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『ハズレ竜タマは、軍団を産む。』  作者: akaike


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18/20

第18話 理事長・円城寺

 あの手紙が届いた、その日の放課後だった。

 黒服の職員が、俺を呼びに来た。


「天野ソウマさん。……理事長が、お呼びです」


 理事長。

 この蒼空学園の、頂点に立つ人物。

 ……そういえば俺は、その顔も名前も、まだ知らなかった。


 案内されたのは、校舎の最上階。

 重厚な、両開きの扉。その前で、俺は、あのクロガネと、すれ違った。


 試験官のクロガネ。

 あの、いかつい男が――俺に、小さく頭を下げて、去っていく。


 ……クロガネが。俺なんかに、頭を。

 この扉の向こうにいるのが、どれだけの"格"か。それだけで、分かってしまった。


 ごくり、と唾を飲む。

 肩のタマが、俺の頬に、ぐっと体を押しつけてきた。「びびってんじゃねえよ」って、いつもの、あれだ。

 ……ああ、分かってる。行くぞ、相棒。


 扉を、開ける。

 広い部屋だった。一面のガラス窓から、学園の全景が見下ろせる。

 その窓を背に――ひとりの女性が、立っていた。


 歳は、読めなかった。

 若く見える。でも、その目の奥には、何十年分もの深いものが、沈んでいる。

 優雅で、静かで。なのに、部屋の空気が、その人を中心に、ぴんと張り詰めていた。


「よく来てくれたね、ソウマくん」


 柔らかい声だった。

 でも、逆らえない、何かがある。


「私は、円城寺。この蒼空学園の、理事長をやっているの」


 ……理事長。

 そして、その姿を見て、俺は確信した。

 入学試験の、あの特別席。逆光の中で、俺を――いや、タマを見ていた、あの人影。

 こいつだ。"あの人"は、この人だったんだ。


「あんたが、俺を、この学園に呼んだ」

「ええ。私が、推薦したの」


 円城寺が、ゆっくりと、こちらに歩いてくる。

 その視線は、俺じゃなく――肩のタマに、まっすぐ注がれていた。


「ずっと、待っていたのよ。……その子が、現れるのを」


 どきっとした。

 俺は、タマを隠すように、手を添える。


「その灰色の子。ずいぶん小さいのに――ずいぶん、大きな星を背負っているみたいね」


 ……星?

 こいつ、何か知ってるのか。タマのことを。

 産卵も。上限のないことも。運30も。……まさか、全部?


 円城寺が、すっと、片手を伸ばした。

 タマに、触れようとする。

 その瞬間、タマが「グルルゥ!」と、牙をむいた。めったにしない、本気の警戒だ。


 でも、円城寺は、驚かなかった。

 むしろ、どこか嬉しそうに、手を引っ込める。


「気が強いのね。……あの人の相棒も、そうだったわ」


 あの人の、相棒。

 ……父さんの、ドラゴンのことか?


「そんなに、警戒しないで。今日は、取って食おうっていうんじゃ、ないの」


 円城寺は、くすっと笑った。

 それから、タマの首の――あの首輪に、目を留めた。


 その瞬間。

 優雅な表情が、ほんの一瞬だけ、揺れた。


「……その首輪。どこで、手に入れたの」

「じいちゃんが、くれました。父さんの、形見だって」


 円城寺は、しばらく、その首輪を見つめていた。

 懐かしむような。どこか、痛むような。……読めない目で。


「そう。……あの人の忘れ形見が、あなただったのね」


 あの人。

 ……父さんを、知ってるのか。この人は。


「あなたのお父さんはね」


 円城寺が、窓の外に、目をやる。


「この学園が生んだ、最高のテイマーのひとりだった。……そして、私の、古い友人でもあったの」


 友人。

 その声に、嘘は、ないように聞こえた。

 でも、だからこそ――余計に、分からなくなる。

 友人だった人の子どもを、この人は、いったい、どうする気なんだ。


「単刀直入に、言うわね」


 円城寺の、声のトーンが変わった。


「あなたは、目立ちすぎた。E組から、たった一戦で、格上のB組を喰った。その灰色の竜とともに。……もう、静かに隠れていられる段階は、過ぎてしまったの」


「隠れる?」


「この学園には――いいえ、この国には。あなたのその竜を、欲しがる者が大勢いる。良い者も、悪い者もね。私が先に、あなたを囲い込んだのは……その盾に、なるためでもあるのよ」


「軍を欲しがる国。兵器を欲しがる大人たち。……"卵を産む竜"なんて知られたら、あなたも、その子も、どうなるかしらね」


 ……!

 やっぱり、この人。知ってる。

 タマが、卵を産むことを。あれだけ、隠してきたのに。

 背筋が、すっと冷たくなった。


 ……盾。

 守ってくれる、ってことか。それとも――今、囲い込む、って、言ったよな。


「もちろん、タダじゃない。あなたには、私のために強くなってもらう。この学園で、てっぺんまで上り詰めてもらう。……それが、あなたとその竜を守る、いちばんの道」


 ……うさんくさい。

 優しいことを言ってる。でも、この人の本心が、どこにあるのか。まったく、読めない。


 ――才能を見込まれた連中は、みんな消えた。

 レイの言葉が、頭をよぎる。

 目の前のこの人が、その"消えた"原因なのか。それとも逆に、守ろうとしていたのか。


「……ひとつ、いいですか」


 俺は、まっすぐ、円城寺を見返した。


「あんたの盾になるとか、駒になるとか。そういうのには、興味ないです。俺は、俺と、こいつらのために、上に行く。……それでも、いいなら」


 円城寺は、目を丸くした。

 それから――ふっ、と、今度は心から楽しそうに、笑った。


「ふふ。……やっぱり。ほんとうに、あの人にそっくり」


 その笑みは、綺麗で。

 でも、なぜか、ぞっとするほど、寂しそうだった。


「いいわ。好きに、おやりなさい。……ただし、覚えておいて」


 円城寺の目が、すっと、細くなる。


「あなたが上に行けば行くほど――"あの日"に、近づいていく。あなたのお父さんが、消えた、あの日にね」


 ……どういう、意味だ。

 聞き返そうとした。けど。


「今日は、もう、お帰りなさい。ソウマくん。――また、会いましょう」


 有無を言わさない、声だった。


 部屋を出る。

 背中に、あの人の視線を感じながら。


 ……結局、何も分からなかった。

 味方なのか、敵なのか。父さんと、どんな関係なのか。タマの、何を知っているのか。


 でも、ひとつだけ、はっきりした。

 俺が上に行くほど、父さんが消えた真実に、近づく。

 なら――止まる理由なんて、どこにもない。


 肩の上で、タマが「グルルゥ」と、低く唸った。

 あの人を、警戒するみたいに。


「……大丈夫だ、タマ」


 俺は、そっと、首輪ごと頭を撫でた。


「お前は、俺が絶対に守る。誰にも、渡さない」


 ……上等だ。

 円城寺、理事長。

 あんたの思惑が、なんであれ。

 俺は、俺の軍団で、あんたの学園のてっぺんまで――駆け上がってやる。



───────


【あとがき】


 第十八話、読んでくれてありがとうございます!


 ついに、"あの人"との接触。

 その正体は、蒼空学園の理事長・円城寺。入学試験の特別席から、タマを見ていた人物です。ソウマを推薦し、囲い込んだ張本人。


 彼女は、タマの"何か"を知っている様子(「大きな星を背負っている」)。そして、父の形見の首輪に、はっきりと反応し、「あの人の忘れ形見」と口にしました。父を知る人物――でも、敵か味方かは、まるで読めない。


 「上に行けば行くほど、父さんが消えたあの日に近づく」。

 この意味深なひとことが、これからの物語を、大きく動かしていきます。

 円城寺の目的は? 父に、何があったのか? そしてタマの、背負う"星"とは――。まだまだ、謎は深まります。



 ▼次回予告

 円城寺の思惑を背に、ソウマの快進撃が再開!

 次なる昇格戦、そして深まる父の謎。

 ハズレ軍団は、どこまで駆け上がる――?



 「続きが気になる」と思ってもらえたら、

 ★評価・ブックマークで応援してもらえると、すごく励みになります!


 次回も、お楽しみに!


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