第16話 軍団、初陣
昇格戦、当日。
第三訓練場の、円形の闘技場。
観客席には、E組の連中はもちろん、上のクラスのやつらまで、ぞろぞろ集まっていた。
……E組のハズレが、いきなり格上に挑む。そりゃ、見物だよな。
タケが、こぶしを握って、送り出してくれた。
「ソウマ! ぜってえ、勝てよ!」
「おう」
闘技場の、向こう側。
九条ハヤテが、ゆっくりと歩いてくる。
仕立てのいい制服。涼しげで、けど、人を見下した目。
「君が、天野ソウマか。……へえ。ほんとに、こんなチビばっかり連れてるんだ」
九条の視線が、俺の足元のタマ、ヒノ、ゴロを、なめるように見る。
「悪いけど、僕は忙しいんだ。鷹宮先輩に、いいところを見せないといけないからね。――三秒で、終わらせる」
ぱちん、と、九条が指を鳴らした。
その肩から、ばさっと、巨大な影が舞い上がる。
黄色い稲妻みたいな模様の、鋭いドラゴン。
バチバチ、と、全身に電気をまとっている。
俺は、そっとステータスを見た。
サンダーワイバーン
資質ランク A
レベル18
……ランクA。レベル18。
うちの最高が、タマの11。向こうは、18。
……それでも、格上だ。ランクが、そもそも違う。
しかも、雷属性、か。
九条は、たぶん、まっすぐゴロを狙ってくる。前に立つ、壁だからな。
でも――こいつ、気づいてないな。
雷は、岩には、効かない。地面に、逃げるんだ。
俺のゴロは、よりによって、雷の天敵だ。
……いいぜ。知らないなら、そのまま、撃ってこい。
『――両者、用意。はじめ!』
審判の、合図。
俺は即座に、陣形を組む。
「ゴロ、前! 壁になれ! ヒノ、後ろから! タマ、遊撃!」
ゴロが、どっしりと前に出る。
その後ろに、ヒノ。横に、タマが散った。
九条が、ふっと笑う。
「陣形? このメンツで? ……ままごとだ」
サンダーワイバーンが、空中で身をひるがえす。
バチィッ!!
全身の電気が、一点に集まって――
稲妻が、まっすぐ、ゴロに撃ち落とされた。
ドゴオォン!!
……けど。
ゴロは、びくともしなかった。
稲妻は、ゴロの硬い体を、伝って――そのまま、地面に、逃げていく。
バチ、と最後の火花を残して、消えた。
「グモ?」
ゴロは、きょとん、としている。
効いてない。まったく、一ミリも。
「なっ……!? どうなってる、なんで効かないんだ!?」
九条が、素っ頓狂な声を上げた。
……ふっ。だから言ったろ、って感じだ。
「岩は、雷を地面に逃がす。あんたの主砲は――うちのゴロには、効かないよ」
九条の、余裕の顔が、初めて、ゆがんだ。
「く……! なら!」
サンダーワイバーンが、翼を広げ、一気に上空へ舞い上がった。
速い。さっきまでとは、比べ物にならない。さすが、ランクAだ。
そして、その狙いを――ゴロじゃなく、後ろのヒノに変えた。
……しまった。
ヒノは、岩じゃない。雷が、効く……!
バチィッ!!
空から、稲妻が、ヒノめがけて落ちてくる。
「ヒノ! 避けろ!」
間一髪、ヒノが横っ飛びに逃げる。
けど、掠った。地面が、黒く焦げる。
……危ない。もう少しで、やられてた。
サンダーワイバーンは、上空を悠々と旋回する。
地上の壁なんて、無視して。空から、ヒノとタマだけを狙い撃つ気だ。
「はは! 壁が無敵でも、意味ないよ! 上から、そいつらを焼き払うだけだ!」
観客席が、ざわつく。
……分が悪い、って空気だ。
確かに、まずい。ゴロは、空のあいつに、手が届かない。ヒノとタマには、雷が効く。
でも――だからこそ、だ。
あいつは今、完全に、ヒノとタマに夢中になってる。
空の上から、獲物を狙う、一羽の鷹みたいに。
……そういう一点狙いは。俺の、大好物なんだよ。
「ヒノ! わざと、隙を見せろ! 誘え!」
ヒノが、あえて、逃げ遅れたフリをする。
サンダーワイバーンが、飛びついた。仕留めた、と思って――まっすぐ、急降下。
その、瞬間だ。
空から地上へ、一直線。
もう、軌道は、変えられない。
「ゴロ! 跳べ! ヒノの前だ!」
「グモォッ!」
どっしりしたゴロが、ヒノをかばって、のっそり――でも、精一杯、立ちふさがる。
急降下してきたワイバーンが、その岩の体に、まともに激突した。
ゴガッ!!
……そう。
空からの一直線。その終着点に、動かない壁を、置いてやればいい。
ワイバーンが、衝撃で、体勢を崩す。
「今だ! ヒノ、翼を焼け! タマ、反対から回り込め!」
ゴオオッ!!
ヒノの炎が、墜ちたワイバーンの片翼を、舐める。
翼を焼かれ、体勢を崩した、その巨体の――がら空きの横腹へ。
タンッ、ドガッ!!
タマの、全体重を乗せた体当たりが、突き刺さった。
ギャアアッ、と、悲鳴。
巨体が、ぐらりと傾いで――地面に、叩きつけられる。
……今の。
タマの一撃、急所に入りすぎだ。
まるで、当てる場所が、最初から分かってたみたいに。
……まあいい。考えるのは、あとだ。
地に伏した、ワイバーン。
九条が、慌てて叫ぶ。
「た、立て! 早く、立つんだ!」
でも――遅い。
「ゴロ! ヒノ! タマ! 仕上げだ、いっせいに!」
ゴロが、のしっと踏み込む。
ヒノの炎が、追い打ちをかける。
タマが、最後の一撃を入れる。
三方向からの、同時攻撃。
逃げ場は、ない。
ドオオン!!
サンダーワイバーンは、ひときわ大きく鳴いて――ぐったりと、地に伏した。
もう、立ち上がらない。
『――勝負あり! 勝者、天野ソウマ!』
……勝った。
闘技場が、しんと静まりかえって。
それから――どっと、どよめいた。
「E組が……格上に、勝った!?」
「あの、ハズレが……!?」
九条は、地面に膝をついて、呆然としていた。
「ば、馬鹿な……。こんなチビ三匹に……僕の、ランクAが……」
「あんたのドラゴンは、強い」
俺は、静かに言った。
「でも、強すぎて――一匹でなんでもできるから、一匹で戦う癖がついてた。ゴロに雷が効かないと分かった途端、頭に血が上って、ヒノを狙うことしか見えなくなった。一匹に夢中になったエースは、三方向からは守れない。それだけだ」
九条は、何も言い返せなかった。
ふと、観客席を見上げる。
鷹宮が、いた。
拍手もしない。笑いもしない。
ただ、冷たい目で、じっと俺を――いや、俺の三匹を、見ていた。
値踏みするみたいに。
……へえ。
子分が負けても、顔色ひとつ変えないか。
やっぱり、あんたが、本当の壁だ。先輩。
タケが、ぴょんぴょん跳ねながら、駆け寄ってくる。
「ソウマ! やった、やったな! E組から、初の昇格だ!」
昇格。
そうだ。これで俺は、ひとつ上に上がる。
ハズレ組から、ようやく、一歩。
足元で、三匹が、得意げに胸を張っていた。
ゴロは……のんきに、あくびをしている。
ヒノは、勝ち誇って跳ねまわる。
タマは、父さんの首輪を揺らして、ふん、と鼻を鳴らした。
……よくやった、お前ら。
これが、ハズレの軍団の、初陣だ。
一匹じゃ、届かない。
でも、二匹、三匹と増えていけば。
いつか、あのS級の翼にも――この軍団で、届いてみせる。
……上等だ。
逆転劇は、まだ始まったばかり。
俺たちの本当の戦いは、これからだ。
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【あとがき】
第十六話、読んでくれてありがとうございます!
ハズレ軍団の、初陣。最初の昇格戦です。
相手は、ランクAのサンダーワイバーン(レベル18・雷属性)。タマたちより格上の、エリートです。
今回の勝ち筋は、二段構え。
まず「雷は、岩に効かない(地面に逃げる)」。九条は主砲の雷を、壁のゴロに撃ち込みますが、まるっと無効化されて大慌て。バカにしていた"鈍い岩"が、実は雷の天敵だったわけです。
そこで九条は、空からヒノとタマだけを狙い撃ちに。でも――一匹で何でもできる強すぎるエースは、一点に夢中になると脆い。急降下の終着点に動かない壁を置き、翼を焼き(ヒノ)、がら空きを突く(タマ)。三方向は、守れない。
強い一匹より、噛み合った三匹。
この作品のテーマが、勝利の形になった回です。
そして、子分の九条が敗れても、顔色ひとつ変えない鷹宮。やっぱり、本当の壁は、あの人です。
▼次回予告
初の昇格を果たしたソウマ。新たなクラスで、待っているものは?
そして、いまだ正体の見えない"あの人"の影が、また――。
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次回も、お楽しみに!




