第14話 三匹目の卵
あの日から、俺は訓練ダンジョンに入り浸った。
授業が終われば、すぐ地下へ。
タマとヒノを連れて、ひたすら狩る。
タケも、相棒のドガを連れて、よくついてきた。
「おまえ、ほんと、よく潜るな……」
「強くなるのに、近道はないからな」
ただ、俺の狩り方は、ちょっと変わってる。
闇雲に戦うわけじゃない。狙って、相手を選ぶんだ。
タマは、卵を産む。
そして、どんな卵が産まれるかは、その前に何と戦ったかで変わる。
硬い相手と戦えば、硬い卵。素早い相手となら、素早い卵。
前世のゲームでいう、"厳選"ってやつだ。
じゃあ、今の俺の軍団に足りないものは、何か。
タマは、速い。けど、打たれ弱い。
ヒノは、火力は出る。けど、後ろから撃つ紙装甲だ。
……つまり、前で敵を受け止める"壁"がいない。
なら、次にほしいのは――硬くて、しぶとい、盾役だ。
だから俺は、わざと硬い相手ばかり狩った。
土の、岩の、ごつい甲殻のモンスターを。
ある日は、ストーンゴーレムとぶつかった。
岩の塊が、そのまま動いてるみたいな、ごつい巨体。
まともに殴っても、こっちの手が痛いだけだ。
「ヒノ! 関節を狙え! 岩と岩の、継ぎ目だ!」
ゴオッ、とヒノの炎が、ゴーレムの足の継ぎ目を炙る。
炎は岩に通りにくい。けど、熱で継ぎ目をもろくはできる。
そこへ――
「タマ、今だ!」
タンッ、ドガッ!!
タマの体当たりが、もろくなった継ぎ目に突き刺さった。
ぴしっ、と亀裂が走って、ゴーレムがぐらりと傾ぐ。
炎でゆるめて、速さで砕く。
……うん。二匹の連携も、板についてきた。
そんな狩りを、何日も続けた。
「なあソウマ。なんで、わざわざ硬いのばっかり狙うんだ? もっと弱いの倒したほうが、楽だろ」
「これは、楽したいかどうかの話じゃないんだ。次に来てほしい仲間を、こっちから選んでる」
「次に来てほしい……? どういう意味だよ」
「まあ、いまにわかるよ」
タケは、きょとんとしていた。
……悪いな、タケ。タマの力は、まだ誰にも明かせないんだ。
日が経つにつれ、二匹はぐんぐん育った。
タマ レベル10
ヒノ レベル7
タマは、ついに二桁。
ヒノも、炎の威力が見違えるほど上がった。
……よし。土台は、できた。
その夜。
俺は家の庭で、タマと向き合った。
縁側には、じいちゃんが、黙って座っている。
「タマ。……そろそろ、いいか」
産卵。仲間を、増やす。
でも、これは、ただの便利な能力じゃない。
タマは自分のHPをごっそり削って、命を分けて、卵を産む。
前のときは、七割も持っていかれた。
……正直、やらせたくない気持ちもある。
こいつがつらい思いをするのは、見たくない。
でも、タマは。
俺の心配を見透かしたみたいに、ぐっと胸を張った。
「キュルッ」
まかせろ、って顔だ。
……ったく。ほんと、お前は。
「ソウマ」
縁側のじいちゃんが、ぼそりと言った。
「卵を産むってのは、ただ数を増やすことじゃない。タマが自分の命を分けて、新しい命を、この世に呼ぶってことだ。……粗末に、するんじゃないぞ」
「……ああ。わかってる」
じいちゃんの目は、いつもよりずっと真剣だった。
長いあいだ、命を見てきた、職人の目だ。
「わかった。タマ、頼む。……無理は、すぐ言えよ」
タマが、目を閉じる。
体が、淡く光りはじめた。
ぼう……っと。
その光が、だんだん強くなる。
タマの足元に、小さな卵の輪郭が、にじみ出てくる。
……前より、ちょっとだけスムーズだ。
レベルが上がって、産卵も少し楽になってる。これが、段階解放ってやつか。
それでも、タマの息は荒い。
ひと削り、ひと削り、命を分けている。
やがて――ことり、と。
光が、収まった。
タマの前に、ひとつの卵が転がっていた。
ごつごつした、岩みたいな、茶色い殻。
「キュ……ルゥ」
タマが、ぺたん、と座り込む。
HPを見ると、三割まで減っていた。
……よくやった。ほんとに、よくやった。
俺は、ぐったりしたタマを、そっと抱き上げた。
じいちゃんが、黙ってタオルを差し出してくれる。
「あとは、わしが見てる。お前は、卵のそばにいてやれ」
しばらくは安静だ。この消耗は、一晩じゃ戻らない。
その卵が孵ったのは、翌朝のことだった。
ぴしっ、と、ヒビが入って。
ごろん、と、殻が割れる。
中から出てきたのは。
……まんまるの、岩みたいな、ちびドラゴンだった。
ずんぐりした、茶色い体。
短い手足に、眠そうな半目。
動きは見るからに、のっそりしている。
「グモォ……」
低い、地鳴りみたいな鳴き声。
そいつは、もそもそと俺の足元まで来て、ぽてっと寄りかかってきた。
……うわ。
なんだこいつ。むちゃくちゃ、かわいいな。
ステータスを、見る。
資質ランク D
属性:岩
タイプ:防御・体力特化
来た。
ばっちり、狙いどおりの盾役だ。
硬い相手ばかり狩った、"厳選"の成果。
硬くて、しぶとい、岩のドラゴン。
「お前の名前は……ゴロ、だ」
「グモッ」
気に入った、みたいだ。
ゴロは、さっそく歩こうとして……ころん、と転がった。
起き上がろうと、もそもそするけど、体がまんまるだから、うまく起きられない。
「グモ、グモォ」
……こいつ、転がったら、自力で起きられないのか。
ヒノが、心配そうに、つんつんつついてやる。タマは、やれやれ、って顔だ。
手のかかる弟が、できたな。
……三匹。
ついに、三匹になった。
ふと、思い出す。
ドラゴンを戦いの場で、同時に操れる数。
普通は、一匹。上級者で、二匹。
そして、三匹以上をまとめて動かせるのは――"天才"だけ、らしい。
……俺は、今日から、三匹だ。
さっそく、三匹を同時に動かしてみる。
「タマは右! ヒノは後ろから援護! ゴロは前で構えろ!」
……結果は、散々だった。
タマは勢いよく飛び出し、ヒノは見当違いの方向に炎を吐き、ゴロは――まだ、寝てた。
ぜんぜん、揃わない。
頭の中で、三匹分の指示が、ぐちゃぐちゃに絡まる。
……なるほど。これが、"天才"の壁か。
甘く見てた。簡単じゃ、ないらしい。
でも。
速さのタマ。火力のヒノ。盾のゴロ。
前・後ろ・壁。役割は、きれいに揃ってる。
あとは、こいつらをまとめて動かす腕を、磨くだけだ。
前世で何十体も動かしてきた俺に、できないはずがない。
鷹宮の、あの銀色の翼を思い出す。
S級の、化け物。今はまだ、届かない。
でも、見てろ。
俺の軍団は、これからどんどん増えていく。
一匹が、二匹。二匹が、三匹。やがて、空を埋めるほどに。
その先頭で。
父さんの首輪をつけたタマが、胸を張って笑ってる気がした。
……上等だ。
ハズレの軍団、ここに三匹目。
逆転劇は、ここから加速していく。
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【あとがき】
第十四話、読んでくれてありがとうございます!
ついに、軍団拡大の本番。タマの、二度目の産卵です。
今回のキモは、ソウマの"厳選"。「産まれる卵は、その前に何と戦ったかで変わる」という設定を使って、わざと硬い相手ばかり狩り、足りなかった"盾役"を狙って引き当てました。ゲーマーらしい、編成の組み立てですね。
そして生まれた三匹目――岩ドラゴンの、ゴロ。
のんびり屋で、むちゃくちゃ鈍くて、転がると自力で起きられない。でも、硬い。速さのタマ、火力のヒノに続く、待望の壁役です。
三匹そろったことで、ソウマはついに"天才"の領域(三匹同時操作)に足を踏み入れます。
とはいえ、初挑戦は大失敗。連携の特訓は、これからが本番です。
▼次回予告
三匹同時操作の、特訓開始!
ばらばらな三匹を、ひとつの"軍団"にできるのか?
そして、忍び寄る、最初の昇格戦の影――!
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次回も、お楽しみに!




