そろって、初めて力になる。
その片方を潰せば――残りは、ただの一匹だ。
残った力自慢は、まだ、ゴロと組み合っている。
「ヒノ、ゴロの後ろから焼け! ソラ、上からかき回せ! タマ、横から!」
「ヒノ、炎で目くらましだ! ソラ、上からかき回せ! タマ、横から急所を抜け!」
土のアースに、炎はよく効かない。……でも、目の前でぼっと燃えあがれば、うっとうしいことに、変わりはない。
ゴロが正面で受け止め、ヒノの炎が視界を炙り、ソラが上から雷で揺さぶる。
アースの注意が、四方に、散った。
そして――がら空きになった急所へ、タマが、横から。
ドガッ、ドガッ!!
全力の体当たりが、続けざまに、急所を抉る。
どこを守ればいいのか分からなくなったアースは――やがて、力尽きて、倒れた。
『――勝負あり! 勝者、天野ソウマ!』
……勝った。
二匹の連携使いを相手に、俺の四匹の軍団が、上回った。
その瞬間、頭の中に、いつもの感覚が走る。
タマ レベル19
ヒノ レベル15
ゴロ レベル12
ソラ レベル4
特に、ソラ。初陣で、一気に伸びた。
……初めての実戦で、あそこまで動けりゃ、上等だ。
神崎が、しばらく俯いて。それから、ふっと顔を上げた。
「……参ったわ。二匹の連携なら、負けない自信があった。でも――上空を混ぜられたら、お手上げよ」
それから、俺の頭の上のソラを見て、少し笑った。
「あなたの竜、ハズレなんかじゃない。……あなたが、ハズレにしてないだけ、ね」
その言葉が、ちょっと、嬉しかった。
そして、これで。
俺はまた一つ上――C組へ、上がる。
ハズレ組から、二段目。少しずつ。でも、確実に。
頭の上で、ソラが「ピィッ!」と、得意げに鳴いた。初陣で、大手柄だもんな。
タマが、「やるじゃねえか」って顔で、ソラを見上げる。
ヒノははしゃぎ、ゴロはのっそり、いつも通り。
……いいチームだ。ほんとに。
観客席から、タケが、身を乗り出して、叫んでいた。
「見たか、今の!? E組出身が、C組を喰ったんだぞ! ……おれの、友達だ!」
その、自分のことみたいな喜びようが、なんだか、おかしくて、あったかかった。
ふと、闘技場の高い窓を、見上げる。
理事長室。そこに、円城寺の影があった、気がした。
――上に行くほど、父さんの、あの日に近づく。
……上等だ。行けるとこまで、行ってやる。この、四匹と。
ハズレ軍団、C組へ。
快進撃は、まだまだ、止まらない。
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【あとがき】
第二十一話、読んでくれてありがとうございます!
ソラの、初陣!
そして、記念すべき初めての必殺技――「サンダー・ダイブ」が炸裂しました。まだLv1なので、格上を倒す力はありません。でも、上空から急降下して"止める"だけなら十分。この一撃が、勝負を決めました。
相手の神崎は、二匹を操る連携の名手。前・後ろの二方向で崩してくる強敵でした。でも、こっちには"上空"という三つ目の方向がある。地上だけで組み立てられた連携は、上から引っかき回されると、途端に穴だらけになる。四匹=四方向の軍団が、二匹の連携を上回った一戦です。
これで、ソウマはついにC組へ。ハズレ組から、二段目の昇格です。
そして、それを見下ろす円城寺の影。上に行くほど、父の"あの日"へ近づいていきます。
▼次回予告
C組に上がったソウマ。強者ひしめく上位クラスで、待つものは?
深まる父の謎、そして――いよいよ見えてくる、上位の"壁"たち。
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次回も、お楽しみに!




