第19話 積み上げる日々
D組に上がって、少し経った。
でも俺は、次の昇格戦――C組への挑戦には、すぐには名乗りを上げなかった。
……焦って上に行っても、ダメだ。
この前の、九条戦。勝てはしたけど、あれは、相性と頭で、なんとかもぎ取った勝ちだ。
地力そのものは、まだ、ぜんぜん足りてない。
うちの三匹は、まだ、タマがLv11。ヒノが8。ゴロが3。
この上の、C組、B組、A組、特進。そして、あの鷹宮の、S級Lv58。
……今のままじゃ、手が届くどころか、話にもならない。
円城寺の言葉が、蘇る。
――あなたのその竜を、欲しがる者が、大勢いる。
守るためには、強くならなきゃいけない。付け焼き刃じゃなく、本物の地力を。
弱いままじゃ、守れない。タマも、ヒノも、ゴロも。
誰にも、手を出させないくらい、強く。
だから、俺は決めた。
昇格戦は、少しお預け。
その代わり――とことん、レベルを上げる。
地道に、コツコツ。それが、俺のいちばん得意なやつだ。
次の日から、俺は、訓練ダンジョンの、より深い層に潜りはじめた。
浅い層の雑魚とは、わけが違う。
出てくる魔物は、どれも格上。ひとつ間違えれば、こっちがやられる。
タケも、ドガを連れて、つきあってくれた。
「おまえ、ほんと、ストイックだよなあ……」
「強くなるって、決めたからな」
その深い層で、さっそく、でかいのが出た。
フォレストオーガ
属性:草
木の根と苔をまとった、丸太みたいな巨体。
俺は、いつもどおり、ゴロを前に出した。……が。
ゴロが、ずるっと、押し込まれる。
「グモォッ!?」
……そうだ。草は、岩に強い。
根が、岩を絡めとって、砕く。ゴロの壁が、この相手には、通じない。
でも――だったら、話は、逆だ。
「ゴロ、無理に受けるな! 下がれ! ……ヒノ! 前に出ろ! お前の出番だ!」
草には、炎が、よく効く。燃えやすいからな。
いつもは後ろの火力役のヒノを、今日は、主役にする。
「キュアアッ!」
ゴオオオッ!!
太く育ったヒノの炎が、フォレストオーガの、苔むした体に燃え移った。
ぼうっ、と、火柱が上がる。
草の巨体が、一気に火だるまになって、のたうつ。
「タマ! 仕上げだ!」
タンッ、ドガッ!!
弱ったところへ、タマの一撃。
フォレストオーガは、大きく傾いで――光の粒になって、消えた。
……ふう。
相性が悪いなら、役割を入れ替える。
前がダメなら、後ろを、前に。
三匹いれば、こういう融通も、利くんだ。
「い、今の、すげえな……。とっさに、陣形を組み替えたのか」
タケが、目を丸くしてる。
……まあな。これも、数をこなした、経験だ。
別の日には、突進が自慢の、ごつい魔物と当たった。
前なら、ゴロが吹き飛ばされていたはずの相手だ。
でも――今のゴロは、違った。
「ゴロ、受けろ!」
「グモォッ!」
ドゴッ、と、重い音。
なのに、ゴロは、一歩も下がらなかった。
突進を、正面から、受け止めきる。
……レベルが上がって、地力がついた。壁が、本物の壁に、なってきてる。
その隙に、ヒノとタマで、料理する。
……うん。かみ合ってる。前より、ずっと。
それから、俺は、来る日も来る日も、深い層に潜った。
一週間。二週間。
朝から晩まで、潜って、狩って、また潜る。
相性を読み、陣形を組み替え、一体ずつ、着実に、格上を、削り倒していく。
魔物が光の粒になるたび、頭の中に、レベルアップの、あの感覚が走る。……その回数は、もう、数えきれない。
三匹は、みるみる、育っていった。
タマ レベル18
ヒノ レベル14
ゴロ レベル11
……ここまで、来た。
最初、Lv5だったタマが、Lv18。別の竜みたいだ。
ヒノの炎は、太く鋭くなり。ゴロの壁は、もう、ちょっとやそっとじゃ、へこまない。
週末、家に帰ると、じいちゃんが、三匹を見て、目を細めた。
「ずいぶん、いい面構えになったな。……お前が、ちゃんとこいつらと向き合ってる、証拠だ」
古い育て屋の、じいちゃんからの、お墨付き。
なんだか、じいんと、来た。
そして――その日、だった。
深い層の、さらに奥。
ひときわ強い魔物との、戦いのさなか。
タマが、また、ひとつ、レベルを上げた、その瞬間。
……あれ?
タマの体が、一瞬――ぼう、と、淡く光った、気がした。
いつもの、レベルアップの光とは、違う。
もっと深い。もっと、"何か"を秘めたみたいな、光。
そして、タマのステータスに、見慣れない表示が、一瞬だけ、ちらついた。
???
……なんだ、今の。
スキル欄に、何かが、出かけた。けど――すぐ、消えた。まだ、開かない、みたいに。
「キュ……ルゥ?」
タマ自身も、きょとん、としている。
自分の体に、何が起きたのか、分かってない、って顔だ。
……レベルが、ある数字を超えると。
こいつの、隠された"何か"が――目を覚ましはじめる、のか?
円城寺の言葉が、蘇る。
――その子は、大きな星を、背負っている。
……こういう、ことか。
思えば、最初から、こいつは、おかしかった。
資質は、最低のE。なのに、運だけが、30。ありえない数字だ。
産卵なんて、聞いたこともない、スキル。
レベル上限が、ない、なんてことも。
……ぜんぶ、この"???"に、繋がってるのか?
ハズレ卵から生まれた、ちびドラゴン。
その正体は――俺が思ってるより、ずっと、とんでもない何かなのかもしれない。
背筋が、ぞくり、とした。
こいつは、まだまだ、こんなもんじゃ、ない。
俺の相棒は――いったい、どこまで、行くんだ?
その夜。
俺は寝る前に、じっと、タマのステータスを眺めていた。
タマ レベル18
スキル:産卵
レベル上限:なし
上限、なし。
あの"???"は、この先の、もっと高いレベルで――ちゃんと、姿を現す。
そんな予感が、した。
「タマ。……お前、いったい、何者なんだ?」
「キュルッ」
タマは、いつもの、のんきな声で鳴いた。
俺に寄り添って、丸くなる。父さんの首輪を、つけたまま。
……まあ、いいか。
お前が何者だろうと。
俺の大事な相棒だってことは――変わらない。
地道な、レベル上げの日々。
派手さは、ない。
でも、この積み重ねが、いつか、あのS級の翼にも届く力になる。
窓の外の夜空を、見上げる。
いつか、あの空を、埋めつくすくらいの軍団を。
……そうだ。
地力は、ついた。次は、いよいよC組への、昇格戦だ。
でも――その前に、もう一つ、やっておくことがある。
軍団を増やすなら。……今しか、ない。
俺は、タマを、そっと抱き上げた。
「タマ。……もう一回、頼めるか」
タマは、俺の顔を見て、ふん、と胸を張った。まかせろ、って顔だ。
産卵。四匹目を、迎える。
Lv18まで育ったタマの産卵は、前より、ずっと滑らかだった。これも、段階解放ってやつだろう。HPの減りも、以前ほど、えげつなくはない。
ぼう……っと、タマの体が、光る。
その足元に、卵の輪郭が、にじみ出て――
ことり、と、ひとつの卵が、転がった。
……あれ?
いつもと、違う。
ヒノの赤でも、ゴロの茶でもない。
その殻は――淡く、青白く、光っていた。
まるで、内側に、小さな星でも、宿しているみたいに。
深い層で、格上ばかりと戦い抜いた、その成果。
いい卵だ。それは、間違いない。……でも、こんな色の卵は、見たことがない。
「キュルッ」
産み終えたタマが、少し疲れた声で、でも、どこか誇らしげに、鳴いた。
俺は、その青白く光る卵を、そっと手に取る。
あたたかい。そして、かすかに――脈打っている。
ヒノもゴロも、すぐに孵ったのに。
この卵は、まだ、静かだ。……ランクが、高いのかもしれない。
四匹目の、仲間。
それは、いったい、どんな竜なのか。
……上等だ。
ハズレ軍団の、新しい力が。
もうすぐ、この殻を破って、生まれてくる。
――続く。
───────
【あとがき】
第十九話、読んでくれてありがとうございます!
今回は、じっくり"レベル上げ回"。
勢いで昇格してきたソウマですが、いったん立ち止まって、地力を鍛える決断をしました。焦らず、コツコツ積み上げる――ゲーマーらしい、いちばん得意なやつですね。
深い層では、相性の悪いフォレストオーガ(草)が登場。壁のゴロが通じないなら、炎のヒノを前に出す。三匹いれば、役割を入れ替える"融通"が利く。連携が、また一段、成熟しました。
数週間の狩りで、タマはLv18まで成長。そして、あるレベルを超えた瞬間――見慣れない「???」の表示。「大きな星を背負っている」と円城寺が言った、タマの隠された何か。運30も、産卵も、レベル上限なしも……ぜんぶ、そこに繋がっているのかもしれません。
地道な積み重ねの先に、タマの正体と、父の真実が待っている――。
そしてラスト、地力をつけたソウマは、C組に挑む前に、四匹目の産卵を決断。
Lv18のタマの産卵は、段階解放でぐっと楽になっていました。けれど生まれたのは、これまでにない、青白く光る卵。深層で格上を狩り抜いた成果か、それとも……? まだ静かなその殻から、何が生まれるのか。次回、いよいよ孵化です!
▼次回予告
タマが産んだ、青白く光る、四匹目の卵。
殻を破って現れるのは、どんな竜――?
そして、地力を蓄えた軍団は、いよいよC組へ挑む!
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次回も、お楽しみに!




