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獣界の異邦人  作者: 凛k
4/16

破廉恥ッ!!

一緒にお風呂に入ろうと提案したミケの一言に、凛馬の思考が止まった。


「……は?」


数秒遅れて理解が追いつく。


「いやいやいやいや!!」


凛馬は勢いよく立ち上がった。


「なんで一緒に入るんだよ!?」


「にゃ?」


逆にミケが驚いた顔をする。


「ペットのお風呂は飼い主が入れるものにゃ?」


「そこがおかしいって言ってんだよ!!」


凛馬はふと想像してしまう。お風呂でミケに体を洗われる自分の姿を。


「男女が一緒に風呂入るなんて……破廉恥ッ!!!」


「え?」


今度はミケだけじゃない。その場の全員が固まった。


「……男女?」


アオが聞く。本当に分からない顔をしていた。


「お前達はペットと飼い主だろう……」


ヒョウカが当然かのように言う。


(ヒョウカ!お前もか!)


「恥ずかしくてたまんねぇわ!!」


凛馬は思わず大きい声を出してしまう。


「にゃあ……」


ミケは少し考え込む。


「つまり凛馬の世界だと、人間は人間同士でお風呂入らないにゃ?」


「普通入らない!!」


「家族でも?」


「小さい頃だけ!!」


「へぇ〜……」


コハクが面白そうに目を細める。


「人間って意外と繊細なのね〜」


「普通だ!!」


「でも凛馬くん嫌がってるなら無理にしなくても……」


ミナがフォローする。


「にゃ〜……」


凛馬は助けを求めるように4人を見た。


(頼む……誰か言ってくれ……これおかしいですよって言ってくれ……!)


まずミナ、真っ先に目が合う。だが——


「まぁ……文化の違いですからねぇ……?」


視線を逸らした。ミナには裏切られた。


次にアオと目が合う。


「僕はミケと入っていいと思うよ!」


純粋に裏切られた。この純粋な気持ちをこれほど恨んだことはないだろう。


次にコハク。まぁ結果は——


「入っちゃえよー面白いし!」


最悪の回答だった。そして最後の希望、ヒョウカ。


(頼む……!)


ヒョウカは数秒考え――


「……別に減るもんじゃないだろう」


4つの希望は虚しくも砕かれた。凛馬は天を仰いだ。最初から味方なんて居なかったんだ。


そして、ミケはうるうるした目で凛馬を見つめている。


「凛馬……嫌かにゃ……?」


耳がしゅんと垂れる。


「私……ちゃんと綺麗にしてあげたいだけなのに……」


「うっ……」


何故か罪悪感が押し寄せる。無慈悲な追撃に凛馬は立つ瀬が無くなった。


「まぁまぁ、後は二人で決めなさいな〜」


コハクが立ち上がる。


「あ、もう帰る?」


アオが聞く。


「流石に他人の家で長居もねぇ〜」


それは善意でもあったが、何か他の考えがあるようにも見えた。


「……そうだな」


ヒョウカも席を立った。


「お、お邪魔しました……」


ミナも頭を下げる。そして玄関へ向かう四人。


「お母さんにご馳走様って言っといて〜!」


「学校で会おうね!」


「……じゃあな。また飯を食いに来るぞ」


「おやすみなさい」


四人はそう言い残し、家を後にした。







そして、静かになったリビング。残ったのは凛馬とミケだけだった。


「で?」


コハク達がいなくなった途端。ミケがじりっと距離を詰めた。


「一緒に入るにゃ?」


「まだ諦めてなかったのかよ!?」


だが――


(ちょっと待てよ……)


別の自分が顔を出した。


(女の子と風呂入るんだぜ?)


一瞬思考が止まった。いや、渋滞している。


(いやいやいや!!相手は女の子だぞ!?)


(いや、だからこそだろ!?)


(だから違うって!!)


頭の中の天使と悪魔が喧嘩し始めた。


ふとミケを見てみる。うるうるとした目がなんか可愛く思えてきた。


(……ほら、可愛い子と風呂入れるんだぜ?)


(俺は今ペットとして風呂に入れられようとしてるんだぞ!?)


(でも女の子と――)


(……)


そして、凛馬は静かに立ち上がった。


「……分かった」


「にゃ?」


「入る!」


ミケの耳がぴんと立つ。


「本当にかにゃ!?」


「どうせ俺に拒否権なんて無いんだろ!?」


もうヤケクソだった。


「入りますよ!!入ればいいんだろ!!」


「おお〜成長したにゃ!」


ミケが嬉しそうに尻尾を振る。


(……女の子と風呂だし)


再び小さく心の悪魔が顔を出した。


「ん?」


「なんでもない!!」



凛馬も服を脱ぎ始めるが、凛馬は目をずっと逸らしている。


「にゃ?なんで目をそらすにゃ?」


ミケが不思議そうに首を傾げながら、凛馬の様子を観察する。猫耳がピクピクと動き、しっぽが揺れている。


「もしかして……恥ずかしいにゃ?」


図星だった。凛馬はさらに顔を赤らめる。


(そりゃあそうだろ!!)


「にゃは、可愛いにゃ〜でも、ペットなんだから飼い主の体くらい見ても平気にゃ!」


ミケが凛馬の顔を両手で掴み、自分の方を向かせようとする。至近距離でミケの赤い瞳と視線が合う。


「それより、怪我とか病気してないか心配にゃ」


ミケが凛馬の腕や背中を触りながら観察し始める。


(うわ〜……なんてこったァ)


獣人特有の鋭い感覚で、細かい部分まで確認しているようだ。


「ん〜、特に問題なさそうにゃ。じゃあお風呂入るにゃ!」


ミケが浴室のドアを開け、湯気が一気に広がる。湯船には適温のお湯が張られていた。


(あ、お風呂も普通なんだな)


「さ、入るにゃ!背中洗ってあげるから、先に座って待ってるにゃ」


 凛馬が突然話を切り出す。


「ミケ、元の世界への帰り方って知ってるか?」


その質問を聞いた瞬間、ミケの表情が少し曇る。


「正直に言うにゃ、私たち獣人も人間の世界のことはほとんど知らないにゃ」


無慈悲な返答が帰ってきた。凛馬の顔が強ばる。


「人間なんて伝説でしかないからにゃ〜……力になれなくて申し訳ないにゃ」


ミケが申し訳なさそうに耳を垂らす。


「でも!学校の図書館とか、博物館に行けば何か情報があるかもしれないにゃ!明日、みんなで調べてみるにゃ!」


ミケが前向きに提案する。そして、ボディソープを手に取りながら凛馬の背中に手を伸ばす。


「それまでは、私がちゃんと面倒見るにゃ。だから……安心してにゃ?」


ミケの手が優しく凛馬の背中を洗い始める。器用な指先が丁寧に泡立てながら動く。


(何だこの感覚……)


「あ、背中けっこう広いんだね……にゃふふ」


「でも……俺が元の世界に帰るのを手伝ってくれるのか?」


その質問に、ミケは少し驚いた顔をする。


「当然にゃ、凛馬が元の世界に帰りたいなら、私も全力で手伝うにゃ!」


ミケが凛馬の肩に手を置き、優しく微笑む。しかし、その笑顔は少しぎこちなく見えた。


「でも……凛馬が帰っちゃったら寂しいけど、私は凛馬が幸せな方に行って欲しいにゃ……」


ミケの優しさに、凛馬の心が柔らかくなる。


(幸せな方……か)


そしてミケがシャンプーで凛馬の髪を洗い始める。器用な指先が頭皮を優しくマッサージする。


「……もしかしたら、凛馬がこの世界を気に入ってくれるかもしれないにゃ?」


その言葉に、凛馬の心臓が少し跳ねた。それが図星なのかは、まだ分からなかった。


ミケが少し照れながら、凛馬の髪を丁寧にすすぐ。温かいお湯が流れ落ち、湯気が二人を包む。


「ありがとな、ミケ。優しい人に拾われて良かった」


すると、ミケの手が急に震えた。


「にゃあああ!そんなこと言われたら……嬉しすぎて泣いちゃうにゃ!」


「!?」


ミケの目がうるうると潤み、耳がぺたんと垂れる。


(なんで泣いてんの!?)


獣人の感性は非常に豊かなようだ。するとミケが後ろから凛馬を抱きしめる。


(ッ!?)


「凛馬……ありがとうにゃ。私も、凛馬に出会えて良かったにゃ」


(いや、それよりもさ……)


凛馬はそれ以上考えるのをやめた。それ以上考えたらもう戻れない気がした。


ミケがしばらく抱きしめた後、顔を上げてニコニコと笑う。


そんな様子をミケの母親は遠くで聞いていた。


(あの子ったら……)


昔からそうだった。


怪我をした小さな魔獣を拾ってきたり、困っている子を放っておけなかったり。


今日拾ってきたのはまさかの人間。流石に驚いたけれど――。


『この子、一人なんだにゃ』


そう言った時のミケの顔を思い出す。本気で助けたいと思っている顔だった。


母親は小さく微笑む。


(しばらく賑やかになりそうね)


浴室の方から聞こえてくる声を聞きながら、静かに食器を片付け始めた。






それから2人はぎこちないながらも風呂を済ませた。


お風呂を上がった後、ミケの母親が用意してくれた部屋着に着替える。


ミケの部屋は猫の様なぬいぐるみやポスターで飾られ、可愛らしい雰囲気だった。


「今日は私のベッドで一緒に寝るにゃ!」


「またかよ……」


反射的にツッコんでしまった。だが——


「にゃ?」


「……いや、なんでもない」


ミケがベッドに潜り込み、凛馬にも隣に来るよう手招きする。


「ほら〜早くおいでにゃ〜」


部屋の明かりは少し落とされ、月明かりが窓から差し込んでいる。


「あ、そうだ!明日は朝早く起きて、首輪買いに行くにゃ」


ミケが凛馬の腕を掴み、自分の方に引き寄せる。


「それと学校も行こうにゃ!逃げちゃダメにゃ?」


ミケが凛馬に抱きつきながら、耳を凛馬の胸に当てる。心臓の音を確認するように、しっぽがゆっくりと揺れる。


(近いんだよさっきから……!)


「凛馬の心臓、ドキドキしてるにゃ・・・.にゃふふ」


本当に心臓がバクバクしていた。そんな様子をミケが小さく笑った。


やがてミケの呼吸が穏やかになり、小さな寝息が聞こえ始める。


(俺は寝れねぇよ……)


凛馬は天井を見上げた。帰れる保証はない。


明日は首輪を買いに行くし、学校にも行くらしい。何もかも意味が分からない。


それなのに、不思議と悪い気分ではなかった。


こうして凛馬の異世界での最初の夜は、更けていった。

最後まで読んでくださりありがとうございます!


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次回もよろしくお願いします!

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