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『ハズレ竜タマは、軍団を産む。』  作者: akaike


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17/20

第17話 上のクラスと、影

 昇格戦に勝った、次の日。

 俺は、E組の教室じゃなく、ひとつ上の――D組の教室に、いた。


 昇格戦で勝てば、ひとつ上のクラスへ上がれる。

 ハズレ組から、ようやく一段。……とはいえ、まだ下から二番目だけどな。


 D組の空気は、E組とは、少し違った。

 連中の連れているドラゴンも、ひとまわり立派だ。ゴロみたいな、まんまるの岩は、どこにもいない。


 そして、俺を見る目も、違った。

 E組のときみたいに、あからさまに笑うやつは、いない。

 でも、そのぶん――値踏みするような、冷たい視線が、突き刺さる。


「あいつが、天野……」

「E組のくせに、B組の九条を倒したっていう」

「どうせ、まぐれだろ。コネで入ったやつだし」


 ……はいはい。

 E組でも、D組でも、言われることは、そう変わらないな。


 ひとり、近くの席のやつが、ちらっと俺を見た。

 落ち着いた、涼しげな顔の男子。

 「……藤堂だ」

 名前だけ、そう名乗って、それきり、また窓の外に目を戻す。

 笑いも、突っかかりも、しない。ただ静かに、俺と、足元の三匹を、観察している。

 ……つかみどころのない、やつだ。かえって、厄介かもしれない。


 かわりに、突っかかってきたのは、別のやつだった。


「おい、ハズレ。言っとくけどな。D組は、E組の吹きだまりとは、違うんだ。まぐれで上がってきたやつが、居座れる場所じゃないぞ」


「そうかい。じゃあ、実力で居座るよ」


 軽く、受け流す。

 ……こういうのは、E組で、慣れっこだ。


 休み時間。

 俺はさっそく、E組のタケのところに、顔を出した。

 クラスは離れちまったけど、友達をやめる理由には、ならない。


「よお、D組さま! どうだ、上のクラスは!」

「冷たい視線が、心地いいよ」

「はは! おまえなら、平気だろ」


 ……ああ。

 タケが変わらずにいてくれるのは、正直、助かる。


 でも、D組に上がってから、俺の頭には、ずっと引っかかっていることが、あった。

 鷹宮の、あの言葉だ。


 ――あの方に気に入られた者は、これまで何人もいた。その全員が、今どこにいると思う?


 ……どういう、意味だ。

 あの、特別席の逆光の人影。俺を、この学園に呼んだ、"あの人"。

 気に入られると、何かが起きる? いいことか。それとも、悪いことか。


 その日の放課後。

 廊下で、レイを見つけた。

 こいつなら、何か知ってるかもしれない。


「レイ。ちょっと、いいか」

「……なによ、D組さん」


 軽口だ。でも前より、ずっと、とげがない。


「"あの人"のことだ。気に入られた連中は、今どこにいる? 鷹宮先輩が、意味ありげに言ってた」


 レイの表情が、すっと真顔になった。


「……私も、噂でしか知らない」


 声を、少し落とす。


「あの人に目をかけられた生徒は、これまでにも、何人かいたって。すごい才能の子たち。……でも、その子たちは、みんな、いつのまにか、学園から消えたの」


「消えた?」


「退学したのか、どこかへ行ったのか。誰も、知らない。ただ――ぱたっと、いなくなる。噂だと、そういうこと」


「何年か前にも、いたらしいわ。特進を、ぶっちぎりで首席だった天才。あの人に目をかけられて……ある日、忽然と消えた。今、どこで何をしてるか、誰も知らない」


 背筋が、ひやりとした。

 ……才能を見込まれた連中が、消える。

 それは、いいことなのか。それとも――。


「あなたも、気をつけて」


 レイは、それだけ言って、行ってしまった。


 その夜。

 俺は、家の縁側で、じいちゃんに、思いきって聞いてみた。


「じいちゃん。……"天野"って名前を聞いて、懐かしそうにする人って、心当たり、ある?」


 じいちゃんの、湯呑みを持つ手が、一瞬、止まった。


「……なんで、そんなことを聞く」

「試験のとき、その人が、俺を見て――いや、たぶん、父さんを思い出すみたいな、顔をしてたんだ」


 じいちゃんは、しばらく黙っていた。

 それから、ゆっくりと口を開く。


「お前の父さんは……昔、蒼空学園でも、指折りのテイマーだった」


 初めて、聞く話だった。


「その首輪はな。あいつが初めて授かった相棒に、わしが作って持たせたものだ。あいつは、それをずっと、宝物みたいに大事にしてた」


 俺は、思わず、枕元のタマの首輪を、思い浮かべた。


「才能があった。ありすぎた。……だから、"上の人間"に、目をつけられてな。そしてある日――家族を残して、いなくなった。事故だ、と言われてる。だが、わしは今でも、信じちゃいない」


 ……事故。父さんと、母さんの。

 その裏に、何かある。じいちゃんは、そう言いたいんだ。


「ソウマ。強くなるのは、いい。だが……あんまり、目立ちすぎるな。この学園の"上"には、まだ、お前の知らない、深い闇がある」


 じいちゃんの目は、本気で、俺を心配していた。


「……じいちゃん」


 俺は、まっすぐ、じいちゃんを見た。


「心配は、ありがたい。でも、俺は、逃げも隠れもしない。父さんが消えた理由も。その"上の人間"の正体も。……ぜんぶ、この目で確かめる」


 じいちゃんは、しばらく俺を見て――それから、ふっと笑った。


「……ほんと、あいつにそっくりだ」


 その一言に、どんな思いが込もっていたのか。

 俺には、まだ、分からなかった。


 部屋に戻る。

 タマが、俺の枕元で、丸くなっていた。

 父さんの首輪を、つけたまま。


 ……父さん。

 あんたも、この首輪を、相棒につけてたのか。

 そして、才能を見込まれて――消えた。


 偶然、なのか。

 俺が"あの人"に呼ばれたのも。この首輪が、タマにぴったりだったのも。


 考えても、答えは出ない。

 でも、ひとつだけ、決めた。


 俺は、消えない。

 何が待っていようと、こいつらと一緒に、てっぺんまで駆け上がる。そして、全部の謎を、暴いてやる。


 タマが、薄目を開けて、「キュルッ」と小さく鳴いた。

 まるで、「まかせろ」って言うみたいに。


 ……ああ。頼りにしてるぜ、相棒。


 その、翌朝。

 俺の下駄箱に、一通の封筒が、入っていた。

 差出人の名前は、ない。

 でも、なぜか、分かった。……あの人だ。


 中の便箋には、ただ、一行。


 『よく勝ったね。近いうちに、会いに行くよ。』


 たった、それだけ。

 なのに、その一行からは、じわりと、圧がにじみ出ていた。

 優しい言葉のはずなのに――逃げ場を、ぜんぶ塞がれたみたいな。


 ぞくり、と、鳥肌が立った。

 "あの人"が――動き始めた。


 ……上等だ。

 来るなら、来い。

 逃げも隠れも、しない。俺は、俺の軍団と、ここにいる。

 タマも、ヒノも、ゴロも。……誰にも、消させはしない。



───────


【あとがき】


 第十七話、読んでくれてありがとうございます!


 昇格して、ひとつ上のD組へ。でも、上に行けば行くほど、風当たりは冷たい――「コネのハズレが、まぐれで勝った」。ソウマの戦いは、勝ってからも続きます。


 そして今回は、"あの人"の影が、ぐっと濃くなりました。

 気に入られた才能ある生徒は、みんな消えた――というレイの噂話。父さんも、かつて学園指折りのテイマーで、"上の人間"に目をつけられ、いなくなった――というじいちゃんの告白。ソウマが呼ばれたことも、父の首輪も、ぜんぶ偶然なのか?


 両親の死の真相、父とあの人の繋がり、天野家の過去。物語の"裏側"が、少しずつ動き出します。

 ラストの、差出人のない手紙。……いよいよ、あの人が動きます。



 ▼次回予告

 ついに接触してくる、"あの人"。

 その正体は? 目的は? そして、父の過去の、真実は――。



 「続きが気になる」と思ってもらえたら、

 ★評価・ブックマークで応援してもらえると、すごく励みになります!


 次回も、お楽しみに!


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