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獣界の異邦人  作者: 凛k
13/19

また明日!

放課後の街を歩いていた四人は、気付けば一軒の定食屋の前へ立っていた。


暖簾には大きく“定食屋 まんぷく亭”と書かれていた。


「着いたぞ!」


ギンガがその店舗を指さす。その店舗を見るまもなくレンが勢いよく暖簾をくぐる。


「腹減ったぁぁぁ!!」


「お前それしか言ってねぇな」


ガクが呆れながら続いた。凛馬もそれに続く。そして店に入ると——


「おぉ……」


こじんまりとした店内だが、雰囲気が良かった。店内からは香ばしい匂いが漂ってくる。


揚げ物や焼き魚。思わず腹が鳴りそうになる。


(昼あんな食べたのになぁ…..)


「ここ、俺達の行きつけなんだよ」


ギンガが言った。


「安いし、量多いし、美味い」


「最高じゃん」


思わず凛馬がそう言った。ギンガはニッと笑った。


「だろ?」


ガクも頷く。


「俺達学生の味方だぜ〜」


そしてカウンターの奥から店主が顔を上げる。


「いらっしゃ——」


すこし年老いた印象の狐族だった。


そして——


「お前らか」


一瞬で表情が明るく変わる。


「おう親父!」


レンが元気よく手を上げる。


「今日はサボってねぇぞ!」


ギンガも店主話しかける。


「当たり前なんだよ」


店主が即答した。ガクが笑う。


「今日はちゃんと放課後だ」


「それも当たり前だ馬鹿野郎」


どうやら本当に仲が良いらしい。そんな中——


店主の視線が凛馬へ向いた。


「……ん?」


店主が固まる。


「なんだその子」


「人間」


ギンガが当然のように答えた。


「…..は?」


店主が聞き返す。本当に驚いた様子だった。


「だから、人間」


「いや聞こえてる……」


店主はもう一度凛馬を見る。本当に耳としっぽが無かった。


「……本物か?」


「本物です」


凛馬が頭を下げた。


「凛馬って言います」


店主はしばらく黙る。そして——


凛馬のお腹が大きく鳴った。


「あっ」


3人が爆笑する。


「凛馬お前!!」


「ほぉ……」


店主は少しだけ笑った。


「珍しい客が来たな」


それだけだった。必要以上に驚きも騒ぎもしなかった。


「まあ立ち話もなんだ」


店主は奥を指差す。


「4人だな。座れ座れ」


「おう!」


レンが真っ先に席へ向かう。四人はテーブル席へ腰を下ろした。


しかし次の瞬間——凛馬の動きが止まった。


「あ」


「ん?」


「俺、金無い……」


レンが吹き出した。ガクも笑い始める。


「忘れてたのかよ!」


「そもそも金持ってねぇよ……」


凛馬は頭を抱えた。異世界三日目。そもそもこの世界の金など持ってるはずもなかった。


すると——


「まぁそうだろうな」


ギンガが平然と言った。


「え?」


「今日は俺が出す」


「え?」


凛馬が固まった。何故かレンとガクも固まった。


「良いのか?」


「おう」


ギンガは当然のようにそう言った。すると——


「俺らも?」


レンとガクが割り込んだ。


「違う」


ギンガが即答した。レンとガクが騒ぎ始める。


「差別だ!!」


「俺達にも獣権を!!」


ギンガは呆れたようにため息を吐いた。


「お前らは自分で払えるだろ!」


「世知辛ぇ……」


店内に笑い声が広がった。


そしてしばらくして、店主がお冷を持ってやって来た。


「さて、いつものでいいのか?」


その言葉にレンが即答する。


「おう!」


ガクもギンガも当然のように答えた。


「いつもので頼むよ」


どうやら三人とも常連らしい。店主は慣れた様子でメモを取る。そして視線が凛馬へ向いた。


「で、人間は?」


「え?」


凛馬が固まる。まだメニューすら見終わっていない。何を頼めばいいかも分かってない。すると——


「こいつもいつもので!」


ギンガが勝手に答えた。


「あ、おい」


凛馬が即ツッコむ。


「俺初めて来たんだけど」


「大丈夫だ!美味いから!」


ギンガは自信満々だった。


「そういう問題じゃねぇ」


レンも笑う。


「親父の飯はハズレねぇぞ」


「むしろ当たりしかねぇ」


ガクまで頷いていた。完全に包囲されている。


店主は少しだけ笑った。


「責任取れよ、ギンガ」


「任せろ」


「信じるぞ、ギンガ」


凛馬は呆れながらも、信じることにした。


「じゃあそれで」


観念したように言う。すると店主は満足そうに頷いた。


「よし」


メモ帳を閉じる。


「特盛四つな」


凛馬が静まり返った。


「……ん?」


凛馬が聞き返す。店主は当然のように答えた。


「いつものだろ?」


「いつも特盛?」


「いつもだ」


ギンガ達が頷く。


「いや待て——」


凛馬はものすごく嫌な予感がした。


「ちゃんと食える量なんだろうな?」


「それは来てからのお楽しみ〜」


ギンガが笑顔で答えた。すると店主がぽつりと言う。


「まぁ大丈夫だろ、人間なら食う」


「どんなイメージなんすか人間!」


凛馬はゆっくり天井を見上げた。


(飯勝負した日にやる量じゃねぇだろ……)






しばらくして——


店の奥から香ばしい匂いが漂ってきた。そして店主は大きなお皿を4つ持ってきた。


(おいちょっと待て……)


ドン!!


「お待ちどう!」


店主が料理を運んできた。


「デカすぎだろ……」


凛馬は思わず声を漏らす。


とりあえず皿がとにかく大きい。そして山盛りの白米。揚げたての唐揚げ。味噌汁。サラダ。どう見ても一人前ではなかった。


「これが……いつもの?」


「いつもの」


ギンガが頷く。


「うめぇぞ親父!」


レンとガクはもう食べ始めていた。


「学生ってすげぇな……」


凛馬も手を合わせる。


「いただきます」


まずは唐揚げを一口。肉汁が溢れる。


「……うまっ」


思わず声が出た。出来たての唐揚げは格別だった。


「だろ?」


ギンガが得意げに笑う。


「親父の飯は最高なんだよ」


「お前らはほんと気持ちいいな」


店主も少しだけ笑った。するとレンがニヤニヤしながら凛馬を見る。


「そういや……昼も大食いしてたんだろ?」


「ん……?」


凛馬が顔を上げる。


「ヒョウカと勝負したって聞いたぞ」


ガクも笑いながら言った。


「学校中で噂になってるぞ」


「なんで知ってんだよ!?」


凛馬が思わず大きい声を出した。


「なんで昼飯食っただけで!」


「ヒョウカ相手だからだろ」


ギンガが当然のように答えた。店主が興味深そうに眉を上げる。


「ヒョウカってあの豹族の女か?」


「そうそう、人間が挑んだらしいぜ」


「挑んでねぇよ!」


凛馬が即否定する。レンとガクが爆笑した。


「しかも途中で降参したらしい!」


「誰から聞いたんだよその話!」


「もう有名」


「嘘だろ……」


凛馬は頭を抱えた。店主は肩を揺らして笑う。


「面白い人間だな、お前」






しばらくして——


店内には食器の音だけが響いていた。


「ごちそうさま!」


最初に箸を置いたのはレンだった。


「うまかった!」


「食うの早ぇな……」


凛馬はまだ食べていた。そして明らかにペースが落ちている。


最初は勢いよく食べていた。だが特盛は特盛だった。


量が多い。とにかく多い。


「……」


凛馬は黙々と米を口へ運んでいた。


「お前……大丈夫か?」


ガクが聞く。


「大丈夫……」


全然大丈夫そうじゃなかった。その横ではギンガも既に食べ終わっている。


「無理すんなよ〜」


「無理してねぇ……」


「無理がある顔だぞ」


レンが笑う。凛馬はちらりと皿を見る。


まだかなり残っている。


「残すか?」


ギンガが聞いた。その瞬間だった——


凛馬の箸が止まる。


「……俺は残さないぞ」


「ん?」


「飯は残さない」


少しだけ真面目な声だった。三人が顔を見合わせる。


凛馬は再び箸を握る。


「作ってくれた人に悪いからな」


そう言って米を口へ運ぶ。



「……」


店主がカウンター越しにその様子を見ていた。ガクが小声で言う。


「凛馬って意外と真面目だな」


すると店主が少し笑った。


「良いことだな」


凛馬が顔を上げる。


「飯を残さねぇ奴は嫌いじゃない」


店主はそう言った。


「だからゆっくり食え」


「……はい」


凛馬は少しだけ笑った。そして再び箸を動かす。


「絶対食い切るぞ……」


「意地張ってんな〜」


「うるせぇ……」


三人の笑い声が店内に響いた。



そして——


数分後。凛馬の箸が止まった。その皿は——


米粒一つ残っていなかった。


「……」


凛馬はゆっくり手を合わせた。


そして——


「ごちそうさまでした……」


そう呟いた。


次の瞬間。


「「うおおおおおおおお!!」」


ギンガが立ち上がった。


「食い切ったぁぁぁ!!」


レンも立ち上がる。


「マジで食い切りやがった!!」


「やるじゃねぇか人間!!」


ガクも大笑いしていた。


「何の歓声だ……」


凛馬はぐったりしていた。もう一口も入る気がしない。


だが三人は大盛り上がりだった。


「見たか!?」


ギンガが店主を指差す。


「見てたぞ!」


店主も腕を組みながら頷く。


「根性あるな人間!」


「美味しかったです……」


凛馬は机へ突っ伏した。レンが肩を叩く。


「感動したぞ凛馬!俺泣きそう……」


「嘘つけ」


ガクも笑う。


「途中から顔死んでたな」


「死んでたよ……」


「残せば良かったのに」


ギンガが言う。すると凛馬は顔を上げた。


「残したくなかったんだよ」


その言葉に三人が少しだけ黙る。店主も小さく笑った。


「気に入ったぞ」


「え?」


「また来い人間」


店主はそう言った。


「次はもう少し少ないの作ってやる」


「最初からそうしてくださいよ……!」


店内に大きな笑い声が響いた。





結局、店を出た後、凛馬は動けなくなった。


四人は無言だった。


「おい、人間死んだぞ」


レンが笑いながら言う。


「死んでねぇよ……」


凛馬が弱々しく反論する。


「死にかけだな……」


ガクも笑った。するとギンガがしゃがみ込む。


「ほら」


「?」


「乗れ」


凛馬は少し固まった。


「いや——」


「乗れって」


「……ありがとう」


抵抗を諦めた。凛馬は大人しく背中へ乗せられる。


「重くないか……?」


「全然」


ギンガは当然のように立ち上がった。


「おぉ〜」


レンが感心する。


「狼族つえぇな……」


「これぐらい普通だろ」


ギンガは鼻を鳴らした。ガクも笑う。


「じゃあ俺らこっちだし」


「おう!」


「また学校でな人間!」


「明日はサボんなよー!!」


「それは明日次第ー!!」


レンとガクは笑いながら別の道へ消えていった。


気付けば、残ったのは二人だけだった。夕焼けが街を赤く染めている。


しばらく無言のまま歩いていた。


そして——


「なぁ」


ギンガが口を開いた。


「……?」


凛馬も顔を上げる。ギンガの声色は少し違ったように聞こえた。


「お前さ、帰りたいのか?」


ギンガは前を向いたまま言う。凛馬は少しだけ目を見開いた。


言葉が詰まる。そして獣人達の顔が浮かぶ。


ミケやアオ、コハク、ミナ、ヒョウカ。


そして今日出会ったギンガ、レン。ガク。


自分が人間でも良くしてくれた先生達。


はっきり帰るとは言えないぐらい、情が移っていた。


「……分かんねぇ」


それが今の正直な答えだった。ギンガは何も言わない。


だから凛馬も少しずつ言葉を続けた。


「家族もいるし、友達もいる。まぁ元の世界だしな」


当たり前の話だった。生まれてからずっといた場所。帰れるなら帰るべきなんだと思う。


でも——


凛馬は空を見る。夕焼けが少し眩しかった。


「正直三日前なら絶対帰るって言ってたと思う」


ギンガは黙って聞いていた。


「だってこっちのこと何も知らなかったし、知らない世界だしな」


少し笑う。右も左も分からなかった。怖かったし不安だった。


ずっと帰ることしか考えてなかった。けれど——


「でもなんか、帰るって決めるにはちょっと楽しくなってきた」


自分でも変な言葉だと思った。でも、それが一番近かった。


「帰りたい気持ちはあるし、残りたい気持ちもある」


胸の中がぐちゃぐちゃだった。たった三日だが、思ったよりもこの世界は温かかった。


「情けねぇよな」


凛馬は笑う。


「帰りたいのか残りたいのかも分かんねぇんだから」


しばらく沈黙が流れた。夕焼けだけが二人を照らしていた。


そして——


「情けなくねぇよ」


ギンガが口を開いた。


「急いで決めなくても良い」


「え?」


凛馬は顔を上げる。ギンガは前を向いたまま歩いていた。


「三日で人生決めろって方が無茶だろ」


確かにそうだった。自分はまだこの世界に来て三日しか経っていない。


それなのに、そんな大事なことばかり考えていた。


「焦りすぎじゃないか?」


ギンガは笑った。


「俺なら無理だぞ」


そしてギンガは続けた。


「帰りたくなったら帰ればいいし、残りたくなったら残ればいい。それだけだろ」


あまりにも単純な言葉だった。でも、今の凛馬には不思議とその言葉が響いた。


「難しく考えすぎなんだよ、凛馬は」


「そうかもな……」


「少なくとも今のお前は——」


少しだけ真面目な声になる。


「楽しそうだしな」


凛馬は目を瞬かせた。


「そうか?」


「学校でも笑ってるし、昼飯でも騒いでたし、さっきも笑ってた」


ギンガは振り返らない。だけど確信を持って言った。


「全然楽しそうだ」


「……」


凛馬は言葉に詰まった。自分では気付かなかった。


でも、そう言われてみれば。最近は笑うことが増えた気がする。


むしろ、人間界にいた時よりも——


ギンガが少しだけ笑う。


「帰るか残るかはその時決めろ、今は楽しいならそれでいいだろ」


夕焼けが街を染める。そして——


「もし帰ることになっても」


ギンガは親指で自分を指した。


「“牙月ギンガ”、この名前だけは覚えとけ」


凛馬は思わず吹き出した。


「なんだそれ」


ギンガは笑う。


「せっかく友達になったんだからな」


「……」


凛馬は少しだけ目を細めた。そして——


「忘れねぇよ」


自然とそう答えていた。ギンガは満足そうに頷く。


「よし!それでいい」


そんな話をしているうちに——


見慣れた家が見えてきた。ミケの家だった。


「着いたぞ」


「おぉ……」


凛馬はギンガの背中から降りる。すると、玄関の扉が勢いよく開いた。


バァン!!


「凛馬ぁぁぁぁぁ!!」


「うおっ!?」


ミケだった。猛スピードで飛び出してくる。


「帰ってきたにゃーーー!!」


そのまま凛馬へ飛び付いた。


ドン!!


「ぐぇっ!?」


お腹が危険信号を鳴らす。


「苦しい苦しい!!」


「心配したにゃ!!」


するとミケは凛馬の肩を掴む。


「怪我は!?」


「してない」


「なにもされてない!?」


「されてないよ」


「ご飯は食べたにゃ!?」


「ギンガが奢ってくれた」


その様子を見てギンガは吹き出した。


「オカンかよ……」


すると玄関からミケの母も顔を出した。


(あ、噂をすれば……)


「あら、おかえりなさい」


優しい笑顔だった。


「あ、お世話になってます」


ギンガは頭を下げる。


「ただいまです」


凛馬も頭を下げる。言った瞬間少しだけ自分で驚いた。


自然に出た言葉だった。ミケの母は嬉しそうに微笑む。


「うふふ、おかえりなさい」


それだけだった。けれどなぜだか少しだけ胸が温かくなった。


「じゃあ俺帰るわ」


ギンガが手を上げる。


「おう」


凛馬も頷く。するとミケがギンガを見る。


「ご飯代、ありがとうにゃ」


「別にいいんだよ俺が勝手にやった事だ」


ギンガが笑う。そして最後に凛馬を見る。


「また明日な」


「あぁ、また明日」


凛馬も手を挙げる。ギンガは満足そうに笑う。


そして夕焼けの街へ歩いていった。


その背中が見えなくなるまで凛馬はなんとなく見送っていた。

最後まで読んでくださりありがとうございます!


最近時間帯ランダムですが、、、更新は辞めないので続けて読んで欲しいです!!


少しでも面白いと思っていただけたら、評価・ブックマークをしていただけると嬉しいです!


次回もよろしくお願いします!

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