第12話 ハズレ組、入学
合格を伝えた夜のことは、たぶん一生忘れない。
じいちゃんは、しばらく封筒を見つめたあと、ぐしゃっと顔を崩した。
「そうか。……天野のドラゴンが、また、あそこに行くのか」
その声は震えていた。
昔、天野のドラゴンを何匹も卸していた蒼空学園。そこに、もう一度。
じいちゃんにとっては、ただの合格じゃなかったんだと思う。
ひなたは「ふーん」って顔をしていた。
でも夜になって、こっそり俺の部屋に来て、ぼそっと言った。
「……おめでとう。ちょっとだけ見直した。ちょっとだけだからね」
ちょっとだけ、を二回言うところがひなたらしい。
その耳が真っ赤だったのは、見なかったことにしてやる。
そして入学初日の朝、じいちゃんが古い首輪を差し出してきた。
革はすり切れていたけど、ていねいに手入れされている。
「これは、わしが昔こさえた首輪だ。お前の父さんが相棒につけてた」
……父さんが?
「ああ。あいつもテイマーでな。その話はいつかゆっくり、な。今日は、これをタマにつけてやれ」
タマの首にそっと巻いてやると、サイズはぴったりだった。
まるで最初から、こいつのためにあったみたいに。
「キュルッ」と、タマが得意げに胸を張る。
……ああ、似合ってるよ。
父さんが、テイマーだった。
初めて聞く話に、胸の奥で小さな引っかかりが残る。
でも今は、前を向くときだ。
蒼空ドラゴン学園、入学式。
でかい講堂に、ずらりと並ぶ新入生。
やっぱり場違い感はある。みんな立派なドラゴンを連れてるからな。
でも、もう笑われたって平気だ。受かったのは事実なんだから。
入学式のあと、クラス分けが発表された。
一年生は入試の評価でクラスが振り分けられる。
上から特進クラス、一組、二組と下に続いていって――俺の名前は、いちばん下のクラスにあった。
E組。
生徒のあいだじゃ「ハズレ組」なんて呼ばれてるらしい。
ハズレ卵の、ハズレ少年が、ハズレ組。
……ふっ。逆に、しっくりくるじゃないか。
教室に入ると、さっそくでかい声が飛んできた。
「お! 新顔だ! こっちこっち!」
手を振っていたのは、丸っこい体の人なつっこそうな男子だ。
足元には、ずんぐりした土色のドラゴンがのっそり座っている。
「おれ、タケ。よろしくな! ……っていうか、お前、もしかして噂のやつだろ。試験で特進のレイに一矢報いたっていう」
「……耳が早いな」
「このクラスじゃ、お前はちょっとした有名人だぜ」
タケはけらけら笑った。
悪い気はしない。この学園で、初めて普通に話しかけてくれたやつだ。
タケは、いろいろ教えてくれた。
このクラス分けは固定じゃない。
学園では定期的に実技の評価戦――「昇格戦」があって、結果を出せば上のクラスへ上がれるし、サボれば落ちる。
「つまり、E組からでも特進まで駆け上がれるってことだ。まあ、めったにいないけどな!」
……へえ。
それを聞いた瞬間、俺の中で何かがかちっと噛み合った。
下からコツコツ積み上げて、最後にぜんぶひっくり返す。
それって、俺がいちばん得意なやつじゃないか。
「タケ。俺、この学園、気に入ったよ」
その日の帰り際、廊下でレイとすれ違った。
その胸で、特進クラスの徽章が光っている。
「E組、ね」
レイは俺のクラス章をちらっと見て、薄く笑った。
「言っておくけど。私は上で待ってるから。……早く、おいで」
挑発なのか、激励なのか。たぶん、その両方だ。
「ああ。すぐ行く」
俺がそう返すと、レイはふっと笑って背を向けた。
その背中を見送ったとき、ふと視線を感じた。
廊下の奥。仕立てのいい制服を着た上級生らしき男が、冷たい目でこっちを見ていた。
E組の俺を、品定めするみたいに。
目が合うと、男はふっと口の端を上げた。
まるで「せいぜい頑張れよ」とでも言いたげに。
なんだか、厄介な予感がする。
でも今は、そんなことより。
俺は、肩のタマと足元のヒノを見た。
父さんの首輪をつけたタマ。やんちゃなヒノ。
こいつらと、このハズレ組から、てっぺんを目指す。
……上等だ。俺の学園生活は、今、始まったばかりだ。
───────
【あとがき】
第十二話、読んでくれてありがとうございます!
いよいよ学園生活のスタートです。
配属は最下位の「ハズレ組」ことE組。でも昇格戦で駆け上がれる仕組みを知って、ソウマはむしろ燃えています。
下から積み上げて、てっぺんをひっくり返す――この子のいちばん得意なやつですね。
今回の新キャラは、明るいクラスメイトのタケ。
学園で初めてできた、普通の友達です。これから、いい相棒になっていきます。
そして、父さんの形見の首輪。
「父さんも、テイマーだった」――さらりと出てきたこの話と、廊下で見かけた感じの悪い上級生。
この辺りも、これから効いてきます。
▼次回予告
ハズレ組での初めての授業。
そして、ソウマに突っかかってくる、あの上級生の正体とは?
タマとヒノの新たな成長も――!
「続きが気になる」と思ってもらえたら、
★評価・ブックマークで応援してもらえると、すごく励みになります!
次回も、お楽しみに!




