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獣界の異邦人  作者: 凛k
11/16

お昼ご飯大戦争

キーンコーンカーンコーン——


午前最後の授業終了を告げる鐘が鳴り響く。その瞬間だった——


「昼飯にゃーーー!!」


ミケが勢いよく立ち上がった。


(あ、もうそんな時間……)


教室を見渡せば、生徒達も次々と席を立ち始めていた。


友達同士で集まる者や購買へ走る者。そこだけは人間界と変わらない光景だった。


「昼休みだ!ご飯食べよ!」


アオも元気よく立ち上がる。


「今日は屋上に行きませんか?」


ミナが提案した。


「今日は天気いいしね!」


コハクも微笑む。


「……ついてくぞ」


ヒョウカだけは興味なさそうだった。


そんな5人を見ながら、凛馬は少しだけ不思議な気持ちになっていた。


昼休み。人間界でも当たり前の時間。けれど——


(そういや……みんなと飯食うの初めてだな)


気付けば自然と一緒にいるようになっていたが、こうして昼休みに集まるのは初めてだった。


「凛馬?」


ミケが顔を覗き込む。


「どうしたにゃ?」


「いや、昼休み初めてだなぁって」


ミケは一瞬きょとんとした。そして——


「にゃは!」


嬉しそうに笑った。


「じゃあ今日は記念日だにゃ!第一回みんなでお昼ご飯の日にゃ!」


「なんだその記念日……」


そんなやり取りをしながら、6人は教室を後にし、屋上へ続く階段を登った。





屋上扉を開くと、爽やかな風が吹き抜けた。


「おぉ……」


凛馬は思わず声を漏らす。


青空。遠くまで見渡せる街並み。校庭では戦闘訓練している生徒達が見えた。


「屋上やっぱ気持ちいいにゃ〜」


ミケが大きく伸びをする。


「ここ好きなんだよね!」


アオも笑った。


「人も少ないですし、落ち着きますね」


ミナが頷く。だがその一方で——


ヒョウカだけは、黙ったまま日陰へ向かっていた。


「あれ、ヒョウカ……」


「いつもあんな感じにゃ」


ミケが慣れた様子で言った。


(1人が好きなんだな……)


6人は屋上の中央辺りへ腰を下ろした。すると——


周囲から視線を感じた。


「なんか……見られてるな」


凛馬が呟く。少し離れた場所で昼食を取っていた生徒達が、ちらちらこちらを見ている。


原因は、分かりきっていた。最近学校中の話題といえば、全部自分だ。


「慣れるしかないね、もう有名人だもん……」


アオが苦笑する。


「嬉しくねぇ……」


凛馬は遠い目をした。するとミケが突然鞄を漁り始める。


「ふっふっふっ……」


そして不敵な笑みをした。


「見るにゃ!凛馬!」


勢いよく2つの弁当箱を取り出した。


「お母さんが凛馬の分も作ってくれたにゃ!」


「え?」


凛馬が目を丸くする。


「じゃーん!!」


そしてミケが弁当を開くと綺麗に並んだ、色とりどりのおかずがあった。


「うまそう……」


凛馬は素直に感心した。その一言でミケの耳がぴんと立つ。


「でしょ!?お母さん特製にゃ!」


誇らしそうだった。


「昨日も思ったけど料理上手なんだな」


「世界一にゃ!」


凛馬は昨日の晩御飯を思い出す。


(確かに世界一かもな……)


思い出すだけで腹が減った。そんなやり取りをしている間にも、みんなが弁当を広げ始める。


アオはサンドイッチ。コハクは綺麗に盛り付けられた、高級そうな弁当。ミナは野菜の多い栄養価の高い弁当。


どれも個性が出ていた。そして——


ドンっと、ヒョウカが弁当箱を置いた。


「……」


凛馬は固まる。ヒョウカの弁当だけ存在感が大きかった。


二段弁当で、どちらもぎっしり詰まっている。


「……多くない?」


凛馬は思わず聞いてしまった。ヒョウカは弁当を開きながら答えた。


「食事は大事だ、身体を作り、頭を強くする」


ヒョウカは淡々と続ける。


「だから食うんだ」


「シンプルだな……」


シンプルだが、その理論には感心してしまった。


「食事を疎かにする奴は、弱い」


当然の様にヒョウカは答えた。ミナも頷く。


「ヒョウカはよく食べますからね」


「成長期だものね〜ヒョウカは」


コハクも笑う。


「……成長期は関係ないぞ」


ヒョウカがぼそっと呟く。


「じゃあなんでそんな多いのかしら〜?」


「美味いからだ」


その言葉に周囲から笑いが起きる。凛馬もつられて笑った。


——こんな昼休み、いつぶりだっただろう。


気を使わなくていい。無理して話を合わせなくていい。


なんだが自分が自分でいられる。そんな時間だった。




そしてみんなが手を合わせ、弁当を食べ始める。


凛馬も弁当へ手を伸ばした。まずは卵焼きを一口食べる。


「……うま」


思わず声が漏れた。出汁の味がしっかり効いていた。


続いて肉団子、これも美味い。


「どうにゃ?」


ミケが期待した目で見てくる。


「普通に美味い」


「普通じゃなくて最高にゃ!」


そんなやり取りをしながら食べ進める。すると——


「そういえば!」


ミケが急に声を上げた。


「ん?」


「凛馬めっちゃ食べるにゃよ!」


凛馬の箸が止まる。何か嫌な予感がした。


「昨日おかわり四回してたにゃ!」


「言うな!」


「四回!?凄!」


アオが驚く。


「結構食べるんだ、へぇ〜……」


コハクも感心していた。だが、少し悪い顔をしていた。


「な、なんだ……」


凛馬が警戒する。


「別に〜?」


コハクは楽しそうに笑う。そして——


弁当箱の横から、もう一つ小さな包みを取り出した。


「実はまだあるのよね」


「ん?」


包みを開く。そこには唐揚げやウインナー。


どう見ても男子が喜びそうなおかずばかりだった。


「多くない?」


「予備よ」


「予備?」


「今日朝ごはん食べれてなくて持ってきたの」


コハクは楽しそうに笑う。そして当然のように凛馬の弁当へ乗せ始めた。


「おい待て待て待て」


「遠慮しなくていいわよ〜?」


「いや悪いって」


流石に申し訳なくなった。自分の弁当だけでも十分な量だ。


だがコハクは首を横に振る。


「いっぱい食べる男の子、好きなのよね〜」


「は?」


コハクが誘惑する様に言う。凛馬が固まる。


「だから見てて気持ちいいわよねぇ〜」


そしてにっこりと笑った。完全に確信犯だった。


「いやでも……」


「食べる?」


「……」


「食べないの?」


「……」


「朝ごはんが可哀想よ?」


「いただきます」


即答だった。


「ふん、ちょろいんだから〜」


コハクが楽しそうに笑う。


凛馬は唐揚げを頬張る。美味かった。


そして。それを見たアオも負けじと弁当を差し出した。


「あっ!じゃあ僕のサンドイッチも!」


「増やすな!」


「私も少しなら……」


ミナまで参加する。気付けば凛馬の弁当は小さな山になっていた。


「待て待て待て」


「遠慮しなくていいにゃ!」


「量がおかしいって!」


周囲から笑いが起きる。そして——


黙々と食べ続けているヒョウカへ全員の視線が向いた。


「……?」


ミケが凛馬の弁当とヒョウカの弁当を見比べる。


「にゃ……凛馬」


「なんだ?」


「凛馬の弁当、ヒョウカと同じぐらいになってるにゃ」


凛馬は自分の弁当を見る。確かに山だった。


アオ、コハク、ミナのおかずが積み上がり、元の弁当が見えなくなりかけている。


そしてヒョウカの弁当を見る。こっちも山の様だった。


「本当だな……」


この量を食べれるか心配していると、ミケの目が輝き始めていた。


「にゃ……」


(何か……起きる)


凛馬は察した。何か良くないことが起きると。


「にゃ!」


ミケは咳払いした。そして勢いよく立ち上がる。


「発表するにゃ!」


(あーほら思った通り!!)


「座れ!!ミケ!!」


「凛馬vsヒョウカ!」


「聞け!!ミケ!!」


「お昼ご飯大食い対決にゃーーー!!」


屋上にミケの声が響き渡った。


「にゃはははは!」


「始まりましたね……」


ミナが額を押さえる。


「面白そうじゃないの!!」


コハクは完全に乗り気だった。


「僕実況したい!」


アオも楽しそうである。凛馬は頭を抱えた。


「なんでそうなるんだよ……」


そして周囲で昼食を食べていた生徒達が一斉に反応する。


人が集まり始めていた。


「おい待て!」


しかし時すでに遅かった。


「人間とヒョウカだって!」


「どっちが勝つと思う?」


「絶対ヒョウカだろ」


「いや人間めっちゃ食うらしいぞ」


噂が噂を呼び、気付けば屋上のあちこちから生徒達が集まり始めていた。


そして、気付けば完全に囲まれていた。


「……」


「……」


凛馬とヒョウカが顔を見合わせる。逃げ道はなくなった。


「なんでこうなった……」


凛馬は遠い目をした。


「知らん」


ヒョウカも即答した。周囲からは期待の視線が注がれた。


「にゃはは!」


「お前絶対楽しんでるだろ」


「当然にゃ!」


全く悪びれた様子はなかった。凛馬はため息を吐いた。


「ヒョウカも断れよ……」


すると、ヒョウカは少しだけ考えた。


「別に嫌ではないぞ」


「え?」


意外な返答だった。ヒョウカは凛馬を見る。


「少し気になっていた、人間がどれくらい食べるのか」


妙に真面目な理由だった。


「だから興味はある」


「そんな研究対象みたいに……」


周囲から笑いが起きる。ヒョウカはさらに弁当へ視線を落とした。


「それに」


「?」


「食事で負けたことはない」


初めてヒョウカの口角が少しだけ上がる。


「……」


凛馬の眉がぴくりと動く。


「へぇ?」


凛馬もその挑発に乗った。周囲が盛り上がる。


「乗ったー!!」


「ヒョウカ先輩やれー!!」


「人間負けるなー!!」


屋上の熱気が一気に上がった。


そして——


二人は同時に箸を動かした。


「おぉぉぉぉ!!」


周囲が勝手に盛り上がる。


凛馬は卵焼きを口へ放り込み、ヒョウカは肉団子を食べる。


まるで示し合わせたかのようなペースだった。


「速いにゃ!」


ミケが叫ぶ。


「普通に食べてるだけだろ!?」


凛馬がツッコむ。


「ヒョウカ負けるなー!」


「人間も頑張れー!」


周囲の声援はどんどん大きくなる。


だが当の本人達は、黙々と食べていた。


「……」


「……」


途中で目が合う。


「……意外と食うな」


先に口を開いたのはヒョウカだった。


「そっちこそ」


凛馬も負けじと返す。


「もう半分無いじゃねぇか」


ヒョウカは凛馬の弁当へ視線を落とす。


「そっちはまだ半分あるようだが」


「早食いしたら喉詰まらすぞ?」


ヒョウカは少しだけ口元を上げた。


「なんだ、負けそうか?」


挑発だった。凛馬の眉がぴくりと動く。


「ふっ、まさか」


そして唐揚げを口へ放り込む。


「ヒョウカ、ペース落ちてるぞ?」


「ふん、気のせいだ」


再び二人は箸を動かす。


「なんかもう戦ってるにゃ……」


「いや食べてるだけよ?」


コハクが苦笑する。


「凛馬くんもヒョウカも負けず嫌いですね……」


ミナが冷静に分析した。


「確かに」


アオも頷く。


周囲の熱狂とは裏腹に本人達だけは妙に真面目だった。


そして数分後——


「「ごちそうさま」」


二人はほぼ同時に箸を置いた。


「終わったにゃ!?」


ミケが立ち上がる。


「早くない!?」


アオも驚く。凛馬とヒョウカの弁当は綺麗に空になっていた。


「……引き分けか」


ヒョウカが呟く。


「だな……うぷ」


なんだかんだ楽しかったし、少しだけ達成感すらある。


だが、お腹は悲鳴をあげていた。


その時だった——


周囲の生徒達が反応した。


「あ、俺ウインナーあるぞ!」


「こっちも!」


「肉巻きいる!?」


「焼きそば余ったー!」


凛馬とヒョウカの前に大量のおかずが積み上がっていた。


「……」


凛馬は固まる。その目は絶望に満ちていた。


「……」


ヒョウカは見つめる。その目は輝いてるようにも見えた。


そして——


凛馬は静かに立ち上がった。


「ん……?」


ヒョウカが首を傾げる。凛馬はヒョウカの方へ向き直る。そして——


深々と頭を下げた。


「参りました」


次の瞬間——


「うおおおおおおお!!」


歓声が上がった。


「人間よくやったーー!!」


「最後まで戦ったぞーー!!」


「感動した!!」


「何も感動する要素無かっただろ!?」


ミケなんて涙ぐんでいる。


「凛馬……立派だったにゃ……」


「何も立派じゃねぇよ」


「最後まで諦めなかったにゃ……」


「途中で諦めたんだよ」


コハクは腹を抱えて笑っている。ミナも口元を押さえていた。


そんな中。ヒョウカはしばらく凛馬を見つめていた。そして口を開く。


「食べ物に怯えるな、食べれば無くなる」


「当たり前のこと言うな」


再び笑いが起こる。ヒョウカはそんなこと気にもせず凛馬の唐揚げへ箸を伸ばした。


もぐ。


「美味い」


「もう好きにしろ……」


凛馬は完全敗北を宣言した。


初めてのお昼ご飯は、大熱狂で幕を閉じた。

最後まで読んでくださりありがとうございます!


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次回もよろしくお願いします!

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