第15話 三匹で、ひとつ
三匹を、同時に動かす。
言うのは、簡単だった。
でも、現実は――地獄だった。
訓練ダンジョンで、何度やっても、同じだ。
タマに「右」と言いながら、ヒノに「撃て」と命じて、ゴロに「前へ」と――
もう、頭の中がぐちゃぐちゃになる。
指示が、渋滞する。
タマが止まり、ヒノが誤射し、ゴロは……だいたい、寝てる。
その日も、案の定だった。
岩陰から飛び出してきた魔物に、三匹の動きが、てんでバラバラ。
ゴロは反応が遅れ、ヒノは、味方のタマに、危うく炎を当てかけた。
「あぶなっ……! いったん、下がれ!」
なんとか、態勢を立て直す。けど、冷や汗が背中を伝った。
……これじゃ、連携どころか、味方同士で事故る。
「あー、もう! なんで、揃わないんだ!」
隣で、タケが苦笑いした。
足元のドガも、やれやれ、って顔だ。
「そりゃ、三匹は無理だろ。二匹でも、上級者の技なんだぞ? おまえ、欲張りすぎ」
……いや。
無理、で片づけたくない。
前世の俺は、もっと多くを動かしてた。なら、できないはずがない。
問題は、気合いじゃない。やり方だ。
その夜。
俺が縁側で唸っていると、じいちゃんが、茶をすすりながら、ぽつりと言った。
「ソウマ。お前、ぜんぶ自分で、やろうとしてないか」
「……え?」
「いい育成ってのはな、ドラゴンを操り人形にすることじゃない。あいつらを信じて、仕事を任せることだ。お前が手を出すのは、ここぞってときだけでいい」
その言葉が。
前世のゲームの記憶と、かちりと噛み合った。
……そうだ。
大量のユニットを動かすとき、俺は、一体ずつ細かく指示なんてしてなかった。
役割を決めて、陣形を組んで、あとは、それぞれに「仕事」を任せる。
俺自身は、いちばん大事な一手にだけ、集中する。
全部を自分で動かそうとするから、渋滞するんだ。
三匹を、バラバラの三匹として見るんじゃない。
ひとつの"陣形"として、見る。
……そうか。
鍵は、ゴロだ。
ゴロは、鈍い。ほとんど動かない。
今まで、それを欠点だと思ってた。
でも――逆だ。
動かないなら、"動かさなくていい壁"にすればいい。
ゴロを、前に、どんと置く。
それだけで、こいつは最高の盾になる。指示は、最小限でいい。
ゴロが、前線を固定する。
その後ろから、ヒノが安心して炎を撃つ。
そして俺は――遊撃のタマだけを、自分の手で自由に操る。
三匹、全部を動かすんじゃない。
二匹に「役割」を任せて、俺が動かすのは、一匹。
……これなら、頭はこんがらがらない。
翌日、さっそく試した。
まずは、タケとドガとの、模擬戦だ。
「ゴロ、前で構えてろ。そこから、動くな」
「グモッ」
ゴロが、どっしりと腰を据える。
ドガが突っ込んできたが、ゴロの硬い体に、ぼすっとはじき返された。
ゴロは、びくともしない。動かない盾。……最高だ。
「ヒノ、ゴロの後ろから、援護!」
「キュアッ!」
ゴロの肩越しに、ヒノの炎が飛ぶ。
壁の後ろは、安全地帯。ヒノは、落ち着いて狙える。
そして。
「タマ、横から回り込め!」
タンッ!
タマが、戦線の外を駆け抜ける。
俺の意識は、今、タマだけに集中してる。
ゴロとヒノは、もう、勝手に仕事をしてくれてる。
ドガが、ゴロに気を取られた、その隙に。
ドガッ!!
タマの体当たりが、横から、きれいに決まった。
「うそだろ……。今の、三匹、完全に噛み合ってたぞ……!?」
タケが、目を丸くしている。
その足で、俺は、ダンジョンの奥に潜った。
新しい陣形を、本物の魔物で、試すためだ。
出てきたのは、群れだった。
三体の、トゲを生やした、狼みたいな魔物。
「ゴロ、前! ヒノ、固めて撃て! タマ、外から一体ずつ!」
ゴロが、群れを真正面で受け止める。
その後ろから、ヒノの炎が、まとめて足を焼く。
そして、ひるんだ一体を、タマが、横から確実に抜く。
……スムーズだ。さっきより、ずっと。
三体を、危なげなく、片づけた。
数で来られても、崩れない。
むしろ――"数"を相手にするほど、こっちの陣形は、活きる。
これだ。
これが、三匹の――軍団の、戦い方。
ゴロが、どっしり構える、壁。
ヒノが、その陰から撃つ、火力。
タマが、隙を突く、刃。
一匹一匹は、ハズレでも。
組み合わさると――化け物に届く"形"になる。
前世で、何千時間も磨いた、編成の感覚。
それが、この世界でやっと、本物の力になりはじめていた。
ダンジョンの帰り道。
タマが俺の肩に、ヒノが頭の上に、ゴロが――のっそり、後ろをついてくる。
三匹とも、どこか誇らしげだった。
「お前ら、よくやった。……最高のチームだよ」
タマが「キュルッ」と胸を張り、ヒノが「キュキュッ」と跳ねる。
ゴロは、ぽてっと俺の足にぶつかって、また転がった。
……お前は、相変わらずだな。
その数日後だった。
教室の掲示板の前に、人だかりができていた。
タケが、血相を変えて走ってくる。
「ソウマ! 出たぞ、昇格戦の組み合わせ!」
……来たか。
最初の昇格戦。ここで結果を出せば、E組から上に上がれる。
掲示板に貼り出された、対戦表。
俺は、自分の名前を、指でたどった。
『天野ソウマ(E組) 対 九条ハヤテ(B組)』
……B組。
いきなり、三つ上のクラスか。
「九条って……あの、九条かよ」
タケの声が、ひきつった。
「一年で、特進の次に強いって言われてるエリートだ。家も、すげえ名門で……しかも、鷹宮先輩の、子分みたいなやつだぞ」
……なるほど。鷹宮先輩の、子分ね。
その帰り道、レイとすれ違った。
「九条が相手だって? ……あなた、運がないわね」
「知り合いか?」
「同じ中学だったの。あいつ、強いわよ。それに――鷹宮先輩に認められたくて、必死。あなたを潰せば、点数になると思ってる」
レイは、ふっと目を細めた。
「でも。あの試験のあなたなら……まあ、見ものね」
そう言い残して、行ってしまった。
……あいつなりの、エールかね。
ふと、視線を感じて、振り返る。
廊下の窓の外。
あの鷹宮が、腕を組んで、こっちを見ていた。
目が合うと、口の端だけで笑う。まるで「お手並み拝見だ」と、でも言うみたいに。
……はは。さっそく、刺客かよ。
でも、ちょうどいい。
俺の、三匹の軍団。
その初陣の相手としては――不足なしだ。
「タケ。受けて立つ、って伝えてくれ」
俺の肩で、タマが、ふん、と鼻を鳴らす。
足元では、ゴロがのっそり顔を上げた。ヒノが、やる気満々で跳ねる。
……上等だ。
ハズレ軍団の、初陣。
最初の昇格戦が、はじまる。
───────
【あとがき】
第十五話、読んでくれてありがとうございます!
今回のテーマは、三匹同時操作の"突破口"。
全部を自分で動かそうとするから渋滞する――だったら、二匹には「役割」を任せて、自分が直接動かすのは一匹だけ。鈍くて動かないゴロを、逆に「動かさなくていい壁」にしてしまう。じいちゃんの育成論と、ソウマのゲーマー脳が噛み合った、発想の転換です。
ゴロが壁、ヒノが火力、タマが刃。
一匹ずつはハズレでも、組み合わせれば"形"になる。しかも数で来られるほど、この陣形は活きる――軍団の戦い方が、ようやく形になってきました。
そして、最初の昇格戦。相手は、三つ上のB組のエリート・九条ハヤテ。しかも、鷹宮先輩の息がかかった刺客のようで……?
ハズレ軍団の初陣、次回いよいよ開幕です。
▼次回予告
最初の昇格戦、開戦!
名門のエリート・九条に、ハズレ三匹で挑む。
磨いた連携は、三つ上のクラスに通用するのか――!?
「続きが気になる」と思ってもらえたら、
★評価・ブックマークで応援してもらえると、すごく励みになります!
次回も、お楽しみに!




