表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『ハズレ竜タマは、軍団を産む。』  作者: akaike


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
13/20

第13話 鷹宮の壁

 ハズレ組――E組の、初めての授業。


 教室に集まったのは、十人ちょっとだった。

 みんなどこか自信なさげで、連れてるドラゴンも、地味なやつばかり。

 羽の小さいやつ、やたら眠そうなやつ、飼い主の足元から動かない臆病なやつ。

 ……まあ、灰色のちびドラゴンを連れた俺が、言えた義理じゃないけどな。


 でも、不思議と、嫌な気分じゃなかった。

 むしろ、しっくりくる。

 ここには、最初から完成されたやつなんて、いない。

 みんな、伸びしろの塊みたいな連中だ。前世のゲームでいうなら、育てがいのある序盤キャラばっかり。


 担任は、のんびりした女の先生だった。

 彼女は黒板に、でかい字で、ひとことだけ書いた。


「『落ちこぼれ』? 上等。ここは、這い上がるための組です」


 その言葉に、教室の空気が、ちょっとだけゆるんだ。

 ……悪くない先生だ、と思った。


 先生は、学園の仕組みを教えてくれた。

 校内には、生徒専用の訓練ダンジョンがある。

 そこで自由にドラゴンを鍛えて、昇格戦で結果を出せば、上のクラスを狙える。

 潜る場所によって、出てくる魔物も、産まれる卵の種類も、変わってくるらしい。


 ……レベル上げし放題で、しかも卵の厳選までできる、ってことか。

 頭の中で、ゲーマーの脳みそが、かちりと回りはじめた。

 それ、俺のいちばん得意なやつだ。


 隣の席で、タケが、にっと笑った。

 足元の、ずんぐりした土色のドラゴン――ドガ、っていうらしい――が、のっそりあくびをする。


「な? このクラス、悪くないだろ」

「ああ。最高だ」


 その昼休みのことだった。


 俺とタケが、訓練ダンジョンの場所を見にいこうとしたとき、廊下の先に、人だかりができていた。

 その中心に――昨日の、あの上級生がいた。


 仕立てのいい制服。胸には、見慣れない金色の徽章。

 まわりの生徒たちが、みんな一歩引いて、道を空けている。

 まるで、王様が通るみたいに。


「タケ。あいつ、誰だ」

「……マジで知らないのか」


 タケの声が、ひそひそと小さくなった。


「鷹宮シュウ先輩。二年で、ぶっちぎりの首席だ。生徒会の幹部で、もう学園の"顔"みたいなもん。連れてるドラゴンも、ランクSに迫る化け物だって噂だぜ」


 ……ランクS級。マジか。

 道理で、まわりがビビってるわけだ。


 その鷹宮が、こっちに気づいた。

 すっと人垣を抜けて、まっすぐ俺の前まで歩いてくる。

 すれ違う生徒が、反射的に、頭を下げていった。


「お前が、天野ソウマか」


 低くて、よく通る声だった。

 近くで見ると、整った顔立ちなのに、目だけがぞっとするほど冷たい。


「……はい。そうですけど」

「噂は聞いた。試験に落ちたくせに、"特別推薦"で拾われた。あの方の、お気に入りだそうだな」


 あの方。

 ……あの特別席にいた、逆光の人影のことか。


「この学園は、実力がすべてだ」


 鷹宮の声が、一段、冷たくなった。


「俺はガキの頃から、ドラゴンひとつで、ここまで這い上がってきた。コネも、推薦も、いっさい使わずにな。なのに――お前みたいなのが、誰かのお気に入りってだけで、同じ場所に立ってる。反吐が出る」


 まわりの生徒が、息をのんだ。

 タケが、俺の袖をぎゅっとつかむ。


 ……はー、なるほど。

 筋金入りの実力主義者か。こいつには、こいつなりの矜持がある。

 ある意味、まっすぐすぎるエリート様だ。


 鷹宮の肩には、いつのまにか、銀色のドラゴンが乗っていた。

 風をまとったみたいな、鋭いシルエット。

 そいつが、ばさり、と片翼を広げた瞬間――


 ぶわっ、と、廊下に風が走った。


 近くの生徒が、たたらを踏む。

 ただ翼を、広げただけで。これだ。

 俺は、そっと、そいつのステータスを見た。


  シルバーホーク・ドラゴン

  資質ランク S

  レベル58


 ……うわ。

 ランクSの、レベル58。

 レイのアクアが、霞んで見える。冗談みたいな数字だ。


 正直、今の俺じゃ、指一本触れられない。

 それは、認める。


 でも――こいつにも、"型"はある。

 風と速さに、ぜんぶ振った一点特化。

 なら、いつか崩しようも、あるはずだ。

 俺はその印象を、頭の隅に、そっとしまった。


「先輩。ひとつ、いいですか」


 俺はまっすぐ、鷹宮を見返した。


「コネだろうがなんだろうが、受かったのは事実です。それに――俺がここでどこまで行けるかは、まだ誰にも分かってない。先輩にも、俺にも」


 鷹宮の眉が、ぴくりと動いた。


「……ほう。ハズレのくせに、口だけは達者だな」

「口だけかどうかは、これから、結果で見せますよ。いつか、先輩のとこまで上がってみせる」


 一瞬、場がしんと静まった。

 タケが「うわ、言っちゃったよ……」って顔で固まってる。


 鷹宮は、しばらく俺を見つめて、それからふっと鼻で笑った。


「いいだろう。せいぜい這い上がってこい。……ただし、忠告だ。あの方に気に入られた者は、これまでにも何人もいた。その全員が、今どこにいると思う?」


 ……どういう、意味だ。


「さあな。せいぜい、潰れないことだ。そのちびドラゴンともども」


 その言葉に。

 俺の肩で、タマが「グルルゥ」と低く唸った。

 めずらしく、本気で怒っている。


 鷹宮は、もうこっちを見もせずに去っていった。

 人だかりも、潮が引くみたいに散っていく。


 残されたタケが、はー、と大きく息を吐いた。


「お、おまえ、すげえな……。鷹宮先輩に、あんな口きくやつ、初めて見たぞ」

「向こうが先に、うちのタマをバカにしたからな」


 俺は、肩のタマの頭を撫でてやる。

 父さんの首輪が、ちゃりっと小さく鳴った。まだ、ちょっとぷりぷりしてる。


 ……でも、鷹宮の言ったことは、半分は正しい。

 今の俺たちは、弱い。S級の足元にも、及ばない。

 なら、やることはひとつだ。

 強くなる。それも、誰より速く。


「タケ。さっそくで悪いけど、訓練ダンジョン、案内してくれ」

「お、おう! いいけど……今から?」

「ああ。一秒でも早く、強くなりたいんだ」


 訓練ダンジョンは、学園の地下に広がっていた。

 ひんやりとした、青白い通路。

 危なくなれば教官が止めてくれる、安全な狩り場だ。

 ……それでも、出てくる魔物は、本物だった。


 さっそく、岩肌から、ごつい甲殻のモンスターが這い出てくる。


  ロックリザード

  レベル6

  属性:土


「ヒノは……相性が悪いな。土に、炎は通りにくい」


 炎は、土には弱い。なら、こいつは。


「タマ、頼む。速さで、いけ」


「キュルッ!」


 タマが、地を蹴った。

 タンッ、と一瞬で間合いを詰めて、硬い甲殻の継ぎ目を狙う。


 ドガッ!!


 体当たりが、ロックリザードの横っ腹に突き刺さった。

 硬い相手でも、急所を的確に。父さんの首輪が、揺れて光る。


 二度、三度。

 タマの一撃ごとに、相手の体がぐらつく。

 最後の一撃で、ロックリザードは光の粒になって消えた。


 その瞬間、頭の中に、いつもの感覚が走る。


  タマ レベル7 → 8


 ……上がった。

 こつこつ、確実に。これでいい。これが、俺たちのやり方だ。


 タマが、得意げに胸を張る。

 ヒノも「次はおれの番!」とばかりに、ぴょんぴょん跳ねた。


 ……よし。

 このペースでレベルを上げて、そして、そろそろ――タマに、三匹目を産んでもらう。

 ハズレの軍団を、いよいよ増やすときだ。


 ふと、鷹宮の、あの冷たい目を思い出す。

 「あの方に気に入られた者は、今どこにいる」――か。

 ……なんだか、きな臭い。

 でも、ビビってる暇はない。


 待ってろ、先輩。

 その"化け物"に、ハズレの軍団で、ぶつかってやる。


 ……上等だ。

 ハズレ組からの、本当の逆転劇は、ここから始まる。



───────


【あとがき】


 第十三話、読んでくれてありがとうございます!


 学園生活、いきなりの強敵登場です。

 二年の首席にして生徒会幹部、鷹宮シュウ先輩。連れているのは、なんとランクSのシルバーホーク・ドラゴン(レベル58)。レイのアクアどころじゃない、現状ぶっちぎりの"壁"です。


 コネ呼ばわりされて、それでも引かないソウマ。

 「いつか先輩のとこまで上がってみせる」――この大口、ちゃんと回収していきます。

 そして、鷹宮が残した不穏なひとこと。「あの方に気に入られた者は、今どこにいる?」……"あの人"をめぐる謎が、少し不気味な色を帯びてきました。


 ラストは、訓練ダンジョンでさっそく特訓。タマがレベル8に。

 地道なレベル上げと、いよいよ動き出す産卵。軍団づくりの本番は、ここからです。



 ▼次回予告

 訓練ダンジョンで、レベルを上げろ!

 そしてついに、タマが三匹目の卵を産む。

 ハズレ軍団、増員のとき――新たな仲間は、どんな子に?



 「続きが気になる」と思ってもらえたら、

 ★評価・ブックマークで応援してもらえると、すごく励みになります!


 次回も、お楽しみに!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ