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『ハズレ竜タマは、軍団を産む。』  作者: akaike


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11/20

第11話 ハズレ、受かる

 俺の試合が終わったあとも、模擬戦は、次々と続いた。


 闘技場の隅。

 俺は、ぐったりしたタマとヒノを膝に乗せて、それを眺めていた。


 二匹とも、よく頑張った。

 普通の戦いの疲れなら、一晩も寝れば、すっかり戻る。今は、ちょっとだけ、お疲れモードだ。

 タマが俺の手のひらに、頭をぐりぐり押しつけてくる。ヒノはもう、寝息を立てていた。現金なやつ。


 ほかの組の戦いは……正直、レベルが、違った。

 立派なドラゴンが、立派な技をぶつけ合う。さすが、全国から集まった、エリートたちだ。

 その中には、危なげなく圧勝してるやつも、いた。さっき俺を笑った、金色寄りの卵のやつとか。


 ……まあ、いいさ。

 数字で負けてるのは、最初から、わかってる。


 でも、ひとつ、引っかかってた。

 俺は――負けた。完敗だ。

 いくらクロガネが「見ものだった」なんて言っても、負けは、負け。

 落ちても、文句は、言えない立場だ。


 やがて、すべての組の模擬戦が、終わった。

 クロガネが、闘技場の中央に、立つ。


『これより、合格者を発表する』


 ざわ、と受験生たちが、息をのんだ。

 俺も、ごくり、と唾を飲む。

 膝のタマが「心配すんな」ってふうに、頬をすり寄せてきた。


『名を呼ばれた者は、前へ』


 クロガネが、名簿を読み上げ始める。


 次々と、名前が、呼ばれていく。

 呼ばれた受験生は、ほっとした顔で、前へ出ていく。


 ……あれ?

 その中に、いないやつが、いた。

 さっき、圧勝してた、金色の卵のやつ。

 あいつの名前が、いつまで経っても、呼ばれない。


「な……なんでだ!? 俺は、勝ったんだぞ!? あんなショボいのに負けたやつより、なんで、俺が……!」


 金色のやつが、声を荒げた。

 クロガネは、冷たい目で、そいつを見下ろす。


「『勝っても、中身がなければ、落とす』。最初に、言ったはずだ。お前の戦いは、ただ強いドラゴンに、任せきりだった。お前自身は、何もしていない」


 ……うわ。

 マジで、言ったとおりに、やってる。この試験官。

 ただ強いだけじゃ、ダメ。ちゃんと、中身を見てる。


 ってことは。

 俺みたいに、負けたやつにも――まだ、目が、あるのか?


 心臓が、ばくん、と跳ねた。


 クロガネが、名簿の最後のほうに目を落とす。

 そして。


『――天野ソウマ』


 ……え。


 呼ばれた。

 俺の、名前が。


「天野ソウマ。前へ」


 膝のタマとヒノが、ぱっと、顔を上げた。

 俺は二匹を抱えたまま、ふらふらと前に出る。

 頭が、追いついてない。負けたのに。完敗したのに。


「お前は、霧島レイに、敗れた」


 クロガネの、低い声が、響く。


「だが――お前は、たった二匹の格下のドラゴンで、ランクAのアクアドラゴンに一矢を報いた。属性も相性もレベルも、何もかも不利な中で。お前は、頭を使った」


 クロガネの、鋭い目が、ほんの少しだけ、ゆるんだ気がした。


「勝ち負けは、才能で、決まることもある。だが、あの発想と、操作は――才能じゃない。お前が、積み上げてきたものだ。この学園が、本当に欲しいのは、そういう人間だ」


 ざわっ、と闘技場が、揺れた。

 さっきまで俺を笑ってたやつらが、信じられない、って顔で、こっちを見ている。


「合格だ。蒼空ドラゴン学園へ――ようこそ」


 ……受かった。

 ハズレと笑われた、この俺が。

 ハズレ卵の、タマと、一緒に。


 膝の中で、タマが、「キュルッ」と、得意げに鳴いた。

 ヒノも、つられて、「キュキュッ!」と、跳ねる。


 ……ああ。

 全部、お前らの、おかげだよ。


 胸の奥が、じわっと、熱くなった。

 じいちゃんに。ひなたに。早く、伝えたい。

 ――受かったぞ、って。


 発表が、終わって。

 受験生たちが、ぞろぞろと、引き上げていく。


 俺も、出口に向かおうとした、そのとき。


「おめでとう。……って、言うのも、変な感じだけど」


 レイ、だった。

 もちろん、こいつも、合格。それも、堂々のトップ通過だ。


「あなた、負けたのに、私より、注目されてる。……ほんと、調子が狂うわ」


 そう言いながら、レイの口元は、ちょっと、笑ってた。

 ダンジョンで会ったときの、あの氷みたいな目は、もう、どこにもなかった。


「ねえ。前に言った、『あなたを面白いと思った人』のこと。覚えてる?」

「ああ。例の、"あの人"、か」

「その人。今日、ここに――来てるわ」


 ……は?


 レイの視線が、すっと、上を向いた。

 闘技場を高くから見下ろす、特別席。

 審判席の、さらに、奥。

 そこに――誰かが、ひとり、立っていた。


 逆光で、顔は、見えない。

 でも、その人物がまっすぐこっちを――いや、俺の腕の中のタマを見ているのが、はっきりわかった。


「あの人が、あなたをこの試験に、呼んだの。……どうしてかは、私も、知らない」


 レイの声が、少し、低くなる。


「でも、ひとつだけ。あの人が動くと、決まって"大きなこと"が起きる――そう、聞いてる。だから……気をつけて、天野くん」


 それだけ言って、レイは、去っていった。


 俺は、もう一度、その高い場所を見上げる。


 逆光の人影の隣に、クロガネが歩み寄って、何かを報告するみたいに深く頭を下げていた。

 ……あの、クロガネが。あの、無愛想な試験官が。あんなに、かしこまってる。

 ただ者じゃ、ない。相当な、大物だ。


 人影は、しばらくじっと俺を見ていた。

 それから――ふっと口元だけが、動いたように見えた。


 まるで、「天野」っていう名前を懐かしんでる、みたいに。


 ……気のせい、か?

 いや。

 ぞくり、と背筋が、震えた。


 受かった喜びとは別の、何か。

 大きな歯車が、ゆっくりと回り始めた――そんな予感がした。


 あの少女の言葉が、また、頭の中で、蘇る。

 ――この国の、ドラゴンの世界は、そんなに甘くない。


 でも。

 俺の腕の中で、タマとヒノは、すやすやと、寝息を立てている。


 こいつらと一緒なら。

 どんなに甘くない世界でも、きっと、やっていける。

 ……そんな気が、した。


 ハズレからの、逆転劇。

 その舞台は、いよいよ――蒼空ドラゴン学園へと、移る。



───────


【あとがき】


 第十一話、読んでくれて、ありがとうございます!


 ついに、合否発表。

 負けたソウマが、合格。そして、圧勝した金色の子が、まさかの不合格。

 「勝っても、中身がなければ落とす」――クロガネの言葉が、ちゃんと、効いてきました。評価されたのは、勝ち負けじゃなく、ソウマの「発想と操作」。これにて、入学試験編、完結です!


 そして、ついに姿を見せた、謎の人物――「あの人」。

 逆光で、顔は見えない。けど、タマを見つめ、あのクロガネが頭を下げる、相当な大物。

 しかも、「天野」の名を懐かしむような……?

 その正体と、ソウマとの繋がりは、これから、少しずつ。



 ▼次回予告

 舞台は、いよいよ、蒼空ドラゴン学園の中へ!

 ハズレ少年の、新生活が始まる。

 新たな出会い、新たなライバル、そして――タマの、さらなる成長!



 「続きが気になる」と思ってもらえたら、

 ★評価・ブックマークで、応援してもらえると、すごく励みになります!


 新章、開幕です。お楽しみに!

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