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BEAST BLOOD  作者: 凛k
7/13

弱者

国語の授業が終わった瞬間だった。


「ねぇねぇ!本当に人間なの!?」


「耳ないの!?尻尾は!?肉球は!?」


気付けば凛馬の机の周りには人だかりができていた。


犬、猫、虎、狐。様々な獣人達が興味津々な顔で凛馬を囲んでいる。


凛馬は椅子に座ったまま困惑していた。


「近い近い近い!」


「人間って全員弱いの?」


「失礼だな!」


「でも身体能力低いんでしょ?」


「知らねぇよ!」


質問は止まらない。さらに——


「彼女はいる?」


「いないよ?」


即答だった。


「彼氏は?」


「いねぇよ!?」


さ質問攻めは終わらない。凛馬はすでに少し疲れていた。


そんな中——


「にゃ!」


聞き慣れた声が響く。ミケが人混みをかき分けながら凛馬の前へ出る。


「凛馬は私のペットにゃ!」


胸を張って宣言した。


「だから違うって!」


「本当だにゃ!」


「違う!」


「ペットにゃ!」


周囲は完全に面白がっていた。


「仲良いなー……」


「飼い主とペットだもんね」


「だから違うって!」


凛馬が叫んだ瞬間――


教室の扉が開いた。その場の全員の動きが止まる。


そこに立っていたのはユズル先生……ではなかった。


二メートルを優に超える巨体。分厚い腕に鋭い眼光。熊族の教師だった。


「お前ら」


低い声が教室に響く。その瞬間、生徒達の背筋が一斉に伸びた。


「次は体育だ。グラウンドへ集合」


「「「はい!」」」


返事と同時に、生徒達は蜘蛛の子を散らすように教室を飛び出していく。


さっきまでの騒ぎが嘘のように静かになった。凛馬は思わず呟く。


「今度は誰だよ……」


「あ、ゴウガ先生にゃ」


ミケが当然のように答えた。


「体育担当にゃよ?」


「なんで国語の先生より怖いんだよ……」


凛馬が引きつった笑みを浮かべたその時だった。ゴウガ先生の視線がこちらへ向く。


「お前が人間か」


「え?」


ドスドスと重い足音を鳴らしながら近付いてくる。


近くで見るとさらに大きい。見上げないと顔を見れないレベルだった。


「紅葉凛馬だな」


「は、はい」


思わず敬語になる。ゴウガ先生は腕を組んだ。


「本当に参加するのか?」


「へ?」


「体育だ」


凛馬は一瞬意味が分からなかった。するとゴウガ先生は続ける。


「お前は人間だ」


「……はい」


「怪我するぞ」


教室が少し静かになる。まだ残っていた生徒達も聞いていた。


「無理に参加する必要はないんだぞ」


珍しく気遣うような口調だった。だが——


「参加するにゃ!」


ミケが即答した。


「お前じゃない」


「にゃ……」


即座に返される。教室に笑いが起きた。


凛馬は頭を掻く。正直、身体能力の差はなんとなく想像できる。


それでも――


「せっかく学校来たんだし」


ゴウガ先生を見る。


「やります」


数秒考えてから、ゴウガ先生は小さく鼻を鳴らした。


「そうか」


そして踵を返そうとしたその時だった——


「大丈夫だよ!」


元気な声が響く。アオだった。


「お父さん怖そうに見えるけど優しいから!」


教室が静まり返る。凛馬も固まった。


「……お父さん?」


アオはきょとんと首を傾げる。


「あれ?言ってなかったっけ?」


「待て待て待て……」


凛馬はゴウガ先生をもう一度見る。何度観ても熊そのものだった。


そしてアオを見る。どう見てもか弱な女の子だった。


「親子……?」


「親子だよ!」


アオは満面の笑みで答えた。


「マジで?」


「マジ!」


凛馬の脳が処理を拒否する。周囲の生徒達は慣れた様子だった。


「似てないよな」


「それ毎年言われてるよね」


「でも仲良いんだよなぁ」


そんな声が聞こえてくる。ゴウガ先生は小さくため息を吐いた。


「アオ」


「?」


「早く行け」


「はーい!」


元気よく返事をするアオ。その姿を見たゴウガ先生の表情が、一瞬だけ柔らかくなった気がした。


でも本当に一瞬だけだった。次の瞬間にはもういつもの怖い顔に戻っている。


「遅れるな」


そう言い残し、ゴウガ先生は教室を出ていった。凛馬はようやく息を吐く。


「めちゃくちゃ怖かった……」


「でも優しい先生にゃ、毎年怪我人出るから気にしてくれてるにゃ」


その言葉に凛馬は少しだけ驚いた。


見た目は怖いが、ちゃんと生徒を見ている先生らしい。


もっとも、その後獣人達の身体測定を見て、自分がとんでもない場所に来てしまったことを知るのだが――。





グラウンドへ向かう途中。男女で更衣室が分かれる場所までやって来た。


生徒達は慣れた様子でそれぞれ更衣室へ入っていく。


凛馬はそこで足を止めた。


「そういや……」


「にゃ?」


ミケが振り返る。


「俺、体操服とか持ってないんだけど」


すると、ミケの口元がゆっくり吊り上がった。


「ふっふっふっ」


その時凛馬に過ぎった未来は——


『凛馬はこれでも着てるにゃ!』


差し出されたのは、奇抜な色の半袖短パン。そしてそれで体育に参加する自分の姿。


「……嫌な予感しかしねぇ」


ミケは鞄を開く。少しゴゾゴゾして――


「あったにゃ!」


得意げな声と共に取り出したのは真新しい体操服だった。


「……なんで持ってるんだ?」


「凛馬の分にゃ!」


「は?」


「凛馬なら参加してくれるって思ったにゃ!」


「え、いや俺は……」


「そう言うと思って持ってきたにゃ!」


「まだなんも言ってねぇよ!?」


近くにいたアオが吹き出した。


「ミケらしいね!」


「ミケったら用意周到!」


コハクも笑う。


「サイズまで準備してるんですね……」


ミナが苦笑しながら言った。


「計画的犯行だな」


ヒョウカが呟く。


(まぁ、体操服あるならやるか……)







グラウンドへ出た瞬間、凛馬は思わず足を止めた。


「広っ……」


そこは学校の運動場というより競技場だった。


何本も並ぶレーンに、巨大な投擲用のスペース。


人間界の学校とは比べ物にならない。


「今日は身体測定を行う」


ゴウガ先生が言った。


「最初は200メートル走だ」


「200!?」


思わず声が出る。周囲は当たり前の様な反応だ。


(驚いてるのは俺だけか!?)


「では名簿順に位置につけ」


(早いって!)


最初に並んだのは犬族の男子生徒だった。スタートラインに立つ姿は陸上選手のようだ。


「始め!」


その瞬間、地面が爆ぜた。


犬族の男子生徒は土煙を上げながら一瞬で加速する。


速いなんてものじゃない。もはや目で追えない気付けばゴールしていた。


「記録、6.3秒」


「……は?」


凛馬は固まった。


(200mを6秒……?)


続いてミケ。


「自己ベストにゃー!」


七秒台。凛馬は固唾を飲む。


そしてヒョウカ。


「前より遅いな」


それでも五秒台。1番遅くても十秒を切っていた。


「待て待て待て待て」


人間界の常識が音を立てて崩れていく。


「次、凛馬。走ってみろ」


「嫌な予感しかしねぇ……」


スタートラインへ立つ。


周囲の視線が集まった。人間の身体能力は、みんな興味津々らしい。


「始め!」


凛馬は全力で走った。だが長い。とにかく長い。


1周だけで、肺が苦しく、脚が重くなる。やっとの思いでゴールへ飛び込む。


「記録、32.7秒」


誰もすぐに喋らない。


「……え?」


「今ので全力?」


「怪我してるのか?」


「人間ってそんなに遅いの?」


ざわざわと声が広がる。


(俺が……おかしいのか!?)


凛馬は思わず叫んだ。


「いや普通だろ!?」


少なくとも人間界なら普通だった。


だがここは獣界だった。その後も結果は悲惨だった。




次は握力測定。周囲の生徒達は100超えが当たり前だった。中には200を超える者までいる。


(化け物なのか?)


だが凛馬の結果は――


50。その瞬間、周囲がざわついた。


(あぁ……)




続いて跳躍力。犬族も猫族も軽々と3メートルを超えていく。


中には5メートル近く跳ぶ生徒もいた。


(もう飛んでるだろそれ……)


しかし凛馬は1メートルにも届かない。結果は0.87メートルだった。


(……帰りてぇ)





そして反復運動。生徒達は100回を超えるのが当たり前だった。


(意味が分からん)


そんな数字が並ぶ中、凛馬は60回だった。


(……なんで俺だけ……)


勉強出来るし運動もどうせ行けるだろう。と思っていた自分を恨んだ。


(獣人怖っ!!!)





結果は全て最下位。しかも、ぶっちぎりだった。


「人間って弱いんだな……」


凛馬は遠い目をしながら呟いた。




身体測定が終わると、ゴウガ先生が木刀を取り出した。


「続いて戦闘訓練を行うぞ」


生徒達の空気が変わる。さっきまでの和やかさが消えた。


凛馬は目を見開く。


「体育で戦闘訓練……!?」


「普通にゃ!」


「そうなのか……?」


人間界との違いに頭が痛くなる。ミケは首を傾げた。


「むしろ人間界はやらないのかにゃ?」


「やらねぇよ」


「にゃ〜……」


不思議そうな顔をする。


「最近、またナワバリ意識が強くなってるらしいにゃ」


「ナワバリ意識?」


「獣人同士の争い」


ミケの耳が少しだけ伏せられた。


「昔よりは減ったけど、最近また増えてきてるにゃ。だから去年くらいから学校でも戦闘訓練が追加されたにゃ」


「思ったより物騒だな……」


「でも安心するにゃ!」


ミケは胸を張った。


「この地区は平和だから、訓練もかなり緩いにゃ!」


「緩いのか?」


「うん!大丈夫にゃ!」


その直後、グラウンドの向こうで木刀が真っ二つになった。


「どこがだよ。」


凛馬は真顔で呟いた。


すると、ゴウガ先生は凛馬へ視線を向けた。


「凛馬は見学だ」


「え?」


「身体能力差がありすぎるだろう」


即答だった。


(まぁさっきの結果見ればな……)


でも少し傷ついた。事実なので何も言い返せないのが悲しさを助長する。


「遠くで見ておけ」


凛馬は観客席へ移動した。最初の試合はアオと先程の犬族の男子生徒。


「うへぇ〜お手柔らかにね……?」


「行くでー!アオちゃん!」


両者構える。


「では、始め!」


二人が同時に動く。


さっきの身体測定と同じく、とっても早かった。凛馬にはまともに見えない。


その瞬間だった——


『――右』


頭の中で声が聞こえた。


「……は?」


思わず眉をひそめる。すると、犬族の男子生徒が右へ回り込んだ。


アオが反応する。


『――遅い。左』


また声次の瞬間、アオが本当に左へ動く。


「え?」


凛馬は目を見開いた。偶然だろうか。


――木刀がアオの首元で止まった。


周囲が拍手する。だが凛馬は拍手どころではなかった。


(なんだ今の……)


「もー手加減してよー……」


「あははーすまんすまん!」


次の試合は、猫族と熊族。


『――下がれ』


そういえば猫族が下がる。


『――今だ』


そういえば踏み込む。頭の中に流れる声通りに試合が進んでゆく。


凛馬の背筋に寒気が走る。


(なんだこれ)


未来予知ではない。そんな感覚ではなかった。もっと自然な感じ。


まるで“戦い慣れた誰かが隣で指示を出している”ような。


凛馬は周囲を見回すが、誰もいない。


当然だ。声は頭の中から聞こえている。


(誰だよ……)


返事はない。試合は続く。


そして最後は、ヒョウカの試合だった。


相手は虎族の大男だった。周囲の空気が変わる。凛馬にもそれは分かった。


「黒瀬〜泣いても知らねぇぞ?」


「……来い」


そして試合が始まり、木刀がぶつかる。


今までよりも速く、鋭い。その時だった——


『――死ぬ』


「はっ!?」


凛馬は慌てて立ち上がった。今までの指示とは違う、“死ぬ”。ただそれだけの言葉だけが異様に重かった。


しかし次の瞬間、ヒョウカが木刀を弾き返す。


何事もなく試合は続く。周囲も熱狂している。


ただ、凛馬だけが青ざめていた。


(なんなんだよ……)


自分の頭がおかしくなったのかと思った。


そして何事もなく、戦闘訓練が終わり、生徒達が片付けを始める。


アオ達も楽しそうに話している。だが凛馬だけはどこか上の空だった。


その時、最後にもう一度だけ声が聞こえた。


『――生きろ』


凛馬の身体が僅かに震えた。


「……なんだったんだ」


答える者はいない。ただ夕焼けだけが静かに広がっていた。

最後まで読んでくださりありがとうございます!


ちょっと忙しくて今日上げれてませんでした!今日これだけで!


少しでも面白いと思っていただけたら、評価・ブックマークをしていただけると嬉しいです!


次回もよろしくお願いします!


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