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『ハズレ竜タマは、軍団を産む。』  作者: akaike


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2/20

第2話 ハズレ者たちの家

 選定の儀が終わって、俺はタマを連れて家に帰った。


 帰り道、すれ違う連中の視線が痛い。

 みんな、立派なドラゴンを肩に乗せたり、横に従えたりして歩いてる。中には、もう人を乗せられそうなくらいデカいやつもいた。


 その横を、俺は灰色のちびドラゴンを頭に乗せて歩く。

 タマは、俺の髪の毛を枕にして、堂々と寝ていた。


「お前、緊張感ってもんがないのか」

「キュー……」


 寝言みたいな返事。

 ……まあ、こいつのこの図太さ、嫌いじゃない。


 でも、家が近づくにつれて、俺の足はだんだん重くなっていった。


 ボロい木の門。色あせた看板には、こう書いてある。

 ――『天野ドラゴンブリーダー商会』。


 じいちゃんの、じいちゃんのそのまた親父の代から続く、ドラゴンを育てる家。

 昔は、ここで育ったドラゴンを求めて、全国から客が来たらしい。


 今は、誰も来ない。


 *


「ただいま」


 引き戸を開けると、土間の奥から、じいちゃんが出てきた。

 白髪頭に、日に焼けた皺だらけの顔。腰は曲がってるくせに、目つきだけは妙に鋭い。


 じいちゃんは、俺を見て――それから、俺の頭の上で寝てるタマを見た。


 数秒、黙った。


「……ソウマ。そりゃ、なんだ」

「俺のドラゴン。資質、サイテーだったってさ」


 俺は、わざと軽く言った。

 いま【産卵】のことや、レベル上限なしのことを話す気はない。誰にも。まだ早い。

 育成ゲーの鉄則。本当に強い手札は、伏せておく。


「ふん」


 じいちゃんは、鼻を鳴らした。

 怒るかと思った。「またお前は」って、呆れられるかと思った。


 でも、じいちゃんはタマから目を離さなかった。

 じーっと。なんていうか、品定めするみたいに。


「……じいちゃん?」

「いや」


 じいちゃんは、ぼそっと言った。


「ずいぶん、面構えのいいチビだと思ってな」


 俺は、ちょっと驚いた。

 みんなが「ハズレ」「トカゲ」って笑ったタマを見て、じいちゃんは――面構えがいい、と言った。


 そうだ。忘れてた。

 この頑固ジジイは、札束で強さを測る今の時代の連中とは、目が違う。

 ドラゴンを、何十年も、その手で育ててきた男だ。

 見た目やステータスの数字じゃなく、もっと別の「何か」を見る目を持ってる。


「キュルッ」


 タマが、起きた。

 じいちゃんと、目を合わせる。


 じいちゃんは、ふっと、口の端を上げた。


「……お前さん、いい目をしとる。中身で勝負するタイプの目だ」


 それ、俺がさっき思ったのと、まったく同じことだった。


 *


「ただいまー……あ」


 奥から、ひなたが出てきた。

 学校の制服姿のまま。優等生らしく、きっちりした格好。


 ひなたは、俺の頭の上のタマを見て――


 すっと、表情を消した。


「……それ」

「ああ。俺のドラゴン」

「資質は」


 俺は、答えなかった。答えられなかった。

 その沈黙で、ひなたは全部察したらしい。


「……そう」


 たった一言。

 でも、その一言が、いちばん冷たかった。


「お兄ちゃん。私、期待した私がバカだった」


 ひなたの声は、震えてた。怒りじゃない。たぶん、泣きそうなのを我慢してる声だ。


「うちが今、どんな状況か、わかってるよね。お父さんとお母さんがいなくなってから、じいちゃんは歳で、お店はもう……」

「ひなた」

「お兄ちゃんが、まともなドラゴンさえ授かってくれたら。それだけで、うち、もう一回やり直せたかもしれないのに」


 ひなたは、ぎゅっと唇を噛んだ。


「なのに……ハズレ。それも、史上最低の資質で」


 言葉が、ぐさぐさ刺さる。

 でも、何も言い返せない。だって、ひなたの言ってることは、ぜんぶ正しいから。

 この子は、十四歳で、潰れかけの家を背負おうとしてる。優秀で、必死で、まっすぐな子だ。

 そんな子が、ぐうたらな兄に絶望するのは――当たり前だ。


「……ごめんな」


 俺が言えたのは、それだけだった。


 ひなたは、何も言わずに、奥へ引っ込んでいった。

 襖の閉まる音が、やけに大きく響いた。


 *


 夜。

 俺は、自分の部屋で、タマと二人きりになっていた。


 タマは、俺の布団の上に丸くなって、こっちを見上げている。

 「キュー?」と、小さく鳴いた。

 なんとなく、「元気ないじゃん」って言われてる気がした。


「……まあな」


 俺は、ごろんと横になった。


 ひなたの顔が、頭から離れない。

 あの子を、あんなふうにさせてるのは、俺だ。


 でも――と、俺は思う。


 俺は、知ってる。

 お前らが今日笑った、このちびドラゴンの、本当の力を。


 俺は、起き上がって、タマをじっと見た。

 頭の中に、またあの「情報」が流れ込んでくる。


 タマ。種族・不明。スキル【産卵】。レベル上限――なし。


 ……やっぱり、何度見ても、ぶっ壊れだ。


「なあ、タマ」


 俺は、ちっこいドラゴンの頭を、指先で撫でた。


「お前さ、卵、産めるんだろ?」


「キュルッ」


 なんで分かるの、みたいな顔で、タマが首をかしげた。


 そう。こいつは、卵を産む。

 育てれば、増える。一匹が、軍団になる。


 ただし――タダじゃない。

 さっき、情報の奥に、もうひとつ見えてたものがある。


 【産卵には、一定のレベルが必要】。


 今のタマのレベルは、1。

 最低ランク。生まれたて。

 このレベルじゃ、まだ卵は産めない。


 つまり、やることは決まってる。


「レベル上げ、だな」


 俺は、にやっと笑った。

 布団の上で、前世の感覚が、ぞわっと蘇る。


 最弱から始めて、コツコツ育てて、最強の軍団を作る。

 ハズレ枠を、誰も追いつけない化け物に変える。


 ――これ。

 これが、俺が世界で一番、得意なやつなんだよ。


「明日から、忙しくなるぞ。タマ」

「グルルゥ……」


 タマは、面倒くさそうに丸まり直した。

 おい。やる気出せ。お前の話だぞ。


 でも、その姿、なんだかんだ俺の枕のすぐ隣で寝るあたり、

 ……まあ、悪くない相棒だ。


 窓の外、隣の部屋の灯りは、まだ点いていた。

 ひなたも、起きてるんだろう。

 きっと、机に向かって、必死で何かを勉強してる。家のために。


 待ってろ、ひなた。

 お前が「期待した私がバカだった」って言ったの。

 その言葉、ぜんぶ。

 いつか、ぜんぶ、ひっくり返してやるから。


 俺は、布団にもぐりこんだ。

 明日から、本当の攻略が始まる。



――――――――――


【あとがき】


 第二話、読んでくれてありがとうございます!


 ひなたの「期待した私がバカだった」。

 ちょっと、刺さりましたよね。


 でも彼女、ただ冷たいわけじゃないんです。

 その理由は、おいおい。


 じいちゃんだけがタマの"面構え"を見抜いた――

 この目利き、これから効いてきます。



 ▼次回予告

 いよいよソウマの"攻略"が始動!

 タマのレベル上げ、どうやる……?



 面白いと思ってもらえたら、

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 次回も、似た者コンビでお届けします。


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