第2話 ハズレ者たちの家
選定の儀が終わって、俺はタマを連れて家に帰った。
帰り道、すれ違う連中の視線が痛い。
みんな、立派なドラゴンを肩に乗せたり、横に従えたりして歩いてる。中には、もう人を乗せられそうなくらいデカいやつもいた。
その横を、俺は灰色のちびドラゴンを頭に乗せて歩く。
タマは、俺の髪の毛を枕にして、堂々と寝ていた。
「お前、緊張感ってもんがないのか」
「キュー……」
寝言みたいな返事。
……まあ、こいつのこの図太さ、嫌いじゃない。
でも、家が近づくにつれて、俺の足はだんだん重くなっていった。
ボロい木の門。色あせた看板には、こう書いてある。
――『天野ドラゴンブリーダー商会』。
じいちゃんの、じいちゃんのそのまた親父の代から続く、ドラゴンを育てる家。
昔は、ここで育ったドラゴンを求めて、全国から客が来たらしい。
今は、誰も来ない。
*
「ただいま」
引き戸を開けると、土間の奥から、じいちゃんが出てきた。
白髪頭に、日に焼けた皺だらけの顔。腰は曲がってるくせに、目つきだけは妙に鋭い。
じいちゃんは、俺を見て――それから、俺の頭の上で寝てるタマを見た。
数秒、黙った。
「……ソウマ。そりゃ、なんだ」
「俺のドラゴン。資質、サイテーだったってさ」
俺は、わざと軽く言った。
いま【産卵】のことや、レベル上限なしのことを話す気はない。誰にも。まだ早い。
育成ゲーの鉄則。本当に強い手札は、伏せておく。
「ふん」
じいちゃんは、鼻を鳴らした。
怒るかと思った。「またお前は」って、呆れられるかと思った。
でも、じいちゃんはタマから目を離さなかった。
じーっと。なんていうか、品定めするみたいに。
「……じいちゃん?」
「いや」
じいちゃんは、ぼそっと言った。
「ずいぶん、面構えのいいチビだと思ってな」
俺は、ちょっと驚いた。
みんなが「ハズレ」「トカゲ」って笑ったタマを見て、じいちゃんは――面構えがいい、と言った。
そうだ。忘れてた。
この頑固ジジイは、札束で強さを測る今の時代の連中とは、目が違う。
ドラゴンを、何十年も、その手で育ててきた男だ。
見た目やステータスの数字じゃなく、もっと別の「何か」を見る目を持ってる。
「キュルッ」
タマが、起きた。
じいちゃんと、目を合わせる。
じいちゃんは、ふっと、口の端を上げた。
「……お前さん、いい目をしとる。中身で勝負するタイプの目だ」
それ、俺がさっき思ったのと、まったく同じことだった。
*
「ただいまー……あ」
奥から、ひなたが出てきた。
学校の制服姿のまま。優等生らしく、きっちりした格好。
ひなたは、俺の頭の上のタマを見て――
すっと、表情を消した。
「……それ」
「ああ。俺のドラゴン」
「資質は」
俺は、答えなかった。答えられなかった。
その沈黙で、ひなたは全部察したらしい。
「……そう」
たった一言。
でも、その一言が、いちばん冷たかった。
「お兄ちゃん。私、期待した私がバカだった」
ひなたの声は、震えてた。怒りじゃない。たぶん、泣きそうなのを我慢してる声だ。
「うちが今、どんな状況か、わかってるよね。お父さんとお母さんがいなくなってから、じいちゃんは歳で、お店はもう……」
「ひなた」
「お兄ちゃんが、まともなドラゴンさえ授かってくれたら。それだけで、うち、もう一回やり直せたかもしれないのに」
ひなたは、ぎゅっと唇を噛んだ。
「なのに……ハズレ。それも、史上最低の資質で」
言葉が、ぐさぐさ刺さる。
でも、何も言い返せない。だって、ひなたの言ってることは、ぜんぶ正しいから。
この子は、十四歳で、潰れかけの家を背負おうとしてる。優秀で、必死で、まっすぐな子だ。
そんな子が、ぐうたらな兄に絶望するのは――当たり前だ。
「……ごめんな」
俺が言えたのは、それだけだった。
ひなたは、何も言わずに、奥へ引っ込んでいった。
襖の閉まる音が、やけに大きく響いた。
*
夜。
俺は、自分の部屋で、タマと二人きりになっていた。
タマは、俺の布団の上に丸くなって、こっちを見上げている。
「キュー?」と、小さく鳴いた。
なんとなく、「元気ないじゃん」って言われてる気がした。
「……まあな」
俺は、ごろんと横になった。
ひなたの顔が、頭から離れない。
あの子を、あんなふうにさせてるのは、俺だ。
でも――と、俺は思う。
俺は、知ってる。
お前らが今日笑った、このちびドラゴンの、本当の力を。
俺は、起き上がって、タマをじっと見た。
頭の中に、またあの「情報」が流れ込んでくる。
タマ。種族・不明。スキル【産卵】。レベル上限――なし。
……やっぱり、何度見ても、ぶっ壊れだ。
「なあ、タマ」
俺は、ちっこいドラゴンの頭を、指先で撫でた。
「お前さ、卵、産めるんだろ?」
「キュルッ」
なんで分かるの、みたいな顔で、タマが首をかしげた。
そう。こいつは、卵を産む。
育てれば、増える。一匹が、軍団になる。
ただし――タダじゃない。
さっき、情報の奥に、もうひとつ見えてたものがある。
【産卵には、一定のレベルが必要】。
今のタマのレベルは、1。
最低ランク。生まれたて。
このレベルじゃ、まだ卵は産めない。
つまり、やることは決まってる。
「レベル上げ、だな」
俺は、にやっと笑った。
布団の上で、前世の感覚が、ぞわっと蘇る。
最弱から始めて、コツコツ育てて、最強の軍団を作る。
ハズレ枠を、誰も追いつけない化け物に変える。
――これ。
これが、俺が世界で一番、得意なやつなんだよ。
「明日から、忙しくなるぞ。タマ」
「グルルゥ……」
タマは、面倒くさそうに丸まり直した。
おい。やる気出せ。お前の話だぞ。
でも、その姿、なんだかんだ俺の枕のすぐ隣で寝るあたり、
……まあ、悪くない相棒だ。
窓の外、隣の部屋の灯りは、まだ点いていた。
ひなたも、起きてるんだろう。
きっと、机に向かって、必死で何かを勉強してる。家のために。
待ってろ、ひなた。
お前が「期待した私がバカだった」って言ったの。
その言葉、ぜんぶ。
いつか、ぜんぶ、ひっくり返してやるから。
俺は、布団にもぐりこんだ。
明日から、本当の攻略が始まる。
――――――――――
【あとがき】
第二話、読んでくれてありがとうございます!
ひなたの「期待した私がバカだった」。
ちょっと、刺さりましたよね。
でも彼女、ただ冷たいわけじゃないんです。
その理由は、おいおい。
じいちゃんだけがタマの"面構え"を見抜いた――
この目利き、これから効いてきます。
▼次回予告
いよいよソウマの"攻略"が始動!
タマのレベル上げ、どうやる……?
面白いと思ってもらえたら、
ブックマーク・★評価で応援してもらえると嬉しいです!
次回も、似た者コンビでお届けします。




