獣人の食卓
とりあえず流れに身を任せ、ミケの家に付いた凛馬とその一行は、ミケの家で晩御飯を食べることになった。
(この人達って何食べるんだ……?)
その時、凛馬が思い出した光景は——
飼い猫がペットフードを食べ、家畜が草を食べてた景色。
(えっ、ちょっと待て……)
まさかこの人達が現実と同じものを食べるんじゃないか?そんな不安が胸を襲う。
(食事すらまともに出来ない可能性があるのか……!?)
凛馬の顔がどんどん青ざめる。
(食事が終わってたら俺、詰みか……!?)
「にゃ……?凛馬、どうしたにゃ?」
凛馬は不意を突かれドキッとする。
「あはは〜なんでもないよ〜……」
(頼む頼む俺でも美味しく食べれるやつで!!)
だが食卓に並んでいたのは、焼いた魚と野菜のスープ、それに香草の香りがする串焼きだった。
(あれ……普通の飯だ)
凛馬は少し拍子抜けする。
「にゃ?何か変な想像してたにゃ?」
ミケが首を傾げる。
「いや……なんかもっとペットフードとか食べるものだと……」
その言葉に全員が固まった。そんなものはこの世界になかった。
「……なにそれ?」
コハクが真っ先に質問した。
「あー、えっとな……」
(そっか……どう説明すればいいんだ?)
凛馬が困っていると——
「もしかして、人間の世界でペットにあげる食べ物か何かですか?」
ミナがそう言い当てた。
「そう!それ!頭いいな!」
凛馬は思わずそう言ってしまった。ミナが驚く。
「えっ……ありがとうございます……」
ミナの顔は、どこか赤く見えた。
「あ!ミナ照れてる!」
アオが図星をついた。すると——
「ち、違うわ!!」
「!?」
凛馬が驚く。
(え……関西弁!?)
「にゃはは!ミナまた西の訛りでてるにゃ!」
「あはは〜!ほんとそれ面白い!」
ミケとコハクが爆笑する。ミナが更に赤くなる。
「も、もうやめてください……」
流れを変える様に、ミケの母親が手を合わせた。
「さ!もう食べましょ!お腹すいちゃった!」
すると、凛馬のお腹も音を立てて鳴った。
「にゃ!凛馬もお腹空いてる!」
大きく鳴ってしまった音に、凛馬は少し恥ずかしくなる。
「凛馬くん照れてるねぇ〜……」
コハクが肩を組んでくる。それが更に恥ずかしい。
「……早く食べよう」
ヒョウカがそう促した。その目はどこか料理を目の前に輝いてる様に見えた。
そして一同は席につき、食事を始めた。
「「いただきます!」」
全員が手を合わせる。凛馬も慌てて真似をした。
(あっ、挨拶も普通なんだ……)
そして一口、魚を口へ運んでみる。
(見た目は変わらないが……お味はいかに?)
そして食べてみると、馴染みのある焼き魚の味。とても美味しかった。
「……うまい」
思わず声が漏れた。優しい塩味で、母親の手料理らしい温かさがある。
「にゃはは!よかったにゃ!」
ミケの耳が嬉しそうに揺れる。
「お母さんの料理おいしいんだよ!」
アオも自慢げだった。
「私の家にゃ……?」
ミケがツッコむ。食卓に笑いが広がる。
凛馬だけがそれに取り残されていた。皆が自然に笑い、自然に会話する。
“自分以外が家族みたい”だった。
(……いいな)
ふと、そう思った。同時に胸が少し痛くなった。
ここは自分の居場所じゃないし、本当は帰らなければならない。それなのに——
「凛馬?」
ミケが不思議そうに顔を覗き込んだ。
「いや……なんでもないよ」
凛馬は慌てて首を振る。その夜の食卓は、何事もなく平和にことが進んでいった。
「……そういえば」
凛馬がフォークを止めた。
「んにゃ?」
ミケが首を傾げる。凛馬は少し言いづらそうに口を開く。
「これ……共食い……」
全員が固まった。
「……え?」
「……えぇ!?」
最後にアオが一番大きな声を上げた。
「ち、違うよ!?僕たちそんなことしないよ!?」
アオがぶんぶん首を振る。
「いや、だって熊族とか豹族とか猫族とかいるじゃん……」
凛馬が恐る恐る言う。
「確かに……その発想はなかったにゃ……」
ミケが引いた顔をした。
「凛馬くん?獣人と動物は別です」
ミナが優しく説明した。
「そのお肉は魔獣肉。獣人とは全然違う生き物ですよ」
「……家畜みたいなものだな」
ヒョウカが補足する。
「なるほど……」
ようやく理解した。
「でも凛馬くん?」
コハクがニヤニヤしながら身を乗り出す。
「最初に共食いって発想する辺り、結構失礼よね?」
「あっ……それは」
「失礼だにゃ!」
「失礼だ!」
「……失礼」
三方向から責められた。
「ご、ごめんって!」
食卓に笑い声が広がった。
そして食事が終わり、一同は食卓を囲んだまま談笑していた。
凛馬も会話には参加していたが、どこか落ち着かない。
獣人達と同じテーブルを囲み、同じ料理を食べ、同じように笑う。
それなのに、自分だけが別の生き物のような気がした。
「凛馬!もう慣れたかにゃ?」
ミケが明るく質問した。
「正直まだ慣れないってか……慣れることないと思う」
思わず本音が漏れる。皆の視線が凛馬へ向いた。
「プライドの問題なのかな……?」
そう言って、自分でも苦笑する。ミケは少し考え込むように耳を動かした。
「にゃは、プライドかぁ……」
そして優しく凛馬の頭を撫でる。
「でも、ここじゃ人間は珍しいから仕方ないにゃ。少しずつ慣れていけばいいにゃ!」
その手を振り払うことはできなかった。だが、素直に受け入れることもできない。
「……無理に慣れる必要もないぞ」
ヒョウカがぼそりと呟く。
「自分のペースでいい」
「おや?」
コハクが口元を緩めた。
「プライド高い男の子なのね〜」
そして楽しそうに続ける。
「でも、この世界じゃ人間は立場が弱いのよ?素直に甘えちゃった方が楽だと思うけど?」
「僕は待つよ!」
アオが元気よく手を挙げた。
「凛馬くんが慣れるまで待つ!無理やりはよくないもん!」
「そうですよね……」
ミナも静かに頷く。
「急に知らない世界へ来て、しかもペット扱いなんて……受け入れられなくて当然ですよね」
その言葉に凛馬は少しだけ救われた気がした。
「でも」
ミナはミケを見る。
「ミケはあなたを守ろうとしてるのは本当ですよ」
「……っ」
ミケの耳がぴくりと動いた。
「少しだけでも、その気持ちを受け取ってあげて欲しいです」
「そ、そうにゃ!」
ミケは慌てて身を乗り出す。
「私、凛馬を守りたいだけにゃ!」
まっすぐな瞳だった。打算も計算もない。だからこそ、凛馬は困った。
「……そうだよな」
凛馬は視線を落とした。
「俺、人間じゃなくてペットなんだもんな……」
その言葉に食卓が少し静かになる。
「凛馬……」
ミケが不安そうに耳を伏せた。
「いや、責めてるわけじゃないんだ」
凛馬は慌てて首を振る。
「ただ……まだ慣れないだけ」
そして少し迷った後、口を開く。
「敬語の方がいい?飼い主、なんだし」
次の瞬間——
「にゃははは!」
ミケが大笑いした。
「敬語なんていらないにゃ!」
「えっ?」
「そんなかしこまられたら距離感じちゃうにゃ!」
ミケは嬉しそうに笑う。
「普通に話してほしいにゃ!」
「凛馬君って面白いね〜!」
コハクがクスクスと笑う。
「確かに敬語だとペットっぽくないかもね〜」
「……好きにすればいい」
ヒョウカも肩をすくめる。
「俺は気にしない」
「僕も!」
アオが元気よく言った。
「友達みたいに話したい!」
「まぁそうですね……」
ミナも頷く。
「ペットだからって、無理に下に見る必要なんてないと思いますよ」
その言葉を聞いても、凛馬の中の違和感は消えなかった。けれど、少しだけ肩の力が抜けた気がした。
するとミケの母が立ち上がる。
「はいはい、この話はここまで」
全員の視線が向く。
「お風呂の準備できてるわよ」
「!」
(風呂もあるのか!!)
凛馬は少しだけ安堵した。ようやくこの話題から解放される。
そう思った瞬間だった。
「あ、待って!」
ミケが勢いよく立ち上がる。また嫌な予感がした。
「私も一緒に入るにゃ!」
食卓が静まり返った。
「ペットの体、ちゃんと洗ってあげないとにゃ!」
「は?」
凛馬の思考が停止した。
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