第20話 空を、駆ける
タマが、あの青白い卵を産んで、三日。
ヒノもゴロも、すぐに孵ったのに。
この卵は、なかなか、動かなかった。
……やっぱり、ランクが高いのかもしれない。
じいちゃんも、卵を覗きこんで、「こりゃ、上等なやつだ」と、唸っていた。
俺も、毎朝、まっさきに卵を確かめた。
中で、何かが育っている。それだけは、手のひらのあたたかさと、かすかに脈打つ感じで、分かった。
……早く、会いたい。お前は、いったい、何者なんだ?
そして、三日目の朝。
卵に、ぴしっ、と、ヒビが入った。
パキッ……パキッ……
殻の隙間から、青白い光が、漏れる。
そして――ぱぁん、と、殻が弾けた。
中から飛び出してきたのは。
……鳥みたいな、竜だった。
すらりと細い体。背中には、ぴんと張った、大きな翼。
全身が、うっすら青白く輝いて、その羽の先で、ぱち、ぱち、と、小さな火花が散っている。
……電気?
俺は、すぐにステータスを見た。
資質ランク C
属性:雷
タイプ:飛行・速攻
……ランクC!
うちで、初めての、Dより上だ。しかも――雷属性の、飛行タイプ。
「ピィッ!」
生まれたての、そいつは。
いきなり、ぱたぱた、と翼を動かして――ふわり、と、宙に浮いた。
……飛んだ。
うちの三匹は、みんな、地べた専門だ。
初めての、空を飛ぶ仲間。
その光景に、俺は、思わず見とれた。
うちの竜が、空を、飛んでいる。
……なんだか、それだけで、世界が少し、広がった気がした。
そいつは、ひとしきり、部屋の中を、すいすい飛んで。
それから、俺の頭の上に、ちょこん、と止まった。
「ピィ」
……もう、気に入られた、みたいだ。
「お前は……ソラ、だ」
空を、駆ける竜。だから、ソラ。
「ピィッ!」
気に入った、って感じで、ソラが、ぱちっ、と羽を光らせた。
タマが、「新入りか」って顔で、ふんふん、匂いを嗅ぐ。
ヒノは、「弟が、また増えた!」と、大はしゃぎ。
ゴロは……のっそり見上げて、「グモ」と、ひとこと。相変わらず、マイペースだ。
ソラは、とにかく、元気だった。
じっとしているのが苦手みたいで、しょっちゅう、部屋の中を飛び回る。
のんびり屋のゴロの頭に、ちょこんと乗っては、ぱちっと羽を光らせて、びっくりさせた。
「グモォ!?」
……こら、ソラ。弟のくせに、兄貴をからかうな。
でも、その物怖じしない性格は――たぶん、空で戦うのに、向いている。
しかし、ランクCとはな。
ヒノも、ゴロも、Dだったのに。
……たぶん、あの深い層で、格上ばかりと戦い抜いたからだ。
「生まれる卵は、戦った経験で変わる」。強い相手とやり合った分だけ、いい卵になる。
地道なレベル上げが、こんな形でも、実を結んだ。
……それに、あの青白い光。
正直、タマの、あの"???"を思い出して、少し、どきっとした。
でも――ソラのステータスは、いたって普通の、雷竜だ。
(まあ……考えすぎ、かもな)
今は、この新しい力を、育てるだけだ。
その日の午後。
さっそく、ソラを連れて、訓練ダンジョンに潜った。
浅い層で、ちょうどいい群れが出た。
空を飛ぶ、コウモリみたいな魔物――フライ・バットが、二匹。
そして地上には、ごつい甲殻の魔物が、一匹。
空と地上、両方から来るやつらだ。前の俺なら、空のバットに手を焼いていた。
でも、今は。
「ゴロ、前! 地上のやつを受け止めろ! ヒノ、ゴロの後ろから援護!」
いつもの、前衛と火力。ゴロがどっしり受けて、ヒノの炎が、甲殻をあぶる。
地上は、これでいい。
「ソラ! 空は任せた! タマ、落ちてきたやつを頼む!」
「ピィッ!」
ソラが、ぐんっ、と、空へ舞い上がった。
生まれたてなのに、飛び方が、様になってる。さすが、飛行タイプだ。
二匹のバットのあいだを、すいすい、縫うように飛ぶ。
そして――
バチッ! バチバチッ!!
羽の先から、小さな雷がはじけた。
しびれたバットが、二匹とも、ひらひら、と地面に落ちてくる。
「タマ! 今だ!」
タンッ、ドガッ! ドガッ!!
地上で待っていたタマが、落ちてきた二匹を、すかさず仕留める。
その隣では、ゴロが甲殻の魔物を受け止め、ヒノが焼き切っていた。
……四匹が、空と地上で、同時に、噛み合った。
空のソラが、落として。地上のタマが、しめる。
連携の幅が、一気に、広がった。
思い出すのは、あの入学試験。
九条のサンダーワイバーンに、空へ逃げられて、手を焼いた。
あのとき――空に手が届く仲間が、いれば。
……今なら、違う。空から来る相手にも、もう、後れは取らない。
四匹。
速さのタマ。火力のヒノ。壁のゴロ。そして――空を駆ける、ソラ。
地上を固める三匹に、飛べる一匹が加わった。
受け持てる間合いが、地面から頭上まで、一気に広がったんだ。
軍団の"穴"が、また一つ、埋まった。
しかも、ソラの雷は、水属性に、めっぽう強い。
いつか、あの水の竜――レイと、もう一度やり合うときにも、きっと、効いてくるはずだ。
その夜。
俺は、四匹を、ぐるりと見回した。
寄り添って眠る、タマ、ヒノ、ゴロ。その上を、ソラが、ぱたぱた、飛び回っている。
……にぎやかに、なったな。
ハズレ卵ひとつから、始まったのに。
気づけば、四匹。前世の、あの編成の楽しさが――今、この世界で、現実になってる。
縁側で、じいちゃんが、その光景を、目を細めて見ていた。
「……たった一つの、ハズレ卵から。よくもまあ、ここまで賑やかになったもんだ」
その声には、驚きと、それから、確かな誇りが、にじんでいた。
「ソウマ。お前は、こいつらを、ただ強くしただけじゃない。ちゃんと、"群れ"にしてる。……テイマーとして、大したもんだ」
じいちゃんに、そう言われるのは。
なんだかんだで、いちばん、こそばゆくて――嬉しい。
次の日、学園で会ったタケも、ソラを見て、目を丸くした。
「おまえ、また増えたのか!? しかも、飛んでる!」
「ああ。空の敵にも、もう手が届く」
「……ほんと、規格外だな、おまえのとこは」
タケが、呆れたように、でも、どこか楽しそうに、笑った。
地力も、つけた。仲間も、増えた。
……よし。もう、迷いはない。
「タケ。次の昇格戦、名乗りを上げるぞ。……C組だ」
次の相手は、確か――連携が得意な、戦術家、らしい。
上等だ。こっちも、四匹の連携で、真っ向から、受けて立つ。
俺の頭の上で、ソラが、「ピィッ」と、高く鳴いた。
まるで、初陣が、待ちきれない、みたいに。
……ふっ。気の早いやつだ。でも、その意気、嫌いじゃない。
……行くぞ、みんな。
ハズレ軍団、四匹目を加えて――いよいよ、C組へ。
次の相手が連携の戦術家だろうと、四匹まとめて、受けて立つ。
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【あとがき】
第二十話、読んでくれてありがとうございます!
前回の、青白い卵。その正体は――ランクC・雷属性・飛行タイプの新入り、「ソラ」でした!
うちで初めての、Dより上のランク。そして、初めての"空を飛ぶ"仲間です。深い層で格上ばかりを狩り抜いた"経験"が、こんな上物の卵に化けました。地道な積み重ねの、ごほうびですね。
速さのタマ、火力のヒノ、壁のゴロ、そこに飛べるソラが加わって、受け持てる間合いが頭上まで広がりました。入学試験で空の敵に手を焼いた、あの弱点も、これで克服です。
(青白い光と、タマの"???"の関係は……今は、そっと伏せておきます)
地力も仲間も整えて、ソウマはいよいよC組昇格戦へ。
▼次回予告
四匹の軍団、初の連携披露!
立ちはだかるC組の壁は、二匹を操る連携の戦術家――!?
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次回も、お楽しみに!




