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獣界の異邦人  作者: 凛k
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2年2組の人間

首輪を無事?つけた凛馬は、ミケに連れられ学校に着いた。


「凛馬くん首輪似合ってるわね〜」


「わぁ!本当だ!可愛い!」


アオが目を輝かせる。


「触っていい!?」


「やめて!?」


凛馬は即答した。だが既に首輪は触られていた。


「本当だ〜鈴ついてる!」


「やめろって!」


コハクは腹を抱えて笑っている。


「完全にペットじゃない!」


「笑い事じゃねぇ!」


そんな中、ヒョウカだけは少し違う反応だった。


「……学校に人間を連れてきて本当に大丈夫なのか?」


その言葉にミナが一歩前へ出る。


「大丈夫ですよ」


落ち着いた声だった。


「校長先生には昨日のうちに連絡してあります」


「流石ミナにゃ!」


ミケが尊敬の眼差しを向ける。


(えっ……何者?)


凛馬は思わずミナを見る。すると——


「今、何者って思いました?」


「なんで分かった!?」


真っ先にコハクが吹き出した。


「顔に書いてあるからよ〜」


そして肩をすくめる。


「ちなみにミナは生徒会長だよ」


「生徒会長!?」


凛馬は再びミナを見る。確かに昨日から落ち着いていて、頭も回っていた。言われてみれば納得だった。


「……すごいな」


思わずそう呟く。するとミナは少しだけ照れた。


「そ、そんなことないですよ……」


耳がぴくぴく揺れている。


「じゃあ行くにゃ!」


ミケが勢いよく前を指差した。


「大学楽しみにゃ!」





校門をくぐった瞬間だった。周囲の視線が一気に集まる。


「あれ……」


「本当に人間?」


「噂の……?」


そのざわめきに、凛馬は思わず肩をすくめた。


(うわぁ……)


昨日とは比べ物にならない程の視線が刺さる。


「なんか恥ずかしいな……」


するとミケが凛馬の手をぎゅっと握った。


「大丈夫にゃ!」


リードを短く持ちながら寄り添う。


「私が守るにゃ!」


(だからリード引くなって!!)


「あの人間が大学来るんだもん」


コハクが笑う。


「そりゃみんな見るわよ」


「じゃ、僕が前歩く!」


アオが凛馬の前へ飛び出した。


「僕が盾になるから!」


(あッ……優しい……)


「……騒がしいな」


ヒョウカがため息を吐く。


「早く教室行くぞ」


そのまま一行は校舎へ入った。そして——


目の前には2年2組と書かれた教室。凛馬は違和感を覚える。


「2年2組……?」


「にゃ?」


「大学なのにクラスあるんだな」


「あるにゃ!」


「担任は?」


「いるにゃ!」


「ほぼ高校じゃねぇか」


ミケ達は意味が分からないという顔をしていた。


(そういや2年ってことは……)


凛馬はふと考える。


(こいつら何歳なんだ?)


大学二年なら20歳前後のはずだ。だが獣人にも人間と同じ年齢の概念があるのかは分からない。


「……まぁいいか」


昨日から常識がひっくり返り続けている。今さら年齢の違いくらいで驚く気にもなれなかった。


「まぁいいにゃ!」


ミケが扉を開ける。


「入るにゃ!」


教室の空気が止まった。全員の視線が凛馬へ向く。


「え?」


「人間!?」


「本物!?」


一瞬で教室が騒がしくなる。だが、ミケが教壇の前へ出た。


「みんな静かにするにゃ!!」


大きな声が響く。教室が静まり返った。


「紹介するにゃ!」


嫌な予感がした。


「この子は凛馬!」


ミケが凛馬を前へ引っ張る。


「私のペットにゃ!」


「ちょ、待て」


教室がさらにざわついた。


「ペット!?」


「本当に飼ってるの!?」


「羨ましい!」


「羨ましいのか!?」


凛馬は思わずツッコんでしまった。その時だった——


「はいはい席に着けー。おはよう、皆」


担任が教室へ入ってきた。教室が静かになる。


見た目は、茶色の犬耳と尻尾を持つ男性の教師だった。優しそうな顔立ちをしている。


担任はまず凛馬へ視線を向けた。


「君が噂の人間か?」


その声は思ったより柔らかかった。凛馬は少し緊張しながら頷く。


「は、はい……」


すると教師は教壇から降り、そして凛馬の前で立ち止まる。


(な、何されるんだ……?)


担任の先生の行動は——


「まずは自己紹介だな」


教師は手を差し出した。


「俺は犬飼ユズル、この2年2組の担任だ」


凛馬は少し驚く。先生の方からこんなフレンドリーにされるなんて思ってもなかった。


「よろしくな」


「あ……はい!」


慌てて握手を返す。犬飼先生の手は大きくて温かかった。


「人間ってどんな姿してんのかなと思ってたが……」


先生は軽く笑う。


「耳も尻尾も無いが、見たところ二本足で歩いて、言葉も話せる」


そして肩をぽんと叩いた。


「なら十分うちの生徒だ。少なくとも俺は認めるぞ」


凛馬は目を丸くした。


「……え?」


先生は当然のように続ける。


「だから安心しろ。お前を珍しい生き物として扱うつもりはない」


その言葉に教室の空気が少し変わった。


ミナは安心したように微笑み、アオは嬉しそうに尻尾を振り、コハクは肩を竦めた。


ヒョウカも小さく頷いた。凛馬だけは少し言葉を失っていた。


昨日からずっと、人間だから、とか。ペットだから、とか。珍しいから、とか——


そう言われ続けてきた。だがこの先生だけは違った。


「……ありがとうございます」


思わずそう言うと、犬飼先生は笑った。


「気にするな」


そして教壇へ戻る。


「席は紅葉の隣でいいよな?」


そう言って出席簿を閉じた。


「問題があれば俺が責任を持つ。だから安心して授業を受けてくれ」


凛馬は少しだけ肩の力が抜けた。この学校にも、ちゃんと味方はいるらしい。そして、授業が始まる——






犬飼先生は黒板に文字を書きながら言った。


「今日は国語だ」


(国語か……)


凛馬は少し安心した。少なくとも数学みたいに世界が違っても解き方が変わるものではないだろう。


そう思っていた。しかし――


「では問題だ」


犬飼先生が黒板に文字を書く。


「『灯火』の読みと意味を答えろ。誰かわかるやつ居るか?」


教室が静まり返る。犬飼先生が周囲を見渡した。


「灯火っていい言葉だよなぁ〜……」


「あ、はい!」


アオが手を挙げる。


「えっと……明るいもの!」


「不正解だ」


「えぇ〜!?」


アオが机に突っ伏した。続いてコハク。


「火の能力とか?」


「……不正解だ」


「え〜難しくない?」


教室がざわつく。


(え?)


凛馬は首を傾げた。


(これ小学校でやったやつじゃ……)


犬飼先生が腕を組む。


「他には?」


誰も手を挙げない。ミナですら少し悩んでいた。


「難しいですね……」


(マジか……)


凛馬は恐る恐る手を挙げた。


「……はい」


教室中の視線が集まる。


「人間が手を挙げたぞ……」


「分かるの?」


「マジ?」


犬飼先生が頷く。


「ほう……言ってみろ」


(この問題はな……この学年じゃ答えられない意地悪問題なんだよ!)


「灯火は、ともしびって読みます」


犬飼先生の悪どい考えを裏に、凛馬は答える。


(えっ?)


「暗い場所を照らす小さな明かりのことです」


教室が静まり返った。


(え?え?なんで分かったの!?)


犬飼先生は驚きが隠せなかった。だが、威厳を保つためにその感情を押し殺した。


「……正解だ」


「「「えぇぇぇぇぇ!?」」」


教室が揺れた。アオが立ち上がる。


「なんで分かるの!?」


「いや普通に……」


「普通じゃないよ!?」


コハクも驚いている。


「人間って頭いいんだ……」


ミナが目を丸くする。


「凄いです……」


ヒョウカだけは顎に手を当てていた。


「……凄いな」


犬飼先生も咳払いをする。


「続けるぞ」


だが内心は穏やかではなかった。


(たまたまだ!たまたま知っていただけだ!)


犬飼先生は次の問題を書く。


「『琴線に触れる』この意味はどうだ?」


(これはどうだ……凛馬)


獣人の資格試験によく出る問題の様だ。普通の学生ではまず分からない。


「答えられる者はいるか?」


「……はい」


凛馬がすぐ答えた。犬飼先生の眉がぴくりと動く。


「感動したり、心を強く動かされたりすることです」


「……正解」


教室がざわつく。


「また正解!?」


「凛馬くんすごい!」


犬飼先生の額に汗が浮かぶ。


(ならこれはどうだ……!)


「凛馬!『杞憂』の意味は?」


今度は名指しで問題を出した。最早教室は二人の戦場になりつつあった。


「はい……無駄な心配をすることです」


(早い!?)


「……次だぁ!!」


犬飼先生は慌てて次を書く。


その裏で、ミケとアオがヒソヒソと話していた。


「先生……ヤケになってるにゃね……」


アオが頷く。


「あんな先生初めて見た……」


2人はクスクス笑っていた。そんな様子をみて、凛馬は謎の優越感を得た。


犬飼先生は悔しそうに黒板を見る。


(こうなったら……絶対に分からない問題を出してやる!)


教師の意地だった。黒板に大きく文字を書く。


『邂逅』


クラス全員が固まる。


「読めない」


「何その字」


「大人気ないぞ!」


犬飼先生は勝利を確信した。


(勝ったな……!)


「解いてみろ!凛馬!」


だが――


「はい」


また凛馬が手を挙げる。犬飼先生は頭を抱えたくなった。


(なんでだよ!!)


「かいこう、です」


凛馬はすらすらと答える。


「思いがけない出会いのことです」


教室全員が犬飼先生を見る。先生も凛馬を見る。


(クソォ……)


そして諦めたように言った。


「……正解」


アオが立ち上がる。


「あれ!先生元気ないよ〜?」


コハクが笑いを堪えている。


「ユズルン完全に負けてるじゃない」


ミナも苦笑した。


「犬飼先生……」


ヒョウカは冷静だった。


「……本当に大人気ない」


「黒瀬、うるさいぞ」


犬飼先生は即答した。教室は爆笑に包まれる。そのままチャイムが鳴り、授業が終わった。


「き、起立!礼!ありがとうございました!」


犬飼先生は教科書を閉じる。そして教室を出る直前、振り返った。


「凛馬」


「はい?」


「……次は負けんぞ!?」


「何と戦ってるんですか!?」


再び教室に笑い声が響いた。こうして凛馬の学園生活は、最高のスタートダッシュを切れたのだった。

最後まで読んでくださりありがとうございます!


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次回もよろしくお願いします!

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