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BEAST BLOOD  作者: 凛k
9/13

いらっしゃい

放課後、6人は凛馬が元の世界へ帰る方法を探していたが、見つからなかった。だが確かに得られるものはあったようだ。


「絶対見つけるにゃ!凛馬が帰る方法!」


その言葉に、胸の奥が少しだけ痛んだ。


帰る方法を探してくれている。それが嬉しいはずなのに、少しだけ苦しかった。


「じゃあ、今日はここで解散ね」


コハクが立ち止まる。


「私はこっちだから」


「僕も帰るね!」


アオが元気よく手を振った。


「また明日!」


「はい。また明日です」


ミナも丁寧に頭を下げる。


「……じゃあな」


ヒョウカは短く言って、背を向けた。


「また明日」


凛馬が返すと、ヒョウカは振り向かずに片手だけ上げた。


(あっ……返してくれた)


それぞれが別の道へ歩いていく。ついさっきまで賑やかだったのに、人数が減るだけで急に静かになる。


残ったのは、凛馬とミケだけだった。


「……みんな、普通に帰るんだな」


凛馬がぽつりと呟く。


「にゃ?」


「いや、なんでもない」


家に帰る。それは当たり前のこと。でも今の自分には、それが少しだけ遠かった。


ミケはそんな凛馬の顔を見て、にこっと笑った。


「じゃあ凛馬も帰るにゃ!」


「どこに?」


「私の家にゃ!」


「いや、そんな当たり前みたいに言うなよ」


「当たり前にゃ!」


ミケは胸を張る。


「凛馬は今、私の家のペットにゃ!」


「だからペット扱いやめろ」


「にゃは!」


ミケは楽しそうに笑いながら、凛馬の手を引いた。


「今日はうちでご飯にゃ!」


「いや、悪いよ」


「悪くないにゃ!」


「いや、普通に迷惑だろ」


凛馬はまだ抵抗があるようだ。


「迷惑じゃないにゃ。お母さんも凛馬が来るの楽しみにしてるにゃ」


「……そうなのか?」


「そうにゃ!」


そう言われると、断りづらい。それに——


ぐぅぅぅぅ。


妙に大きな音が鳴った。


「……」


2人は顔を合わせる。正直なところ、腹は減っていた。


図書館で何時間も本を読んでいたせいで、思った以上に疲れている。


「……じゃあ、少しだけ」


「にゃは!決まりにゃ!」


ミケの尻尾が嬉しそうに揺れた。





しばらく歩くと、ミケの家が見えてきた。庭には小さな花壇があり、窓からは暖かい光が漏れている。


「ただいまにゃー!」


玄関を開けるなり、ミケが元気よく声を上げた。


すると奥から柔らかな声が返ってくる。


「おかえりなさい、ミケ」


現れたのは、ミケの母だった。穏やかな笑みを浮かべ、凛馬を見る。


「いらっしゃい、凛馬くん」


その言葉に、凛馬は少しだけ固まった。


“いらっしゃい。”


ただの挨拶なのに、妙に胸に残った。


「お、お邪魔します」


慌てて頭を下げる。


「ふふ、そんなに緊張しなくて大丈夫よ」


ミケの母は優しく笑った。


「今日はたくさん作ったから、いっぱい食べてね」


「ありがとうございます」


「にゃ!お母さんのご飯はすごいにゃ!」


ミケが得意げに言う。


「そっか……楽しみだな」


凛馬がそう言うと、ミケは嬉しそうに笑った。


そして2人がリビングに入ると——


「うぉぉ……」


夕食は想像以上に豪華だった。


大皿に並んだ魔獣肉料理。温かいスープに焼き野菜。そして山盛りの白米。


「すげぇ……」


思わず声が漏れる。


「育ち盛りでしょう?」


ミケの母が微笑む。


「いや、育ち盛りって年でも……」


「凛馬はもっと食べるべきにゃ!」


ミケが皿に肉を乗せてくる。


「増やすな増やすな!」


「食べるにゃ!」


「食べるけど!」


無理やり口に運ばれる。だが——


肉汁が口の中に広がる。そして柔らかい。噛むたびに旨味が溢れ出してきた。


凛馬の動きが止まる。


(待て待て待て……)


もう一口。


(美味っ!!!)


さらにもう一口。


(あーこれあかん……)


もう箸が止まらない。


(五つ星レストランや……)


そこにご飯をかき込む。


(いや六つ星やわ)


そして、気付けば皿が空になっていた。


「……うまい」


その一言に、ミケの耳がぴんと立った。


「にゃ!今うまいって言ったにゃ!」


「言ったけど!」


「お母さん!凛馬がうまいって!」


「聞こえてるわよ!」


ミケの母が楽しそうに笑う。


「たくさん食べてね?」


その言葉に押されるように、凛馬は食べ続けた。


一杯目。二杯目。三杯目。気付けば、かなり食べていた。


「まだまだ行けるわよね?」


凛馬は茶碗を見る。そしてミケを見る。


ミケはキラキラと期待の眼差し。ミケの母親は断れないほどの優しい笑顔。


(断れる空気どこ……?)


「いただきます」


そして——




「苦しい……」


夕食後、凛馬はリビングのソファに沈み込んでいた。


「にゃはは!」


ミケが大笑いする。


「お腹ぱんぱんにゃ!」


「誰のせいだよ……」


「いっぱい食べた凛馬のせいにゃ!」


「それは……そうだな。」


ミケの母も苦笑しながら、お茶を置いてくれた。


「無理しなくていいのよ?」


「すみません……美味しかったので」


「そう言ってもらえると嬉しいわ」


その声が、とても柔らかかった。


凛馬は湯気の立つお茶を見つめる。茶柱が立っていた。


「あっ……茶柱」


「ほんとにゃ!凛馬ラッキーにゃ!」


そう言って背中をバシバシ叩く。だが不思議と痛くなかった。


温かい食事、柔らかい声、誰かが待っている家。


それが妙に現実味があった。だからこそ、少しだけ苦しかった。





夜。食器も片付き、リビングは静かになっていた。


テレビの音だけが小さく流れている。ミケの母親は台所で片付けをしている。


ミケは凛馬の隣へ座った。


「今日、楽しかったにゃ?」


「……ああ」


凛馬は素直に答えた。


「図書館も飯も楽しかった」


「本当に?」


「当たり前だよ」


そう言うと、ミケの表情がぱっと明るくなる。


「良かったにゃ」


しばらく沈黙が流れた。不思議と気まずくはなかった。


その静けさが、逆に心地よかった。


その時だった——


「なぁ、ミケ」


「にゃ?」


凛馬は少しだけ視線を落とす。ずっと胸の奥にあったことを言おうと思った。


「俺さ」


言葉が喉まで出る。元の世界のことも、自分のことも。


「元の世界ではさ――」


そこまで言って、凛馬は口を閉じた。


数秒の沈黙、テレビの音だけが流れている。


「……いや」


小さく首を振る。


「やっぱなんでもない」


ミケは凛馬をじっと見ていた。けれど、何も聞かなかった。


ただ少しだけ耳を伏せて、優しい声で言う。


「いつでも話したくなったら聞くにゃ」


「……」


「今じゃなくていいにゃ」


その言葉に、凛馬は何も返せなかった。追及されないことが、少しだけ嬉しかった。


無理に踏み込まれないことが、少しだけ救いだった。


「……そっか」


凛馬は小さく笑った。


「ありがとな」


「にゃ!」


ミケは嬉しそうに笑う。


その時、台所からミケの母の声が聞こえた。


「凛馬くん」


「はい?」


「ここでは無理しなくていいのよ」


凛馬は振り返る。ミケの母は、洗い終えた皿を拭きながら微笑んでいた。


「帰る方法は、きっとみんなで探せるわ」


「……はい」


「でも、それまでの間はちゃんと食べて、ちゃんと寝て、ちゃんと笑ってね」


その言葉は、当たり前のように差し出された優しさだった。


凛馬は少しだけ俯く。


「……はい」


それ以上は言えなかった。言えば、不意に何かがこぼれそうだった。


ミケはそんな凛馬の横顔を見て、少しだけ笑った。


「じゃあ今日はちゃんと寝るにゃ!」


「急だな!」


「健康第一にゃ!」


「なんだそれ」


「お母さんもよく言うにゃ!」


「ふふ、そうね?」


ミケの母も笑った。つられて凛馬も笑ってしまう。


リビングに、小さな笑い声が広がった。


窓の外には夜空が広がっている。帰る方法はまだ見つからない。自分のことも、まだ話せない。


それでも、この家は温かかった。不思議なくらい、居心地が良かった。


異世界2日目。今日だけは、少しだけ安心して眠れそうだった。


そして、明日が来るのを少しだけ楽しみにしている自分がいた。

最後まで読んでくださりありがとうございます!


少しでも面白いと思っていただけたら、評価・ブックマークをしていただけると嬉しいです!


次回もよろしくお願いします!

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