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BEAST BLOOD  作者: 凛k
5/13

首輪デビュー

翌朝、ミケの目覚まし時計が鳴り響く。


「にゃあ……凛馬!起きるにゃ!」


凛馬も目を覚ます。


(起きたら元の世界に……)


辺りを見回すと、昨夜と同じ光景だった。


(……そんなわけないよな)


するとミケが駆け寄ってくる。


「凛馬!今日は首輪買いに行くにゃよ!」


「あぁ〜……お金は大丈夫なのか?俺が払——」


そう言ってポケットに手を伸ばすが、違和感に気づく。何か足りない。


「……そういえば俺……財布は?」


「……にゃ!?」


2人はことの重大さに気づいた。急いで部屋を探してみる。


「……無い!!」


凛馬の顔が青ざめる。ミケが申し訳なさそうにする。


「ごめんにゃ……財布は本当に知らないにゃ……」


凛馬が膝から崩れ落ちる。


「俺の……金……」


きっと転移した時に落としたのだろう……凛馬は朝からテンション下がるのであった。


「……何してんのよあんたら」


2人が振り向くと、エプロン姿の母親が立っていた。


「あっ、お母さん……」


ミケが気まずそうに耳を伏せる。


「凛馬の財布が無いにゃ……」


「財布?」


母親は首を傾げた。


「俺の全財産……」


凛馬は遠い目をした。


「でもそのお金、こっちで使えるの?」


母親が不意にそう言った。


「……え?」


「可能性はあるわよ?」


その言葉に凛馬は固まった。よく考えればそうだ。人間がいないのに人間の通貨なんて使えるわけがなかった。


「……じゃあ探す意味なかった?」


「無かったわね」


「無かったね!」


いつの間にかアオみたいな返事をするミケに、凛馬はさらに肩を落とした。


「大丈夫にゃ!」


ミケが勢いよく肩を叩く。


「ペットはお金持たなくていいにゃ!」


「全然大丈夫じゃねぇよ!!」


「ご飯も服も私が買うにゃ!」


「それもそれでやだ!」


母親はそんな二人を見て苦笑する。


「はいはい。とりあえず朝ご飯食べなさい」


そして少しだけ優しい声で続けた。


「お金の心配は後でいいわ。今は生きる方が先でしょ?」


その言葉に、凛馬は少しだけ力が抜けた。


「……そうですね」


「よし!」


ミケが元気よく拳を上げる。


「じゃあ朝ご飯食べたら首輪買いに行くにゃ!」


「結局それは確定なんだな……」


凛馬は頭を抱えた。この世界で1人で生き抜くのは無理だと確信した。


朝食を済ませた二人は玄関へ向かう。


「行ってきまーす!!」


ミケが元気よく言う。凛馬をそれに続いて言う。


「あ、行ってきます」


母親はそんな2人を、元気に送り出した。


「行ってらっしゃい!2人とも頑張ってね」


(なんかすっかり息子みたいだな……)


誰が送り出してくれるこの感じが、凛馬にとって何故かむず痒かった。


外を出ると、高層ビルが立ち並び、獣耳や尻尾を揺らしながら行き交う人々だらけだった。その街並みはまるで日本の大都市の様だった。


(すげぇ都会だ……!)


昨日より少しだけ落ち着いて見られるようになったが、それでも異様な光景だった。


「えっ……あれって……」


「……人間?」


偶に凛馬を変な目で見る人が居たが、2人はそれに気づいていないふりをして歩みを進めた。


しばらくして——


「着いたにゃ!」


ミケが立ち止まる。その大きな建物には、

『ペットショップもふもふ』と書かれていた。


「本当に来たのか……」


凛馬は遠い目をした。


「当然にゃ!」


ミケは胸を張る。


「首輪ここでいいのかわかんにゃいけど……」


「なかったら俺死ぬ?」


「……多分大丈夫にゃ!」


「多分かよ……」


そして店に入ると、店員が二人を見て固まった。


「い、いらっしゃいませ……って」


店員は目を見開く。


「人間!?」


周囲の客も一斉に振り返った。ざわざわと店内が騒がしくなる。


「本物……?」


「初めて見た……」


「写真撮っていい?」


「ダメにゃ!」


ミケが凛馬の前に立つ。


「凛馬は私のペットにゃ!」


「その言い方やめろ!」


店員は慌てて奥へ引っ込んだ。人間が訪れるなんて今までなかった。


しばらくして、店長らしき人が首輪を何本も持ってきた。


「こちらが首輪になります!」


カラフルで様々な首輪が並ぶ。それをみて凛馬は血の気が引く。


「本当にこれつけるのか……」


「人間用なんて作ってなくて……すみません」


凛馬は慌てる。


「あーいや全然!大丈夫です!」


(ほらちょっと気まずくなっただろ!!)


「どれがいいにゃ?」


そんな凛馬を無視して、ミケは目を輝かせていた。


「好きなの選んでいいにゃ!」


「選びたく無いんだけど……」


「いいから早く!」


「……じゃあ黒――」


「ミケは赤がいいにゃ!」


「選ばせる気ねぇじゃねぇか!」


結局、凛馬の首には赤い首輪が付けられた。


カチャリと金具の音が響き、鈴が小さく鳴った。


「……」


凛馬は複雑な顔をする。


「にゃふふ」


対照的にミケは満面の笑みだった。


「似合ってるにゃ!」


首輪と凛馬を交互に見て、幸せそうに尻尾を振る。


「これで正式に私のペットにゃ!」


「やっぱり嫌だ……」


だが、その笑顔を見ると強く文句を言う気も失せてしまう。


「名札も出来ましたよ」


店員が差し出したプレートには、


『飼い主:紅葉ミケ』


と刻まれていた。


「待て」


「にゃ?」


「やっぱり手に持っとくだけじゃダメなのか」


ミケは首を傾げる。


「だって首輪にゃ?」


全く悪びれない。その純粋さに凛馬は頭を抱えた。


(あぁ……覚悟決めよ)


そう思った瞬間——


チリン、と首元の鈴が鳴った。


「……」


「にゃふふ」


ミケはとても嬉しそうだった。凛馬は遠い目をした。


「お会計は12,000ジューカになります」


店員がそう言った。ミケは慣れた様子でスマホを取り出す。


「高いけど凛馬のためにゃ!」


ピッ、と決済音が鳴る。それを見ていた凛馬は首を傾げた。


「……ジューカ」


「にゃ?」


「やっぱりお金から違った……」


その言葉にミケは財布を開いた。中には見たこともない紙幣と硬貨に、動物の紋章が刻まれている。


どれもこれも、凛馬の知らない貨幣だった。


「これがジューカにゃ」


「……」


凛馬はしばらく黙り込む。


昨日から分かっていた。ここは別世界だ。


獣人がいて、人間はいなくて、人間は首輪付ける。


それでもどこかで、夢かもしれないと思っていた。


その最後の希望が少しだけ消えた気がした。


「俺、本当に別の世界に来たんだな……」


ミケは何も言わなかった。ただ隣で、そっと凛馬の手を握った。


店を出た二人は、そのまま大学へ向かって歩き始めた。


首輪の鈴が歩くたびに小さく鳴る。


(慣れねぇ……)


凛馬は思わず首元を触った。そんな様子を見てミケが笑う。


「似合ってるにゃ〜」


「似合ってねーよ……」


「まあ私は嬉しいにゃ!」


即答だった。もう言い返す気もなかった。


歩いてる途中——


「あっ!ミケちゃんだ!」


通りの向こうから小さな獣人の子供が駆け寄ってきた。


「おはようにゃ!」


ミケはしゃがみ込み、自然に目線を合わせる。


「今日も元気そうだにゃ〜」


頭を撫でられた子供は嬉しそうに笑った。


「この人だれー?」


「私のペットにゃ!」


「やっぱペットか……」


子供は凛馬をじっと見つめる。


「へぇ〜」


そして手を振った。


「お兄ちゃんもおはよー!」


「あ、お、おはよう……」


子供は満足そうに去っていった。


さらに少し歩くと——


「紅葉さん、おはようございます!」


パン屋の店主らしき獣人が声をかける。


「おはようにゃ!」


「今日は随分珍しいペットを連れてますねぇ」


「昨日拾ったにゃ!」


「……」


ミケと店主は楽しそうに笑う。そんな様子を見ながら凛馬は思う。


(なんだろうな……)


誰にでも笑顔で話して、気付けば周りの人も笑っている。


昨日会ったばかりなのに分かる。ミケはきっと好かれる獣人なんだろうな、と。


そして大学の門が見え始めた頃。


「あ」


ミケが耳をぴくりと動かした。その先には——


見覚えのある金髪の狐耳。青緑の熊耳。白い兎耳。黒い豹耳。


「おーい!」


アオが大きく手を振る。


「凛馬くーん!」


「やっと来たわね〜」


コハクも笑う。ミナは少し安心したように胸を撫で下ろし。


ヒョウカは腕を組んだまま立っていた。


「……遅い」


凛馬は思わず苦笑した。


異世界二日目、今日も騒がしくなりそうだった。

最後まで読んでくださりありがとうございます!


少しでも面白いと思っていただけたら、評価・ブックマークをしていただけると嬉しいです!


次回もよろしくお願いします!

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